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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
37/149

レクテリオ聖騎士団

「論外だ」

 相談を始めて開口一番、黒エリはそう言い切った。

「正直、クラタムとやらの生死には感傷を抱けんな。人物をよく知らんというのもあるが、世界を終末へ誘う力……それを追い求める者の末路だ、どのようなものになろうとも同情には値せんよ」

「そのような言い方……」

「では言い直そう。仮に同情に値するとしても、予想される苦境からして、追うのは愚策と忠告せざるを得ない。そもそも、クラタムとやらは全て承知の上なのだろう? 覚悟があるに違いない。我々が実力行使に出たとて、生半なことでは止まらんだろう。それに先ほど衝突した男の力量からして、互いに大事なく制圧するなど不可能に近い。誤って殺してしまう、我々の内に死人が出る、双方とも充分にあり得ることだ」

 たしかに……。レキサルはとんでもなく強かった。死者を出さずに決着がついたのは単なる幸運、今後もそれを期待するのは虫が良過ぎるだろうな……。

「で、ですが、このままではきっと……」

 ああ、殺されてしまうだろうな……。しかし、客観的に見て黒エリの言い分には確かな妥当性を感じる。それゆえにか、次ぐ異見は出てこず、沈黙が続く……。

 さて、困ったぞ……。異見がないからといって、このまま話を終わらせるわけにもいかないだろう。なぜなら黒エリに賛同する声も上がっていないからだ。つまりこの沈黙には抵抗の意が含まれている。これを無下にして話を進めてもろくなことにはならないだろうな……。

 もう、本音をぶつけ合うしかない、か……。そうしないといつまでたっても話がまとまらない気がする。

「よし……みんな、とにかく正直にならないか?」

 みんなは俺を見やる……。

「……一人ずつ、本当はどうしたいか言っていくんだ。大なり小なりわがままにいかないと状況は動かないし、そのうち事態が膠着してしまいそうだしな。じゃあ、まずはアリャ……言ってごらん」

 アリャはずっと俯いていた顔を上げる。

「クラタム……ツレカエル」

 そうだろうな、それ以外にあるまい。

「うん、分かった。じゃあエリは?」

 エリは頷き、

「まず、大巨人の復活は止めるべきかと思います。そしてフィンのお二人も連れ帰る……。できるならば、どちらも果たしたいです」

 なるほど……エリらしいな。しかし、かなり難しい期望ともいえる。

「そうか……。黒エリはさっきの通りか?」

「……まあ、エリの要望を叶えてやりたいとも思ってはいるがな」

 なるほど……。

「いいや、ことは大事、この際だからはっきり言おう。エリとお前を連れ、我が隊に合流したいというのが本音だ。ホプボーン氏とアリャの都合に合わせていると殺されかねん」

 おおっと、ずいぶんとまあ……。

 だが、きっぱりと本音を言い切ることには意義がある。

「なるほどな……。フェリクスは?」

「そうだねーみんな上手くいけばいいねー」

 おいおい……。

「……なんてのは冗談で、僕はね、クラタム君のことは諦めるべきだと思うんだ。どう考えても危険だよ、会ったばかりなのに、僕にみんなの死に顔なんて見させないでおくれ。それにまさか、なんとかなるなんて考えているひとはいないよね?」

 フェリクス……意外と考えているんだな。

「よし、じゃあ、ワルドはどうだい?」

「私は……複雑だ」ワルドは呟くように言った「なるほど、私の我が儘が君たちを殺してしまう……その懸念は正しいやもしれん、だが……」

「いいさ、わがままを発揮してくれよ」

「私は、クルセリアと決着を付けたい。他の者に殺されることは望まない。だから、追いたいのだ……」

 そう、だろうな……。何十年も追ってきたのだし、ここにきて捨て置くような選択はないだろう。

「レク、君はどうなのだ……?」

 俺、俺か……。

「そうだな、会合には出るべきだと思うよ」

 みなの視線が集まる……。

「そ、その方が結果的に得だと思うんだ。参加していれば追えるし、その後、あまりに危険な状況と判断できたら離脱する選択を視野に入れることができるからな」

 黒エリが俺を見やり、

「離脱できるという根拠は?」

「そりゃあ、とどのつまりは争奪戦なんだから、脱落する分にはお咎めなんかないだろうさ」

「なるほど。しかし、会合こそが危険なのではないか? そこで一網打尽にする計画があったとしたら、我々は終わりだぞ」

「そこで悶着を起こしたらそれこそ袋叩きだろうさ、失敗は致命的だ、そのような賭けに出る愚は犯さない……と思う」

「しかしな……」

「それに、アテナが来るかもしれないぜ」

 黒エリの目が大きく見開かれる……!

「顔合わせだ、みんな来るはず。後の合流を認めていたら何が何やら分からなくなるからな、おそらく大巨人を狙う勢力に所属する実力者は皆、集まるだろう」

「インペリアル・サーヴァントがか? なぜそう思う?」

「暗黒城を陣取っていたんだ、この地の事情にも詳しいはず。現れたって不思議はないと思わないか? あるいは皇帝までも来るかもしれない」

 とはいえ、根拠は限りなく希薄なんだけれどな……! 黒エリはじっと俺を睨むが、

「面白いことを言うな……。フェリクス!」

「うっ、なな、なんだいシスッ?」

 フェリクスは姿勢を正す!

「離脱を許可する。命が惜しければゆけ。私が帰らぬ場合は、皆で話し合って後任を決めろ」

「な、なんだ、そんな話なの」フェリクスはホッと胸を撫で下ろす「まるで僕だけ覚悟がないみたいじゃないかー。あれはみんなのことを思って提案しただけさー」

 そして急に真面目な顔付きとなり、

「僕も行くよ!」

 そうか、お前もいくか……!

 そしてどうやら、結論は出たようだな。

「それじゃあ、いくか、みんな」

 みんなは俺を見やる。

「いくかっ!」

 一斉に応えが返ってくる!

 よし、行くか……!

 行くのか……。

 あんな提案をしておいて何だが、本音じゃ行きたくはなかったんだよなぁ……。

 しかしみんなの心情を考慮すれば……やむを得まい。黒エリに対しては口八丁でのせた感があり、ややバツは悪いが……。

 そのとき、ふと雨粒の感触が頭に……小雨が降り始めていた。

 雨かぁ、こいつは少々困ったぞ、雨宿りしないと……。

「雨だよ、遺跡に入って雨宿りしよう」

 フェリクスは屈託もなくそう言った……。

 ……薄々感じていたが、こいつはアホなのか?

「よし、偵察してこい」

 あっ、黒エリ、そいつはやばいだろ!

 しかし、フェリクスはさっさと行ってしまう……。

「お、おい、死んだらどうするんだよ」

「あやつは少し痛い目に遭った方がいい」

 痛みを感じる程度で済めばいいがな……。

 気にはなるので俺は後に付いていく。あいつ、なんの躊躇もなしに入っていったな……。そして何やらコツコツ物音を立てている……。

「おいおい、さすがに危ないんじゃないか……?」

「彼らの足音がしたらすぐに逃げるよー」

 そして少し経つと、フェリクスは無事に戻ってきた。

「よく見ると階段部分はただの石でできていたんだ。そしてそこで物音を立てても誰も来なかった。つまりそこはまだ彼らの領域じゃないんじゃないかな? 途中までは大丈夫だと思うよー」

「でも、駆け上がる最中に撃たれたぜ……?」

「それは侵入者だからだよー」

 まじかよ……こいつの言い分を信じていいものか? みんなに相談した結果、少し様子見をしてみようということになった……。

 一応、エリが鳥で周囲を見回るが……どうにも奴らは動いていないとのことだった。まるで僧侶のように各所で座しているらしい。

 しかし、ここで宿をとるといっても食い物がないな……。ここはアージェルからもらった餞別のお世話になるか。

「ほう、それを所持しているとはな」

「知っているのか?」

「ああ、地下施設に侵入した際に入手したことがある」

「地下施設に? あそこに声だけの変な奴がいなかったか?」

「ああ。立ち入りを拒まれたが我々には関係がない、占拠しようと思ったのだが……何やら交渉をしてきてな、色々くれてやる代わりに暴れないでもらいたいと懇願されたので、まあ無駄に争う必要もないと思い直し、得るものを得て帰ったわけだ。この鞭や先の誘導弾もそのときのものだな」

 あいつ……相手を見て対応を変えやがって……!

 そうして俺たちは晩飯を食い、一応の見張りを交代で立てて休むことにする……。

 そして数日後、ブルちゃんみたいな乗り物に乗ってグゥーがやってきた。こちらは青色で、ブルちゃんよりでかく、無骨な感じだ。

 俺たちの決定を伝えるとグゥーは複雑な表情を見せたが、ひとつ頷いて……ブルちゃんみたいなやつに乗車を促してくる。

 座席は操縦席のひとつのみ、あとは金属の箱が乗っているばかりだ。

「こいつはもっぱら荷物運びに使っていてね、乗り心地はいまいちだが、文句は言うなよな」

「構わんさ、いってくれ」

「よしきたっ!」

 乗り物は飛ぶ! そして緑の絨毯を眼下に、進んでいく……。

 俺は二度目だがみんなは初めてだろう、驚きの声が方々から上がった。エリの瞳がキラキラと輝き、最近元気のなかったアリャもようやく笑顔を見せる。

 というか、なにかでかいものがこっちへ飛んでくるぞ……。でも、この乗り物の速度には追い付けないようだな。

「ちょっとだけ時間があるから、シンを見せてやるよ」

 グゥーがそう言った直後に、乗り物は加速する! シンだって……?

「冒険者がよく通る道とは反対側にあるからな、なかなかお目にかかれないぜ」

 しばらく進んでいくと、一面の緑より、突如として隆起している……黒い岩山が見えてきた。

「あれだ、あれがロード・シン」

「あの黒い部分か……? どの辺りにいるんだ?」

「全部」

 なっ、なにぃ……? しかし、ざっと見て横に10キロ……? くらいかは分からないが、とにかくとんでもないでかさだぞ……!

「中央の山脈部を枕にして寝こけてるのさ。たまーに起きて寝返りしたり、その辺のもの掴んで食ってるぜ。だから中央部は徐々に小さくなってるんだ」

「だっ……だが、あんなものが動いたら大災害だろ……?」

「そうさ、だからたまに大地震が起こる」

 た、たしかに、魔物辞典にもそう書いてあったが……! あんな大きさのものが立ち上がったら……そこらの巨人だって蟻みたいなもんだぞ……! みんなも驚嘆を通り越して絶句している……。

「というか、この乗り物があれば中央までひとっ飛びじゃないのか?」

「あんまり近付くと撃ち落とされちまうよ。森林部だってそれほど安全ってわけじゃないしな」

 そうなのか……。そういや、宿でそんな話もあったなぁ……。

「よし、それじゃあ行くか」

 そのうち、眼下に円形の建造物が見えてくる。あそこが会場なのだろうか、要塞にも似た重厚さだが……。

「分かっていると思うが、荒事はだめだぞ。表向き、みな仲間なんだからな」

「ああ」

「お前、蒐集者にいいようにされてたようだけど、怒って挑んだりするなよぉ?」

「しねぇよ! ……たぶん」

「さすがに向こうじゃ助けないからな、同胞に迷惑が掛かっちまう」

 乗り物は円形の建造物へ向かい、降下していき……そして着地、俺たちは降車する……。

 上から眺めた限りでは、ここはハイロードからは遥かに離れた場所にあるようだ。真っ当な道筋じゃまず来ることはなかったろうな……。

 そして建造物から感じる、恐ろしく濃密な気配……! きっとかなりの強者たちが待ち構えているに違いない……。

「さて、いくか……」

 建造物は石造りの五階建て、古いものではありそうだが、あまり遺跡って感じもしないな。壁には様々な人種……というより種族を模った文様が彫られている。

 階段を登り、入り口へ向かうと……魚を模した形の、青い仮面を付けたタキシード姿の男が出迎えてくれた……。会合が始まるまでは入ってすぐの広間にて待機していてほしいとのことだ。

 内部は神殿のように広い。床は大理石のような文様のある石でできており、荘厳な雰囲気のある太い柱が左右に三本ずつ立っている。柱の間には英雄っぽい人物や獣を模した彫刻が並び、その近くには高価そうな長椅子やテーブルなどが置かれている。そして、そこから見覚えのある男がやってきた……。

 こいつは……宿の、受付にいた男……。

「あんたは……アズラ・オマー……」

 しかめっ面の男はひとつ頷く……。以前と違い、随分と身なりがいい。白い軍服のような衣服を身にまとい、襟や袖など各所が青く、金色の刺繍が施されている。そして幅の広い剣を背負っている……。

「まさか冒険者がここへ来るとはな」

「あんたもインペリアル・サーヴァントなのか……?」

「いいや、ケリオスがそうだったらしいな。元同僚としては残念だった、見抜けなかったこともな」

「じゃあ、あんたはいったい……?」

「俺は元老院の者だよ」

「元老院……?」

「世間ではほとんど知られていないがな、ようは各国の有力者の集まりさ。ここには外界代表という立場で来ている。ちなみに皇帝派、インペリアル・サーヴァントとは犬猿の仲だよ。元老院は帝国の復活をよしとしない。皇帝の一族は独裁を任せるには愚か過ぎたのだ」

「それで、シンの復活を止めに来たと?」

「……そうだ」

「唐突だが、フィンが狙われたのはこの事態を引き起こすためなのか……?」

「おそらくは、そうだ。我々は皇帝派の仕業と睨んでいる」

「なぜ、そう言い切れる?」

「フィンは竜の血と相性がいいと聞く。研究対象としても恰好なのさ。そして研究をしていたのは……」

「皇帝とその僕たち……」

 そのとき、奥から集団が現れる。その中で取り分け目を引くのは、先頭を歩く大柄の男……。長い毛髪と髭の半分は白く、それなりの年齢みたいだが、その雰囲気は活力に満ちている。アズラ・オマーと同じく、立派そうな衣服に身を包んでいるな。

「彼らはお仲間か」

「ああ、我々は元老院直属の実行部隊、レクテリオ聖騎士団」

「レクテリオ……」

「あんたの名前と同じさ、レクテリオル・ローミューン」

「ほう、立派な名前ではないか」

 聖騎士団の面々が俺の前に立つ。そして中心の大柄な男がさらに前に出てきた。

「お初めお目にかかる、私は団長のレオニス・ディーヴァイン。彼女は副団長のヘスティア・ラーミット。そして彼はクレイヴ・ステンキッドだ」

 明るい色の髪を揺らす穏やかそうな女性……と、爽やかに微笑む好青年……。まるで正義の味方みたいな雰囲気だが……信用していいものか……? というか、後ろの方に以前出会ったスクラトの取り巻きがいるぞ……!

「あんたら、たしか……」

「よう、デルス・スケインだ」

「私はドワ・ヒップル」

「おい、スクラトの野郎に殺されかけたぞ!」

「そうか。困った奴だ」

「それだけかよ! お前らの連れだろうが!」

「彼は主要な戦力だが、同時に制御不能な一面もある。普段は割と温厚なのだがな、血が騒ぐと止められんのさ」

「元老院の……? あいつ、離隔の王じゃないのか……?」

「それは超危険個体のか?」デルス・スケインは笑う「さあな、気になるなら本人に聞いてみろよ、答えてくれるかは分からんがな」

 スケインは親指で指す。その先にはスクラトがっ……! 柱に登っている最中だ……? 何をしてんだあいつは……。

「おいっ、スクラトッ!」

 呼ぶと、奴は振り返る……。

「おおー、やはり生きてたかぁ!」

「生きてたかじゃねぇよ! なんでお前……この、降りてこい!」

「ああー、あ? あの女はどうした?」

「地下に籠もっちまったよ……」

「ふられたかぁ?」

「そ、そういう話じゃねぇんだよ! 俺を嵌めやがって!」

「嵌めたぁ? いやいや、俺はよかれと思って二人っきりにしてやったんだぜ。自慢じゃあないが、その辺の鼻も効く方だと自負してんだ」

 スクラトはずずっと降りてくる。

「なんだその言い訳は……!」

「というかよ、奴さんら、さっきからお前を見ているぜ」

 スクラトが指す方向を見やると……あれはサラマンダー! ということはあの赤い集団がインペリアル・サーヴァントだな!

 しっかも、手を振ってるあの老人……見覚えがあるぞ、蒐集者じゃねーのかっ?

 他にも背の高い女に巨漢、若い男に壮年の男、それもう一人、女もいるな。あのどれかが皇帝なのか? それともあくまで兵隊に任せるつもりで来ていないのかね。というか、あの子供はいないな。戦力として数えられなかったのかもしれない……っていうか、黒エリがずんずんと奴らに近付いていく! そして奴らの輪から背の高い女が前に出てきた。頬くらいまでの緑っぽい色の髪……やや褐色の肌、端正で整った猫のような顔、伸びた肢体も美しい……とか見ている場合じゃない、黒エリがあんな反応を見せるのはただ一人、彼女がアテナに違いないぜ!

 一触即発の事態は避けたい、黒エリを追うと、エリもこちらにやってきた。俺と同様に制止をしにきたんだろう。黒エリはふとこちらを見やり、

「慌てるな、手は出さんよ。ここではな……」

 まあ、信じていないわけではないが……。俺たちは一歩離れた場所で見守ることにする。

「久しぶりね、元気そうでなにより」

 アテナは黄色に飾られた唇を魅惑的な形にする。

「ふん、野良犬かと思えば皇帝の忠犬だったとはな」

「わん、わん」

 アテナは妖しく笑み、黒エリの頬を舐めようと舌を出す……! が、黒エリはフイとそれをかわした……。

「……一応、聞いておくけど、こちらに加わる意思はある?」

「犬の言葉は理解できんな」

「もう少し、時間が必要なようね」

 それにしてもあの女……黒エリと雰囲気が似ているな……。首元が緑色で、どこか人工的な雰囲気だ。やはり兵装と融合しているのではないか……?

「でもエリゼ、あなたはいずれ、私の元へ戻ってくる……」

「それはない。貴様など、とっくにどうでもよいわ。私にはエリがいるからな」

 アテナはふと、紫色の瞳をこちらへ向けた……瞬間、どす黒い気配がじんわりと立ち込めてくる……!

「……まあ、いいか。恋も憤怒も一時のものにしか過ぎない。最後に残るのはいつも哀しみだけ。その時、きっと寄り添う相手が必要になる……」

 アテナは踵を返して戻っていった……のと入れ違いで、蒐集者がやってくる……!

「お前、蒐集……」

 今度は俺が二人に制止される……!

 蒐集者は人差し指を立て、

「ここではカーディナルとお呼びください」

「お前、決着を付けてやる……!」

「それもいいですが、いまはこちらが先決でしょう?」

「馬鹿抜かせ、むしろ狙っているくせに……!」

「まさか。あのようなものに興味などありませんよ」

 蒐集者は笑う……! そして、俺の肩をぽんぽんと叩きやがる……!

「まあまあ、楽しみは後で……。いえ、正直に言いますとね、わたしはこの件よりあなたに興味があるのですよ。そこでどうです、ここは純粋に共闘といきませんか? シンの復活を止めて友好を深め合い、その後に決着を付ける。いまのままでは、よくないでしょう」

「な、なにがよくないんだよ……!」

「憎悪だけでは業は浅いのですよ。もっと深みのある感情が必要なのです」

 なにを言ってんだこいつは……!

 だが、まあ……いまのところ、悶着を起こすわけにはいかない……。

「訳が分からねぇよ……! というかお前、なんで皇帝なんかに……」

 蒐集者はずいっと近付き、しぃー! と指を立て、小声で話す。

「それは、後にお話ししましょう」

「ああそうかい……じゃあもう話は切るぞ、向こうへ行けよっ」

「おお、素っ気ない!」

 蒐集者はわざとらしく仰け反る……!

「罪深い行為ですよ、それは……」

 蒐集者は含み笑いをしながら去っていった……!

 なーにが罪深いだあの野郎……!

「まあよせよ、ここじゃあさぁ」

 スクラトがあくびをしながら言いやがる……。この怒りの一端はお前にも向いているんだよっ……って、なんだ? 肩を叩かれた。

 見ると7の方じゃないグラトニーズたちだ……。他にも大勢いるぞ……。

 そしてそいつはぐもぐも言って柱を指す。するとそこにもグラトニーズが、さっきのスクラトみたいに登っているが……ふと、こちらを見やると、ズサッと降りてすっ転ぶ! すると周囲のグラトニーズが一斉に爆笑する……!

 こ、これは……まさか、あのときの……?

 こ、こいつら……!

 こいつらぁああ……!

「なんだお前、そんなに怒ってばっかりで元気だなぁ」

 スクラトは鼻をほじりながら言う!

 ああっ……こいつらマジでムカつくぅ……!

「お、お気持ちは分かりますが、ここは退きましょう……ね?」

 くっ……すげぇ腹立たしいが……! エリの「ね?」の部分が可愛かったので怒りも収まってきた……!

 そこに小さな笑い声、今度はア・シューかよ……。

「人が悪いな、やはり知り合いなのではないか」

「あ、あんときはまだいい奴だって思ってたから売るようでさぁ! でもこいつ、俺を嵌めやがって……!」

「えっ、違うって、俺はよかれと思ってね……」

「さっきからそれマジで言ってんのかお前っ?」

「うん」

 うっわこいつマジだよ、きょとんとしやがってこの髭面ぁ……!

「細かい事情は分からんが、まあよい」

 ア・シューはスクラトの前に立つ。

「我が名はア・シュー。砦でラ・コォーを倒したのは貴様だな?」

「ラッコ? さあ、でかいやつならぶっ殺したけど」

「……剣技に自信ありと見受ける」

「ああ、まあ、いまじゃ控えめに言っても最強だろうなぁ」

「ほう、私と一戦交えないか?」

「まあ、機会があったらなぁ。でも、これに参加するってことは同士討ちはご法度なんだぜ」

「ふん……。機会なら、あるさ」

「かもしれんなぁ」

 表層ではのらりくらりだが、意識してるのは伝わってくるぜスクラト……!

「だーれだ?」

 うっ! なんだ、後頭部に何かを突きつけられているぞ!

「……スゥーだろ?」

「当ったりー!」

 スゥーは拳銃を片手に持っている! 危ねえよ!

「……君らはみんな参加を?」

「ええ、一応ね。あそこ」

 見ると、グラトニー7が集まっている……。ホーさんが会釈をくれたので、こちらも返す……と、なぜかガジュ・オーが頷いた。

「あら、お仲間増えたの?」

 スゥーは黒エリとフェリクスを交互に見やる。

「ああ、二人ね」

「ふーん……。女ばっかりねぇ」

「うん? あの青いのは男だよ」

「えっ、そうなの? なんであんなに細いの?」

「さあ……?」

「あなたは……心なしか、前より体格がよくなったわねぇ!」

「ああ、うん……鍛えさせられたりしたからね……」

「そうそう、男はそうでなきゃ! 今後も期待できるわね!」

 スゥーはグラトニーズの羨望を集めながらスキップで7のところへ戻っていった……。

 はあ……のっけから疲れてきた……ってところにまた肩を叩かれる!

「なーんだよっ!」

 振り返るとニッと笑うデヌメクだよ……! こいつも来てたのか!

「やあ、君たちも参加するのかい」

「あ、ああ……。フィンの戦士には顔見知りもいるんでね、放ってもおけないのさ……」

「なるほど」

「その声音、以前とまったく変わらぬな」

 おっとワルドだ。そういや二人は旧知の仲だったな。

「おお、ホプボーン君。久しぶりだね」

「よく私と分かったな」

「声からして君しかあり得ないさ。ミスティダークをかけられたらしいね」

「……解き方を知っておるかね?」

「知ってはいるが、協力はできない。彼女にそう頼まれているんだ」

「ほう……」ワルドは唸る「して、グラトニー7の頭領がおぬしをおぞましき輩と形容していたぞ、いったい何をしたのだ? いまも凄まじい気配を発しているが……」

 たしかに、すんごい気配が漂ってきてるなぁ……!

「ああ、彼らとは昔、色々あってね」

「色々ってなんだ、あんたを殺せと言われたぜ」

 デヌメクはガジュ・オーに向けてニッと微笑む……。

「妹の死と、黒い聖女を漆黒の道へ導いたことについて恨みがあるのだろう。彼女は彼の姪だからね」

 つまりは恨みを買ったということか……。というか、ホーさんはあの大将の姪だったんだ……。

「ああ、そろそろ時間だ」

 デヌメクが言い終わらない内に鐘の音が……。すると中央の大きな扉がゆっくりと開き、タキシードを着た、赤い仮面の男が現れる……。

「お時間となりました、皆様、ご入場下さい」

 俺たちは扉の先へ……。そこはすり鉢状の部屋で、机が横に輪をつくって並べられ、縦には階段状となって配置されている。そして中央には大きな円卓が鎮座していた。

「お好きな席へどうぞ」

 各々がその勢力で固まる。入ってきたところから見て右奥にグラトニーズ、右手前に元老院、左手前に俺たちとデヌメク、左奥にインペリアル・サーヴァント、中央奥の集団は初めて見るな、その中心には厳格そうな背の高い老人、白髪をオールバックで固め、口ひげをたくわえ、服装はバーテンダーみたいな感じだ。そしてその周囲の者たちはどう見ても人間ではないようで、グラトニーズ、マス・スティンガーズ、爬虫類のような男、狼のような男、そして機械人間と……様々な種族が集まっている。……この地にはあんな人種もいるんだな。

 これで全部か……? と思ったら新たに人がやってきた。

 ……うおっ? あの容姿、服装はまさか……フィンなのかっ?

「おいワルド、フィンが来たぞ!」

「なにっ……?」

 アリャを見ると、目を丸くしている……!

 フィンたちはグラトニーズと元老院の間に落ち着いた……。

 しかしなぜだ、なぜフィンが……?

 ……いや、考えようによっては当然と言えるかもしれない。あれはあくまであの三人の独断ということにして責任を回避しつつ、同時に彼らが失敗したときの予備として参加するなど……あり得そうなことだ。

 フィンの戦士は四人、壮年の男二人に青年、そして若い女だ。やはりどれもが凄腕なのだろう。あるいはこちらが本隊なのかもしれない……。

「やあやあ、遅れて申しわけない」

 また来たな、金銀の……煌びやかな鎧の男だ……。その後ろには四人、怪しい風体の男女……。彼らはインペリアル・サーヴァントと俺たちの中間に収まる……。

 中央の老人は周囲を見回すと、口を開いた。

「此度は多忙のところ、よく集まってくれた」

 声が大きい……。老人の発声がすごいというより、機械か何かで大きくしているような感じだ。老人はつらつらと謝辞を続ける。

 それにしても、インペリアル・サーヴァントの中央にいる女は……よく見ると一際豪華な衣服を着ているようだが……もしや彼女が皇帝なのか……?

「ワルド、皇帝って女帝だったりする……?」

「むう? そう見えるのかね?」

「いや、あいつは男だよ」

 うお、スクラトが隣に、なんでこっちにいるんだよ!

「ガキの頃に去勢されたらしいぜ、それで女っぽくなっちまったらしい」

「き、去勢ぃ……?」

「つまり皇帝の血筋は途絶えたってわけだ。だからこそ永遠の命とか、この地の超技術を求めているらしいぜ。あるいはタマタマを復活させたいのかもな」

 スクラトは小さく笑う。お前なぁ……。

 というか、皇帝がこっち見てる、すごく見てるぅ……! さすがにこの会話は聞こえていないと思うが……?

 いつの間にやら謝辞が終わり、お次はどうやら各勢力の代表が順に声明を発表していく流れのようだ。まずはグラトニーズだ。大将が立ち上がる。

「我はギマを代表し参上したる、ガジュ・オーである。この場にて多くを語る必要はあるまい。あれは蒙昧なる輩には過ぎた力よ、止めることに理由などいらぬ」

 ギマ……? ああ、グラトニーズってのはこっちが勝手に付けた名前だもんな。へえ、正式にはギマっていうんだ……。きっとアル・ギマのギマだろうな……。

 そして次は……フィンの代表だな。つるつる頭の男だ。

「今度の件はまことに遺憾なる事態だ。同胞のごく一部の勢力が我々の制止も聞かず、身勝手なことを始めてしまった。謝罪しようにも言葉が思い付かない。となれば行動によって示すのみ……と考え、ここに馳せ参じた次第だ」

 やはりそうくるか。次は聖騎士団……。

「我々は元老院の勅命を受け、この地を踏むに至ったレクテリオ聖騎士団だ。各々、思想種族は異なれども抱いている危機感は同一だろう。世界の破滅を望む者などいないのだ、ぜひ尽力させて頂きたい」

 なるほど、そうだろうな。

 で、順番からして次は俺たちだけれど……。代表はやっぱりワルドかな?

「おい、早くしろよ」

 スクラトがせっつく。いや、俺に言うなよ、ワルドが……って、なんでみんな俺を見てるの……?

「任せたぞ」

「えっ?」

「レクさん、どうぞ」

「俺? ワルドだろ?」

「お前でいい。早くしろ」

 ええっ? 俺、何にも考えてないんだけれどっ……!

「ほら、そこを押すんだよ、そうすりゃ声がでかくなる」

 スクラトは勝手に押す。えっと、本当に俺ぇえ……?

 仕方ない、俺は立ち上がる……。

「あ、えっと、まあ、俺たちはただの冒険者で……えっと……」

 ええい、正直に言うしかないか!

「なんというか、俺たちは何かと縁故があって彼らを追っているんだけれど、世界が危険だって話でもあるらしいし……止めるという話があるなら協力したいんだ。そしてできれば……彼らを生きたまま連れ返したいとも思っている。だから……よろしく!」

 ……っていう感じでいいのかな? 俺はすごすごと座る……。

「君たちは」中央の老人だ「略奪者の一人を倒したそうだな」

 おっと、それは俺に聞いているのかいっ?

「あ、ええ、はい……」

「よくやってくれた。一同を代表して礼を言う」

「ええ、どうも……」

 礼、ね……。どこまでが本当やら……。

 お次は煌びやかな男と怪しい集団……。

「勇者たる者が世界を救うことはただの必然である。そこにあるのは正義の二文字のみ!」

 正義ねぇ……って、それで終わりかい! 最後は皇帝一派だな……。やはり中央の女みたいな男が立った……。

「私はアンヴェラー・アルシス・フェルガノン五世。かつて分裂した帝国の正統後継者である。道半ばにして頓挫しているが、いまも世界平定の夢は潰えていない。しかし、その夢も世界が滅びてしまっては話にならぬ。ゆえに、助力を提案した次第だ」

 これで大方終わったようだな……。しかし犬猿の仲たる聖騎士団を前に帝国の正当後継者って言い放って大丈夫なものか……。まあ、俺たちには関係のないことだろうが……。

 そして最後に中央の老人が話を締め、この後は……会食があるらしい……。

「彼らが次なる遺跡を攻略できるにしても、相応に時間が掛かるだろう。つまり、時間の猶予は充分にあるということだ。ゆえに今日の残る時間は、お互いに交流を深める時間に費やそうと思う。ギマ族の調理師が御馳走を振るってくれるそうだ、彼らに感謝し、楽しむとしよう」

 見ると、デ・キューとグラトニーズ、そしてタキシードの一行が中央の円卓にクロスを敷き、料理を運び、並べ始める。

 ああ、飯をご馳走してくれるのはありがたいな。あいつの腕は確かだし。

 そして俺たちも円卓に集まる。そこには酒か何かが注がれているグラスが並べてあり、そしてみなそのグラスを取って乾杯! 会食が始まった。しかしみな互いを意識しているのか、動きがぎこちないな……。

 でも、ここじゃあ戦いが始まったりしないだろう。あんまり気にしても仕方がない。

「うほほ、美味そうじゃねーの!」

 スクラトはさっそく料理をよそって食い始める。さて俺は何を食うか……? と、そこにキューが料理を並べにやってきた。一応だが、聞いておかなきゃならないことがある……。

「キュー」

「はいよ!」

「人肉はないよな?」

「ないな、食べたかった?」

「いいや……」

 ……って前にもやったなこのやり取り。

 まあ、ないならいいや、食うぞ! とりあえず肉だ!

 うん、肉汁が逃げておらず美味いな。焼き加減といい、ソースといい……?

 あれ、なんでみんなこっちを見てるの……?

 な、なにか、礼節に反することをしたとか……?

 みな、ぼそぼそと話し合い、そうして料理に手を付け始める。

 ああ、毒が入ってないかとか、そういう心配をしたわけだ。

 そして俺はその危惧をまったくしなかった奴ってわけだ……。

 思えば、主催者はあの老人なんだ、グラトニーズが邪なことを考えていなくとも、あのタキシードたちが毒を入れる機会はあるわなぁ……。

 そして案の定、黒エリが呆れた目で俺を見ていると……。

「お前は阿呆か」

「ばば、ばっか、訝しんだら失礼だろうが……! 万一、毒とか食らってもエリが治してくれるんだよ……」

「治癒の魔術は毒にも効くのか?」

 おお、言われてみればどうなんだろ……?

「う、うるさいよ、食べろよもう」

 料理はどんどんやってくる。さあて、次は何を食べようかなと思っていると、隣と肩が当たった。

「あ、申し訳ない……」

「いえいえ……」

 見ると、蒐集者だよ……。

 ささっと去ろうとすると、追ってくるよ……。

「な、なんだよっ」

「よい機会です、談笑でもしましょう」

 お前と一緒に何を笑えってんだよ!

「いいね、私も混ぜてくれ」

 もう一方にデヌメクだもん……。挟まれたよ……。

 だ、誰か助けて……って、みんなこっちの有様に気付いてないぃ……!

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