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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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恐怖の濁流

 ……おっ、おお? なにか叩く音……が、聞こえる……。ドア……ドアかっ?

「申し訳ありません、起きて下さいっ!」

 あ、ああ、執事かっ? ワルドは既に起きており、しかし杖を突くばかりで呼び掛けには応対していない……。

「ワルドッ?」

「待て、演技でないか確認をしておる」

「演技……? 執事たちが怪しいのか……?」

「無論、そこまで信用している訳ではないが、そもそも執事ではないかもしれんであろう? 不意打ちは深夜か早朝と相場が決まっておる」

 確かに、言う通りなのかもしれないが……。

「うむ、おそらくは大丈夫であろう」

 俺は急いで……って机が邪魔だ、どかして鍵を開けると、急にドアが開いて執事が飛び込んできたっ!

「け、獣が大量に侵入しましたっ!」

「なっ、なにぃっ? 警護していたんじゃないのかっ?」

「と、ともかくまずいですっ! すぐそこにも……!」

 執事はドアを閉じて鍵をかけた……。おいおい、あんたが籠城してどうするんだよっ……。

「……み、皆様がお休みになられたので、門は閉じておいたのですが……グ、グランドホーンが突き破って……」

 グランドホーン……? いや、とにかく戦闘の準備をしないと! 俺は身支度を整え遺物の銃を手にする、そしてシューターも腰に……って、フェリクスはまだ寝てるな、枕を抱きしめたまま幸せそうな顔だ……。

「おおい、フェリクス起きろっ!」

 揺らしまくってようやく……ぼんやりと目を開いた。

「朝食の時間かい……?」

「ああ、とっておきのご馳走だよ! 早く起きろ!」

「朝から……?」

「朝からな!」

 フェリクスはのそのそと起き……ようやく上着を着始める。

「むう、昨夜はみな同時に休んだようであるからな……。寝起きで初動が遅れたか」

「最悪のタイミングだぜ!」

「クルセリアに計画を崩されたようであるが、修正した可能性もある、気を付けねばな」

「ああ……」

「だがその場合、敵の魔術師は既に内部へと侵入しておる可能性が浮上する。魔物に与えた呪印をひとつひとつ弄るのは大変な労力であるからな、手を加えるならばこちらの呪印であろう」

 なるほど、だから執事を強く疑っていたのか。

「そういや、呪印ってやつは消せないのかい?」

「可能ですが……」執事だ「懸命なる捜索にも関わらず、発見できたのはたった二箇所のみ、数にしてたった六つに過ぎないのです……」

「むう、それはさすがに奇妙であるな……」

「この部屋は調べたのかい?」

「ええ……皆様がお忙しい中、密かに……」

 密かに、ね……。

「よほどここを熟知しておるか……あるいは……」

 と、そこにまたドアが叩かれる。これはなんとなく分かるぞ、エリたちだ! ドアを開けると二人が入ってくる。

「アリャは? 昨夜、戻らなかったのか?」

「ああ、戻っていない。ところでどうする? このくらいは想定内だが、やるか?」

「おおよ!」

「まずは内部に侵入した魔物を一掃するか」

「相手は獣だけではありません」執事だ「何か……妙な輩も見かけました。お気を付けて……」

 俺たちは部屋を出て、廊下を見渡す……。視認こそ出来ないものの、妙な気配をあちこちに感じるな……。

「部屋にまで入り込んではいないよな……?」

「侵入者が魔物だけであれば、な……」

 俺たちは左手に向かい、静かに進む……。

 ……と、そのとき、何か、階下より悲鳴が聞こえたっ……? そして地鳴りのような音、下から上がってくるような……!

「な、何だ?」

「こっ、これは……!」ワルドが俺の肩を掴む!「ま、まずいっ! 戻れ、元の部屋に逃げ込むのだっ!」

 なにっ?

 そのとき、廊下の向こうから大量の液体っ? いや生き物だっ!

「急げ、無間鼠だっ!」

 なっ、なにぃいいっ……?

 俺たちは一目散に戻る、背後から猛烈な気配、やばいいぃ!

「ひゃわわわっ!」

 後から付いてきていた執事がものすごい速さで駆け、俺たちの部屋のドアを開けるっ!

「いいっ、急いでっ!」

 俺たちは部屋に飛び込むっ! そして黒エリがものすごい速さでドアを閉めた! 猛烈な音が廊下より響き渡る……!

 というか、む、無間鼠だとぉ……? まじかよ、屋内にあんなもの入れやがって……!

 猛烈なる鼠の鳴き声と足音は徐々に遠ざかっていく……。室内に入ってこようとしている気配はなかったな……。あれだけ大量の群れだ、ひっきりなしに前進するしかないのだろう。

「……むう、考えおったな」ワルドだ「屋内を攻めるにはこの上なく効果的と言える魔物だ……。数はかなり少ない方だが、大きな脅威には違いない……」

「どうする、あんなもの相手に出来ないぞ」

「私の鳥たちでも防ぎ切ることは困難です……」

「室内には入って来ないであろうが、廊下をひっきりなしに走られては廊下に出られんな」

「それにしても、あんな数にどうやって呪印を与えたんだ……?」

「無間鼠は……」執事だ「一番足の速い個体が先導し、他の個体がそれに追従する性質があるそうです」

 なるほど、先頭集団にいる一部の鼠に呪印を与えればいいのか……。

「それで、いつまで続くんだ? ひっきりなしに走り回ってよく疲弊しないもんだな」

「いえ、やがて疲れ果て、どんどん死んでいきますよ」

「そうなのか?」

「はい、一説には種の総数の調整だと言われておりまして、増え過ぎるとああして異常行動に走るそうです」

 それが無間鼠の実態か……。

「どのくらいで全滅するんだ?」

「よくは分かっていません。普通の鼠よりかなり体力があるそうですが、おそらく数日ほどかと……」

「そのくらいならあまり問題はないが……」

「ある」黒エリだ「飲食はともかく、この部屋には摘む花がない」

 摘む花……? 花がなんだっていうんだ……って、ああそうか、用を足すことが出来ないってなぁ……。男性陣は最悪、窓からでもすりゃいいが、女性陣にとっては確かに大問題だ……。

「……他の部屋に隠れながら行けないか?」

「困難でしょう……」執事だ「空き部屋にも鍵がかかっているはずですので……。マスターキーは所持していませんし……」

「そうだろう? どうするんだ」

 俺に詰め寄られてもなぁ……。

「それより重大な問題があります……! 我々が廊下に出られない間に、地下の牢獄が狙われるかもしれません……!」

「地下に牢獄って……本当にあるのか?」

「はい」

「やばい奴らを投獄しているの?」

「はい……」

「奴らの狙いはそれなのか?」

「おそらくは……。そして我らが主、コルネード様も狙われている可能性が……」

「カタヴァンクラー氏は奴らと因縁でも?」

「ええ……」

 ちぇっ、俺たちは巻き添えかよ。でも奴らは今後も何かと障害になる可能性は高いし、けっきょくは同じことか……。

「あのさー……」フェリクスだ「豪華な朝食って……」

「……鼠のフルコース、堪能したろ?」

 フェリクスはジトッとした目で俺を睨み、ベッドに戻っていった……。

「いやおい、寝ている場合かよ?」

「放っておけ」黒エリだ「それより花を摘みに行かせろ」

「ええ……?」

 でもまあ、俺だってそのうちしたくなるに決まってる……。

 くそ、どうでもいいことでやばい……!

 さて、どうしたらいいだろう? 鼠の足音はひとまず消えたが、またすぐにでも戻ってくるかもしれないし……。

 でも、これといって策はないよなぁ……。

「じゃあ、一か八か、いくか? 便所……」

 あいった! 黒エリの手刀が落ちてきた!

「花を摘みに、だ」

 なんでそんなとこだけお淑やかなんだよ……。

 ええと、便所はどこだっけ? 俺は地図を見やる。この部屋より廊下を右へ、先の曲がり角をちょっと行ったところか……。付近に昇降機もあるな、行けるならそこへ向かった方がいいかもしれない。走れば十数秒ってところだ、間に合いそうにないって感じでもないしな。

 と、そのとき、また地鳴りのような音と鼠の声が近づいてくる……! 元気いっぱいに走り回りやがって……!

「駆け巡っているな……。しかし、こんな状況じゃブラッドワーカーの連中も中に入れないんじゃないの?」

「うむ……。となると、何か鼠を避ける方法があるのかもしれん。例えば、鼠はある種の香草を嫌うというが……」

「匂い、か……。屋内をその匂いで充満させることが出来れば……」

「香草があるとしたなら調理室であるな。しかしそれは地下にある」

「つまり昇降機まで行かないとならないって訳か」

「よし、行くぞ」

 黒エリがいやに積極的だな。こういう場合はひとまず様子を見ようと提案しそうなものだが、花を摘みたくて仕方ないらしい……。

「あの」エリだ「フェリクスさんは……」

「放っておこう」黒エリだ「ドアを閉めておけば問題はなかろうしな」

 しっかし、よくこんなときに眠れるなぁ……。昨夜はさほど遅くもなかったし、睡眠時間が足りないってこともないだろうに。

「うむ、次の襲来が過ぎてからゆくとするか」

 やがてまた聞こえてくる猛烈な騒音……。ここにはかなりの猛者がいるのに、誰も倒そうとしてくれないのかね……。

 そして、足音が過ぎ去る……。

「よし、行くか!」

 俺たちは昇降機まで急ぐ! 執事がいち早くたどり着き、昇降機横の操作盤をいじっているが……なんだか焦ってる様子だ……!

「ど、どうしたっ?」

「お、おそらく昇降機が監獄まで降りていたのでしょう、これは多少、時間がかかります……!」

「なにぃ?」

「むうっ、今度の周期はいやに早いぞ!」

「ええっ? いま昇降機を呼び出してるんだろっ? 一旦、戻った方がよくないかっ?」

「し、しかし、万が一、開いたときに鼠が入り込んだら、昇降機が破壊されてしまう可能性も……!」

「死ぬよりましだろっ!」

 そんなやりとりをしている間に鼠の足音が大きくなってくるぅううっ!

「むうっ! どれだけ持ちこたえられるか分からんが……!」

 ワルドが光の壁をつくる! エリも鳥をぶわっと出した! そして……そして鼠の波が押し寄せるてくるぅううっ……!

 光の壁に無数のでかい鼠が張り付き、焼かれて悲鳴を上げるっ!

 俺たちを狙っているからか、延々とこっちに来ようとするので、前面の鼠が押し潰され、焼かれ、血みどろの惨劇になっていく……! それが次から次へと繰り返され……壁の向こうは最早、地獄絵図だ……! 

「むう、ライトウォールは持続する重圧には弱いのだ! このままだと破られるぞ……!」

 ワルドが光の壁を新たに形成した数秒後に一枚目が散り、二枚目に押し寄せてきたぁっ!

 なんという執念、いや、これじゃあ狂気だ……! 鼠たちは一向に諦める様子を見せず、焼かれ潰されてはぐるぐる巡り、光の壁を押してくる……!

 ワルドはさらにもう一枚張る、このままじゃあ、徐々に昇降機までの距離も短くなっていくだろう……!

「おいまだかよっ!」

「もう少しのはずですが……!」

 もう、昇降機までの距離もない……。これ以上は厳しいか……!

「そろそろ限界だ、鼠を一掃するか、部屋に戻るか、執事たる君が決めたまえ」

「い、一掃出来るのですか……?」

「この建造物も無事には済まんがな。おそらく、外壁まで貫くことだろう。それが問題ならば、このまま後退して自室まで移動するが、その場合、その昇降機が危険に晒されるやもしれんな」

 仮面で表情は見えないが、かなり困っているのは分かる……。

「あと三十秒で決断したまえ。できない場合は……部屋に戻ることにしよう。外壁にまで穴が空くよりはましであろうからな……」

 刻一刻と時が過ぎる……。あと二十秒、十秒……。執事はいまだ選択が出来ないようだ……。

「……時間だ、次のライトウォールもそう保たん、部屋に撤退を……」

 そのとき、昇降機が上がってくる音が聞こえてきたっ! なんと絶妙にやばいタイミング……! 光の壁が今すぐにでも破られそうなのにここを離れられん……!

 もうすぐ、昇降機の格子が開く……。

 それはほんの僅かな時間のはずなのに、いやに長く……。

 長く……! 早くしろぉっ……!

「むうう、最後の壁もそろそろ保たんぞっ!」

 そのときようやく格子が開き始めた、俺たちは飛び込むっ!

「閉めてくれっ!」

「はっ、はいぃいっ!」

 執事は操作盤をいじり、格子が、ドアが締まった直後! 鼠たちがどっと押し寄せる音がっ……! あっ、危ねぇなおいっ!

 そして喧騒は遠ざかり、昇降機は静寂とともに降りていく……。俺たちは同時に、深いため息をついた……。

 やがてドアが開き、地下のカジノへ……。俺たちは泥のようにぐったりと昇降機から降りる……。

「間一髪、だったな……」

「うむ……」

 黒エリは颯爽と花を摘みに、俺たちは香草を手に入れるため、バーカウンターの裏手にあるらしい厨房へ向かう。そこではキューとギマの幾人か、そして執事たちがせっせと調理をしていた。

「やあ、食事かい?」

「いや、それどころじゃない。無間鼠が侵入したんだよ」

「へえ!」

「だから、鼠が嫌う香草とか拝借したいと思ってね」

「なるほど、鼠ねぇ……」

「心当たりはないか?」

 キューはぐもぐもと相談を始める。するとギマたちは奥に向かい、大量の草の束を持ってきた。この形は見たことがあるぞ、ミントじゃないかな?

「これをすり潰して煮込んだやつを撒いたら嫌がるって話だよ。撹拌機は全部使用中だから、すり鉢でやってね」

 俺たちは手分けして香草を擦る……と、すっごいミントの匂い……! 芳しいを遥かに超越し、ミント臭いっ!

「なんだこの匂いは……!」

 黒エリがやってきて顔をしかめる。この後、出来上がった大量のミント汁をさらに煮込むんだ、もっとすごい匂いになるだろうさ……。

 そうして火にかけ、煮込むとさらにミィントォオオオ……な匂いが立ち込める……! 鼠じゃなくても逃げるぞこんなの……!

「さ、さあ出来たよ、さっさと持っていって!」

 俺たちは各々、ものすごい匂いのミント汁が入った鍋を手に、昇降機へ……。

「こ、これで効くのかな……?」

「分からぬが、やってみる他あるまい……」

 俺たちは昇降機で四階へ……。上から匂いを撒いて出入り口より締め出す算段だ。

「で、この液を具体的にどうする……?」

「廊下もよいが、階段付近にでも重点的に撒いてはどうかね?」

「そうだな、そこで足止めできれば各階に侵入もされないだろうしな」

「いま、足音は遠い。ゆこう!」

 そして昇降機のドアが開き、俺たちはミント汁を各階の中央付近にある階段へ向けて運んでいく……。途中、何かよく分からない残骸が少し散らばっていたが……もしかして鼠に食われた魔物か何かだろうか……?

 そして掃除中だったのだろう、ドアの開いている部屋があったので、そこを緊急避難場所とした。室内はめちゃくちゃに荒らされていてボロボロだが、ドアは何とか閉めることが出来そうだ。そして目的の階段へ……。

「むっ、こちらへ来るやもしれん!」

「じゃあ、さっさと撒いて部屋に撤収しよう!」

 俺たちは階段に汁を撒き、荒らされた部屋へ逃げ込む。

 しかし、本当に効果があるのかね……?

 鼠たちの騒音が近付いてくる……! しかし、聞こえるのは階下だ、ここまでは上がってこない……?

「……よし、また遠ざかった。階下へゆこう」

 俺たちはまた階段をミント臭くしながら三階へ……。

「むっ、またくるぞ……!」

 えっと、三階には逃げる部屋のあてはないしな、俺たちは急いで階段を駆け上がる……奴らの足音が近づいてくるっ!

 ……しかし、すぐに遠ざかっていった。これは……効いているんじゃないか……?

 そして俺たちはまた階段を降りる。汁を撒いた周囲には大量の死骸が……。

「これは……効いていますね」執事だ「大量の死骸があるということは無理な方向転換をした証拠です。ミントの匂いを嫌がったに違いありませんよ」

 確かに、その通りだろうな。俺たちはまた階下に降りつつ、汁を撒いていく……。

 というか他の連中はどこへ行ったのだろう? まさか食われたわけじゃないだろうな……?

 一応、二階のところまでは撒き終えた。この下は一階、鉢合わせになる可能性はかなり高い、俺たちは一旦様子見をするために、自室へ避難することにした。

 というか……フェリクスがまだ寝ている……。本当に、こんなときによく寝れるなぁこいつ……。

「よし、少し様子を見ようか」

 そしてしばし待つが、奴らがここまで上ってくる気配はない、な……。

「うむ、間違いなく効いておるようだな。しかし、あの匂いもいつまで保つか分からん……」

「それに、一階に撒いたとして上手く追い出せるかな? 奴らは魔術の力でここに引き寄せられているんだろう?」

「ううむ……」

「階段を塞ぎましょう」執事だ「防火壁を下ろすのです。やや時間がかかるかもしれませんが、ミントが効くと分かったいまなら実行出来ます!」

「そんないいものがあるのか! よし、それでいこう!」

 早速俺たちは一階へ……! やや遠くより、すごい足音が聞こえてくるぜ……!

 俺たちは一階の階段周辺に残りのミントを撒く。そしてさらにワルドがまたライトウォールを張った! その間、執事は壁に備え付けてある金属製の箱を開いて、中のスイッチを幾度も入れていたが……どうにも反応しないようだな……。

「やはり壊れたままか……。急がなくては!」

 そして今度は同じく中にある取っ手を一生懸命回し始めた! すると天井から分厚い壁がゆっくりと降りてくる……! しかし、鼠の足音も近付いてくるぞぉ……!

「み、皆様は上階へお逃げください! 万一の場合もありますので……!」

 しかし、そういうわけにもいかんわなぁ……! みんなも同じ気持ちのようだ、黒エリはやれやれ顏だが……。

 そして、奴らが来る……!

 しかし、こっちに近付くや否や、鼠たちの鳴き声が一際大きくなり……! ワルドの壁に衝突することもなく、猛烈なる鼠の群れは遠ざかっていった……! やはり効果テキメンみたいだな!

 そしてその間に執事は壁を下ろし切ることに成功……! やったぜ、これで上階の平穏は守られるだろう……!

 しかも下ろした壁にはドアが付いており、必要ならば、迅速に人が出入りすることも出来るみたいだ。

「よし、これで一安心だが……あの鼠はどうしようか?」

「思えば、放っておいてもよいかもしれんな」ワルドだ「一階にて暴れてくれるならば、他の魔物と食い合ってくれるやもしれん」

「そうか、図らずとも護衛役を担ってくれるわけだ……!」

「なるほどな」おっと、オ・ヴーが現れた「ミントで鼠除けか、しかも無間鼠には効果絶大らしい」

「無事だったか。グゥーたちは?」

「鼠ごときにはやられんさ。しかしギマが二人、呑まれたと聞いた」

「そんな……」

「……それと、インペリアル・サーヴァントの一人も呑まれたようだな」

「なにっ……? だ、誰が?」

「男だよ。痩せ顏のな」

 痩せ顏の男……。まさか、ヨデル・アンチャールか……?

「一応、言っておくが、その男に関しては死んだとは確認していないぞ」

「そう、か……」

 しかしあんなのに呑まれては……と、そのとき! 壁のドアが叩かれるっ!

「あ、開けてくれっ!」

 生存者かっ! 俺は急いでドアを開く! すると現れたのは……!

「あ、あんた、今さっき……」

 現れたのはヨデル・アンチャールだ……。

「いやぁ、参った参った……。魔物の襲撃の上、無間鼠だものな」

「生きていたのかっ……」

「……だから言ったろう、死んだとは確認していないと」

「ああ、呑まれたからな」ヨデルは肩を竦める「何だその顔は、俺が生きていて嬉しいのか?」

「そりゃあ……くたばったって話よりはなぁ!」

「危なかったが、何とかな。それよりこの匂いは……ひどいな」

 そして俺たちは警護すると残った執事を置いて階段を上る。ちょっと心配ではあるが、あの壁があれば大丈夫だろう。

 ああ、ミント臭いが平和な空間だぜ……って、いや! 背後から嫌な気配が……?

「待てっ……」

 ふと、前を歩いていたオ・ヴーが振り返る!

「な、なんだっ?」

「……いや、勘違いだ。鼠どもは上階に残っていないのだな?」

「ああ、おそらくは……」

「奴らは何かの拍子で分離することがある。あるいは残党がいるかもしれん、気を抜くなよ」

「あ、ああ……」

 しかし周囲に無間鼠のものらしい気配はなく、それらしい物音もしないな……。もしどこかにいるとしても、少数なら大した問題にはならないだろう。

 それにしても、なんだか妙だな……? そりゃあこの地は妙なことばかりだし、今更なんだという話でもあるが、そういうのとはまた異なる妙な雰囲気、妙な流れ……。

 ……そして俺たちは自室へ戻ってくる。フェリクスは相変わらず眠りこけているなぁ……。

「こいつ、何でこんなに寝ているの……?」

「こやつは放っておくとよく昼寝をしているよ」

 なんと暢気なやつ……! くそう、鼻の下にミントでも塗ってやろうか……!

「そういやグゥーたちの部屋ってどこだっけ? オ・ヴーは無事だと言っていたけれど、一応、確認したいな」

「聞いておらぬな。厨房にて尋ねてみてはどうかね?」

 おお名案だ。みんなは朝食にするというので、俺たちは揃って昇降機へ向かう……と、その前にグゥーとスゥー、そしてプレイメイカーたちが! やはり問題などなかったか。

「ほら、無事だったでしょう?」スゥーは笑う「心配性なのよ」

「ばっか、べつに心配なんかしてねぇよ!」

「それにしてもすごい匂いねぇ! もしや、あなたたちがやったの?」

 俺は頷き「そうそう、奴らにはミントがすごく効くみたいなん……」

「おっはよー、レックー!」

 いきなり、ジューが抱き付いてくるっ!

「ちょっと! なにやってんのよあんた!」

「なにってなによ。彼氏に抱きついて問題あるわけ?」

「なにそれ!」そしてスゥーは俺を見やる!「なにそれ!」

「いや、違う違う、そんなこと……」

 グゥーの助けを期待するが、やはり目を逸らしやがる……!

「もぉー、照れなくってもいいのにぃー」

「だめよレク、この女は頭がおかしいんだから!」

 ふと、ジューが驚愕の顔をする! そして俺より離れ、声を上げた!

「ちょっと待って、待って! 私、二日間連続で頭がおかしいと言われました! そんなのってある? ミィーちゃん、あるっ?」

「あってはなりませぬぅー!」

 ケ・ミィーは両手を掲げ、笑顔で答える……。

「そうよ、あってはならない! 枯れた樹木にあっては木の実もならない! そうすると鳥もやってこないし、実を食べない鳥は種の混ざった糞もしない! するとどうなるのっ?」

「新たな芽吹きが起こりませぬぅー!」

「つまり死の連鎖よ! これもまたあってはならないこと、違うっ?」

 確かにそうかもしれんが……話の関連性がいまいち分からない……。

「そ、そういや、ホーさんは……? あのひとならあんな鼠、さっさと一掃してくれそうなもんだけれど……」

「ボスとホーさんは地下だよ。カタヴァンクラーに護衛を頼まれたらしいんだ。まあ、客人たちの中では最も信用されてるだろうしな」

「へえ……」

「さ、朝飯だ、行こうぜ……ってそうだ、執事が持ってる鍵がないと動かせないって話だったんだ」

 そうなのか……。それにしてもあの執事以外、姿を見かけないな。まさかけっこうやられちまったのか……?

「じゃあ俺が呼んでくるよ。ちょっと待っててくれ」

 俺はそそくさとその場を後にする……。

 しっかし、ジューはなんだっていきなりあんな……。頭がおかしいとまでは思わないが、ちょっと常識から外れているような気がするぜ……。

 そして階下に降りていくと、何だか不気味な気配がするな……。鼠のものじゃあない……。それに胸騒ぎもする……。

 やはりさっきから変だな、おかしな雰囲気、嫌な流れ……。

 俺は急いて階段を降りる、すると執事が、倒れている……! しかも大量の出血……!

 見ると壁のドアから、剣を持った手が出ており……ゆっくりと奥に引っ込んだ……。

「お、おいっ、大丈夫か!」

「あ、ああ……敵です、不意を突かれました……」

「動けるか、いま連れていって……」

 ふと、ドアの方を振り向く。その先に立っているのは……白い、鎧のような姿……。

「お、お前は……!」

 奴……奴には見覚えがあるぞ……! 確かそう、暗黒城で最初にエオを殺した奴によく似ている……いや、そいつに違いない!

「お前……! 暗黒城にいたなっ……?」

 白い鎧はせせら笑う……! そして左手の人差し指を動かし、俺を呼ぶ……!

「ワルドッ! エリを連れて来てくれっ!」

「呼んだかっ!」

 数秒も経たず、ワルドが飛び降りてきたっ!

「彼の治療を頼む!」

「むうっ? そこに潜むは何奴だっ!」

「俺は奴とやらねばならない! ここは任せてくれ!」

「なにっ? 待てレクッ!」

 俺はドアを潜る、やや遠くより、鼠の走る音……。

 奴は背を向けて先を歩いている。向こうは東のホールか? 俺は奴を追う!

「なぜ……ここにいるのかは知らんが、エオの仇を取らせてもらうぜ……!」

 白い鎧は振り向き、縦に長い兜の下部がぐにゃりと……曲がり、牙の生えた口がおぞましく笑んだ……!

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