黄昏を眺めて
部屋を出て廊下を進むと、近くよりわん、わんとシルヴェの声が聞こえてきた。一応、帰還を知らせようとそちらに向かうと、なにやらばかでかい角らしきものを持って大股で歩いていた……。
「よ、よう……」
「おっ、無事に戻ったわんね!」シルヴェはにっこり笑う「ファンタズマクリスタルはあったかわんっ?」
「あったけれど……」俺は事情を説明する「……というわけで持って帰ってはこれなかったんだ」
「ふーん、ま、たいして興味はないけどわん」
「それはそうと、エリの警護、ありがとう」
「まあ、約束だったし、一応気にはしていたけど、べつになんにも起こらなかったわんよ。エリゼがべったり見張ってたし……」
「そうか……。ところで、えらくご機嫌みたいだけれど、いいことでもあったのかい?」
「グランドホーンの角だわん!」シルヴェは角を掲げる「売るもよし、加工するも飾るもよしの逸品だわんね!」
「そ、そうかい……ってそうだ、カーディナルが死んだと聞いたが、冗談だよな……?」
「ああー、なんか食われたらしいわんねー。まあ、そのうち戻ってくるんじゃないかわん?」
やはり、シルヴェも死んだとは認識していないようだな……。
「ヨデル・アンチャールの件は聞いたかい?」
「そういえば、カーディナルがなんか言ってたような……わん? でも、最近見てないわんね。ネズミに食われたとか生きてるとかあったけど、どーでもいいわん」
ほんとこいつは興味のあること以外に興味を持たないなぁ……。
「あとさ、下で悶着が起こっているらしいな?」
「おかげで防衛が手薄になって、獲物を狩り放題だわん! 暇しなくていいから嬉しいわん!」
「そ、そうか……」
アテナはまたわんわん言いながら去っていく……。あいつは本当、戦いが好きなんだなぁ……。
そして俺たちは近くの執事をつかまえて地下へ、すると濃密な気配がバーの方より漂ってくる。どうやらそこで話し合っているようだな。各々の勢力で固まり、中央の席には相変わらずブラッドワーカーたちがいる。そして昨夜まで弱気だったカタヴァンクラーは、いまではテーブルの上に足を乗せ、腕を組んでいる格好だ。俺たちは端に座っていたフェリクスの元へ……。
「ああ、無事だったようだね……!」
「もちろん、状況はどうなっている?」
「うーん、元老院の情報をめぐって、お互い一歩も退かないって感じだねー」
「そうか……」
などと話している間にもカタヴァンクラーがなにか言っているな。
「……なればこそ、この状況はそやつらの時間稼ぎに過ぎんとわかるだろう。聖騎士団とあろう者たちが都合よく利用されてよいのかね?」
レオニスは僅かに首を傾げ、
「それは君の方ではないか?」
「そうして時間切れまで待つつもりならば、こちらとしても共謀を疑わざるを得ないがね」
時間切れ……なんのことだ? ああ……そうか、アーマードラゴンの件か、あれがここに到達して混乱が生じれば逃げる隙も生まれるだろう。なるほど、ブラッドワーカーがそれを狙っていてもおかしくはないな。
「そもそも」レオニスはため息をつく「彼らが元老院と繋がりがあるという証拠もないだろう。中枢のありかにしても、ただの狂言かもしれんしな。しかし、それでも我々は疑惑に懸念を呈しておかねばならんので、こうして彼らへの尋問を要求しているのだ。ここに思惑など介在していない。通常業務の一環に過ぎんのだ」
「何度も言うように、我々の同席を認めるならば尋問を許可しよう」
「またも平行線だな」レオニスは肩を竦める「時間がないのではないかね? 二兎を追わずに、疑わしい情報に見切りをつけ、悪しき者をここで葬り、協力してドラゴンを迎え撃つのが妥当だと提案するがね」
ルドリックの野郎とジュライールは相変わらず談笑をしている。そして栄光の騎士は頬杖をついてぼんやり、他には紫の鎧の男やゼラテアも合流しているようだな。こちらはさすがに緊張の色を隠せない様子だ。
「むっ、戻ったか……!」
カタヴァンクラーが俺たちに気付き、立ち上がってこちらにやってくる! 慌てて立ち上がると、彼はがっちりと俺の手を掴んだ。
「ありがとう、ありがとう……! この恩は一生忘れんよ!」
「あ、ええ……助かって本当によかった」
「すまんがこんな有様でね、疲弊しているだろう、部屋でゆっくり休んでいてくれて構わんのだよ?」
「いえ、状況を把握しておきたくて……」
「ああ、それも心強い。ところで怪我をしているではないか、君、手当てを……」
カタヴァンクラーは隅に立っていた執事の一人に声をかけるが、
「ああ……私がやりましょう……」
ホーさんが立ち上がり、すすっとこちらにやってくる。そして治療が開始された……とき、ルドリックの声がこちらに向けて飛んできた。
「まさか、そういう解法に到達するとはねぇ! ちょっと予想外だったよ! 後学のために、どうして人質の居場所がわかったのか教えてくれるかなっ?」
「……デヌメクネンネスが教えてくれたのさ」
ホーさんの治癒魔術が一瞬、止まる……。
「ほう?」ジュライールがこちらを見やった「彼が君たちに助力を?」
「ファンタズマクリスタルは持ち出しちゃいけないんだとさ。その代わり、人質がどこにいるか聞いたんだ。ついでにあんたらのお仲間をいくらか倒したね」
「あはっ!」ルドリックが笑い出す「ほんと、役に立たない奴らばっかりだなぁ!」
「ついでに言えば、クレイヴが単身で最下層に向かっていってしまった。そして、デヌメクネンネスはそれを阻止しようとするだろう。早々に諦めれば無事に帰ってくるはずだが……そうでない場合は……」
「なんだと?」アズラだ「なぜ、単身で向かった?」
「はぐれてしまったんだ。時間もなかったので、彼はデヌメクネンネスに任せた。もっと言えばな、彼は内部構造を知っていたのに、俺たちにはその情報を開示しなかった。もし、不義理の話をするならば、この件について逆に問いたいね」
アズラはレオニスを見やる。レオニスはまったくの無反応だ。
「……それで、ブラッドワーカー、あんたらはいったい何者なんだ? 宿の地下に人々を閉じ込め、人体実験をしていたってことは相応に後ろ盾はでかいはずだが」
室内から驚きの声が上がる……。
「宿は複数の国家の共有物だ」おっと、皇帝だ「そしてそれらのまとめ役は元老院に違いあるまい。ここから貴様らが元老院の手先だと推察するに苦労はいらん」
カタヴァンクラーはこれ見よがしに頷き、
「案ずるな、約束は違えんよ。中枢のありかが確認されれば、君たちの解放を約束しよう。さあ、いまここで話してしまえばよいじゃないか。近くの怖いおじさんに気兼ねする必要などないぞ、私が守ってやるからな」
これは嘘だな、裏が取れたら確実に奴らを殺すだろう。ジュライールは微笑み、
「それもいいかもしれないね」
しかしいまだ結論は出さないようだ。ぎりぎりまで楽しもうという魂胆なのか……? やはり正気じゃあないな……。
なるほど、こう着状態になるわけだ。しかし、カタヴァンクラーとてここを犠牲にするほど粘ったりはしないだろう。時がくればレオニスの言うとおり元老院の情報は諦め、アーマードラゴンへの対処に切り替えるに違いない。
「はい、終わりましたよ……」
おお、やはり手早い……! さすがのホーさんだっ!
「ありがとうございます、ホーさん」
「また、活性をし過ぎたようですね……」
「ええ……敵の電撃攻撃をくらいまして……」
「電撃で活性してしまうのですか……?」
「はい、いつの間にやらそういう体質になってしまったらしく……。自分でやった場合にはそうでもないんですが、他者より与えられると強く活性をしてしまうのです」
「自身で行った場合には無意識的に効果を抑制してしまうのでしょうね……」
「まあ、それで助かった面も多々ありましたが……」
「あまり活性を多用すると体に負担を……」
ホーさんはそこで視線を向こうに、俺もそれを追うと、なにやら栄光の騎士が口を開いているようだ……!
「……そういえば昔、どこだかの山脈で異質な大聖堂を見たことがあったな……。それは崖を掘り抜いてつくられた建造物で、ずいぶんと絢爛な装いだった。これほどのものを、よくこんなところにつくったものだと感嘆したものだ……」
皇帝は首を傾げ、
「……なんの話だ?」
「たしか、オルメガリオス大聖堂……だったか? あんな辺ぴなところに数十も人がいたんだ、身なりもよかった、妙に肥えた奴らもいたし、信仰のための修行場にも思えなかった、それに中は異様に明るかったんだ、ろくに窓もないのに、いま思えば、電気が通っていたのではないかと……」
……わずかに、レオニスの気配が揺らいだっ! 表情にはまったく出ていないが……!
「……それはどこにあるのだ?」
「よく覚えていないが……いまでいうところのホーリーン辺りだったような……」
「アンタちょっと黙ってなよお馬鹿サンッ!」
ルドリックの裏拳が炸裂し、栄光の騎士は椅子ごとひっくり返る……。
しかし、いまの反応でいよいよそれっぽくなってきたな……! もちろん、そう思わせるための演技って可能性もあるが……。
「実に、興味深い話だな」カタヴァンクラーは笑む「こちらとしてもこう着状態は避けたい。いまの話に賭けてみるのもいいかもしれんな……」
牽制が入るが、ジュライールの表情はおろか、気配にすらも揺らぎはない……。これは裏拳を放ったルドリックも同様だ……。
「……ホーさん、知っていますか? オルなんとか大聖堂って……」
「ええ、存在は知っています……」ホーさんは頷く「元老院の中枢があるかどうかはわかりませんが……」
「レオニス・ディーヴァインの気配が揺らぎました。当たりくさい感じはあるのですが……」
「たしかに……わずかですが……揺らいだ感じはありましたね……」
「対して、奴らの気配にはなんら変化がない。もしかしたら、中枢の場所なんて最初から知らないのかも……」
「ありえますね……。巧みに振る舞い、我々に潰し合いをさせたいだけなのかもしれません……。それより……」ホーさんはうなる「もし当たりならば、よくないことになるかもしれません……」
「……というと?」
「元老院がこのことを知れば、我々の口を封じようとする可能性が高いと思われます……」
た、たしかに相手は国家以上の存在らしいし、機密を守るためなら俺たちの命なんかチリ程度の価値も見出さないだろう……!
くそ、さすがに話がヤバくなってきたな、黒エリの懸念が大当たりだぜ……! そして背後から誰かが……?
振り返ると……ええっと、たしかソリュウト……だったか? 先日、ヨニケラと一緒に俺たちの部屋やってきたフィンの男だ。彼は微笑み、
「いいかな?」
「あ、ああ……」
「先に話した件だが……そろそろ行動したいんだ」
ああ、地下への案内か……。
「しかし、そんな状況では……」
「どうにも元老院に関する話のようだが……それに興味が? 私はない」
「ないというか……相手が悪いというか……」
「ならばこそ、彼らの問題に巻き込まれるべきではないと思うな」
それは一理ある……。ついさっき余計なことを耳にして後悔したばかりだしな……。
だが、元老院とブラッドワーカーに関係があることはほぼ間違いないだろう。知らぬ存ぜぬを決め込むのもいい選択とは思えない……。
だが、いまはやはり地下の件を優先すべきか? なによりアージェルのことが気になるし……。
「ホーさん、アーマードラゴンはどのくらいで到着しそうですか?」
「おそらく……数日、ほどでしょうか……」
数日か……。たしかグゥーも行くって言っていたよな、ということは行き帰りはギャロップか。だったらそうそう時間はかからないはず……。
「ワルド、いけそうかい?」
「ううむ、今後どのようなことになるかわからんしな、行くならばいまの内やもしれん……」
「そうか……じゃあ、明日にでも行こうか?」
「うむ、私は構わんよ」
「今度は僕も行くよー」
そういや、フェリクスも武器を探しにいくって話だったな。じゃあ、エリのことは黒エリとアリャに任せるか……。俺はソリュウトを見やり、
「よし、では明日はどうだい?」
「ああ、ありがたい」
「といっても、うまくいくとは限らないぞ……?」
「その点に関しては納得済みだ」
「というか、あんたが……クラタムの師匠なのかい?」
「クラタム? いいや、彼の師匠はソルスファー・ゼロフィンだ。いまは森で襲来する獣を狩っていることだろう」
「そうか……。彼はアリャに無茶をさせたようだが?」
「ああ……私も反対したのだが……」
「なぜ、彼は強硬手段に出たんだ?」
「理由は三つ。ひとつ目は彼女自身が望んだからだ。ふたつ目はクラタムを殺さず連れ帰るため……」
「それはあんたたちでも可能だろう?」
「そうだが……彼はニリャタムには絶対に勝てない、いや、戦えないはずなのだ」
「戦えない? なぜだ?」
「それは私の口からは言えない」
「そこまで言って秘密なのか?」
「ああ、私事だからな。もし君が聞くにふさわしい立場ならば、いずれ知ることになるだろう」
私事、か……。
「そして三つ目だが、ソルスファーは実証したかったんだ。彼は探求者だから」
「なんの……?」
「それは私事に含まれることなので言えない。だが、ひとつ言えるのは、彼が冷徹な男だということだ」
「冷徹……。まあ、そうだろうよ」
「私が言えるのはここまでだ。後は彼に直接聞くといい」
ソルスファー……ゼロフィン、か……。
「……ところで、明日はあんたらみんな参加するのかい?」
「いいや、私とヨニケラだけだ」
「そうか……」
「ともかく、明日はよろしく。協力して遺物を手に入れよう」
彼はそう言い残し、去っていく……。ホーさんはその後ろ姿を見やり、
「彼らはなにをしたのですか……?」
俺は事情を話す……。
「それで具象魔術を……」ホーさんはうなる「それも極めて高度な……」
「なにか思い当たること、ありますか……?」
「人の具象化は魔術のなかでも極めて高度な技法……。それを覚えたての少女が行えたということは……具象化された人物は間違いなく近しい人間でしょうね……」
「近しい……」
そのとき、ホーさんが声を上げる……!
「まさか……! いえ、そんなこと……」
「な、なんですっ……?」
「いいえ……ただの、不気味な妄想です……。しかし、そのソルスファーという方は、あるいはですが……気を付けた方がよいかもしれません……」
「そう、ですか……」
まあ、心証はすでによくはないわな……。
「明日にでも向かうのならば」ワルドだ「早々に食べ、休んだ方がよいのではないかね? 治癒したとはいえ今日は疲れたろう」
「ああ……そうだな。でも先に、みんなに伝えないと……」
そして俺たちはグゥーにこの件を伝え、女性陣の部屋へ……。
「またゆくのか!」黒エリはため息をつく「まったく、次から次へと……」
「すまないが、また留守番頼むぜ。アリャもな」
「ムゥー! アリャ、イク!」
「でも、黒エリ一人に任せるわけにもいかんだろう。最低二人はついてないと」
「ムゥー……」
「しかし、フェリクスを連れていってよいのか? 足手まといになるかもしれんぞ」
「僕は遺物でパワーアップするから大丈夫だよー」
「こんな風に、先物に期待をしている始末だぞ……?」
「ま、まあ、自分の得物だ、自身で探しにいくのが筋だろう。それにそもそも入れるかわからないんだ、もしかしたらすぐに帰ってくるかもしれない」
「ムゥー……!」
アリャがなんだか納得いかないって表情だな。
「ムゥー……?」
そして、なにやらすっごい俺を睨んでいる……。
「な、なんだよ?」
「レク、コッチ、クル」
ベッドに座っているアリャが俺を呼ぶ……。
「え、なに?」
「ハーヤークッ!」
なにやら太ももを叩いて急かしてくる……。仕方ないので、アリャの隣に座る……。
「……なに?」
「……レク、サイキン、ヘン」
「へ、変って……どこが?」
「レク、ヒトリ、サワグ。ヒト、ブチコロス。ソレト、ナンダカ、カナシソウ……」
「そ、それはあれだ、幻影を見たんだから仕方ないだろう? それと殺そうとしたってのは宿の地下でのあれか? あれは電撃で心身が暴走していたんだ、ああなるとなんというか……身体能力が飛躍的に上昇する代わりに、暴力的な衝動が抑えられなくなるんだ……」
「テキ、ブチコロス、ヒツヨウ。デモ、レク、ヒト、ブチコロス、コウカイスル」
「ああ……そうだな……」
相手が人ならばなおさら、殺しは避けたいが……奴らは誘拐し人体実験をしていた一味の仲間で好戦的だったしな……捕らえられた人たちを救うためと思えば、アリャが懸念するほどあの結末に後悔しているわけじゃあない……。小綺麗なまま人を救えるほど俺は器用でもないしな……。
……いや、待てよ、そういえばあいつ、本当に死んだんだろうか……? とどめは電撃だったしな、あるいは……。
「ふん、敵を排除する、これは当然のことだ。極悪なるブラッドワーカーであるならばなおさらにな。むしろよくやったと賞賛されてもよい」黒エリは俺を見やる「それより活性の話が気になるな、思い返せば、レキサルとの戦いで電撃を欲していたしな」
「ああ、電撃を食らっている内にそういう体質になってしまったんだよ。とはいえ諸刃の剣だ、多用は控えた方がいいらしい……」
「そうか……。そして幻影だと……?」
ああもう、あのことを説明するの嫌なんだよ……!
しかし、仕方なく俺はエジーネのことを説明する……。
「ほう、腹違いの妹がな……?」
「た、ただの幻影だよ……」
「そう言い切るわりにはすぐれない顔つきだな?」
「まあ、あいつは苦手だったしな……! はいこの話は終わり!」
俺は無理やり話を締めて元の部屋に戻る。そして上着を脱いで、ベッドに横になった。
母さん……。殺された母さん……。
エジーネ……。母さんを殺した犯人……。
そして親父……。親父は……。
くそ、このことを考え始めると、どんどん心が奥に沈んでいく……! また明日も危険な冒険が待っているんだ、こんな状態じゃよくないのに……。
「飲むかね?」
おっと、いつの間にかワルドとフェリクスが戻ってきている。その手にはグラスと酒瓶、それにいくつかの食べ物……。
「……ああ」
俺は差し出されたグラスを受け取る……。
「状況からして深酒はできんがな、多少ならば気も紛れよう」
「僕はあんまり強くないんだけどねー。のんびり飲むぶんには、つき合うよー」
……そういや以前、親父が言っていたな……。酒は幸せの後押しをしてくれるものであって、不幸を取り除いてくれるものではないと……。だから、不幸から逃れようといくら飲んだとしても、決して救われることはないのだと……。
そうだな……この不安感を鎮めるには、きっとよくない飲み方をしなくてはならない……。そしてこの程度の酒では……。
……いや、違うな、なんだか妙に心地よい気分だ……? なぜこんなに癒されるんだろう……?
ああそうか……こうして一緒に飲める仲間のおかげか……。そうだ、この酒は、そういう酒なんだ……。仲間に恵まれた幸福が後押しされる酒……。だからこんなに美味いんだ……。
日が暮れていく……。俺たちはその様子を眺めながら、静かにグラスを傾け続けた……。