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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
51/149

瞳の色は哀情

世の中というものは、ありとあらゆる不条理でできているわん。

気がついたらひとり、季節はすぐに冬、ひとかけらのパンを買う金もない子供が生き延びるにはあまりに過酷な状況だったわん。

そんなとき、手を差し伸べられたことは幸運だったわん。例え使い捨ての道具だろうと、無力なまま、ひとりで死ぬよりましだから、わん。

そして運命が巡り、私は力を手に入れたわん。これで脅かされることはなくなったけど、今度はひとりで生きるかなしさを背負うことになったわん。

悲しい、哀しい、愛しい……。人はかなしさでできている、わん。


                  ◇


 揺れは断続的に起こる、いったい何が……? いや、それよりあの首なし死体は……。

「いったい何を……?」

 カタヴァンクラーは血を拭い、

「賊だ。部下に化けていた」

 ということは、ここまで入り込んでいるのか……! カタヴァンクラーはカウンターの裏へ回り、酒瓶をひとつ手に、グラスに注ぐ……。なんだか見た目も相まってバーテンダーみたいだな……。

「君もやるかね?」

「い、いえ……。しかし、毒が入っているかもしれないのでは……?」

 カタヴァンクラーの白い口髭は笑み、小麦色の液体を一気に飲み干す……。

「昔、何度も盛られてな……。今では耐性が出来てしまったよ」

 何度も……。どんな人生を送ってきたんだ、この男は……。

「……あの、賊が入り込んでいるんですよね?」

「ああ」

「地下に牢獄があると聞いたのですが……大丈夫なんですか?」

「問題はない。今は最強の護衛がいるからな」

 最強の……。そういやガジュ・オーが警護しているとかいう話があったな。

「そもそも、なぜ奴らはあなたを狙っているのですか?」

「話せば長いゆえ、現状の要点のみ説明しよう」

 カタヴァンクラーはもう一杯、飲み干す。

「……目下の狙いはソラス・ジェライールの解放だろう。奴はブラッドワーカーの頭領だからな」

「頭領……! 地下に監禁されているんですか?」

「ああ。重大な情報を握っているので、まだ殺せん」

「重大な……」

「例えば、元老院の中枢がどこにあるか、など」

「元老院……!」

「ヴァッジスカルの態度からして察することは容易だろう。奴は元老院の暗部そのものだからな」

「ヴァッジスカル……?」

「ああ、今はルーザーウィナーなどと名乗っていたか。奴の名はルドリック・ヴァッジスカル。ソラスが頭領なら、奴はブラッドワーカーの権化と言えよう」

 あの男がブラッドワーカーそのもの、なのか……。

「つまり、聖騎士団と繋がっていると……?」

「そうとは言えんのが面倒なところでな、元老院とて一枚岩ではない。現にここへ来た面子は幾ばくか、まともなのが多いしな」

「まとも……」

「特にアズラ・オマーは高潔な男だ。そして恐ろしく強いゆえ、今度の任務に裏があるならばかえって障害となるだろう。今回は本当にロード・シンの復活を止めに派遣されて来たらしい」

 ということは、あるいは俺たちの助けとなってくれるかも……などと考えていたそのとき、肩を叩かれる。振り返るとワルドだ。

「レク、ゆこう。エリたちが心配だ」

「ああ……そうだな。というか、体は大丈夫かい?」

「うむ、毒を盛られた感じはない」

「そうか、よかった」

 デ・キューが調理をしていたんだし、その辺は問題ないだろうな。あいつは凄腕の料理人だし、仮に化けてもその腕前まで真似し切るのは至難なはずだ。それに調理をすれば味見もするのが普通、毒が入っていたらそのとき判明しただろう。といっても、まだ使われていない食材が汚染されていないとも限らないし、安心など出来ないが……。

 いや、そういう意味では俺たちも疑惑の対象なのでは……? 俺はカタヴァンクラーを見やり、

「そういえば、なぜ俺たちのことを詮索しないんですか?」

「すでに観察させてもらったからだ」

「そう……ですか」

「君は我々のことを?」

「ええ、幾ばくかは」

「この地にはあまりに強大な力が多過ぎる。何もかも自由という訳にはいかんのだよ」

「おっしゃりたいことは、分かりますが……」

「いいや、ことはもっと実際的なのだ。重要なのはな、アテマタの心証をこれ以上悪化させないことだ」

「アテマタの……?」

「彼らは古代人より生み出されし第二の人類とも呼べる存在、ゆえに古代人の末裔である我々を愛している。だがな、愛すればこそ放埓を許さないもの、あまりにわがままが過ぎれば……そのうち手厳しい躾が待っていることだろう」

「し、躾……とは?」

「彼らが管理する世界となる」

 管理だって……?

「彼らにそれだけの力が?」

「シン・ガードはアテマタの聖戦士だぞ、力では敵わん」

 シン・ガードが聖戦士……。

「ところで」おっとフェリクスだ「なんでここの執事さんは仮面を被っているの?」

「私には敵が多くてな。部下も素姓を隠しておかねばいろいろと不都合が起こるのだよ。もっとも、個人的な問題で隠したがっている者もいるがね」

 なるほど、な……。

 アテマタの心証……そして聖戦士……。

 俺たちは彼らに許されて、この世界を与えられてるってことなのか……?

 ということは、ロード・シンに手を出そうものなら……カタヴァンクラーの懸念が現実のものとなる……?

「レク、話は後にしよう」ワルドだ「まずは仲間の安否確認だ」

「あ、ああ、そうだよな」

 そして俺は昇降機に乗る……。

 アテマタ、シン・ガード、聖戦士……。

「もー、どうしたのレック?」

 ……おっと、ジューも一緒だったか。

「いや……ただの考え事さ」

「懸念はあるよね、偽者が紛れ込んでるんだし」

「ああ……そうだな」

 そうだ、今は目の前の問題に対処しないとな。

「……そう、そうだワルド、化けるってのは……変身魔術なのかな?」

「ううむ、幻惑し、誤認させることは可能であろうが、姿そのものを自在に変えるとなると……非常に高度な魔術だ、使い手がそうそういるとも思えんな……」

「同感だね」ジューだ「魔術というより遺物の力と考えるのが妥当かな」

「遺物にそんなものが?」

「うん。光を屈折させて他者の姿を投影するものや、声音を変えるものだってあるよ。ものによるけど、初見だったり短時間ならかなりの確率で騙せると思うな。人は意外とものをよく見ていないものだし」

「そいつは厄介だな……」

「まあ、それを見破る装備とかもあるんだけどね、今日は持ってきてないんだ」

「そうか……」

 昇降機は上階へ、俺たちは各々、仲間の元へ向かう。

「じゃあ、気を付けてね、レック」

「ああ、君もな」

「偽者を見つけたら、頭カチ割っちゃおうっと!」

 本当、何でそんなにウキウキなんだ……。

 そして俺たちはエリたちの部屋の前に立ち、ドアをノックする……。

 しかし、待っても返事がない、な……。

「いないのか……? いや、寝たのかも?」

「むう、もう少し呼んでみよう」

 幾度かドアを叩くが、やはり反応がない。ここまでうるさくすればさすがに起きるだろうし、いないんだろうな。

「どこへ行ったんだろう? 飯ならあのバーみたいなところだろうし、風呂にしたってあの辺りを通るはずだ」

「ううむ……」

 俺たちの部屋にいるのかもと向かうが、やはりいない……。うーん、ちょっと嫌な予感がしてきたな……武器を持っていこう。今は体力がないので複数は持ち歩けないから……遺物の銃だけにしておくか……。

「さあて……探すよな?」

「うむ、エリが本調子ではない以上、あまりうろうろするとは思えん。相応の事態を懸念すべきであろうな」

 まあ、花を摘みにとか、あるいはホーさんとかに会いに行ったなどとも考えられるが……。

 俺たちは彼女らを探して廊下を行く、するとアテナの姿が……。何やら、きょろきょろと辺りを見回している……。

「おっ、よお……」

 振り返った彼女は、なぜか俺たちをじろじろと観察する……。

「な、なんだ……?」

「本物だ、わんね!」

 本物……? やはり偽者がうろついているのか?

「……偽者がいるのか?」

「いる! あと、そっちの黒煙の方も模倣の難易度から本物だと推測するわん。でも、お前は知らんわん!」アテナはフェリクスを指差す!「だからそこから動くなわん! 下手な真似するとぶっ殺すわん!」

「ぶ、ぶっ殺すって、いきなりなんだよ!」

「偽者は見付け次第ぶっ殺せって話になってるわん!」

 フェリクスは両手を上げ「ぼ、僕は本物だよー!」

「そうだぜ、こいつは大丈夫だよ、ずっと一緒だったし!」

「じゃあ証明しろわん。本人と特定できる質問をするわん」

 質問ねぇ……。

「えっと、そうだなぁ……。じゃあ、ハイランサーの由来は?」

「それはもちろん、僕の先祖に騎馬隊の……」

「待つわん! お前、ハイランサーと言うのかわん?」

「そ、そうだよー……」

「ハイランサー、どこかで聞いたわん……」

「それは皇帝さんとお話をしたからじゃないかなー……」

「というか、黒エリをあの姿にした際に、こいつも一緒にいたんだから知っていて当然だろう」

「んん? そうだったかわん?」

 アテナは首を傾げる……。

「……で、質問の答えは正しいのかわん?」

「あ、ああ……」

「じゃあ、信じてやるわん。ちなみにエリゼの様子はどうだわん?」

「それを確認しようと今、探しているんだよ」

「なに! 私の代わりに安否を確かめるのがお前の役割だわん! 目を離すなわん!」

 いや、そんな役割を担った覚えはないぞ……!

「じゃあ、探しにいくわん!」

 アテナはどんどん先に行く……。というか、こいつこそ偽者……な訳もないか、態度からして……。気配に違和感もないしな。

「むう、彼女は信用できるのか……?」

「黒エリに関することなら頼りになるさ……。そしてその仲間である俺たちにもそうそう手は出さないだろう……」

「むう、彼女らは敵対しているのではないのか……?」

「少なくとも、アテナにその意思はないみたいだが……」

「むうう……」

 そうは言ったものの、ワルドの懸念も分かる……。愛憎は表裏一体、今後どうなるか分かったものではないからな……と、そこで先の話を思い出す。

「そうだアテナ、ソラス・ジェライールって知っているかい?」

「ソラ……? 知らんわん。調べてみるわん?」

 アテナは懐から眼鏡のようなものを取り出し、掛けた。

「ちこちこっ……とわん、ソラス・ジェライール……。えっと、ブラッドワーカーのリーダーみたいだわんね。人心掌握の術に長けており、精神操作の魔術が得意みたいだわん。それで……おっ、相対評価がすっごい低いわん! はああ、なるほど……」

「なんだ?」

「こいつ、ぶっ殺す価値あるわん!」

「ええ? なぜそんなことが分かるんだ?」

「関係性からの推測だわん! 弱いし、捻り潰すと私の得になるっぽいわん!」

「へ、へえ……? で、弱いんだ、そいつ?」

「客観的に見て弱くはないわん。私にとってはカモというだけだわんね」

 ということは、そいつが得意な精神操作の魔術とやらはアテナに通じないみたいな話なのかな……?

「対し、お前の相対評価は異常に高いわんね……。どうにも、お前と敵対した場合、猛烈な損害を被る可能性が非常に高いらしいわん。お前、かなりエリゼに気に入られているわんね……!」

「そ……そう、かなぁ……?」

 むしろ風当たりが強いし、痛い目にしか遭ってない気がするが……。

「それより、ジェライールを倒しに行くのか……?」

「うーん、わざわざ行きはしないわんね。どうでもいい存在だし、もののついでに倒せる機会があればってとこだわん……というか、ここの地下に幽閉されてるらしいけど、たしか、ギマのボスが地下牢を警護してるらしいわんね? だったらさすがに危険だわん」

「ああ、ガジュ・オーはやはり強いんだな」

「ちょっと尋常じゃない戦闘力と推察するわんね、そんなのを相手にしてまで狩る獲物じゃないわん」

 なるほど……。

「まあ、今はどうでもいいわん、エリゼを……」

 そのとき、上階より物音、振動が……!

「さっきから、この振動はなんなんだ……?」

「なんか巨人が魔物と戯れているみたいだわん」

「巨人が……?」

「あれはブラッドワーカー関係じゃないわんね。どうにも、周囲の者を捕まえてるみたいだわん」

「ワルド、もしや、あの魔女の仕業かな……?」

「あるいは……そうかもしれぬな」

 何か送り込むようなことを言っていたしなぁ……と、そのとき、エリの鳥が飛んできたっ……? なんだ一羽だけ? 鳥は俺の方へ、そして方向転換をする……!

「あれ? これはあの女の鳥じゃないかわん?」

 この動き、まるで俺たちを呼んでいるような……。

 こいつは……何かあったな!

「行こうっ!」

「うむっ!」

 俺たちは鳥を追いかけていく! 鳥は階下へ、一階へ、そしてさらに地下へ……!

「うっ!」

 階段の踊り場で執事が二人、死んでいるっ!

 くっ、間違いなく何かあったな! しかし、エリの鳥が飛んでいるんだ、まだ無事なはず……!

「急ぐぞっ!」

 俺たちはさらに階段を降りていく! そして着いた先は導管が伸び、大小の機械が並ぶ……寒々とした地下通路……! 鳥は先へと進んで行く……!

 しかし、感じるぞ、何だこの……強大な気配はっ……! 黒エリのものに思えるが、しかし……!

「おおお、凄まじい力を感じるわん! もしや、受け入れたのかわんっ?」

 受け入れた、力を解放でもしたのか? 地下は入り組んでいるが、鳥に付いていけば……! そして複数の気配、声が聞こえてくる……!

「……どうするのだ、話が違うぞ!」

「で、ですが、まさかこれほどとは……!」

 あの金属のドア、その向こうか! アテナがものすごい速さで先んじるっ!

「ぶっ潰れるわん!」

 アテナがドアを蹴り抜くっ……! そして部屋に入ると溢れんばかりの大量の鳥がっ……! あまりに多くて前が見えないっ!

「おいっ! 無事かっ?」

 そのとき、鳥たちが退け、目の前に道が出来る! その先にはエリ……!

「エリッ!」

 呼んだ直後、エリがふらりと倒れ掛かり……俺は慌てて抱きかかえる……!

「おいっ! 大丈夫かっ!」

 が、外傷はないようだが……! しかし、蒐集者の魔術を食らった直後に俺の治療をし、そしてこれだけの鳥を出したんだ……! かなり消耗しているのは違いない……!

「す、すみません……」

 エリはがくりと項垂れ……鳥たちが一斉に戻ってくる……!

 こ、これは不味いのかっ? いや、息はしている、気絶しただけか、ともかくここを離れなくては……!

 そうだ、黒エリは? 少し離れた場所で立っている……。

「おいっ、無事か黒エリッ!」

 ちらりとこちらを見るが、それ以上の反応はない、そして周囲にはブラッドワーカーたち! 紫の鎧の男、ゼラテアとかいう女、そしてアテナが蹴ったドアの裏より、ツギハギ男が現れる……! しかし痛手を被ったようだな、紫色の……血なのか? それがツギハギから滴り落ちている……。

「邪魔な鳥は消えた、やるか?」

「ええ、始末しましょう。五十二号、時間を稼いで」

 ゼラテアが呪文を唱え始める、ツギハギ男が何だか妙な武器を取り出す……! 機械にノコギリが付いたもの……って、爆音を出しつつ、ノコギリが回転し始めたっ?

「グッググ、ブブブ、ブッココロロロ……!」

 なんだあの武器は、あんなのに斬られたら……って、黒エリがゆっくりとした歩調で奴に近づいていく……!

「おい黒エリッ! 今は……」

 いや、何だ? 様子がおかしい……! 黒エリはツギハギ男の前に立ち、ゆっくりと拳を振り上げる……!

「ブブブッコロロー!」

「黒エリッ!」

「させんよ!」

 ワルドが構える、しかし紫の男が氷のつぶてを放った!

「ぬるい!」

 光の壁で防御、と同時にツギハギ男に光線を浴びせる!

「ウギュアアッ!」

 ツギハギ男は光に焼かれ、悶絶し転倒……!

「黒エリッ! いったん退くぞっ!」

 やはり反応しない、倒れたツギハギ男に向かって歩いていく……!

「アテナッ! 黒エリを頼む!」

「わかったわーん!」アテナが黒エリに抱きつき「ほら、戻るって……」

 轟音っ、床が揺れ、ひびが入ったっ! 見るとアテナが床にめり込んでいるっ……! さらに黒エリは追撃の姿勢、拳を振りかぶったっ……!

「やばいっ! アテナッ!」

 そのとき横から火炎の余波がっ! ワルドの攻撃だっ!

「ちっ……! ゼラテア、まだか!」

 そうだ、ゼラテアが呪文を……ってフェリクスが斬り掛かり、邪魔をしている、そしてアテナはっ?

 見ると無事だ、黒エリの腕にしがみ付いている!

「この程度じゃ倒せないわーん!」

 黒エリは剥がそうと腕を振り回す……!

 しかし表情はない、どういうことなんだっ……?

「力任せじゃ剥がせないわーん!」

 あっ、いつの間にやらツギハギ男が立ち上がっているっ! そして回転ノコギリを振りかぶるっ!

「黒エリッ! 後ろだっ!」

 黒エリは回転ノコギリをアテナで防ぎ……! 火花が飛び散る!

「くそっ!」

 エリを横に寝かせ、遺物を構え、撃つっ! 奴の腕に当たった!

「ウギョェアッ!」

 奴は回転ノコギリを落とすっ……!

「おいアテナッ、無事かっ?」

「斬るなら超振動ナイフでも持ってこいわーん!」

 あ、あれを受けて無事なのか……。確かに、ダメージを受けたのは回転ノコギリの方らしい、刃がかなり磨耗している……! そして黒エリはまたもアテナを振り回す……!

「おい黒エリッ! 正気に戻れっ!」

「いやっほう、だわん!」

 アテナは何だか……楽しそうだが、今はそうしてる場合じゃないだろうっ? ツギハギ男が立ち上がろうとしている!

 黒エリはアテナに任せて奴は俺がやる……と構えたとき、アテナが黒エリから離れたっ? そしてツギハギ男の眼前にっ!

「お前っ! 邪魔だわんっ!」

 刹那にて、ツギハギ男が……て、天井に消えた……?

 そしてそこから……紫色の液体が滴り落ちる……。

「くっ、くそっ! 五十二号が、ええい邪魔だっ!」

 ゼラテアが手を突き出し、フェリクスが吹っ飛ぶ!

「フェリクスッ!」

 床に転がるが、すぐに起き上がろうとしている!

「劣勢です、撤退しましょう!」

「先に行っていろっ!」

 ゼラテアは踵を返し、近くのドアに向けて駆けるっ! 逃すかっ!

「させるかよ!」

「こっちの台詞っ!」

 ゼラテアの両手にそれぞれ光の盾が! だが、全身を覆ってはいない、それで速射モードを防ぎ切れるかっ! モード変更、光線を連射するっ!

「ああっ!」

 ゼラテアは倒れる、四肢にいくらか当たったようだな! よし、すぐには動けなくなったはず、次は紫の鎧の男だ! 奴はワルドの火炎を氷の盾で防御している!

「おい! こっちにもいるんだぜ!」

 鎧の男はこっちを見る! その隙にワルドの火炎が氷の盾を貫いたっ!

「うおおっ?」

 奴は炎に包まれ、床に転がる!

 よし! ここで決め切れるかっ?

「使えないねぇ、どいつもこいつも」

 うっ! ゼラテアの側、ドアの向こうにルドリックの野郎がっ!

「お前っ!」

 奴に向けて連射するっ!

「おおっと!」

 しかし、光線は宙を貫く、いち早く物陰に隠れやがったか!

「危ない危ない!」

 だが強力な狙撃モードで壁ごと貫いてやる……って、なんだ? 辺りが軋み始めた……!

「ほらほら、あんたらも逃げないと腐れ崩れて埋まっちゃうよぉ!」

 軋みが大きくなっていき、壁には亀裂が……と目を離した一瞬の隙にゼラテアの姿が消えている! くそっ、何だこの魔術は……!

 モード変更! 壁ごと撃ち抜くが手応えはない……! すぐに追いかけたいところだが……待て、今はエリを安全な場所に運ぶことが先決だ……!

「部屋が崩れるぞっ! 退かないと不味いっ!」

「むうっ! やむを得んか……!」

 そのとき、鎧の男が氷の壁を張り巡らした! そして踵を返し、逃走していく……!

「くそっ! フェリクス、動けるかっ?」

「あ、ああ、大丈夫だよ……!」

「アテナッ……!」

 あの二人、まだやっているな……!

「おいっ! 部屋が崩れる、急いでくれっ!」

「わかったわん!」

 直後、何かが俺の横を飛んで……そして轟音、壁には大穴……! 吹っ飛んだのは黒エリかっ?

「おっ、おいっ?」

「多少、荒っぽくなるのは仕方ないわん! 巻き込まれないように注意するわん!」

 まじかよ、アテナは穴に飛び込んでいく……!

「私が抑えている間にさっさと行くわーん!」

 轟音は隣の部屋から廊下の方へ! おいおい、そっちは帰り道だぞ、あの近くを行かないとならないのか……!

「や、やばいが行こう、このままじゃ埋まる!」

「彼女はどうしてしまったのだっ?」

「分からないっ! アテナに任せるしかない!」

 俺たちは来た道を戻っていく、廊下では二人が交戦している、大小の瓦礫が飛び散っているっ……! これじゃあ危なくて進めないぞ!

「ちょっと待つわん、いま抑え込むわん!」

 黒エリ、ゆっくり歩いたと思ったら、殴り終わった形に、またゆっくりと……緩急が激し過ぎて移動の拍子がまるで見えん! あんな動きが出来るのか……! 対するアテナはその場に留まって黒エリの攻撃を紙一重で躱していた……が、これまた目にも留まらぬ動きで黒エリに組み付いたっ!

「今だわん! さっさと行くわんっ!」

 俺たちは駆け出すっ!

「済まんっ!」

「いいから行けっ!」

 俺たちは廊下を走り、階段まで辿り着く、そして一階へ……!

「ああくそ、みんな無事だよなっ?」

「うむ!」

「なんとかねー……!」

 エリも無事だ、しかし……階下より轟音が幾度も鳴り響く……。まだ終わらないのか……!

「本当、シスはどうしちゃったんだろう……?」

「魔術で洗脳……はないか、敵を狙っていたしな……」

「むう……」

 そのとき、一際に大きな轟音が……!

 そして、地下は静まり返る……。

 お、終わったのか……?

 気を揉みながら待っていると……黒エリを抱えたアテナが階段を上ってくる……!

「無事だったか……! 黒エリはどうだっ……?」

「ちょっと強めにやっちゃった……」

「い、命に別状はないんだよな……?」

「それは大丈夫、気絶させただけだから……」

 ほっと安堵のため息が出る……。

「そうか……では部屋に戻って二人を休ませよう……」

 俺たちは部屋に二人を運び、ベッドに寝かせる。すると安堵のため息が出た……。

「ああ……何とかなったか……」

「それにしても、彼女はどうしてしまったのかね?」

「分からないけど……激しい感情で力が暴走したんじゃないかわん? その急激な変化に処理が追いつかなくなって頭が茹ったとか……」

「元に……戻るんだよな?」

「多分……一時的なものだと思うわん」

「そうか……。まったくヒヤヒヤしたぜ、ありがとうな」

「別に、損得の問題に過ぎんわん」

「でも、あんたがいなかったらやばかった」

「そういうのいいわん」

 アテナは手をひらひらさせる。

「しかし、最初に我々が狙われるとはな……」

「弱そうな奴らから潰していくのはセオリーだわん。それで返り討ちに遭ってるんだから間抜けだわんね」

「ざまあみろってところだな」

 しかし、けっきょくは取り逃がしてしまったな……。まあ、アテナが一人、倒してくれたが……。

「さて、私はここでエリゼを守るわん。あと……ついでにそっちの女も守ってやるわん」

「そうか、そうしてくれるとありがたい」

「むう……? しかし……」

「黒エリ絡みだ、信用できるよ」

「だが……」

「此の期に及んで何を疑うんだ? 彼女は力になってくれたじゃないか」

「むう……」

 そこでアテナがじっと……俺を見詰めていることに気付く……。

「な、なに?」

「お前は……あれ? お前って……以前に会ったこととか、ないわん?」

「ええ? ここで会う前に……?」

 アテナは頷く……。

「さあ、覚えはないがな……」

「……ともかく、エリゼが気に入るだけあるわんね。エリゼの人を見る目に間違いはないわん」

「……そう、なのか?」

「でもその分、気を許した相手には甘くなるわん。状況から推察して、奴らはお前の姿を借りて、エリゼたちをあそこにおびき寄せたんだと思うわん」

「そう、か……」

「とはいえ、この目をもってすれば見抜くのは容易なはずだわん。でもエリゼはこの体を嫌っているから、そういった能力がまだ使えない状態なんだろうね、わん」

「そういう、ものなのか……」

 というか、無理にわんを付けなくてもいいのに……。

「昔からそうだったわん。見抜けるからこそ、すぐに他者を敵と味方に分けてしまうわん。そしてそのせいで軍部に敵をつくってしまったんだわんね」

「……敵、派閥みたいな?」

「いいや、相手は他国のスパイだわん」

「スパイ……!」

「レジーマルカは軍備、気候も相まって鉄壁の国だわん。だから崩すには内部から仕掛ける他ないわん。なのでスパイたちが数多く入り込み、軍部を内部から汚染していったわん。でもエリゼはそういうのを見抜くから、彼らにとって、とても不都合な存在だったわん」

「だからこの地の任務をあてがわれた……?」

「そうだわん」

「もしや、内戦はそのスパイたちの計略なのか……?」

「その通りだわん。レジーマルカには鉱山や炭鉱がたくさんあるわん。他国のスパイたちはそれを狙っていたんだわん」

 なるほど、エリのいた孤児院の悲劇も、元はといえばそこに端を発していたわけだ……。

「しかし、あんたはなぜ黒エリを嵌めたんだ……?」

 アテナはまた俺を見詰め、やがて口を開く……。

「それは誤解だわん。エリゼたちが目的としていた場所はアテマタの領域なんだわん。侵入者は確実に殺されるし、大きな観点からいっても、人類の為にならんわん」

「人類の、為にならない……」

 つい先ほど、カタヴァンクラーも似たようなことを言っていたな……。

「しかし、なぜあんたが……?」

「個人的な企みがあったと思うか、わん?」

「あ、ああ、まあ……」

「確かに、その面もあったわん、同じ体にしたいってね。でも、実質的には尻拭いに近いわん」

「尻拭い……」

「アテマタと関係のある私たちがやるからこそ、曲がりなりにも生存が保証されたわん。エリゼが任務を放棄しないのなら、こうするしかなかったんだわん」

 そう、だったのか……。

 いや、そうなると……。

「カーディナルもアテマタと関係が……?」

「知らんわん」

「知らない……」

「というか……」アテナは小声になる「口止料貰ってるからしゃべれんわん……」

「ああ……そうなの。でもそれって暗にその通りと……」

「おっと、私がほのめかしたとバラすなわんよ。口止料を貰えなくなったらぶっ飛ばすわん」

 マジかよ……! 聞くんじゃなかった……。

「……で、黒エリはそのことを知っているのか?」

「知らんわん」

「なぜ、言わない?」

「どうしてだろうね」アテナは苦笑いをする「まあ、この体を受け入れてくれればよし、もしそうじゃないなら……憎む相手が必要じゃないかな? とか思ったりして」

 アテナの、黒エリを見つめる眼差しは優しい……。

「あ、このことは秘密だわんよ。それとなくほのめかすのを止めはしないけど」

 なんだよ、やっぱり知って欲しいんじゃないか。

 ……まあ、憎まれ続けるのも辛いことだ、それも当然か……。

「なんというか……複雑、なんだな……」

「そう、複雑で哀しい……わん」

 アテナは少し憂いた表情を見せ……急に俺の背中を叩くっ! いってぇー!

「なるほど! 私もお前のことが気に入ったわん! シルヴェと呼ぶことを許してやるわん! お前はレクだっけ、わん?」

「あ、ああ……。レクテリオル・ローミューンだ……」

「レクテリ、オル?」アテナことシルヴェは首を傾げる「ふーん……。ちなみに私の本名はシルヴェル・エスカキアだわん」

「ああ、聞いたよ」

「んっ、誰に?」

「……カーディナルから」

「あいつ、おしゃべりだわん。どこまで聞いたわん?」

「まあ、暗殺がどうとか……」

「ああ、私は秘密部隊の一員だったわん」

「秘密部隊……?」

「子供が一人で生きていくには黒い仕事も必要だったわん。抹殺対象も国家の転覆を狙う危険分子という話だったし、割り切って暗殺や破壊工作とかいろいろやったわん」

「子供にそんなことを……!」

「レジーマルカ人であってもシュノヴェ人ではないし、しょせんは使い捨ての道具だわん。でも拾われて幸運だったと思うわん、冬が厳しいレジーマルカでは浮浪児の生存は難しいわん」

「じゃあ、皇帝派に入ったのは……」

「元は任務だわん」

「そうなのか……」

「まあ、どっちがどうでもよかったわん。重要なのは力と金だわん。これらがあればなんとかなるわん」

「まあ、生きるためには、な……」

「でも、ただ生きるだけでは足りないのが人ってものわんね」

 確かに……そうだな、そう……。

「まあ昔話は置いといて、これからどうするんだわん? お前たちもここで警護するかわん?」

「そうだな……」

「ブラッドワーカーの奴らは弱いわん。放っておいても勝手にやられるわんね」

「というか、皇帝の方はいいのか?」

「サラマンダーに任せておくわん。あいつはあんまり強くないけど、びっくりするくらいしぶといわん。格上相手でも皇帝を守り切れるわーん……というか、お前、行って来いわん」

 アテナはフェリクスを指差す……。

「な、なんで僕がー?」

「私がお前の仲間を守ってやるんだから、お前が皇帝を守ってこいわん。皇帝もお前のことを気に入っていると思うわん」

 いやあ、向こうが困ると思うな、いろんな意味で……。

「ええー、サラマンさんがすごく睨むから嫌だよー」

 サラマンさんって……。

「じゃあ、何か食べ物持ってこいわん。腹減ったわん」

「それは俺もなんだけれど……毒の混入を危惧して、今は何も食わない方がいいらしいぜ」

「私に毒なんか効かんわん。毒見してやるから、とにかく持ってくるわん!」

「毒が効かぬのに毒見が務まるのかね?」

「毒が入ってることはちゃんと分かるわん」

「むう……確かに、レクも食べんと体力が回復せんしな。眠っている二人も消耗しておるだろうし、起きれば腹も鳴るであろう。よし、様子を見てくるか。ゆこう、フェリクス」

「了解だよー」

 そうして二人は部屋を後にし、シルヴェは伸びをする。

「うーん、暇だわん。お前のことを話すわん」

「お、俺のこと……?」

「私のことだけ聞くのは不公平だわん」

「そんなに面白い話はないぜ……」

 俺は身の上話をする……。

「ふーん、そうしてここという博打に手を出したのかわん」

「まあ、な……」

「こんなところにまで来れたんだし、遺物を手に入れるなんてそう難しいことじゃないわん。手に入れたら去るのかわん?」

「そうもいかなくてな……。中央を目指す」

「中央を? 何でわざわざ」

 ……俺はエリを見やり、

「エリが、リザレクションを求めているんだ」

「リザレクション……? ああ、へえ、なるほど……」

「何か知っているのか?」

「それのことは知らないけど、お前という男のことは分かってきたわん。まあ、仲良くやるわん!」

「お、おおよ」

 そうだな、話を聞いてみればこいつも存外いい奴っぽいしな。そういや皇帝もシルヴェには甘いと聞いたし、抜けたりまた入ったりしているのを許しているとなると……相応に評価されているんだろう。

「それにしても、奴らは何で仕掛けてきたんだわん? あんな実力じゃ私たちに勝てる訳がないわん」

「そうは思わなかった、とか」

「それも考えられるけど、楽観的に過ぎるわん」

「うーん、ヘルブリンガーを使った計画に歪みが生じて……仕方なく実力行使に出た……ってところじゃないか?」

「なるほど、それはあり得るわんね」

「でも……俺たちの抹殺はもののついでじゃないかなと思うんだ。目的はやはり頭領の奪還……」

「もしそうなら災難だわん。あのギマのボスが警護しているなら、可能性は限りなくゼロに近いわん」

「うーん、倒せないにしても、幻惑したりして時間を稼ぐとか……」

「そんな甘い相手とも思えないわんね。私なら依頼相手、つまりカタヴァンクラーを狙うわん」

「彼を殺してもガジュ・オーが依頼を放棄するかな」

「いいや、放棄させるわん。つまり、カタヴァンクラーにそう言わせるわんね」

「どうやって?」

「脅すわん。実力行使が通じない時の為に、そういう搦め手を残しておくことは戦略におけるセオリーだわん。綺麗にうまくいく計画なんてそうそうあるものじゃないわんね」

「なるほど……」

 そんな話をしながら待つことしばし、まだワルドたちは戻ってこない……というかいま何時だろう? 時計を見やると二十二時、少し前か……。

「うっ……?」

 おっと、黒エリが目を覚ました!

「おい、おい、大丈夫か……?」

「うう……うっ?」黒エリはシルヴェを見やり「な、なぜ貴様が……?」

「彼女はお前の暴走を止めて、今まで診ていたんだよ」

「ぐっ……! な、なぜ……?」

「そこら辺を聞きたいのはこっちさ。何があったんだ?」

「ああ……そうか、くそ、お前に化けた奴に……」

 シルヴェの言う通りか……。

「奴ら、エリを人質に……。あまりに腹が立って……そこからはよく覚えて……」

 はっとした様子で黒エリは周囲を見回し、やがて隣のベッドに視線は落ち着く……。

「そうか……無事、なのだな……」

「ああ、外傷はない。だが魔術の疲弊は深刻かもしれない。ものすごい数のセイントバードがいたからな……。だが、そのお陰で奴らは何も出来なかったようだ」

 黒エリはため息をつき、

「そうか……。お前を笑えんな……」

「さっさとその体を受け入れていれば、あんな奴らなんか文字通り一捻りしてぶっ殺せたわん」

 黒エリはシルヴェを睨むが……また、ため息をつく……。

「ま、お互い自分が思うほどしっかりしていなかったってことさ」俺は肩を竦めてみせる「一緒に反省しようじゃないか……」

 黒エリは俺を睨むが、その表情は徐々に優しくなっていき……ってシルヴェが俺の頬を掴むっ!

「お前はたらしだわん……!」

「はっ、はああっ? いや、それはやめろっ!」

「どーしよっかわーん……」

「やめろ」

 黒エリの言葉に、おおお、シルヴェが手を離す……!

 ああよかった……! いや本当、洒落にならないんだよ、お前たちの握力でさぁ……!

「……やや、空腹だな」

 黒エリは上半身を起こし、力なく呟く……。

「いまワルドが食事を取りに行ってくれてはいるが……毒の混入を恐れてか、すぐには届かないかもしれないんだ」

「毒……? そうか……」

 うう、心なしか空気が重い……。黒エリは意気消沈してるし、シルヴェも口を開かなくなってしまった……。

 それにしても妙な胸騒ぎがするな……。ワルドたち、大丈夫だろうか……?

「……ちょっと、様子を見てこようかな?」

「お前も本調子ではないのだろう……? 部屋の外には何がいるか分からん、ここにいろ……」

「でも、嫌な予感が……」

 そのとき、ドアがノックされる……! ということはワルドたちじゃないな、それに気配も違う……どころか、こいつは……!

「レ、レオニス・ディーヴァイン……?」

「ほう? よく分かったな。遺物かね?」

「いや、気配でなんとなく……」

「気配だけで個人が特定できるのか」

「な、何の用だ……?」

「メザニュール嬢と話がしたい」

「……今はだめだ、消耗している」

「なに?」

「ブラッドワーカーと一戦交えたんだ」

「地下の揺れはそのせいか。困るな、彼女を傷付けさせるな」

「……あんたに言われなくとも」

 しかし、部屋にまで来訪するとは、あの勧誘はどうにもかなり本気みたいだな……。

「なぜ、そこまで彼女を欲する? セイントバードがそれほど重要なのか……?」

「……我々は才気と人格に優れた候補者をいつでも求めている。だが、休息中ならば無理は言うまい。ところで話は聞いたかね?」

「話……?」

「賊の頭領、ソラス・ジェライールが解放された」

「なにっ……?」

 俺は思わずドアを開ける! そこにはレオニスとヘスティアが……。

「馬鹿な、なぜっ?」

「さあな。もうすぐ説明があるらしい」

「くそっ、シルヴェの懸念通り、ことが起こったな……!」

「別に懸念まではしてないわん」

「で、奴らは逃げたのかっ?」

「いいや、悠々と館内で過ごしている」

「なにぃ? なぜっ……?」

「本人らに聞けばよかろう。ともかくだ、彼女が脅威に晒された場合は我々に助けを求めてくれ、いいな?」

 レオニスは詰め寄ってくる……。しかし随分とご熱心だな、候補者とやらはそれほど見つけ難いものなのか……?

 いや、どうにも興味はエリそのものというより、セイントバードに向けられている気がするな……。失伝しているとはいえ、秘奥魔術だそうだし、何か重大な秘密があるのかもしれん……。

 ふと、ヘスティアを窺うと……うおっ、冷たい目でレオニスを見ている……。な、なんだか怖いぜ……ケンカでもしたのか……?

「……というわけで、何かあったら、いつでも気兼ねなく相談してくれたまえ、いいね?」

 言うだけ言って、レオニスたちは去ってゆく……って、そうだ、俺は彼らの背に問いかける。

「あっ、あんたらはブラッドワーカーどもを倒そうとしないのかっ……?」

「無論、いずれ倒すさ」レオニスは振り返って言った「だが、正義の刃を所有する者は時の番人だけだ。我執に流されてはいかんよ」

 時の番人……つまりタイミングが重要ってことか?

 それにしても解放しただとぉ……? いったい何があった!

「シルヴェ、二人を任せた、話を聞いてくる!」

「それはいいけど、明らかにきな臭い状況だわん。お前は弱いんだからせいぜい気を付けるわんね」

「ああ……!」

 俺は部屋を後にし、カタヴァンクラーの元へ急ぐ……!

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