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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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プレイメイカー

 飛んできたものはグゥーの乗り物をさらにでかくしたようなやつだ、そしてそれは塔屋の上に降りた……っていうか、なんでそこに? まあ屋上の半分は魔物の死体だらけだが……。

 そしてドアが開く音、どやどやと四人ほどの影……。

「あっ、いたいた! やっほー、助けに来てあげたよー」

「げっ!」グゥーは仰け反る「あ、姉貴……!」

 姉貴だって?

「げっ、とはなによ!」

 へえ、グゥーに姉がねぇ……って、人影が跳んだっ! そして宙で一回転し、Yの字で着地するっ! そしてその際、む、胸が大きく揺れたぞっ!

「あー……えっと、これが俺の姉貴、ジ・ジューだ」

 じ、上半身が半裸! 胸元の一部しか隠していないっ! スタイルもスゥーに負けじと素晴らしく……って、いかんいかん……。

「あっ、レックじゃーん!」

 な、なに? なんで名指しっ?

 ああそうか、俺たちの冒険を見ていたとかって話があったし、たぶんそのクチだろう。

「来てよかったー! フィンに会うのも久しぶりだし!」

 ……フィン?

「フィンはアリャしかいないぞ」

「お前たちは総じてフィンと呼ばれる種族だぞ」グゥーが言った「セルフィン、オルフィンとかあるだろ」

「ええっ、そうなの?」

 と、そこでグゥーの姉は俺を覗き込んでくる……。横にした紡錘形みたいな髪型で、もみあげを三つ編みにしている。

 なるほど……スゥーみたいに煌びやかとはいかないものの、健康体って感じで、やっぱりけっこう可愛い感じではある……。

「ふーん、けっこうありじゃなーい? へぇー……」

 なんだ、食材になる気はないぞ……。

「そろそろ彼氏ってやつ欲しいと思ってたんだー。どう?」

 どう? どうってなんだ……。

「ああまた突拍子もないことを」グゥーは頭を抱える「本気にするなレク、姉貴は頭がおかしいんだ」

「お姉さまに向かってなんてこと言うんだ、こら!」

 ゴツッと嫌な音! グゥーはゲンコツをもらって悶えている……。

「いつも言ってるよね、インスピレーションが重要なんだって! これと思ったら一瞬よ、細かいことは後でいいの! 感性は放っておくと腐るんだから!」

 えっ、これってまさか、男女のあれこれって話かっ?

「しゅ、種族が違うだろうが……!」

「問題ないよ、フィンとならね。フィンはオリジンに近い古代種だから、母親がギマの場合、子にもギマが発現するのよ」

「なに? というか、あの……」

「ちなみに逆だとフィンが産まれるの。これを母系特殊優性と呼ぶんだって」

「特殊優性……?」

「またそんな怪しい説を……」グゥーはため息をつく「それより俺の仲間たちを紹介……」

 塔屋の上の三つの人影……は、誰も降りてこないな……。グゥーは首を傾げ、

「……どうした?」

 三人はぐもぐもと何か訴えかけている……。

「ここじゃフィンの言葉を使えよ」

 三つの影は顔を見合わせ、

「ボ、ボク、捻挫治ったばっかりなんだぁ……」

「オレ、高いとこ怖い……」

「膝の調子がぅ……」

 おいおい……じゃあなんでそんなところに降りたんだよ……。

「わかったわかった、ミィー、受け止めてやるよ!」

「さっすがリーダー!」

 一人跳んで、落下! 慌てて受け止めたグゥーが押し潰される!

「だっ、大丈夫っ?」

「あいたた……。な、なんとか」

 降りてきたのは女の子みたいだな。後ろで縛った髪、丸い形のゴーグルを首にかけており、ポケットがたくさん付いたツナギを着ている。彼女はグゥーを助け起こし、こちらを見やった。

「あ、えっと、ボクはケ・ミィーです!」

 ケ・ミィーは右手を掲げてポーズを取った……後に俺を指差す!

「ほんとにレクだ!」

 また名指しかよ……。

「……俺たちのことを見ていたんだって?」

「観た! 地下のとこすごかった!」

「地下……?」

「あそこはなかなか入れないし、バグを飛ばしてもすぐ潰されちゃうから、けっこう謎だったんだ。でもレクにくっついてけっこう観ることができたのー!」

「そ、そう……。よかったね……」

「うんっ!」

「それはさておき」グゥーは頭上を見やる「お前たち、頼んだの持ってきた?」

「でもぉ、設置はここだろぅ?」

「そう、そっちはそこに置いといていい。銃は?」

「あるあるぅ。いま落とすから、下危ないよぅ」

 影は大きな箱を……落とした。ズム、と思ったより大きな音はしない。グゥーはそれを開き、

「よし、お前に相応しいのはこれだな、ほら」

 グゥーが何か投げて寄越してきた! 受け取ってみると遺物っぽい姿の銃だ……。あの遺跡にあったものと似ているが、若干小型で、ずっと軽い。

「まあ初心者だし、そんなもんだろ」

「しかし、先の遺跡で似たような銃を手にしたが……撃てなかったぜ?」

「ああ、認証が設定されていたんだろう。それはフリーだから誰でも撃てる」

「そうか!」

「いいなぁ、いっこくれわん」

 アテナだが……服が焼け焦げて肩が露出している……。そこは首元と同じく、鮮やかな緑色だ。やはり火傷はしていないようだな……。

「あげられないし、貸すにもボスの許可がいるんだよ」

「ふーん」

 アテナは俺を見やる……。なんだ、これは俺が借りたんだぞ……!

「というか、お前らいい加減降りてこいよ!」

「難しいのでしたら、私がお手伝いしましょう」

 エリが鳥をぶわっと出して二人へ向ける。二人はぐもぐもと慌てるが、そのうち鳥に運ばれてゆっくりと降りてきた。

「ふぅー、ちょっと怖かったぅ!」

 一人は青年くらいの男で、前髪が長く、ちょっと陰気臭そうな感じ、黒いツナギを着ている。そしてもう一人はなんというか……巨漢だ、えらく太っている……。だぼっとした服を着ているものの、立派な腹は隠せない。

 というか、太っている奴は珍しいなぁ。みなガタイが良かったりグラマラスだったりするし……。

「ビュ・ローとド・フーだ」

「よろしく……」

「腹減ったぅ!」

 ド・フーが立派な腹をパンと叩いたそのとき、仮面の執事たちがやってきた。

「凄まじい……! 皆様、ご無事ですか……?」

「問題ない」

 レオニスが答える。俺はそうでもなかったがな……。

「では我々はここを清掃、次いで監視を請け負います。襲来に応じて警報を鳴らしますので、その際にはお願い致します」

「了解した」

「なお、いくらか魔物の侵入を許したとの報告を受けていますので、ご注意を……」

 なにぃ? もう入ってきちゃってるのっ?

「まさか、下は劣勢なのかっ?」

「いえ、これといって問題はないと思われます。なんでも、大きな脅威となる個体を優先しての結果とか……」

「つまり、入ってきてるのは比較的弱い奴らってこと……?」

「そうです」

 だからってなぁ……! 劣勢じゃないならちゃんと片付けておいてくれよ……。

 そして執事たちは魔物の死体の回収を始める。あの死骸が後で飯になって出てきたりして……。

「さあて諸君、戻るとするか」

 俺たちは階下に降りていく。さて下はどうなっているのか……ワルドやアリャは無事かね……。

「おい!」

 肩に重い一撃……! 思わず態勢を崩し、階段から転げ落ちそうになる!

「おおっ? な、なんだ?」

 というか誰だ、いま肩を叩いたのは! 振り向くとアテナがにっこり笑っている……。

「ちょっとだけ撃たせて欲しいわん!」

 なに……?

「一発だけだわん!」

 ええ……? グゥーを見やると、肩を竦める。

「それに構うな」黒エリだ「ろくなことにならん」

「信用は重要だわん! 一発だけと約束するわん!」

 まあ、たしかに信用は大事だけれどな……。

「一発って、どこで撃つんだよ?」

「そこら辺……」

「そこら辺を撃っちゃだめだろうよっ」

「じゃあ、あの花瓶」

 アテナは踊り場に飾ってある花瓶を指さす……。

「それもだめじゃねーか!」

「花瓶が割れたら摘まれる花もなくなるわん。そうすれば花に感謝されて、そのうち妖精がやってくるわん」

「へえ……」

「わかったわん、魔物にするわん」

 ああもう、仕方ないなぁ……。

「一発だけだぞ……」

「ありがとう、しばらく借りるわん!」

 えっ……と思う間もなく、アテナは階段を上っていった……っておおい!

「待てよおいっ!」

 慌ててアテナを追う! 背後より黒エリの声がしたが、どうせ単独行動をするなとかそういうのだろう、そんな子供じゃないんだからさ!

「こっちだわーん!」

 アテナは四階に入った! くっそぉ、小馬鹿にしくさってぇ……ってどこに行った? と辺りを見回したそのとき、頭上に気配! 天井にアテナが張り付いている!

「よく分かったわん!」

 アテナが飛び掛かってくる、そして流れるように俺の背後へ、首に腕が回る!

「てっ、てめえ……!」

「落ち着くわん、ちょっと話がしたいだけだわん」

 は、話ぃ……? 俺は近くの部屋に引き摺り込まれ、そこで解放される……。

「な、なんだよ、黒エリのことか?」

「その通りだわん」アテナは大きく頷く「なんでお前たちと一緒にいるんだわん?」

「なんでって……」

 俺はこれまでのことをざっくりと話す……。

「……ふーん。で、エリゼはあの女とどういう仲なわけ? 単刀直入に答えろ」

 おっと語尾にわんが付いていない……。こいつはふざけたらヤバそうだな……。

「どういうって、仲間だよ。あんたが懸念しているようなことはない」

「へえ、私の懸念が分かるの?」

「なんとなく、な……」

「話が分かるわん!」アテナはにっこり笑む「そうかそうか、エリゼは奥手だしそうだろうね、よし、もういいわん」

「いや、俺はよくねぇんだよ! 銃を返せ!」

「ああ、そうだったわん」

 アテナは銃をこちらに放り投げる……。

「光線は自前で撃てるし、光線銃には興味ないわん。それにしてもお前は弱そうだわん、よくこんなところまで来れたわんね?」

「仲間に恵まれたのさ……」

「お前も改造してもらうかわん?」

 かっ、改造だと?

「いやいやいや、遠慮する!」

「冗談だわんっ」

 アテナはケラケラ笑う……。

「しかし、あんたはその辺りの事情をどこまで知ってるんだ? 死した者を機械と融合させ、生き返らせたんだろう? リザレクションという魔術が関係しているのか?」

「ま、こちらの質問に答えてもらったし、教えてやるわん。アテマタにやってもらったわん」

 アテマタ……機械人間の一族か。

「死んだっていうのは、まあ外の常識じゃ正しいけど、実際は死んでないわん。例え致命傷でも、新鮮な内なら治せるんだわん。文字通り、鮮度が命だわん」

 新鮮ってなぁ……。

「そんな技術を持つ種族だわん、骨に痕を刻むことなんか造作もないわん。そしてそこに痕に対応する強化兵装を着せれば後は勝手に融合し、超人になれるわん!」

「じっ、人工的に魔術の文様を刻むだと!」

「死んで混ざるとバックマンになっちゃうわん。もちろん記憶とかもおかしくなって困るわん」

 なるほど、ではまたもリザレクションは関係ないのか……。

「……ということは、フェリクスたちもそうなのか?」

「うん? それ、誰だわん?」

「プリズムロウっていう、黒エリの仲間たちだよ」

「ああ、あいつらのことは知らんわん。エリゼ以外の奴らには特に注文を付けなかったし、アテマタに任せたわん」

「アテマタってのはいったいどういう奴らなんだ?」

「さあ。私を助けた上にこの体をくれたし、いい奴らだわん!」

 そりゃあ、あんたにとってはそうだろうがなぁ……。

「……しかし、なぜ黒エリにあんなことを? 恨まれるとは思わなかったのか?」

「もちろんだわん。でも、私だけ超人になってもつまらんわん。それに一人だけ長生きしても寂しいわん」

 寂しい……か。

「いつか許してくれるわん。人は永遠に恨むことなんか出来ないわん」

「そう……かもしれないが……」

「人間は強かだわん。それにエリゼはすごく優しいわん。いつかきっと許してくれるわん」

 優しい……かぁ?

 まあ、根っこはな、そうかもしれんがな……。

「さて、そろそろホールに行くわん。お前も行くわん?」

「あ、ああ……」

「ついでだから、お前を助けてやるわん、仲良くするわん」

 助けるぅ? なんでこいつが俺を……?

 ……ああそうか、間接的に黒エリの好感を得ておこうとかそういう算段か。だがまあ、理由はどうあれ敵対しないというならその意を汲んでおいた方がいいだろう。

 さて、今はともかくホールの方に行かなくてはな。ワルドが戦っているだろうし、アリャもいるかもしれない、あとフェリクスも。

「わかった、じゃあ行くか……」

 アテナがわんわん言いながら進むのを追っていく……。こうして見てる分には可愛いっちゃ可愛いんだが……。やはり気を許すわけにもいかないな。

 というか、どっちかっていうと、犬より猫に似てるんだよな。どうでもいいことだが……。

 階段を降り続け一階に、すると戦いの音が聞こえてくる……! 向こうではまだやっているみたいだな……!

 そしてホールに向かうと死体の山! 様々な魔物が倒れ伏している……!

 ここで目立つのはスクラト、そしてア・シューだ、どちらも巨大な魔物と交戦している!

 スクラトが対峙するは青いたてがみの馬鹿でかい獅子みたいな獣! 二本の巨大な牙をむき出しに吼えるっ! おいおい、あんなのとやるってのか! スクラトが跳んだっ……!

「ぐはははっ! どこ見てやがるっ!」

 スクラトが頭上から斬りかかる、獅子が豪腕で迎撃しようとする、そして二つの暴力が空中で衝突っ! 打ち勝ったのは……スクラトだ! 獅子の前足から血が噴き出したっ!

 吠える獅子、スクラトは再度斬りかかる……が、獅子が巨大な牙で剣を防ぐっ……! そしてそのまま食らいつこうとっ……!

「しゃらくせぇっ!」

 咬みつかれる瞬間、口を蹴って上へ跳んだっ! 獅子は虚空のみを食み、その隙に大剣が鼻にめり込む!

「獲ったぜっ!」

 スクラトは暴れる獅子から剣を引き抜き、今度は眉間を大剣で貫く! そして巨体は床に沈んだ……。

「おっしゃあ! 次はテメエか、こいっ!」

 人の背丈の三倍以上はある巨大な……猿人? 長く白い体毛に包まれ、顔も口の位置しか分からない、手には粗末な棍棒を持っているぞ!

「それは私の相手だ」

 猿人に立ち阻むア・シューに棍棒が振り下ろされたっ……が、刃を上に剣を構えたまま、微動だにしていないっ? 棍棒は隣に着地している……外したのか?

「力だけでは私には勝てん」

 猿人はそのまま薙ぎ払うっ……が、動いたのは手首から先がない腕だけ……。そして悲鳴、血が噴き出す……。

「喚くな、いま楽にしてやる」

 ア・シューは一瞬で猿人に近付き、幾度も斬りながら駆け上がる! そしてとどめに脳天への一撃、あえなく猿人は倒れ伏す……。それを見たスクラトは床に唾を吐いた。

「あんだよ、ぶっ潰されりゃあよかったのに」

「貴様こそ獣の餌になり損ねたな」

 あんな化け物を相手にして軽口を言い合う余裕があるのか……。

 他にはシフォール、それにクレイヴ……ステンキッドだったか? 聖騎士団の青年もいるな。

 シフォールはいつか見た犬の魔物たちを斬り伏せ、クレイヴはでっかいトカゲを槍で葬っている……。

 あと、端の方にデルス・スケインとドワ・ヒップルもいるが、どうにも休息中のようだな。

 うーん、ここじゃあ特に……やることがないようだな。あの中に入っていきたくもないし……。

「獲物が足りないわん……」

 アテナはつまらないって面持ちだ……。

「仕方ない、向こうに行くわん?」

「まあ、そうだな……」

 そのとき、頭部に衝撃! なっ、なんだ!

 振り返ると黒エリだ……。手が手刀の形をしている……。

「……なにをしている?」

「なっ、なにって、こいつが持っていくからさぁ!」

「一人で追うなと言ったろう」

 そういや何か言っていたが……。

「焦ってて聞こえなかったんだよ……。それはともかく、ワルドたちは向こうか?」

「ああ、先ほど見てきたところだ。向こうで戦っている」

「そうか、加勢しないと」

「いや、戦力は充分のようだったぞ。それよりお前だ、消耗しているのではないか?」

「まあ……疲れていない訳じゃあないけれど……」

「ではさっさと休め。みな一斉に休息を取ると効率が悪いだろう」

「確かにそうなんだが、仲間が戦ってるのにさぁ……」

「うるさい、一旦戻るぞ」

 うーん、そうした方がいいんだろうが……。

「なんだ、もう休むのかわん?」

 黒エリはアテナを睨み、

「暇なら飼い主の警護でもしていろ」

「エリゼの戦いぶりをもっと見たかったわん」

「そのうちいい機会があるだろう」

 アテナは犬歯をむき出しに笑む……!

「エリゼは私に勝てないわん。魔術が感情の影響を受けるように、その体を嫌悪している内は本当の力が出ないわん」

 本当の力が出ない……?

「ふん……行くぞ、レク」

「また遊ぶわーん!」

 振り返るとアテナが元気よく手を振っている……。遊ぶって、お前が一方的に楽しんでいただけじゃないか……。

「あれに付き合うな。よいことはないぞ」

「いやだから、銃をね……」

 そういや、俺まだ一発も撃っていないな。まあ、そのうち否が応にも撃ちまくることになるんだろうけれど……。

「いったい、何をしていたのだ?」

 俺はさっきの話をする……。

「骨に?」黒エリは自身の手を見やる「だから魔術が使えなくなったのか……」

「おっ、お前、使えたの?」

「昔はな、いや、大したものではなかったが……」黒エリは唸る「しかし、この体になってからはまったく駄目だ」

「そうなのか……」

 まあ融合した兵装との何やらが骨に刻まれているんだろうしな……というところで、先ほど過ぎった懸念を思い出す……。

「なあ……俺がお前を黒エリって呼んでいたのはだな、服が黒かったからなんだよ」

 黒エリはふと、俺を見やる。

「何だ、いったい?」

「いや、黒エリっていう呼び方が嫌だったんじゃないかなって、ふと思ってさ……。だからそうだ、エリゼって呼んでも……」

 そのとき、黒エリが俺の頬を掴む!

「その呼び名はやめろ。黒エリでいい」

「で、でもよ……」

「ふん、当初こそ少々苛立ったものだがな、今は何とも思っていない」

「そ、そうか……?」

「むしろ気に入っているよ……少しだけだがな」

 黒エリは小さく微笑み……そして手を離した。おお、また恐ろしい握力でつねられるかと焦ったぜ……!

 でも……そうか、じゃあ、甘えさせてもらおうかな……。いまさら呼び名を変えるってのも、何となく小恥ずかしい気がするし……。

 そして部屋に戻ると、エリとホーさんがいた。

「ホーさん」

 ホーさんは俺を見やり、

「屋上での戦いは……過酷であったようですね……」

「ええ、でも、まあ、余裕でしたよ!」

「どこがだ」

「そ、それより大変なことになってきましたね」

「それほど相手も本気ということ……。加えて、彼女が掻き回したようですね……」

「そうです、いったいどういうことなんですか……?」

「彼女の行動には意図があったりきまぐれであったり……予測は困難です……。それよりこの先の展開が気掛かりですね……」

「この先……?」

「ヘルブリンガーを使用したとなると……よほど用意周到に計画したはず……。それが多少崩れたからといって……計画を放棄してしまうとは思えません……」

「追加で何かしてくると……?」

「ええ……」

 確かに、あれだけの数の魔物を呼び寄せたんだ、相当な労力だったろう。このまま終わらせるのは惜しいはずだ……。

「懸念はあるでしょうが、いまは休んだ方がいいと思います」エリだ「みなさまが戦っている側で眠るのはいささか心苦しいですが……」

 うん、そうなんだよな……。

「先ほどレクにも言ったが、休めるときに休むべきだ。みな一斉に休むと隙だらけになってしまう」

「地下にお風呂があるそうですよ……」ホーさんだ「それに、お食事も常に準備されているそうです……」

 風呂に飯か……。まあ、黒エリの言うことももっともだし、一足先に入ってこようかな……とも思うが、やっぱりあれだなぁ、いまこの瞬間にもワルドたちが戦ってるんだろうしなぁ……。

 エリも同じ気持ちなのだろう、腰が重そうだ……。

「やれやれ、ほら行くぞ!」

 俺たちは黒エリに無理やり立たされ、引き摺られていく……。

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