断種
カリステは走る、走る……! しかし、どことなく方向がおかしいような気がするぞ、本当にあの場所へ戻っているのか……?
「カリステッ! どこへゆく!」
頭上からアージェルの声……! 樹木を蹴って移動している! かなりの速度が出ているだろうに、追いついてこられるのか……!
というか、やはりまったく別の場所に向かっているようだな、しかし、なぜっ……?
「おいっ! どこへ行こうというんだっ?」
カリステは視線を俺に向け、
「アニマ……。ソルス、アニマ……」
……なに? やはり、言葉を喋っているのか……?
「カリステ、とまれっ! とまらねば貫くぞっ!」
頭上のアージェル、その手元には大きな槍がっ……! おいおい、そんなもので狙ったら俺までやばいだろう……!
「ト、マ、ラ、ネ、バ……」カリステは笑う……!「ト、マ、ラ、ナ、イ……!」
そしてさらに加速するっ……!
風圧から守ってくれているのか、かざされた手で周囲はよく見えない! だが、とんでもない速さとなっているに違いない……!
しかし、いったいどこへ? 俺なんかを連れていく意味は……? などと考えていると、突如として視界が開ける……って、青空っ……? それに眼下に森が……! 飛んでいる、いや、上昇している……? よく見ると、カリステは取っ手付きのロープを掴んでおり、引き上げられている……! そしてその先には、ぽっかりと穴がっ……? そ、空にあいている……!
「ど、どこへ行こうってんだよ!」
「ド、コ、ダ、ロ、ウ、ネ……!」
カリステはクスクスと笑う……。おいおい、あの世へ一直線なんて話じゃないだろうな……!
逃げ出したいが、それができたとしても落下は必至だろう、このまま穴へと連れ去られる以外にない、か……。
そして着いた先は……屋内? 周囲は白い壁、頭上に浮いている光の球体は……明かりなのだろうか? そして俺は床に降ろされる……。
「ようこそ」
背後から声、振り返ると……青いローブを着た仮面の集団がずらりと並んでいる……。
「感謝いたします、メオトラ様……」
集団は揃ってお辞儀をする……。メオトラとは、このカリステのことか……?
「あ、あんたたちは……? いや、ここは……?」
仮面の一人が前に出る……。
「我々はアテマタと呼ばれています」
彼らがアテマタ……。顔のほとんどが真っ黒で、単純な記号が浮かんでは消えている……。機械人間ならば、あれは仮面ではないのか……?
「そしてここは我々の拠点のひとつ、風の都です」
風の……都……。
「驚かせてしまいましたね、外からはその姿を把握できなかったでしょう?」
「もしや、機動要塞……? 暗黒城のような……?」
「どうか、あれとの同一視はおやめ下さい」
「え……? あ、ああ……」
たしかに、あそこはひどいところだったしな……。でも、俺が言いたい共通点はそこではなく……。
「まさか、空にこんなものが……」
「驚かれるのも無理はないでしょうね。ボーダーランドの真実の姿を把握している者は少ない」
「……他にも見えない施設が?」
アテマタは頷く……。
「それで、いったいなんの用なんだ……?」
「少々、お待ちを……」
数秒後、人影が床の穴より現れた……!
「むっ、ここはっ……?」
アージェルは着地、姿勢を低くし、周囲を見回す。しかし俺に気付くと、ゆっくりと立ち上がった。
「レク、無事だったか……」
「ああ……」
「それにお前たちはアテマタの……!」
アテマタたちは一斉にかしこまり、
「ようこそ、アージェル様……」
「それよりカリステ……! 貴様、いったいなにを……!」
「カ、リ、ス、テ……」
カリステは二足で立ち上がる……! やはりでかい、そして仮面を外した……!
「ワ、ガ、ナ、ハ……メオトラ……」
素顔は猫に似ているが俺たちに近しくもあり……だからか、存外かわいらしい顔をしているな……。大きな耳が左右に伸び、しばしば動いている。
「さて、お二方、どうぞこちらへ……」
アテマタが踵を返すと、後ろの集団が二つに割れ、道をつくった。しかし、ほいほいついていくわけにもいかず……二の足を踏んでいると、先導するアテマタが振り返った。
「どうかいたしましたか?」
俺はうなり、
「いったいなんの用があるのか、いま聞きたいな」
「ああ、警戒なさっていらっしゃいますね? これは我々の落ち度でございます、申し訳ありません」
アテマタはかしこまって、頭を下げる……。
「いや、そういう応対はいらないよ、普通でいい、普通で……」
「ですが、我々は魂を持つ皆様のしもべでございます」
「しもべ、だって……? くだらん、やめろ、格付けなど上でも下でもまっぴらごめんだ……!」
アテマタたちは互いに顔を見合わせる……。
あんたたちにとっては困惑することかもしれないが、俺はそういった下らない、上っ面な関係を捨ててここにきたんだ……。
「……言い過ぎたかもしれないが、気軽な感じで頼むよ」
すると彼らは何やら相談を始め、途端に整列が崩れ、眼前のアテマタがふらふらと肩を揺らしながらこっちに歩いてきた……? そして軽妙な音楽が鳴り始める……。
「おカタイ態度ォ、気に入らないヨォ! だったらホップゥ、するしかないヨォ!」
なに? なになに、なにそのリズム……?
「あのコのヒップゥ、気になりますヨォ! それでも俺ハァ、ヤルことやるヨォ!」
えっと、なにこれっ? 後ろでも『ヨォ! ヨォ!』と掛け声がするし……。
「アンタのソウルゥ、調べていくヨォ! 純度が高いと嬉しいヨォ!」
「まま、待て待て! そこまでいくと、なに言ってんのかよくわからんよ!」
「そんなんじゃノれないだろ、下がってな!」
今度は別のアテマタが前に出てきた……! そしてやはり小刻みに体を揺らす……!
「たたった単刀直入、申しアゲ! オマエをタマに蹴り入れテェ! ジュジュッジュ純度を調べアゲ! 確かめよう是、ブラザーフッド!」
ビシッ……と指を差されても、余計にわからん……! そして背後からカリステ……じゃなかったメオトラが近づいてくる……! な、なにやらグルルとうなっているぞ……!
「だからぁ、そういうの流行んないっての、イマドキ!」
また出てきた……。楽しげな音楽が始まり、今度は腰を振りながら軽妙にステップを踏み始め、指先をくるくる回す……。
「アナタとヒトメ、あったトキからッ! プルプルするの、わたしのココ……」
ロッ……と同時にメオトラの一撃で真横に吹っ飛んでいった……。アテマタはざわめき始める……。
「あ、あの、普通にね……?」
また一人、前に出てくる……。おいおい、なんだかメオトラさんがご機嫌ナナメみたいだぞ、大丈夫かよ……?
そして今度はけたたましい音楽が鳴り響く! アテマタは頭を振り回し、
「アニマ・アウラッ! アルマ・カルマッ! アニマ・アニムス・アミキティアッ! アニマ・カルマッ! アエラ・アクアッ! アモル・アルカナ……」
アイテールッ……ってところで、またもぶっ飛ばされる……。そしてアテマタたちはざわめく……。
「あの、たぶん、ちゃんと説明しろってことだと……」
また一人、前に出るが……そろそろやばいぞ、メオトラがグルグルうなっている……。
「……えっと、魂の純度を検査したいのですが、よろしいでしょうか……?」
おっと、ようやく普通に話す気になったか! しかし、魂の純度だって……?
「そんなもの……調べてどうするんだい……?」
「例えるなら、真円が必要なのです」
「しんえん……? 意味が、わからないな……」
「真円は必要でしょう? ないと困りませんか?」
「こ、困る……かもしれないが……」
「そうでしょう! ですので、お願いしたく……」
うーん、普通に話してもよくわからないぞ……?
「そ、それは、すぐに終わるのかい……?」
「ええ、小一時間くらいです」
「そうか……危険はないんだよね?」
「ええ、でも、小一時間くらいでは、コードの付与は見送りとなりますけど……」
「コード……? いや、望んでいないけれど……」
「ああ、そうだったのですか。ですが、コードは有用ですよ?」
「いや、いい……」
「いいの?」アージェルだ「すごい力が手に入るんだよ?」
力か……。しかし、骨に刻むんだろう……? ちょっと怖いなぁ……。彼らを完全に信用しているわけでもないし……。
「いいや、必要ない……。さっさと終わらせて戻る……いや、せっかくだからいろいろと聞きたいことがあるかな……」
「ええ、検査をしながらでも」
そして俺たちは奥へと進んでいく……。ここは白く清潔で記号じみているが、どこか寂しい感じがするな……。まるで廃墟のように……。
それにしてもこのアテマタたち想像とかなり違うな、お堅いんだか軽いんだかよくわからん連中だ……。
「ああ、申し訳ありません、アージェル様は別室でお待ちを……」
「……ふん、まあ、そうしようか」
そして俺はアージェルと別れ、球体の部屋に案内される。そういやタマに蹴り入れてぇ! とか歌ってた奴いたな。なにやら不思議な感覚のする部屋だ、よくよく見ると、室内に無数の円形が浮かんでは消えている……。
「くつろいで下さって結構ですが、なるべく動かないで下さいね」
「ああ、わかった」
「はい、それでは始めましょう」
そして室内には俺だけが取り残される……。
「……それで、さっそく質問を始めたいんだけれど……聞こえてる?」
『はい』どこからともなく声が聞こえてくる『いつでもどうぞ』
「……蒐集者はあんたたちと関係が?」
『蒐集者……カーディナル様ですね、はい、ございます』
「奴はアテマタなのかい……?」
『いいえ、ボディを譲渡させて頂いていますが、元々はあなた様と同じ人間のはずですよ』
「体を……? 奴は殺人鬼だぞ、なぜ協力する……?」
『あのお方は極めて純度の高い輪廻転生者だからです。それに、偽りの系譜を始末するお手伝いをして下さいます』
なにぃ……? 奴もまた、転生者か……!
「……偽りの系譜とは、万能者のことか?」
『そうです』
「いまや純度の高い者は少ないと聞いた。つまり大なり小なり転生者の系譜が混ざっているはずだが……?」
『はい、その通りなのですが……重要なのは純度です』
……純度、だと?
「純度の高さで扱いが変わるっていうのかっ……?」
『遺憾ながら。それはつまり、血統における択一です』
な、なんだとぉ……?
「お前、お前たち……間引きをしているのかっ……!」
『優生学ではありませんよ。我らが創造主の命です』
「待て、待て待て、じゃあ、奴が冒険者を狩るのは……」
『我々の希望を汲んで頂いております』
「万能者の系譜を抹殺している……?」
『はい。と言いましても、あのお方には別に、崇高なる使命があるそうですが……』
くっ、なんて黒い相乗効果だ……!
『そして、あのお方の半身とされるあなたも相応な逸材との話、ゆえにここへお呼びさせて頂いたのですね』
「半身だと……? そんなもの、奴の妄想……」
『いいえ、あなた様には、あのお方の予知に対し高い耐性があります』
「その予知だが、奴のそれとこの検査、関係があるんだな……?」
『はい。アイテール分布の精査は予知の力と本質的に同一のものですので』
「アイテール分布……?」
『アイテールの分布状況を調べると、そこに高い反復性があることに気付くでしょう。例えるなら、物語のように』
「物語……?」
『物語は反復して使用される文字で構成されています。そしてその中において歴史がある。それと似たように、この世界にはアイテールのパターンが無数に存在します。そしてそれにより、我々の世界は驚くべき多様性に恵まれているのですが、逆にいえば、パターンの構造を解析することにより……』
「予知が、可能となる……!」
『しかし、完璧はありません。どこかで必ず綻びは生まれる。あなたはあのお方にとってその綻びそのものと言えるのかもしれませんね』
「だから奴は俺に執心するのか……!」
『あのお方は、あなたを愛そうとなさっておいでです。あのお方の世界の欠陥を、あなたという形において承認しようとしている。これはいままでになかったことです』
「……俺は奴を倒す」
『あのお方が許せませんか?』
「ああ……!」
『当然ですね、互いに半身なのですから……』
「違う! 俺が奴を憎むのは、奴の悪行に対してだっ……!」
『その憎しみはどこからきたのでしょうね』
「奴は普段から冒険者を殺し回っている殺人鬼だ、好む方がどうかしているっ……!」
『つまり、理由があるのですね』
「ああ!」
『幸運なことです。あのお方もあなたを憎んでいらした』
「なにぃ……? 罠にうまくはまらなかったからか? そんなもの……」
『そのようなことであのお方は憎悪を抱きませんよ。ただ、虚無的にあなたを憎んでいらしたのです』
「なん、だとぉ……?」
『ご自身に、憎まれる道理などないと?』
「ああ! 仕掛けてきたのは奴からだぞ、俺は自分を守っただけだっ!」
『つまり、理由があるのですね。それは幸せなことですよ』
なんだとぉ……? なんだその理屈は、ふざけるなよ……!
しかし……奴も俺も憎んでいた、だって……? そして、それを受け入れようとしている……?
馬鹿な、まるで、奴の方が寛容だとでも言わんばかりじゃないか……!
「……奴の話はもういい! それより、リザレクションが欲しいんだが……」
『中枢に行けば、習得できるかもしれません』
「どうやったら近道できる? できれば案内を頼みたい」
『意味がありません。なぜなら、中枢は聖戦士が守っているからです』
「……奴はあんたたちの同胞だろう?」
『いいえ、あのお方たちには魂がありますので 』
「なに? あんたらは機械なんだろう……?」
『人だけが魂を持っていると?』
「た、魂とはいったい……?」
『ある種の反復性を保持する現象、つまりはアイテール分布です』
けっきょくそれか……。くそ、いまいち話が理解できないな……! 別のことを聞いてみるか……。
「いまロード・シンの復活に関して揉めているんだが……。そもそもあれはいったいなんなんだ……?」
『あのお方はありとあらゆるアイテール伝播を受け入れています。そしてそのご意思は人類、魂を持つ者たちの総意です』
「世界を滅ぼすことがか……? しかし、魂を持つ者たちがみな、滅びを求めるなんてあり得ないだろう……!」
『具体的には、アイテール分布が均一性を高めた際に、それは起こります』
「均一性……?」
『そしてその状況を打ち破るためには、反復性の高い規範が必要となります。それが純度の高い魂です。我々はそれらの位置を把握することにより、終末を予測しようとしています』
「予測して……その脅威を回避すると」
『いいえ、万能者を追い詰めるためです』
なに……?
『具体的には、メサイアより引き離すのです。転生者の系譜をメサイアの元へ、万能者のそれを終末の炎へ追いやる、これが我々の目的です』
「そんな……!」
『そうすれば自然と転生者の系譜がこの世を支配するに至る。我々はその純度を高めたいのです』
「なんて身勝手な……!」
『これはあなたの祖先より承りし使命なのですよ』
お、俺の……祖先が……。
「じゃあ、シンの意思を集めるのも……まさか、あんたらの手引きなのかっ……?」
『シンの意思、ですか……?』
「この地に三つある、ロード・シンの復活に必要な玉だよ!」
……ふと、沈黙の静寂が辺りを包む。ややして、アテマタの笑い声が……!
「なっ、なにがおかしい!」
『そんな噂があるのですか? あのお方は魂の総意でしか動きませんよ』
なんだとっ……? 馬鹿な、じゃあなぜフィンや魔女はあの玉を集めているんだっ……?
「じゃあ、なぜ彼らは……!」
『申し訳ありませんが、存じ上げませんね』
どういうことだ、騙されているのか……? いや、ブラフにしたっておかしい、あれは機械人間のいる遺跡で、厳重に守られていたはず……。
このアテマタが嘘をついている? 可能性はある、だが、しかし……!
「では、あの遺跡にあった虹色の玉はいったいなんなんだっ?」
『さて……それも存じ上げませんが……』
「嘘をつけ! あそこじゃ機械兵士が守っていたんだぞっ!」
『機械がすべてアテマタなわけではありません。人類は猿ですか? 違いますでしょう』
「じゃあ、奴らはいったい……?」
『ただの兵隊でしょう。普段は座り、侵入者が入ると立ち上がって迎撃する、それだけの存在です』
「そうじゃない、奴らはなにを守っていたんだ?」
『アテマタでないのなら万能者たちのしもべでしょうし、そこにあったものも、彼らにゆかりのあるものでしょうね』
万能者の……?
『あるいはわたしが無知なだけなのかもしれません。情報の共有は我々の本懐にも近いものでしたが、いまの我々は個別化に誇りを抱いているのです。ゆえに、知らないものは知らない、こう断言する機会に恵まれて幸運です』
なにを言っているんだよ……!
『しかし、なるほど、あるいは……』
「なんだ……?」
『一時期、噂がありました。万能者たちがあのお方を奪おうとしていると……。あるいは、そのシンの意思とやらにそんな力があるのかもしれません……』
なるほど……そういう話ならば説明がつく、か……。
『しかし、あり得ませんよ、そんなことは不可能です』
「そう断言したところで、実際にはどうなっているかわからんだろう……?」
『彼らにそんな力などあるわけがありません。もしあるとしたなら、伝播を遮断できるということ、それは創造主たる……』
そこまで言って、アテマタは黙する……。
「……どうした?」
『そうか、理論上、それは可能だ……』
……今度はなんだ?
『まずい、これはまずい……』
「……どうしたんだよ?」
『アイテールがこの惑星にとどまっている以上、それを可能とする力があります、それはもちろん引力のことですが、他の方法でも……』
「それがどうした?」
『最悪、魂が、アイテールがこの星より追い出されてしまうかもしれない……! なるほど、超長期宇宙探査においてそれは有用な手段でした、その技術が彼らに渡ってしまっていたとしたら……!』
「魂がどこかへ飛ばされてしまう……?」
『そ、そうです! そうなればこの星は万能者の系譜が支配する世界に……!』
「その鍵がシンの意思……!」
『いいえ、彼らの目的はあくまであのお方の支配なのかもしれません、しかし、可能性としてこれは非常にまずい……! すぐにでもその玉を破壊せねば……いや、技術は残しておかねば、しかし……!』
な、なにやら混迷しているようだが……。
「おい、大丈夫か……?」
しかし返事はない……。いくらか声をかけるが、やはり返事はなく……そして数十分して、ようやくアテマタの声が……。
『……取り乱して申し訳ありませんでした』
「ああ……そろそろ終わりかい?」
『え、ええ……。やはり、あなたも……』
「魂なんかどうでもいい、いまの俺にはいまがすべてだ。さあ、そろそろ帰らせてもらうぞ……」
『お待ち下さい』
「なんだよ……!」
『協議の結果、我々は例の件に介入するか否か、長期の協議が必要になるとの結論が出ました。つまり、すぐには動けないということです』
「そうかい……」
『ゆえに、転生者の皆様にお願い申し上げる以外にありません。どうか、件の玉を破壊して下さい』
「ああ……まあ、どのみちとめようとは思っているさ……」
『感謝いたします……。つきましては、あなた様に特別な強化コードを付与いたしたく……』
「コード……? いらんよ」
『なぜです……?』
「なんとなく、だよ……」
『たしかに、自力にて刻むコードの方があなた様に最適なのは認めますが、いかんせん時間が……』
「いらないよ、いい加減帰してくれないか……。奴らは俺たちがとめるからさ」
ふと、沈黙が……。
『……わかりました、転生者たるあなた様がそうおっしゃるのならば、我々はそれを見守りましょう。ですが、先ほども申し上げました通り、我々は共有化を離れて久しい存在、あるいは介入を始める者たちも現れるかもしれません。その場合にはご容赦を……』
「わかったよ、さっさと出してくれ……」
そしてドアが開き、アテマタが現れる。
「メオトラ様がご送迎をなさって下さるそうです」
「またか……。それにしても、彼女はいったい? アテマタ・ビーストとは?」
「ビースト? どこでそのような……」
「いや、アージェルの付き人みたいな奴がそう呼んでいたから……」
「あれの言うことは無視して下さい。メオトラ様もまた、高純度の魂を持つ存在、そして我々に助力をして下さるお方……。今度の案件にも、力を貸して下さるでしょう」
やはり魂を持つ者なのか……様付けだしな……。
というか、あいつ置き去りだな……森の中に……。
そして俺たちは最初の部屋に戻り、そこではアージェルとメオトラが待っていた。
「よし、今度こそ戻りたい、頼むよ」
メオトラは牙をむき出しにして、にっこり笑う……。いまいち信用できないが……って、また俺の体を掴み、穴に飛び込んだっ……!