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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
56/149

愛より重く、光より軽い

 しかし、それは過ちだったとすぐに悟る……! 気付けば周囲に無数の人影がっ……竜巻のように巡る巡る、そして皆が一斉に何かを喋っている……? これでは個々の言葉を聞き分けることはできない……!

「……リ、リザレクションの情報が欲しいんだっ!」

 試しにそう叫ぶが、明確な反応はない……。

「だ、誰か、リザレクションのことを……!」

 ……だめだ、まるで収拾が付かないし、この人影の旋風を鎮める方法も分からない……。

 くっ、いったいどうしたら……と狼狽えていると、ふと、人影が側に立っていることに気付く……! その姿は真っ黒だが、俺は既に確信していた、こいつは、俺だ……!

「だめだ」

 俺の幻影は俺の声で俺の要望を排した。

「それは、必要なことではない」

 必要ではない、だと……? まったくあべこべじゃないか……。「エリはリザレクションを求めてこんなところにまで来ているんだぞっ……? もしお前が俺ならば、その情報の重要性を充分に理解しているはずだ……!」

「ああ、そうだな……」

 黒くて前後は分からないが、恐らく、俺の幻影は旋風を眺めているようだ……。

「しかし、彼女はここで死ぬつもりだったのだろう? きっと、最大限の努力をした上で命を捨てたかったんだ。それが彼女の贖罪……」

「き、利いた風なことを……!」

「その命が本当に尊いのならば、生き返らせてはならない。お前だってそうさ、母さんを生き返らせたいか? もちろん、そういった感情があることは知っている。しかし、本当にその時になったら……お前は復活を選択することが出来るのか?」

「そ、そりゃあ……」

「また命を落としたらどうする? エジーネにまた殺されたら……どうするんだ?」

「そ、それは……」

「その後また生き返らせるのか? そして翌朝また冷たくなっていたらどうする? その横でエジーネが笑っていたら?」

「エ、エジーネがやったなんて確証は……!」

「確信しているのはお前自身だ。そしてどうする? また、また、また……そうなっていたら、どうするんだ? その都度、何遍でも繰り返すのか? 望む限り、望まれる限り繰り返すのか?」

 ……考えてみればそうだ……人の命をそんなに軽々しく扱える訳もない……。

「俺が言わずとも分かっているはずだ。そのような繰り返しはいつか必ず破綻し、やがてお前は狂気の淵に立つことになるとな」

 その通り、だろう……。

 俺には荷が重すぎる選択だ……。

 しかし……! 俺にとってはそうかもしれないが……!

「……俺とエリは違う」

「確かに俺なんかとは違うさ。しかし、お前自身ができないことを彼女にさせる理由にはならない」

「選ぶのは、彼女だ……」

 そう答えた途端、俺の影は俺に詰め寄ってくる……!

「それはただの放棄だっ……! 事なかれ、最低の選択だ……! あのとき、ホーさんが言っていたろう……! そこには大いなる虚無が付いて回ると……!」

「そ、そんなの覚えてねぇよ!」

「俺はお前だ、分かっているんだ! 察するに余りあるからな……!」

「だったら……だったら、どうすりゃいいってんだよっ……?」

 しかし、俺の幻影は沈黙で答える……。

「こっ……答えがないなら消えろよっ! 何にもならねぇじゃねーかっ!」

「そうさ、その通り。たぶん、それが答えだ」

「何にもならないのがっ? 馬鹿抜かせっ!」

「台無しでいいんだ」

「何がいいんだよっ! 最悪じゃねーかっ!」

「いいんだ」

「だから何が……」

 幻影に詰め寄ろうとしたとき、視界の端にデヌメクの姿がっ……?

「なっ……なぜここに……?」

 デヌメクはニッと笑い、

「クリスタルの扱い方に疎いと、その様に混乱することになる。今は諦め賜え」

「何も混乱などしていないさ。そうだろう?」

 真っ黒だった俺の幻影に……いつの間にか星が瞬き、夜空のようになっていた……。そして星々の輝きが徐々に大きくなっていく……。

「愛より重いものは光より軽い。たぶん、そういうことなんだろう」

 光が……周囲を包んでいく……!

 しかし眩しくはない、そして世界は色彩を取り戻していく……。

 俺の幻影はもういない……。いったい何だったんだ……?

 というか、デヌメクの幻影が消えていないじゃねーかっ?

「……お前も、俺の頭から出てきた幻影、なのか……?」

 デヌメクは僅かに口元を上げ、

「幻影か、言い得て妙だが、君が求める答えとしては否だ。私は自分の意思で君に対し話し掛けている。そう、これは言うなれば電話なんだよ」

 電話、電話だと……?

「ただ、使いようによっては自他の潜在意識と語り合うことも出来る。先ほどの君のようにね」

「……そういえば、他者の記憶なんかを覗くことができるとか……?」

「ああ、可能だ。アイテールは我々の体内を駆け巡っているからね、結晶と感応するのも必然なんだよ」

「じゃあ……妄想が具現化することは……?」

「もちろん、あり得る」

 そうか、ではやはりさっきのエジーネは……。

 しかし、本当にそうなのか……? いやいや、考えるな、考えてはならない……。もしあれが本物ならば……。

「……それで、何の用だ?」

「それは持ち帰ってはならない。希少品だからね。本来、ニーマナティアが守っていたはずだが、久方ぶりに人間を目にし、はしゃいでいるようだ」

 ニー……マナティア? あのドラゴンのことか……?

「だ、だが、これがないとカタヴァンクラーの……」

「それは私の知ったことではない」

 くっ……!

「……だめだ、持ち帰らなければ……!」

「どのみち不可能だよ」デヌメクはニッと笑う「置いて帰るか、痛い目に遭って置いて帰るか、あるいは死ぬかだ。どれを選んでも構わないが、君ならば二番目を望んでいるのかな。失敗には理由が必要なものだからね」

 こいつは……説得できない、な。俺は光線銃を構える……!

「了解した。だが今の私を撃ったところで意味はない。少々、待ち賜え、今そちらに向かうからね。それまで彼らと遊んでいるといい」

 クリスタルがあった部屋から……外で見かけたエセ案内人の巨人が出てきた……って阿呆抜かせ、誰がわざわざ戦うかよ!

「おいおい、ここで戦ったらクリスタルが割れちゃうぞ!」

「それは心配しなくていい」

 だめか……。しかし、そもそも相手がデヌメクだ、無事にここを出たとてクリスタルを守り切れるか……?

 いや、無理だ、ほとんど不可能だろう……! 今、この男と敵対してはならない……!

 どうする、戦ってもだめ、逃げてもだめ、八方塞がりとはこのことか……! だが、おめおめ帰っても奴らが人質に何をするか……って、待てよ、奴らと人質、か……。

「ま、待て……! 俺は個人的にこいつをどうにかしたいわけじゃない。単に、カタヴァンクラーの身内を助けて奴らの目論見を潰したいだけなんだ」

「なるほど」

「あんたほどの力があるのなら誰からでも奪えるだろう? ここに戻すのは奴らに渡した後、人質が解放されてからにしてくれないか……?」

「だめだ。ここより持ち出してはならない」

 ぐっ……! ちょっとぐらい、いいじゃないかよ……!

「ブラッドワーカーが発生した元凶はあんただって聞いたぜ……! 少しは譲歩してくれてもいいじゃないか……!」

「この件に関してはだめだ。すぐに戻すんだ」

 くっ、やはりだめか……! ならば……!

「……分かった、こいつは戻す。その代わり、俺たちを助けてくれないか……?」

 デヌメクは小さく首を傾げる。

「俺たちの目的は人質を助けることなんだ。あんたが人質救出に手を貸してくれるなら、こいつを今すぐ戻そう」

「なるほど」デヌメクは俯く「その条件ならばのんでもいい」

「本当か!」

 だったら何も問題はないっ! 俺は速やかにクリスタルをエセ案内人に渡す。するとそれは元の場所に戻され、案内人もそのまま姿を消した。

「よし、じゃあ、さっさと助けたいんだけれど、仲間があのドラゴンに追われているんだ、まずは止めさせてくれないか?」

「それはできない。なぜなら、彼女は久しぶりに楽しんでいるからだ」

 ぬう、変に融通が利かないなぁこいつ……! というか彼女! 名前からしてそうかもとは思ったが、やはりあのドラゴンは雌なのか……。

「あのドラゴンは……殺そうとはしていないんだよな?」

「そこまでは分からない。ただ、施設の破壊行為に及んだ者は確実に排除されるだろうね」

「ここを守っているのか?」

「思い出を守っているのさ」

 思い出を……。

「さて、そろそろ私もそちらに向かうとしよう」

 ふと、デヌメクの姿が消えた……。そういや幻影だったもんな。

 さて、みんなと合流しないと……。本当に襲われてなければいいが……。

 そうして通路を戻り、階段を上っていくと……何やら微かに気配がするな……。少なくとも視認はできないが……例の透明カマキリのこともあるし、ここは慎重にいこう……。

 えっと、この施設に傷を付けるとやばいんだよな、ということは光線なら大丈夫か……?

 俺は怪しそうなところに向けて、小刻みに光線銃を撃ってみる……。光が結晶の壁を輝かせていくが……何もいないようだ、と思った矢先に何か見えたっ……? それこそカマキリみたいな細い奴がっ……!

 俺は門を開くっ! そして死ぬほど凝視する! すると見えたような気がするぞ、細長い奴が壁沿いにいる……! あれが透明カマキリ、スィンマンなのか……?

 ちっ、こんなところまで追ってきやがって! 俺はカマキリを狙い、光線銃の引き金を引く! すると奴の体が輝く、虹色になる、でかい両手の鎌、上に尖っている頭部、スリムな体、異形だが確かにカマキリ、しかしなぜ色が付くっ?

 そして奴は動き出した! 光線が効いていないのか? さらに羽の部分が開き、両手の鎌が光り輝き始める……!

 あっ、こいつはやばい! 容易に視認できるようにはなったが、明らかに戦闘力が上がっている気がするぞっ!

 ど、どうするっ? シューターか? しかし、外して壁に傷を付けたらドラゴンにやられるかもしれない、それに当たってもあの細身だ、そのまま背後に突き刺さる可能性が高い、ということは……超振動ナイフ、こいつしかない……?

 まじかよ、やれるのか? 相手は両手にでかい刃物を持つカマキリだぞ……! 接近戦を挑むのは自殺行為ではないか……?

 くそ、スティンガーを置いてきたのは失敗だったぜ……! 虹色カマキリはじりじりとこちらにやってくる……!

 この階段は回り込む広さがない、しかし真っ向からはやばい、奴の鎌は防御スーツを斬れないようだったが、今は妙に光っているし、あるいはってこともある。少なくとも試してみる度胸はない……。

 うおお、どうするんだよこれ、あと使えそうなものは……?

 ファンタズマ、クリスタルか……? そうだ、あれを使えば……!

 俺は踵を返し、ファンタズマクリスタルを幾つか手にする。そして奴が廊下にまでやってきた所で……!

「見えない球を喰らいなっ!」

 投げる、投げる、相手は細身の上、透明な球でとても当て辛いが、ともかくこれしかない! そして五球目で鈍い音がっ! 命中したかっ? カマキリは頭と鎌を小刻みに動かし、どうやら混乱しているようだなぁっ! ふっふっふ、俺自身どこを飛んでいるのかよく分からないんだ、お前に分かる訳もないっ!

 俺は畳み掛けるようにクリスタルを投げ続け……! ついにカマキリは後退し始める……!

「おおどうした、見えない攻撃を喰らうのは嫌か? お前がいつもやっている……」

 と言ったところで、いつの間にやら、デヌメクがいることに気が付く……。

「……何をしているんだ?」

「いっ……いや、その、見えない攻撃をね……?」

 あっ……これ、怒ってる? さしもののデヌメクさんもこれには怒っちゃうみたいな感じ……?

「い、いや、だって、カマキリ来たし、光線効かないし、このクリスタルは割れないみたいなこと言うから……。刃を飛ばして施設を傷付けるよりいいかなって……」

 カマキリはすごすご帰っていく……。俺も何だか居心地が悪いので、カマキリに次いで出て行こうとすると、

「どこへ行くんだい?」デヌメクの声が追ってくる「さあ、元の場所に戻すんだ」

 ああ……そうだよね……。

 でも、目に見えないんだよなぁ……。

「早くし賜え」

 ……俺は冷ややかな視線を浴びつつ、いそいそと戻し始める……。

 し、仕方ないじゃないか、他にいい案なかったんだから……! えっと幾つくらい投げたっけ……?

「右端にまだある」

「どこに?」

「右端だよ、そこから五歩程度先だ」

 いち、にい、さん、しの……?

「……どこ?」

「一歩だけ左だ」

 あ、なんか足に当たった……。

 ということは向こうに転がっていっちゃったわけね……。

「もうやだ、なんだよこれぇ!」

「君がやったんだろう」

「あの案内人みたいなのにやらせればいいじゃないか」

「君が転がしたのだろう」

 はいはい、俺のせいですよっと……。

 それから二十分ほど探し回った後、案内人の巨人が現れ、見えない何かを回収し始める……。最初からそうしろよ!

「よし、では上に向かおう」

 デヌメクは抗議の視線を無視して階段へ、そして上り切った先でふと立ち止まった。

「ここで待っていよう。ニーマナティアが戻って来る」

 すると、ワルドとアリャ、そしてディーヴォがドラゴンに続いてやってきた……。よかった、戦闘にはなっていなかったようだな。

「レクッ! ニェエー!」

 あいたっ! アリャの痛烈な体当たりだっ!

「レク! ハグレル! ヤバイ!」

「あいたた、ごめんごめん、ちょっと転んでさ……」

「竜にやられたかと思い、ヒヤリとしたぞ」ワルドだ「それにしても、なぜおぬしが……?」

「彼に頼まれてね。クリスタルは渡せないが、人質の居場所を伝えよう」

「むう? どこにいるのか分かるのかね?」

「冒険者の宿だ」

 冒険者の、宿ぉ……?

「まっ、まじかよ!」

「その地下だね」

 ああ……! ブラッドワーカーと繋がりがあるとされるケリオスはあそこの職員だった! つまりは宿にも奴らの息が掛かっているんだ……!

「よし、居場所が分かればこっちのもんだ! スカイギャロップ……だっけ? あれで助けにいこう!」

「それはいいが」ディーヴォだ「他の奴らはどこへ行った?」

「ああ……」

「二名は地上で遊んでいるようだね」

「地上ぉ……?」

 二名ってことはあいつらだよな、何をやっているんだ……?

「あれ、クレイヴは?」

「彼は最深部を目指している」

「最深部、さっき俺が行ったところ?」

「いいや、もっと深くだね」

「……いいのか?」

 デヌメクはニッと笑う……。

「場所は教えた。早急に向かってはどうかな」

「ま、待て、クレイヴをどうするつもりだ?」

「君と同じだよ。手ぶらで引き返せば無事に帰れる。とはいえ、最深部への道を知っているとなると、そのつもりはないようだね」

「知っている、だって……? ここの構造を?」

「ああ」

 手探りではなかった……?

「……どうするみんな、クレイヴを止めに行くかい?」

「むう、彼がどれほどの実力者かは分からぬが、単独行動は危険であろう。ゆえに合流すべきだ……と言いたいところではあるが……」

「君たちにとっては時間の無駄だね。彼のことは任せ賜え」

「いや、でも……」

「行こう」ディーヴォだ「奴はここの構造を知っていることを我々に伝えなかった。これは案じてやるに値する態度か?」

 いや、まあ、うーん……。

「うむ……。単独にて深奥を目指すとなれば相応の意図があるとも解釈できる。あるいは我々が行ったところで悶着になるやもしれん。それに人質の安否も気になる、優先すべきは彼らであろう」

 まあ、確かに、そうだなぁ……。全部誤解で、たまたま最下層に……ってことも考えられるが、いささか楽観的に過ぎるか……。

「……分かった、じゃあ、穏便に済ませてくれよ」

「それは彼次第だね。それと」

「……何だ?」

「君はダンピュールに似ているな」

 ダ、ダンピュール? それって確か……。

「彼も昔、クリスタルを投げて遊んでいたよ」

「ええ……? いや、俺は理由があってだね……」

「なぬ? 投げたのかね?」

「いや、だから、理由があって……」

 ディーヴォは俺を見やり、

「……正気か?」

「いや! だからやむを得ない事情がね……!」

 俺は言い訳をしながら地上へ……。すると金属音が聞こえてくる、まだ喧嘩でもしているのか……?

「ムゥー? アイツラ、カメ、イジメテル!」

 なにぃ? 見るとあれは先ほど甲羅に引っ込んだモゥトータスか、それに向けて二人が攻撃している……!

「おいおいっ! 何をしている!」

「えあ?」

 スクラトは振り返り、

「いやよ、こいつとんでもなく硬いからよ」

「戦意のない相手に何やってんだ!」

「そうではない」シューだ「純粋に訓練をしているのだ」

「訓練って、どこがぁ?」

「見ろ、当初こそ傷が付かなかったものの、いまならば多少は減り込むまでになった。この剣でここまでやるのは……」

「いや、そんなの大差ないじゃないか……」

 スクラトとシューは顔を見合わせ、分かってないなこいつ……って感じで俺をあざ笑う……! こんなときだけ同調してんじゃねぇよ!

「ああもう、いいから行こう!」

「おっ、見付けたのか?」

「いや、直接に人質を奪還する」

「なんだそりゃあ?」

 俺は話の流れを二人に説明する。

「ほう、そちらの方が面白いな」

「ああ、ここには大していねぇーんだもんなぁ」

 ドラゴンがいるが……ここは伏せておこう……。

「それで」シューだ「すぐに向かうのか?」

「ああ……しかし、あんたは向こうじゃ敵視されるんじゃないか?」

「問題はない」シューの兜が閉じて顔が隠れた!「こうしておけばよかろう」

「なるほど、それなら大丈夫だな。では宿に向かい、地下へと侵入する。ただし殺しはだめだ、あるいは事情を知らない者が知らずに巻き込まれている可能性があるからな。どう考えてもブラッドワーカーの一員だと確信できない場合は、なるべく怪我をさせずに制圧してくれ」

「確約はできんな」

「だなぁ」

 シューは肩を竦め、スクラトは頷く。

 ぬう、ほんっとこういう時だけ同調しやがって……。

「で、地下へはどこから行ける? あれだけの施設だ、屋内からしか出入りできないなんてことはないだろう。合理性を考えれば馬小屋付近が怪しいが……」

「ああ、そこに入り口があるとか聞いたなぁ」

「本当か?」

「たぶん」

 ああもう、実際に調べてみるしかないか……!

 そして俺たちはスカイギャロップに戻り、ソマ・ウーウに事情を説明する。

「なるほど……。しかし、あの男を信用していいものか……?」

「嘘を吐く必要がないし、嘘を楽しむ気質とも思えない。大丈夫さ、さっさと行こう」

 そして俺たちはスカイギャロップに乗って冒険者の宿へ向かう。まさかこんな形で戻ることになるとはな……。

 しかし、これまで困難な道のりもこの乗り物にとっては大した行程ではない。ものの三十分ほどで戻ってきてしまった。乗り物は橋からやや遠くに着陸する。

「あまり境界線に近付くと奴らが飛んでくるからな、少し距離があるが、ここからは歩いて戻ってくれ」

「奴ら?」

「アテマタだ。奴らは基本的に遺物が境界線を出入りすることを嫌う。ある程度ならば見逃されるが、重要なものや影響力が大きいものは実力行使の対象となる」

「なに? じゃあ、遺物を手に入れてもここから出られないってことじゃないか……?」

「そうだな」

 そうだな……? どういうことだ、では俺たち冒険者はいったい何のために……。

「じゃあ、こいつもやばいのか?」

 俺は光線銃を取り出す。

「……ぎりぎり、いや、分からないな。預かろうか?」

「……まじかよ?」

「確証がないから怖いんだ」

「超振動ナイフとスーツは? それにワルドのメイスも」

「断言はできないが……その程度ならば問題ないと思われる」

 くっ……! シューターを持ってきてよかったぜ……!

「それと、我らが主のご家族だ、無茶はするなよ」

「ああ……!」

 そうして俺たちは森を進み、崖の上に続く橋を渡る……。さほど日数は経っていないはずだが……異様に懐かしく思えるな……。

 そしてこれまた懐かしい城塞のような壁を通り、冒険者の宿に戻った……。

「……戻ってきたなぁ」

「まさか、このような形で戻ってくるとはな」ワルドだ「しかし、今回は敵地に等しい。気は抜けんぞ」

「ああ……!」

「レク、ヤバイ、ハナレル、ダメ!」

「わ、分かったよ……」

 壁沿いの石造りの建物より長い木造の馬屋が伸びている。地下への入り口があるとするなら石造りの方だろうな。

「さあて、どうする?」

「むう、ここでうろうろしていては目立つ。まずは中へ入ろう」

 そして俺たちはラウンジへ……。そこは相も変わらずおもちゃ箱、明確に違うところといえば、アズラやケリオスがいないところだ。もちろんあの魔女もいないだろう。

 俺たちは取り敢えずテーブルに腰掛け、作戦を考えることにする。

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