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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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歪さと衷情

 ワルドの話は続く。

「その少女は背筋が凍るほどに美しかった。緑閃光のように稀有な瞳、未踏の雪原のような白い肌、豊潤な麦畑のようにゆれる髪……道を行けば振り返らぬ者がいないほどに恵まれた容姿をしていた。しかし、私はその美貌に……いいや、その雰囲気に異様な不安感を覚えていた。まるで人形であるかのように生命感に乏しく、感情を持たぬような、えもいわれぬ感覚……」

 感情を持たない、か……。この前の様子を見る限りでは、むしろ感情豊かに見えたが……。

「しかし、私たちはいわば同期の仲、距離を置く訳にもいかん。私はなるべく朗らかに接することにした。しかし、少女は温かみもなく微笑むばかりで信頼関係は築けなかった」

 今じゃあ、向こうからちょっかいかけてくるのにな……。

「まあ、世には反りが合わぬ人間も多々おるだろう、私はそう思い直し、まずは目先のことをしっかりとやってゆくことにした。専属魔術師に望まれておったのは、戦略的に有効な魔術師部隊の構想と編成であった。なるほど難儀は必至の要求であり、同僚の先達も五里霧中の状態にあった」

「魔術師部隊か……」黒エリだ「レジーマルカにおいても極秘にてその研究はなされていた。隊の人員が増えるほどに安定しないがゆえに、少数人数にて部隊を運用すべきという結論に達したようだ」

「うむ。魔術は感覚的な要素が強く、それを呪文や仕草など一定の決まりごとにて型に収め、安定性を実現するものだが……その過程には個人差が強く、集団となるほどタイミングが噛み合わぬのだな」

 そういうものなのか……。俺は使いたいときにすぐさま使えるが、それはおそらく電撃を発するという一点にのみ特化しているからなんだろうな。逆に、多数の複雑な魔術を扱うには相応に不自由さが付きまとうようだ。

「ゆえに、大軍による一斉攻撃は困難であり、攻防や距離に応じた小規模の編成を組むことが有効と考えられた。そして四、五人の班がこれまた四つか五つ、これを状況に合わせて分離、合体させるという戦略が妥当と見なされることとなる。その点についてはレジーマルカとおそらく同意見であろう」

 黒エリは頷く。何やらその手の話に詳しそうだが……そういやあいつは魔術とか使えるんだろうか? 少なくともそういう場面を見たことはないが……。

「いや、この話はよいか。ともかく私は要求に応えんと四苦八苦している内に……なんというのか、地が出てきたのだな。もともと田舎育ちの上に世間の際を歩んできた男だ、表向きこそ態度に気を付けておったが、切羽詰まれば徐々に化けの皮も剥がれてくる訳だ。しかし、それがかえってよかったのか、徐々にクルセリアの態度にも親しみが現れてくることとなる。そして気が付けば喧嘩をしたり笑い合ったり……その頃には師匠やポージー、他の組合の仲間たちも遊びに来ておったりと、忙しくも賑やかな日々がしばらく続いた。あの時こそ二つ目……いや二つ目は組合時代か、三つ目の最良の時であった……」

 そうか……。あの魔女とも、そういう時代があったわけだ……。

「そう、思い出した、クルセリアは実にひどいイタズラ好きであってな、忘れもしないあの月夜の晩、食後に一杯やろうとグラスを用意し、その隣に酒瓶を置くとな、グラスがテーブルより滑って落ち、割れてしまったのだ」

 ワルドの語調が徐々に明るさを取り戻してきた。イタズラ好きか、いかにもそんな感じはあるな。

「はておかしいなと思い、別のグラスを持ってくると今度は酒瓶が滑って割れた。そんな馬鹿な、テーブルが傾いておるのかと思えばそうでもなく、嫌な予感を抱きつつも、また酒瓶を持ってくるとやはりグラスが滑って割れてしまう……。私は察した、酒瓶とグラスを近付けると反発してしまうのだと。そして憤慨した、なんと意地の悪いことをする輩がいるものかと。そこで犯人を捕まえてやろうと熱意を燃やすわけであるが……すぐに思い直すこととなる。だいぶ夜も更けておったし、ここで犯人探しに躍起になるより、美酒をあおってやることがひとまずの勝利に思えたのだ」

 それは単に酒を飲みたかっただけじゃないのか……。

「そこで食堂にある酒樽に向かうことにした、グラスを持ってな。そしていざ酒樽の前に立つと……ガタガタと酒樽が震えるではないか。嫌な予感が胸中を過ぎった次の瞬間、ついに酒樽が動き出し、あまつさえ転がって逃走を開始するではないか!」

「ええ……?」

「私は追った、ええい今宵は満月、逃げるな月見酒と! しかし酒樽は通路を走り、階段を上り、あまつさえ空まで飛んだ、月に向かってだ! これは確かに月見酒……いや違う、なんということだと呆然とし見送っていると、後ろからクルセリアの含み笑いが聞こえてきた……!」

「おお……?」

「酒の恨みは恐ろしい、私は勢いに任せて飛びかかった。しかし私の両手は無様にも宙を切り、体は床に落下することとなる。なにゆえこのような仕打ちを受けねばならぬのか、私は問いかけるように彼奴を見上げた。するとどうだ、さも嬉しそうに笑っておるではないか! そこで憤怒が再燃するわけだ、私は立ち上がり、のしのしと彼奴に詰め寄らんとした。すると彼奴は私が歩んだぶんだけふわりと後退するのだ。そう、我々もまた、酒瓶とグラスの関係そのままに反発し合っておったのだ。彼奴は笑いながら状況を説明した。なんでも召喚魔術を応用したイタズラであるらしい。後で気付いたが、衣服の背面に奇妙な文様が描かれておったよ」

「召喚、魔術……?」

「うむ。ある印を対象に与え、それに対応するもうひとつの印を呼び寄せたい場所に置くと、対象はそこへ引き寄せられてしまうようになるのだ。あのときの魔術はちょうどその逆であるな」

「へええ……」

「追っても追っても彼奴は風に舞う木の葉のごとく逃げ去ってゆく。しかも、大笑いしながらだ! いっそ火球でもぶつけてやろうかと思ったものだが、それよりよい方法があった」

「それは……?」

「川に落としてやるのだ。私は怒ったふりをしつつ、内心ほくそ笑みながらクルセリアを追った。王宮を出て、道行く人々の奇異な視線を浴びつつ市街を駆け抜け、ついに川辺に辿り着いた。そうしてにじり寄るわけだ、すぐにその笑みを消してやるとな……!」

「お、おお……」

「さあ、とどめだ! 私は突撃をした、しかしその刹那に私は直感することとなる、これは罠だと! なぜなら彼奴は後退せず、両の手を大きく広げておったからだ!」

「おおお……!」

「これはまずい、私は踏ん張り、勢いを押し留め、なんとか彼奴の罠を回避した、そう思った直後だ!」

「な、なんだ……!」

「なんと、羊にはねられたのだ!」

「おお……えっ?」

「羊だ!」

「ええ……?」

「羊だったのだ!」

「羊……」

「一際大きな!」

「大きな……」

「そう、私はもんどり打って地面に倒れ伏し、起き上がったときには既に彼奴の姿はなかった……」

「おお……」

「帰り道はなんだかとても虚しかった……」

「だ、だろうな……」

「うむ……」

 ワルドは俯く。俺も俯く……。

「……うむ? いや、なぜこんな話など、彼奴との話など下らん。それより王子の話をしようか」

 いや、下らんってことはないだろう……。話している最中は楽しそうだったし……。

「ランディール第四王子だ。彼はとても気さくな好青年でな、何者とも分け隔てなく接することのできる度量の持ち主であり、そして私の親友でもあった……」

 親友、か……。

「彼と私とで、王宮内にて起こる問題を幾度となく解決に導いたものだ。そして……これはある種、失礼なことかもしれんが……レク、君によく似た男だったのだよ」

 ああ……そういえば、出会った当初にそんなことを言っていたな。

「いいさ。今があるのもワルドが声をかけてくれたお陰だしな」

「そう言ってくれると有難い。無論、とっくに同一視などはしておらんよ。君は君で彼ではない」

 俺は頷く。思い返せば、魔女も似ているだの似ていないだの言っていたな。

「……そうだ、あれは王子とともに解決をした話とは少し違うが、とりわけ印象的な話があった。王宮内にて起こった大臣の死にまつわる話だ」

「大臣の……?」

「王宮の一角にある、酒や漬物などを保管する貯蔵庫にて死体が発見されたのだ。死亡しておったのはユーグス・カミューラ家政大臣。生真面目な紳士で、それは衝撃的なことであった」

「かなりの大事じゃないか」

「うむ。鍵は内部よりかけられ、死体の側に落ちておった。部屋は堅牢な石造りで鼠が出入りできる隙間もなく、窓もない。唯一の出入り口はひとつの扉のみであった」

「し、死因は?」

「短剣による胸部への一撃。心臓をひと突きだ、即死であったろうな。ちなみに凶器は遺体の側、血だまりの中に落ちておった」

「ほう……」

「鍵を管理しておったのはウィリッパー・ハポン氏という、カミューラ大臣の側近で、彼が第一発見者であった。発見に至った経緯はこうだ。鍵を貸したまま一向に返ってこないので、貯蔵庫へ様子を見に行くと……血のような異臭がした。慌てて近くの魔術師に頼み、扉を破壊したところ、大臣の遺体を発見したとのことであった。ゆえに、まずは彼が疑われることとなる」

「まあ、そういう狂言かもしれないしなぁ。そもそも大臣はなんで貯蔵庫へ?」

「漬物の具合を見たいとのことで、鍵を借りることはよくあったらしい」

「漬物……」

「野菜の酢漬けであるな。大臣の趣味でもあったそうだ」

「鍵が室内にあったんだろう? だったら状況からして自殺も考えられるが……短剣があるんだもんなぁ……。合鍵は?」

「ないとのことであった」

「じゃあ、腑に落ちないが、まあ、自殺かもなぁ……」

「しかし、私は殺人の可能性が高いと考えた。世には魔術という便利なものがあるからだ。それは王たちも考えておったようで、王宮内の魔術師全員に命令が下ることになる。魔術による殺人の可能性を踏まえ、犯人を探し出せというな」

「おお……なにやらかっこいいな」

「我々は考えた。自在に鍵を開ける魔術など存在するのだろうか? これは何とも言えなかった。解鍵の魔術は噂こそ聞くものの、実際に目の当たりにした者はいなかったのだ。一応、王宮内にてそれを禁ずる法はあり、一人一人、そういった魔術を扱えるか、詰問があった。しかし、誰一人として、扱える者は見つからなかった」

「でも、隠すことはできるだろう?」

「うむ。とはいえ疑わしいだけではな。解鍵の魔術に関してはそこで手詰まりであったので、次は鍵を複製する魔術へと疑いが向けられることとなる」

「ものを複製できる魔術だって? そんなのあるのかい?」

「うむ、これは充分にあり得た。まったく同じという訳にはいかないが、ものを複製する魔術は実在しておるのだ」

「へええ、そいつは便利だな。シューターの刃をいくらでも増やせそうだ」

「見た目はともかく、材質や強度まで同じとなるとなかなか難しいぞ。それでも刃くらいならばさほど困難ではないが、消耗とは釣り合うまい」

「そうか……。なかなかうまい話はないもんだな」

「さて話を戻すが、複製を作るには本物の鍵を手にしなくてはならん。そこで我々は疑惑の渦中にあるハポン氏に尋ねた。大臣以外に鍵の貸し借りはあったのかと。だがハポン氏はそれを否定した。貸し借りをする相手はカミューラ大臣のみで、他の者に貸した覚えはないというのだ」

「でも、それじゃあ……」

「うむ、疑惑が強まるだけであるな。彼ならば魔術に頼らずとも鍵の複製をつくることができる立場にあるのだから。しかし、彼が犯人とはどうしても思えなかった。もし彼が犯人だとしても、殺害現場に自分が管理している貯蔵庫など使うものだろうか? これではあまりに愚か過ぎる」

「それはそうだよな……。じゃあ、何者かが深夜にでもこっそり忍び込んで鍵を複製したのかも」

「うむ、我々もそう考えた。しかし、そうなると今度はどうやって彼の私室の鍵を開け、忍び込んだのかという話になる」

「確かに……。じゃあ、風呂に入っている間とか?」

「いいや、彼は鍵をいつも持ち歩いており、風呂に入るときにすら手放さない徹底ぶりだったそうだ」

「そうか……じゃあ、貯蔵庫の鍵を盗むのはいろいろと面倒だなぁ……」

「ハポン氏に罪をなすり付けようとした可能性はある。しかし、彼はいかにも善良そうな人物で、恨みを買っていそうだとの噂もなく、むしろ親しまれておった。しかし、そうなってくると捜査は行き詰まることとなる……」

「うーん……」

「鍵の線ではどうにも手詰まり、そう見た我々は、別の可能性に着目した。壁抜けの魔術などはあるのか? それとも幻惑ないし洗脳の魔術で自殺させたりしたのでは?」

「……どうなんだ?」

「壁抜けは可能だ。壁を破壊、もしくは変質させて通り抜け、後で取り繕う。しかし、まったく元のまま通り抜けることはできん。ゆえに入念に調べれば分かるもので、調査の結果、これは否定された。また、幻惑ないし洗脳をして自殺させることは可能か? これも可能だ。しかし、それらの魔術にて死を選ばせることは非常に不安定で困難なのだ。時間をかけてひどく落ち込ませ、そういうことをしてもおかしくない精神状態を作ることは可能だが、それには時間がかかるし、その分、発覚もしやすい。そして大臣だが、そのような兆候はなかったと聞く。また、即効性のある強烈な精神攻撃は狂乱して暴れる可能性が高く、これもまた、そういった兆候はなかったという結論に落ち着いた」

「じゃあ、けっきょくは複製か……?」

「うむ、私もそう考えた。しかし、やはりそこで行き詰まることとなる。怪しいのはもっぱらハポン氏のまま、それにもし彼の主張が不正確で、実際はずさんな管理をしていたとしても、複製による犯人の特定はどのみち不可能に思えたのだ」

「そうか……」

「ゆえに私は仕方なく、複製による特定不能という線で攻めることにする。犯人の候補はいくらでもいる、ゆえにハポン氏とは限らぬという論調でな。ハポン氏も当初は渋っていたが、無実を訴えるためだ、多少はずさんな管理もあったかもと証言を変えることにした」

「それで、どうなったんだい……?」

「王は私の意見を特に聞き入れ、少なくともハポン氏への厳しい追及はなくなった」

「おお」

「だが、私はとても驚いたよ。大臣殺しの可能性がある大事件にしてはあまりに甘い裁定であるし、何より、なぜ私のような専属魔術師ごときの意見を重視するのか、不可解であった」

「まあ……事件は解決してないもんな」

「そうして捜査は一旦終了し、我々はまた本来の任務へと戻ることとなった……」

「えっ? ちょっと待てよ、犯人は?」

「うむ、我々もそこが気がかりであった。ゆえに捜査の続行を申し出たのだが……上からのお達しは任務へ戻れの一点張りであった」

 そんな……。確かに魔術師部隊に関する任務は重要だろうが……王宮内にて大臣が死んだ事件を、曖昧なままなおざりにしていいものなんだろうか……?

「話はここで終わりではない。もやもやとした気分のまま研究に従事していたある日、王子が私の元へやってきた。そしてそこで驚くべき真相が語られることとなる」

「えっ、おお、真相があるのか! それは……?」

 室内に沈黙が満ちる。誰もがワルドの次ぐ言葉を待っていた。

「彼は自殺であった。忠義による死、それが真相だったのだ」

「じ、自殺ぅ? な、なんでっ?」

「犯人不在の状況こそがその目的であったのだ。なぜか? 王宮内にてもっとも恐るべきは、自在に鍵を開けることのできる魔術師の存在であった。それが可能な魔術師は王宮内に常駐してはならん。王族の命を守るためにもな。つまりだ、実際にそれが可能でも、今度の事件によって、その魔術の所有が発覚すれば……」

「真犯人と見なすことができる……! 確かに、犯人不在のまま終われば、自然と相互に監視させる環境ができあがり、封じることができるな……!」

「その通り。無論、完璧にとはいかんだろうが、疑心暗鬼は強力な防波堤となり得る。そして王宮内にて解鍵の魔術を使用した者に対する罰則も非常に重いものとなった。彼の死は、このためにあったのだ」

「な、なんてこった……」

「私たちも推理したのではなく、させられておった訳であるな。すべて計算ずくという訳だ」

 な、なんという周到さ……!

「し、しかしなぜ、そんな重大な真相を……?」

「無論、多言は絶対無用であった。これは王族だけの秘密であったのだ。彼はあくまで友情のために、私だけに話したのだな……」

「そうだったのか……」

「恐るべきは大臣の忠義……。ゴッディアの王は確かに傑物な人格者であったが……正直、身震いがしたよ」

 凄まじいな……。俺には到底、理解ができないことだ……。

「で、でも、まあ、確かに鍵の問題は重要だよ、それは分かるけれど……王族の安全を守るにしてはやや側面的に過ぎないんじゃないのかい? やばいって話なら密告者や暗殺者だってやばいだろう。たかがって言っちゃあ何だが、鍵のために大臣が命をかけるのは……」

「うむ、その通りだ。鍵の問題には一理ある、しかし理知的かつ忠誠心の高い大臣はある意味国の宝だ、そうやすやすと散らしてよい命ではない。そして王も臣下の命を軽んずるような人物ではなかった。つまり、王族を守るため、というのも理由の一端に過ぎないのではないかという疑問が浮かんできたのだ」

「何か、とんでもない至宝でも保管されていたとか……?」

「ここであの男、デヌメクネンネスの話をしなくてはならん」

 デヌメクか……旧知らしいからな。

「思い返しても不思議なのだが、あの男はいつの間にか、さも当然のごとく我々の近くにいた。目立つ訳でも、目立たぬ訳でもなく溶け込んでおった。何かを問えばいつも無難な言葉が返ってきた。かと思えば、リザレクションの話など、いったいどこで知りおおせたのか分からぬ知識を語ることもあった。しかも、かの事件の真相をも知っておった。ゆえに、私は彼に相談してみることにした。あるいは、この王宮にはとてつもない秘密があるのではないかと……」

「おお……」

「驚くべきことに、彼はあっさりと肯定した。ゴッディアの王宮の地下には滅んだ地底都市へ続く道があるのだと……」

「地底都市……」

「そして、そこへ続く深紅の門は魔術でしか開くことができないらしい」

「つまりは、解鍵の魔術は実在するってことなのか……!」

「その通りだ。門を開けることができる魔術師を恐れるがゆえの、あの計画であったのだな」

「それでも王宮には魔術師が必要だったってことなのかい……?」

「うむ。人口、軍備ともに周囲の列強に押されつつあるゴッディアは、魔術師という質の高い戦力を求めざるを得なかったのだ」

「まさか王宮への出入りを禁止する訳にもいかないだろうしな……」

「そのようなことをすれば大いなる反感を買うことは目に見えておるからな、隣国より脅威となろう」

「なるほど、苦肉の策ってことか……。それで、その地底都市にはいったい何が……?」

「分からん、あの男もそれ以上は語らなかった」

 あの地下施設みたいな世界が広がっているのかね……?

 ワルドはひとつ、大きく息を吐いた。

「……組合時代から専属魔術師時代まで様々なことがあった……。さて、その最後を締めくくり、そして今の私に至るまでの話に移ってゆこう……」

 ワルドの話はさらに続く……。

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