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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
38/149

多幸・薄幸・残酷・虚無

 エリ二人はグラトニー7のところに、ホーさんやスゥー、それにグゥーも一緒か、談笑ってほどでもなさそうだが、穏やかに会話をしているようだ。

 アリャはもちろんフィンの戦士のところだ。事情を聞き出しているのだろうが、真意が語られることはないだろうな。

 フェリクスは……謎の狼男や機械人間と会話をしている? 知り合い……って感じでもなさそうだな、好奇心からか一方的に話しかけているようだ……。

 しかし、意外にも邪険にはされていないな。存外、話の分かる連中なのだろうか?

 そしてワルドは一人で酒をやっていたようだが、オ・ヴーが接近していき、何やら話をし始めた。

 さあて、俺はどうしたものか? この不可解極まる謎の男二人を相手にするのはしんどい……。

 ちらりと見やると、蒐集者が気味の悪い笑みを浮かべている……。

「どうです、ゲームでもしませんか?」

 ゲームだって……? 奴は懐からカードの束を取り出す……。

「悪いが、気が……」

 次に懐から出てきたのはコインの束、これは……!

「冒険者のコイン……!」

「これを賭けて、やりましょう」

「なに? しかし……」

「二十枚です」

 蒐集者はコインの束を差し出してきた……。

「これは差し上げましょう。ゲームに付き合って頂ける見返りです。負けてもそれを失うだけ、あなた自身からは何も出す必要はありません」

「なに……? 何か、裏があるんじゃなかろうな?」

「まさか。こうでもしないと、付き合って下さいませんでしょう?」

 まあ、たしかに……。好き好んでこいつと遊びたいわけもない。

 しかし……そうだな、このコインは冒険者たちの遺品でもあるんだ、たかがコインかもしれないが……どうにかしてこいつから取り返してやりたい気持ちはある。

「どんなゲームをするんだ?」

「ポーカーはどうです」

 ポーカーか……。おかしなゲームではなさそうだな。よし、やってみるか……?

「……分かった、やってやるよ。でもいいのか? そいつは大切な蒐集品なんだろう」

「ええ、大事なものです。まあ、最後には取り返しますので」

 俺を殺して、か……。

「私にもコインを貸してくれないかい」

 デヌメクもか? 蒐集者と二人だけでやるよりはいいな。

「ええ、よろしいですとも」

 そして蒐集者は近くのタキシードに話しかける。すると彼らは丸いテーブルと椅子を運んできた。それは円卓より少し離れた場所に置かれる。

「さあ、始めましょう」

 俺たちは着席し、ゲームが開始される。俺の右に蒐集者、左にデヌメクだ。蒐集者はカードの束をテーブルに置く。

「カードは全部で二十八枚。多幸、薄幸、残酷、虚無の四種がそれぞれ七枚ずつ、1から7までの数字と運命が割り振られています」

「運命……」

「手札は三枚、場に四枚の変形ホールデムでいきましょう。ルールはご存知ですか?」

「ああ……」

 確か、手札と場の札の組み合わせで役をつくるんだったな。場のカードは賭けが成立する毎に段階を追って開示され、その都度、役を巡る状況が変わっていくという、読み合いにはもってこいのルールだ。

 まあ、俺は読み合いとかあまり得意じゃないんだけれどね……。

「ラウンドは3段階。未開示、三枚開示、最後に一枚を開示するという流れでいきましょう。役はポーカーにならい、毎ゲームごとに最低一枚は賭けること、これでよろしいですか?」

「分かった」

「では始めましょう。親はまず、わたしがしましょうか。その左隣の方から始めましょう。つまりはあなたです」

 蒐集者は手慣れた手つきでカードを混ぜ、順に配ってゆき、それを終えると、テーブルの中央に四枚伏せて並べる。俺は眼前の三枚を手にした。

「うっ……」

 一枚は人々が仲睦まじく寄り添い合っている札……多幸の5、親愛……。二枚目は砂漠にて杖をつく一人の男……薄幸の5、孤独……。そして三枚目は険悪な雰囲気の数名……虚無の5、猜疑……。

 い、いきなり5が三枚も揃ったぞ……!

「このカードはよく占いにも使用されます。その手札、あるいは近い将来のことを暗示しているのかもしれませんね」

「占い、ね……」

「あなたからですよ」

 分かっているよ……! さて、今回は強い感じだな、二十枚か……。よし、五枚でいくとしよう!

「いい手がきたようだね。コール」

「そのようですね、同じくコール。では三枚開示します」

 一枚目は身なりのいい、しかしどこか薄気味悪い男の絵で……虚無の3、粉飾……。二枚目は死屍累々だ……残酷の1、壊滅……。そして三枚目は書物の山……多幸の6、叡智……。

 何だか、あまりいい感じじゃないように思えてきたな……。残る一枚が5ならフォーカードでかなり強いが、それがくる可能性は低そうに思える。場にワンペアが出来ればフルハウスだし、それを期待するしかないか……。

「さあ、どうします?」

「チェック……」

「レイズ、五枚上乗せする」

 うおっ……マジかよ?

「コール」

 蒐集者も乗りやがった……!

 さあて、どうする? さらに上乗せはちょっとないし、後は応じるか、降りるか……。

 でも降りたくはないなぁ、ここで降りたら最初の三枚が無駄になってしまう……。それにスリーカードだし……勝てる見込みはあるだろう……。

「コ、コール……」

 そして残る一枚が開示される……!

「残酷の5、迫害ですね」

 うっお……おおっ……?

 マジかよ、フォーカードじゃん、こいつは勝てるだろう! ここはレイズ……って待てよ……?

 デヌメクは得体の知れない男だ、魔術やら何やらで細工してすごい役を揃えてくるかもしれん、ここは気持ちを抑えて、一旦様子見をしよう……。

「チェック……」

 残る二人もチェックで、手札の開示……!

「わたしはフルハウスです」

 蒐集者の札は多幸の1、隆盛と……虚無の1、荒廃……そして残酷の6、詐欺……。

「ツーペア」

 デヌメクの札は多幸の3、賞賛と……多幸の7、恩寵……そして薄幸の7、不信……。

 おおっと、こいつは俺の勝ちか……!

 というかデヌメク、けっきょくツーペアかよっ!

 くっ……勝ったのに何か損した気分!

「……俺はフォーカードだ!」

「おお、これはこれは……面白い」

「うん、興味深いね」

 二人は俺の勝利より手札に注視しているような……? まあいい、これで二十枚の儲け、合計は当初の倍の四十枚になったぞ!

「ところでD氏」

「なんだい」

「もしや、賭け事は不得意でいらっしゃる?」

「ああ、私は弱いね、勝った覚えがあまりない」

「それ以上、貸しませんよ」

「そうなのかい」

 そりゃあそうだろう、いきなりあんな負け方するんだもん。

 というか、この二人って知り合いなんだよな。まあ、俺にはどうでもいいことだが……。

 そしてその後もゲームを続け、コインは増えたり減ったりしながら三十八枚、悪くない感じだ。しかしデヌメクは後二枚……。こいつ油断させるためとかじゃなく、本当に弱いんだなぁ……。

「レクテリオ聖騎士団……」

 ふと、蒐集者が呟くように言った。

「神性において、あなたとどちらがその名にふさわしいでしょうね」

「そんなの向こうに決まっているだろう」

 蒐集者は含み笑う……。なにが可笑しいってんだ。俺は唸り、

「ひとつ、重要な質問をしたい」

「ええ、何でしょう?」

「お前は本当に信じているのか? 悪しきを成せば、主がお前を罰しに降臨するなどということを……」

 笑みが消え、奴はじっと、俺を見つめる……。

「わたしの行為が徒労だとするなら、わたしによる数多の死にもまた、意味がないことになります。あなたが味わった苦しみもね」

 そうくるか……。

「……暗黒城には、被虐に包まれながらもその苦しみを肯定し、信仰に捧げる女性がいた。お前たちの信仰と彼女のそれは表裏一体、暗黒の循環だよ、とても閉鎖的で、救いがない」

「いいえ、あなたが救った。その光明は主の恩恵に違いありませんよ」

「俺はあるひとの言葉を紡いだに過ぎない」

「言葉を運んだのはあなたでしょう」

「いいや、ただの偶然だ。それは幸いだが、超越的な力が働いたわけではない」

「あなたにとってはそう見えるのかもしれません。ですが、事象はすべて主の思し召しに違いありませんよ」

「そう思いたいだけさ」

 突然、蒐集者は自身の顔を引っぺがし、骸骨の素顔を見せるっ!

「まだ分からないのか、救済とは、その者の手を取り、肩を貸し、焚き火の在り処まで連れてゆける恩寵に恵まれた者が宿す神性、その輝きのことを言うのだ、例えその道中で道に迷い、二人とも凍死したとて救済は行われている、しかし不信なる者どもは多幸、薄幸、残酷、虚無を秤にかけ、望まぬ結果を悪しきものと受け入れず、恩寵に疑問を呈し、その神性を試し、そればかりか主の存在までも疑い始め、昨日は来なかった、今日も来そうにない、ならば明日も、これからも来ないであろうと愚痴を垂れる、なぜ全てに感謝をしない、なぜ出来ないのだ……!」

 蒐集者は一気にまくし立てる……! い、いきなり何だってんだ……!

 そして奴は引っぺがした顔に気付き……慌ててそれを直す……。

 こいつ、この男は……邪悪な存在には違いないし、俺にとっての脅威だが……。熱意だけは……まあ、人一倍あるよな……。

 顔を直し終わった後、奴はまるで何事もなかったかのように微笑みを浮かべる……。

「恐ろしいのは、降臨が、わたしのしたこととまったく無関係に起こり得ることです。それに比べれば、何も起こらないなど些細な問題でしかありませんとも。何かを起こすために動いたとて、何も起こらない状況が続くことは、何らおかしなことではないのです」

「……しかし、心情として逸ることはあるんじゃないか?」

「それは傲慢なる錯誤に違いありませんよ」

 まあ、確かに……。このくらい頑張ったんだからきっといけるだろう、くるに違いない……ってのは、神なんてでかい存在を対象にすればこそ傲慢になってしまう……とも考えられるかもしれないな。

「司祭は相も変わらずひた向きだね」

「ええ、それだけが取り柄ですので」

 そう言って蒐集者はグラスを傾ける……。

 そういや、こいつ飲み食いするんだな……。この老人の姿は外皮に過ぎない、脳以外は骸骨みたいな機械人間だってのに……。

「お前が蒐集者だってこと、お仲間は知っているのか?」

「いいえ、知る必要などありませんから」

「じゃあ、今のはヤバかったんじゃないのか……?」

 蒐集者はちらりと皇帝派を見やって小さく笑う……。

「バレていないようです……!」

 本当かよ……?

「しかし、なぜ皇帝に仕えるふりをする?」

「まったく、そっけない割には理解をしておられる。なぜなら、栄光を与えるだけ与え、そして陥れるのが当初の思惑だったからですよ」

 なにぃ? ほんのちょっと認めた途端にこれだ……!

「まあ、一時とはいえ覇権を握った帝王……その血筋に意味があると思っていたこともありましてね」

「……ないのか?」

「微妙なところですね。ただの秀才にも思えますが、時々、覇王の卵に見えないこともない」

「その、去勢されたと聞いたが……?」

「ええ、イジグヤットにね」

「イジグヤットだと……?」

「彼は復讐のために皇帝一族を残らず血祭りに上げましたが、何の気紛れか、ある子供だけを生かしておいたのです。それが彼の父親でしてね」

「ほう……?」

「その子は名を変え、辺境の村に逃げ込みました、わたしの手配でね。皇帝の血筋ならば、そこからまた一族の復興を成すであろうと期待してのことです。しかし、彼は村の気候にあてられ、穏やかに成長してしまい、純朴な妻を娶り、子供をもうけました」

「それがあの皇帝……」

「わたしはがっかりした帰り道に罠を仕掛けました。いえいえ、彼を嵌めようとしたわけではありませんよ、獣でも捕らえようとトラバサミを仕掛けただけです。ですが、なぜか罠を仕掛けた場所に彼が現れましてね、本当に驚いたのですが、見事に掛かってしまったのです」

「嘘つけよ、狙ってやったに決まっている」

「いえいえ、本当ですよ」

 蒐集者はわざとらしく顎を引いて肩を竦める……。

「そうして、どうしたものかと思案していると、熊がやってきましてね」

「まさか……」

「まあ、長い目で見れば熊も罠に掛かったと言えますし、村へ差し入れしましたよ。胃を切り開いたときには大騒ぎでしたね」

 こ、こいつ……!

「まあ、それはそれとして、皇帝の血を引く者は彼の子供だけとなりました。もうそのときにはかの血筋にも何ら期待はしていなかったのですが……まあ一応と、真の素性を明かしましたよ。そのとき母子ともに驚いていたところを見るに、彼は何も話していなかったようですね」

「そうして皇帝は覇王の道へ舞い戻ったと……」

「ええ、意外と根性があると思い、わたしも色々とお世話をしてあげました。そして生き残った側近たちを集め、彼らはインペリアル・サーヴァントと名乗り始めることになります。その後、小さい町から徐々にですが……勢力を拡大していきました。彼がほんの十歳程度の頃です。まあ、そこまでは順風満帆だったのですがね……」

「何かあったのか……?」

「我らの根城が恐るべき脅威に晒されたのです。襲来者はまたもイジグヤット、当時の側近たちは果敢にも抵抗しましたが、戦力は象と蟻、またも一瞬で血祭りです。察するに、覇王の道へ舞い戻るなとの警告だったのでしょう。そのとき皇帝は子孫を残す力を奪われてしまいました」

「去勢っていうより、潰されたわけだ……」

「まあ、傷口は治癒されていたそうですがね。とにかく、皇帝の血筋は途絶えてしまった。そうなると、かねてより研究をしていた竜の血や遺物に俄然興味が湧いてくるのも必然というものでしょう。彼らはさらに地下へ潜り、有志を集めつつ、この地を調べ始めたのです」

「で、今に至ると……」

「ええ。たった十数年でよくここまできたものです。わたしの尽力もありましたが、彼のカリスマもなかなかのものと賞賛できますね」

「それで、ここへ来たのは精鋭たちなのか?」

「ええ、戦力にならない者はお留守番です。ですが、今日集まった顔触れを見る限りでは、長生き出来るのは彼らの方でしょうね」

 何という……。

 この事を皇帝に教えてやるべきか……?

 いや、信じる訳もないわな。こいつは表向き組織の立役者だ、奴らからすれば馬の骨である俺の忠告など耳に入るまい。

「……アテナってやつは何者なんだ?」

「本名、シルヴェル・エスカキア。南ゴザス辺りの血のようですが、生まれはレジーマルカのようですね。当初は金銭で雇った雑兵でした。子供でしたが腕は確かで、暗殺に使えましたね」

「傭兵から僕に?」

「あれは僕という気質ではありませんね。それまでの功績が評価され、正式に皇帝派に名を連ねる機会があったのですが、軍に入隊するとかであっさり脱退したことがあったほどですから、実質、忠誠心など皆無でしょう。判断基準は金銭……いえ、そういえば親友が一人いたとか」

 おそらく、黒エリのことだろうな……。

「しかし、皇帝派に舞い戻ったように思えるが?」

「血筋により軍部では昇進が望めないと仰っていましたね。まあ、別の理由もありそうでしたが」

「よくそんな出たり入ったりを認めたな」

「金で動く者は使い方さえ間違えなければ信用におけるもの……と当時の側近たちは甘く見ていたようですが、成長するに従ってかなりの脅威となってきましてね、特に女性陣からの人気が異様に高く、皇帝も彼女には甘いものですから色々と均衡が崩れてきまして、焦った側近たちの計略で、始末をかねて遺物探しの任務を与えられ、この地へ送り込まれたようですが……なんと人ならざる者として帰ってきたのです。みな驚愕していましたね」

「それで今じゃ彼女が側近の立場か……」

「ええ、心強い戦力ですが、彼らにとっても諸刃の剣。どちらに転ぶかは分かりませんね」

 つまり……あの皇帝は存外危うい立場にあるってことか……。

 いや、当然かもしれないな。短期間で何かを成すならば相応に普通じゃない連中とつるむ必要があるし、普通じゃない奴らがそう従順なままでいる訳もない。

 しかし、それでも何とかまとめ上げるのがあの皇帝のカリスマってやつなのかね。

「まあ、そんなことはどうでもいいでしょう。我々についての話をしましょう」

 我々、ね……。

「……そもそもお前は何なんだ? どこから来た、何者なんだ……?」

「わたしは俗にいう白い教会、その宗派の司祭だった者に過ぎません。取り立てて語ることもない、地味でつまらない男ですよ」

 別に庇うつもりは毛頭ないが、地味でつまらんってのはさすがにないだろう。お前ほど異様な男はそうそういないよ……。

 それにしてもこいつが司祭とはね……。当時から何かひどいことをしていたんだろうか……。

「なぜ、裏教典に傾倒したんだ? 暗黒城で赤ん坊を殺した一味の話を聞いた。お前も加担したのか……?」

 蒐集者は首をかしげ、

「そういった場に居合わせたことはありますがね、わたしは何者の一味でもありませんよ」

「よく見過ごすことができたものだなっ……!」

「残酷もまた、ひとつの現象に過ぎませんよ……」

「理解できないな……」

「そうですか? 善行と悪行の双方から降臨を促すのは周到なことでしょう?」

「しかし、あんたらは忌み嫌われている」

「ええ、正教典派も敵がいて、さぞ幸せなことでしょうね」

 ……つまらん皮肉だな。

「そういえば、あなたのお仲間にシュノヴェ人がお二人もいますね。あの人種はレジーマルカに多い」

 レジーマルカ、か……。

「あそこはとりわけ崇拝の念が強いですからね、双方の観念が融合している特殊な環境と言えるでしょう」

「軍事国家と聞いたが、敬虔なのか……」

「主は御業によって人々を癒し、またその人柄によって多大なる人望を得ていたと伝えられています。それを当時の権力者は忌み嫌い、御業を魔術と罵った」

 そう、そうだ……。エリの追放には魔術の使用が関係していた……。

「だが、その御業って魔術じゃないのか……?」

「それはわかりません。ですが、教典にあるように、手を当てるだけで人を癒すなど魔術以外に方法はないでしょうね」

「信心深い国なのに、主の御業かもしれない魔術を禁ずるのか? 矛盾というか、捻れがあるじゃないか」

「禁止されているのは主の御業を真似ることですよ。例えば敵を炎で焼き払っても罪にはなりません」

 なにぃ……?

「なんだそれは、人助けの魔術が悪で、殺しのそれはいいってのか?」

「そうです」

「……おかしな国だぜ」

「世界は多幸、薄幸、残酷、虚無……すべてを望んでいます。ゆえに不条理が消えることはありませんよ」

 蒐集者は笑む……。

「矮小なる我々にできることは勝負をし、そして結果を受け入れることのみ」

 俺は思わず、手元のカードを見やる。

「結果は常々、個人と世界の噛み合わせの結果です。さあ、あなたはこれから満足のいく勝負ができるでしょうかね?」

「……人生はゲームじゃない」

「ゲームであった方が、主も興味を抱くかもしれませんがね」

 デヌメクはニッと笑い、

「どのみち、人生は楽しんだ者勝ちさ」

 楽しむ……か。

 まあ、このゲームもつまらないってことはないしな。

「今度はあなたの番ですよ」

 こんな奴に身の上話なんかしたくはないが……。敵で悪党とはいえ、無闇な不義理はしたくない。これまでのことを掻い摘んで話す……。

「なるほど、俗世のしがらみより離れ、この地を踏んだのですね」

「天の使いとかそういうのにありそうな立派な話はないぞ」

「でも、名前は立派じゃないか、レクテリオル」

「そうですよレクテリオル」

 こいつら……馬鹿にしてるんじゃなかろうな……!

「……神話の神器はさすがに立派過ぎるだろうよ」

「レックテリオとは再生計画のことだよ。そのためにロード・シン、レクテリオンがいるとされている。また、それを守るはシン・ガード、そしてその別名はレクテリオル。終末後に彼らは名と役割を変えると言い伝えられているね」

「へえ……えっ……?」

 なにぃ? 今、サラッとすごいこと言わなかったか……?

「えっ、いや、世界の創造に関する、すごい杖だか何だかって話だったような……」

「変容し、一種の寓話となって伝わっているのだね」

 寓話……なのはそうだろうが……。

「わたしがあなたに躍起になる理由にはその名前も関係しています。レクテリオの名を持つ者には……強敵がいましたしね」

「おいおい待てよ、俺の名前って、シン・ガードと同じ……?」

「レクテリオという呼称は神話の中で有名であるし、同名の人物も稀ではない。しかし、レクテリオルと名付けるのは珍しい。単に少し変えただけなのかもしれないが、あるいはシン・ガードの異名を知っていたのかもしれないね」

「へえ……って、それはないだろう、俺の母は女給だぜ、あんな訳の分からん機動兵器と関係があるわけもない」

「本人はね。でも、祖先を辿っていくと、そうでもないかもしれないよ。遺品に何かなかったかい?」

「遺品……は、父が保管しているはずだが……」

「もし機会があったら調べてみるのもいいかもしれないね」

 おおお、気になるけれど……! 帰るどころか、この地から生きて出られるかも分からないしなぁ……!

「……で、そういうあんたは、何者なんだ?」

「私はただの隣人だよ」

 ああ、そう言うと思ったよ……。

 ……と、そのとき背後に気配、見るとグゥーだ。手には肉を挟んだパンを手にしている。

「よお、ポーカーか。勝ってるか?」

「ああ、ぼちぼちな」

「ああこのカード、ホーさんが占いで使ってたな」

「そうなのか?」

「あの人の怖いくらい当たるんだよ……っと、奴らだ」

 うっ、皇帝派の面々がやってくる……。

「カーディナル、このような知人がいたとは、初耳だな」

 おお、皇帝だ……。明るい色の長い髪に、蛇と羽根を模った金細工が絡みついている……。衣服はやはり赤を基調とし、こちらにも蛇と羽根の金細工が……。帝国のモチーフか何かなんだろうか?

 それにしても、近くで見ても女みたいだな……。というか、胸があるような……。

「ええ、最近、仲良くなりましてね」

 仲良くねぇよ! 敵だ敵っ!

「カーディナルは交友関係が広いですものね」

 若い男に握手を求められ……思わず応じてしまう……。こいつも赤い服、皇帝派だな……。というか右目の瞳が赤く……何か模様が見えるような……? 左目は緑色で、普通の感じだが……。

「僕はシフォール・ビュージェン。よろしく」

「あ、ああ……」

 皇帝はちらりと俺を見やり、

「あの男と、懇意なのか?」

 あの男……?

「……それはどの男?」

 するとサラマンダーがずいっと前に出てくる!

「貴様、陛下に向かって何と無礼な口を……!」

「よい」皇帝がサラマンダーを制止する「あの髭の男だ」

 視線の先にはスクラトが……。

「ああ……いや、仲間ってほどじゃあない。奴の気紛れで死にかけたからな」

「そうか」

 何だよ、まさか皇帝のあれを潰したのはスクラトだなんて話じゃなかろうな……?

「では、彼は?」

 今度はフェリクスか……。

「ああ、あっちは仲間だよ」

「彼はフェリクス・ハイランサー……であるな?」

「そうだよ」

「礼を言う」

 そして皇帝一派はさっさと戻っていってしまった。何だったんだ……?

「初めまして」

 おっ、また俺にか? 今度は何だ、ああ、フィンの戦士、その女か……。黒髪を後ろに束ね、ひと塊り垂れた前髪は波打っている。目鼻立ちは整っていて、唇は厚い。何だか色っぽい女だぞ!

「私はヨニケラ・セリダフィン。アリャより話は聞いた、そこで頼みだが……」

「さあさあ、宴もたけなわ、そろそろ一芸を見せましょうか!」

 おっ、何だ? 金銀の派手な男が、妙な包みを円卓の上に置いたぞ……?

「……嫌な感じだな」

 フィンの女が呟く、確かに何かやばい気がする……!

 今のあいつの気配……悪意というか、糞を尿で煮込んだみたいなおぞましさ感じるぞ……!

 俺は席を立ち、荷物のところへ、そして得物を取った……はいいが、しかし、これはどうなんだ、直感で攻撃なんかしていいのか……? 間違ってたら致命的だぞっ……? タチの悪い冗談かもしれないし……!

 しかし、奴の気配はそんな懸念を踏まえても余りある厭らしさだ……!

「さあ諸君、きれいさっぱり塵となるがいい」

 なにぃっ? いや、これはやるべきだっ……! 見ればホーさんも呪文を唱えている、中央の爺さんもだ、対応しないとやばい状況に違いない!

 俺は……! ええい、シューターを撃つっ!

 奴の腕が飛んだっ!

「はは、実はとっくに遅いんだよ」

 次の瞬間、閃光がほとばしった。

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