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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
39/149

半身

 凄まじい光……! そして激しい揺れ、反射的に机の陰に隠れる、あの光は何なんだ、爆弾なのかっ?

 しかし、ついぞ爆風がこないまま、閉じた目に触れていた光の刺激が弱まってくる、終わったのか……?

 まぶたを開くが閃光の影響でチカチカと鬱陶しく眩い。それでも目を凝らし、堂内の様子を窺うと……中央付近に魔術による防御壁が張られてあることに気付く。なるほど、助かったのはあれのお陰か……。

 防御壁は徐々に薄まり、消えていく。その過程は疎らで、幾重にも重ねられていたことを示唆していた。魔術師一同が助力し合って防いだのだろう……って、消え去った防御壁から人の形をした何かがいっぱい現れたぞっ! なんだあれは、魔物なのかっ?

 というかみんなは……ああ、無事のようだ! ワルドはさっそく謎の群れに立ち阻み、衝撃波で吹っ飛ばしている!

 それにしてもいったいどこから涌いて……おっと、上から降ってきている……? 見上げると天井に大穴が、そうか、爆発は完全に封じるより指向性を持たせた方がさばきやすい、あの穴は防御壁で力を上へ逃がした跡というわけだ。穴はこの建物を貫いたのか、雨水らしきものが堂内に入り込んでいる……。

 しかし、つい先ほど空いた穴に魔物が入り込むなんていかにも早過ぎる、これは襲撃の第二波と見るべきだろう。そしてその容疑はもちろん爆弾を持ち込んだ野郎の一味、それを証明するかのように奴らの姿が見当たらない……!

 おっと、あれこれ推測している場合じゃない、俺の方へ魔物たちがやってきたぞ! そしてエリの鳥たちも俺の元へ集まってきて……肩にとまった。へえ、とまることもできるんだ。なんだか和むなぁ……ってそんな場合でもない、俺は後退しつつ魔物を観察する。

 奴らは泥か何かで出来ているみたいだ、顔は申し訳程度にでこぼこしているだけ、まるで子供がつくった泥細工、動きも散漫で、爪や牙も見当たらない。ぬるぬるしていて不気味だが、脅威は小さいように見える!

 試しに腹を蹴りつけてやる! 泥人間はよろけて倒れた、そこに踏みつけの追撃、腕や足はあっさりと砕け、半壊に至るとただの泥に還った……。なんだ、やっぱり弱いじゃないか!

 それゆえにか、堂内に混乱は見られない。皆、臆することなく確実に対処しているようだ。

 とはいえ、次から次へと際限なく落ちてくるぞ、皇帝派の巨漢がでかい斧を振り回し積極的に蹴散らしているものの、数はあまり減っているように感じない……。

「ふん、つまらぬ真似をっ!」

 サラマンダーが前に出て、かざした槍が炎をまとう! そして泥人間たちを炎の渦が襲い、一気に焼き尽くした!

「ヴァーミリオン、奴らを探せっ!」

「えっ? 向こうにいますよ」

「我々には見えんのだ!」

「ああ、そうなんですか」

 シフォールが得物を構える! 金属の光沢がない片刃の白い剣、縦に赤い線が一本入っている、印象からして遺物くさいな……!

「小細工は無駄ですよ。ほらっ!」

 斬撃から赤い弧が飛んだっ! しかし狙いは机の上、その宙空……?

「あっ、アアーッととと!」

 突然、仰け反った男が現れた! そいつはそのまま落下し、机の陰に消えた……と思ったら、肩を竦めたままアホみたいな顔してニョッと立ち上がる……。

「なんちゃってぇー」

 鮮やかなグリーンのモーニングコート、それにピンクのウェストコート、なのに半ズボン……。そして頭は金色と黒の七三分け、妙な格好の奴だぜ……。

 おっとシフォールが跳んだ……次の瞬間、彼がいた場所が凍りつく! 変な男の仕業じゃない、いつの間にか紫色の鎧を着た、青白い顔の男が現れている……!

「無駄だって言いましたよね」

 着地と同時にシフォールが駆けたっ! そして紫の男に斬り付けるが……その斬撃はかわされ、反撃で一撃を見舞われたっ……!

 シフォールはなんとか得物で防御したようだが、後方に吹っ飛ぶ! 辺りには氷の塊が散乱している……。

「当てこするわけではないが、ここで挑むことこそ無駄なことだぞ」

 シフォールは笑みを浮かべて立ち上がる……! そして紫の男の傍にドクロを象ったローブを着た女と、身体中縫い目だらけの男が現れた。堂内の空気が張り詰める……!

 しかし奴ら、たった四人でやり合うつもりなのか……? いくら腕自慢でも勝算があるとは思えないぞ……!

 そのとき轟音が響く! 見ると魔術の防御壁があったところに瓦礫が積み上がっている、穴が崩れて落ちたか……いや、それだけではない、あの金銀の鎧……爆発させた張本人だ! ずいぶんとボロボロだが動いている、生きていたのか……! 先ほどとは違い、全身が鎧で包まれている。

 というか、泥人間がまた増え始めたな、ゆっくりとこっちにやってくる……。

「大人しく投降するならば……」おっと、主催の老人が口を開いた「楽に逝かせてやってもよい」

 それを聞いて、妙な服装の男が身をよじらせる……。

「だってぇ、どーしよう?」

「まさか、しくじるとはな」紫の男だ「黙って起爆する、なぜこれだけのことが出来なかったのか……」

 た、たしかに……。いかにも何かありそうな感じで前に出てきていたしな……。

「まあ、あれで仕留め切れるとも思っていない。どのみち今日は挨拶をしにきただけだ。これにて失礼する」

 奴らが踵を返すが誰も追撃の構えを見せない……。おいおい、このまま見送っていいのか……? と思ったそのとき、三人がドロリと溶けて消えた……。残ったのは変な服装の男と爆弾野郎のみ……。

「だから欲張るのはやめろって言ったのにぃ……お馬鹿サンッ!」

 妙な男はおどけるように身を揺らして笑う……。金銀の鎧の男は仰け反り、

「き、貴公ら、傀儡だったのか……」

「当たり前じゃない! 俺様たちまでフッ飛んじゃうでしょ! それにしくじったらご覧の通りに多勢に無勢、そんなプランあり得ないって! まあ、それでもアンタの自爆に少しは期待してたのよぉ? でも案の定だよ、余裕ぶっこいてそのザマァ、なら傀儡で大正解! 分かるかい? 俺様だけなの、ちゃーんとココに来たのはね! 成功してたら死んじゃってたよ、ハハハッ!」

「おお……我が友よ!」

「そうさ、俺様だけなんだよアンタみたいなクズと仲良くやれるのはさ!」

 そこで老人の取り巻きが動き始める……!

「おおっと待て待て、あんたらとはやらないよ! 逃げるがキング、今日はホントに自己紹介しにきただけなの、みんな俺様のこと知らないでしょ? ずぅううううっと日陰者だったからね、ね、ね!」

 妙な男は聖騎士団の方へ向けて語気を強めている……。彼らと関係があるのか……?

「はじめましてこんにちは、俺様はルドリック・ルーザーウィナー! 誰が世界のキングになるか、勝負だね!」

 そして男はドロリと溶けた……っておい! けっきょく偽物なんじゃねーかっ! そして泥人間たちも崩れ果てたぞ、あれはあの男が操っていたようだ……!

 残るは爆弾野郎だが……周囲に皇帝派の巨漢や狼男、機械人間たちが取り囲む……。

「どこまでも無様よの」

 そして、滅多打ちが始まる……! マジで袋叩きだ、ものすごい打撃音が続く……!

 しかし奴はまだ動くぞ、四つん這いのまま、出入り口まで這っていこうとしている……!

「あの鎧は硬化すると驚くべき強靭さを発揮するのです」

 うおっと蒐集者が側にいるぅ!

「驚かすなよ!」

「ただし柔軟性は大きく下がり、ぎこちない動きしかできなくなりますがね」

「しかし、強靭にも程があるだろう……」

「さらに自己修復機能をも有しておりましてね、鎧そのものはもちろん、装備している者をも再生してしまうなど、防御面ではほぼ完璧と言える逸品となっています。体内に埋め込まれているであろう核を破壊しない限りは、殺すことは難しいでしょうね」

 た、確かに、吹っ飛ばしたはずの手が元に戻っている……!

「ほ、ほとんど完璧な防具じゃないか」

「いいえ、致命的な欠陥があるのですよ」

「……欠点だと、それは?」

「秘密です」

「何でだよ!」

「あまりに致命的なので、ついつい秘密にしたくなるのですよ。それより見てごらんなさい、あの姿を、そしてその周囲を者どもを……」

 爆弾野郎はまだぶっ叩かれている……。周囲の者って、みんな遠巻きに眺めているだけだが……?

「彼を痛めつける者、その様子にほくそ笑んでいる者、呆れ果てているもの、目を背ける者……。しかし止める者は誰もいない」

 そりゃあ、あんなことをする奴だしな……。

「あなたは、どうします?」

「ええ……? まさか、俺が止めるとでも思っているのか……?」

「ええ、ほんの僅かには」

「俺が殺されちまうよ!」

「しかし、あの有様をどう思いますか?」

 確かに……痛ましいとは思うがな……。

「……まあ、人はよく過ちを犯すもんさ。飢えて稼ぐあてもなければ盗みもするだろうし、小さな諍いから喧嘩をしたり、あるいは弾みで殺してしまったりもするだろう。もちろんそれらの場合も罪は罪だが……人間として悪人とは限らないってこともよくあるとは思う。人は環境に大きく左右されるもの、心身ともに健常に生きられることは幸いなんだ」

「なるほど」

「でもな、こういう場に爆弾持ってくる奴はそういうのとは違うだろう、どう考えても悪意に満ちているとしか思えないぞ……!」

「ええ、彼は虚栄と悪意で動く愚者そのもの、情けをかけるほどの存在とは言い難いところがありますね」

 やっぱりどうしようもない奴なんじゃないか……!

「……というか、奴は栄光の騎士ってやつなのか……?」

「そうです。国を崩壊へ導いた男」

 ほ、崩壊へ……? 何をしでかしたんだ……。

「おぬし、蒐集者であるな」

 おっと、いつの間にやらみんなが集まってきている。

「ええ」蒐集者は頷く「しばしの間、仲良くしましょう」

「しかし、いずれ決着は付けようぞ。おぬしに奪われ、凌辱された者たちの仇を取らせてもらう」

 蒐集者は深く笑む……。

「それはこのレクテリオルが果たすべきこと、あなた方が介入したとて、ろくなことにはなりませんよ」

 何だよその断定は……。

「あ、あの、どうしましょう……?」

 エリがそわそわしている。やはり袋叩きは見るに堪えないようだな。まあ、俺も同感だが……。

 仕方ない、止めて止まるとも思えないが、口を挟んでみるか……。

 俺はソロソロと皇帝派に近付き、シフォールに語りかける。

「……なあ、あいつ無駄に頑丈みたいだし、闇雲にやるより、あの鎧を調べて弱点を探った方がいいんじゃないか……?」

 シフォールは奴を凝視する……。

「そうですね、一見して弱点らしいものは見えませんし、このままでは単にやかましいだけですよね」

 シフォールは動き、皇帝の元へ。皇帝はちらりとこちらを見やると、巨漢に命じて殴打を止めさせた。そしてそのすぐ後に、老人も停止命令を出す。堂内は急に静かになった……。

「どうにも埒が明かない様子。後に有志を募り、こやつの鎧を調査することにしよう。そして身包みを剥がした後に、じっくりと拷問にかけることにする」

 老人が嫌な提案をする。拷問ってなぁ……。

 そうして栄光の欠片もない騎士は鎖でぐるぐる巻きにされ、タキシードたちに引き摺られていった……。

 さて……会食もおじゃんだし、この建物にも大穴空いたし、これからどうするんだろう……と思っていたところに、また老人の言葉……。

「このような事態となってしまい残念だ。しかし残る諸君は同様の危惧を抱く同志と信じている」

 その後、老人はある案を持ち掛けてくる。どうやら、それぞれの集まりに自身の近衛を配置するつもりらしい。その方が互いに意思の疎通がしやすくなるし、要所への案内も容易となるとのことだ……。

 信じてるとかぬかした矢先に監視役の派遣かよ。しかし、どこからも異論は出てこないようだ……。

 そうして話は終わり、解散の流れとなった。といっても、ここでの宿泊は自由らしい。まあ、ここも安全とは言い難いが……外よりはマシそうだし、どうしたものか……。

 ふと見やると、蒐集者が飛び散ったカードやコインを集めている。そして三十八枚、俺に手渡してきた。

「これはあなたのものですよ、レクテリオル」

「そもそも、何のためにこのコインを……?」

「何事にも、してきたことの証は必要でしょう? それに他にも様々な蒐集品がありますよ、いつか、お目にかけましょう」

 いや、いやいや見たくない……。

「本当に、仲のよいことだな」

 おっと、皇帝とその一派だ。相変わらずサラマンダーの視線が厳しい……。

 皇帝は俺を一瞥し、鼻を鳴らして去っていく……。

「おやおや、どうにも気になる様子ですね。見覚えのない若者と懇意なことが不思議なのでしょう」

 懇意じゃねえけどな……っていちいち否定するのももう面倒くさくなってきた……。

「……そういや、なぜ老人の姿をしているんだ?」

「警戒され難く、何かと便利だからです。他にも青年や女性のものもありますし、できる範囲内でならお好みの姿になってあげてもいいですよ」

 青年はともかく、女性は嫌だなぁ……! 戦い辛いことこの上ない。

「というか……なぜ、そんな体に……?」

「大した理由はありませんよ。修行で欠損し、それを機械で補強、その繰り返しでこうなっただけのことです」

「なにぃ……? ど、どんな修行をしたってんだよ……?」

「それは追い追い。ではまた……」

 蒐集者が去ろうとしたとき……ふと、疑問が脳裏を過ぎった。そして思わず呼び止めると、奴は嬉しそうに戻ってくる……。

「なんでしょう?」

「あ、いや……。ちょっと、疑問に思ってな……」

「ええ、なんでしょう?」

 なんでそんなウキウキなんだよ……。

「さ、先ほど、凍える者を救えなくとも受け入れろみたいなことを言っていたな。それもまた救済だと……」

「ええ」

「しかし暗黒城へ俺を誘うとき、お前は救済に関する不満を訴えかけていたように思う。これは矛盾ではないのか? やっていることの重大さに比肩できない不徹底さは不純に感じるぜ……!」

 蒐集者は深く頷く……。

「ええ、その通りです。果たされぬ救済、ひいては罰されぬ悪行への不満はありますし、そこに主の思し召しという神性を見出す畏敬の念もあります。そう、わたしもまた乖離する思いに翻弄されし愚者、そのことでひどく悩んだ時期もありましたとも」

「それで、その答えは……?」

 蒐集者は深く笑み、

「それは追々に……。少なくともいま言えることは、現状において、わたしの立ち位置は影に例えられるということです」

 影……?

「あなたという光に対する影、それがわたしです。人は誰しも永遠の不完全者、光と影の同居は胡乱を生み、羊水のように居心地のよい無知を呼び込むものです。しかしわたしたちはもはや赤子ではない。純潔さのない無知は堕落ですよ」

「言っていることがよく分からないぜ……」

「神性を得るには光か影か、どちらかに強く傾くとその有り様もはっきりしやすい。しかしそれは独りでは不可能でしてね、だからこそ半身が必要なのです」

「お前の半身が俺だと……?」

「そうです。あなたには信仰がない。ゆえに主に対し、都合のよい愚痴を垂れない。それにあなたは救済を可能を以ってよしとする。決して不可能に満足をしない。そして……」

「……何だよ?」

「いえ、だからこそ、わたしの半身に相応しい」

「……そんなのごめんだね。それに、そもそもが偶然に端を発した話だろう? よくそこまで俺なんぞに期待出来るもんだな、後にいくら後悔しても俺のせいにするなよ」

「同類同士、感じるものがあるのですよ」

「同類だと? 俺とお前がか!」

「眩い道を歩む者の影こそ色濃いもの、そこにわたしの居場所があるのです。そう、本当に愛すべきは……」

 そのとき、あの夢の光景が脳裏を過った。

 ほんとうに、愛すべきは……。

 ふと気付くと俺は蒐集者の胸ぐらを掴んでいたことに気が付く……。

「……やめろ、俺はお前の半身ではない」

 しかし、何だかバツが悪く、手を離す……。

 すると蒐集者が……なぜか、優しい顔を見せた……。

「不可能性はなにより強大なもの、それでよいのです」

 そう言い残し、奴は去ってゆく……。

 しかし、動揺は未だ、胸の内に溢れてくる……。

 いや、まさか……。

 あれは夢だ、そうじゃなくとも、そうじゃない、そう……。

「レクさん……」

 エリだ……。心配そうな顔で俺を見詰めている……。

「あやつの言動はすべて世迷言だ、気にするな」

 ワルド……。そう、そうだな、下らん戯言だ……。

「不可能性、か……」

 黒エリは、ぼそりと呟く……。

「ところでアリャ、君の同胞は何と申しておった?」

「トメル、イッテタ。アト、クラタムセンセー、イル」

 エリは首を傾げ、

「クラタムさんの先生……?」

「やはり彼奴らが本隊か。いささか奇妙だと感じておったのだ、フィンの命運、ひいては世界のそれをも揺るがす事態であるのに、若者ばかりを投入していたことにはな……」

「じゃあ、彼らは特に警戒しないとならないってわけだねー」

「うむ……」

「ところでフェリクス、彼奴らと何を話していた?」

「世間話さ、シス。どうにも彼らははぐれ者の集まりみたいだねー。あのご老人に拾われたんだってさー」

「ほう、それにしてもあの老人は何者なのだろうな? あの面子にして一目置かれる存在のようだが」

「うむ、知っておく必要があるな。無知ゆえ粗相をし、いたずらに状況を悪化させてしまう事態は避けねばならん」

「……レク? オーイ!」

 おっと……アリャの体当たりだ。

「ドーシタ? シューシューシャ、ムカツク、ブチコロス?」

「むかつく、か……。まあ、そうだな……」

「ブチコロース!」

 ああ、いつまでも気にしている訳にいかないな。けっきょく俺の中での問題だし、蒐集者への態度にしても八つ当たりに近いものだ。いくら敵とはいえ、何でも好き放題ぶつけていいわけじゃあない……。

「……ともかく、分かりやすい敵が現れたな。奴ら、エオの言っていた悪魔たちかもしれない。特にルドリックと名乗ったあの男……あるいは……」

「うむ、奇怪な輩よ、気を付けんとならんな」

「そろそろ僕らも動こうよ。みんな行っちゃったし、執事みたいなひとが待ってるよ」

 本当だ、堂内にはもう俺たちしかいない……。

 俺たちは執事に部屋を案内される。なるべく固まった方が安全だろうと、男女で三人ずつ、二部屋に分かれることになった。そして部屋に入ると、高価そうな調度品が高貴な雰囲気を漂わせて、俺たちを出迎えてくれた。思わず感嘆の声が出る。

「ここでは野宿が当たり前と思っていたけれど、まさかこんなにいい寝床にありつけるなんてなぁ」

「うむ、僥倖であるな」

「野宿は辛いよねー」フェリクスはあくびをする「というかさ、今後どうするの?」

「俺たちがすべきなのは仲間探し……かな」

「仲間って?」

「皆が皆、大巨人の力を欲しているとも思えん。少ないかもしれぬが、我々と志を同じくする者がおるやもしれん……という話かね?」

「うん、グゥーとかそうじゃないか? スゥーやホーさんも狙っているようには思えないしな」

「彼らの場合、重要なのはガジュ・オーの意向であろうな。本音はどうあれ、頭領の命令ともなれば従うやもしれん」

 そうだろうか……? いや、彼らの関係は把握しきれていない、やはり楽観は危険か……。

「ともかく、安全に真意を探れる機会は今しかない。ここでまた暴れる輩が出るとも思えないしな。やるだけやってみよう」

 そのとき、ドアがノックされる。誰だろう、エリたちかな? まさか蒐集者じゃあるまいな……。

 俺は緊張混じりにドアに近付き、ノブを回した……。

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