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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
30/149

インペリアル・サーヴァント

 そうはいっても、僕はユニとはちがう。

 まあ拷問も嫌いじゃあないけどね、半分は信仰のためさ。

 とはいえ虚しさはあった。いつまで続くのかとね。

 苦痛を与えるばかりではなんだか、進歩がない気もする。

 そういう意味じゃ、彼との対立はよかったのかもしれない。

 終わりの前にふさわしいイベントだった。

 ユニを巻き込んだことは後悔しているが……いまさらか。

 しかし、それでも……。


「そういえば、ずいぶんと痩せちゃったのねー! この前とは別人みたいよ!」

 そうなんだよな、実際ヘロヘロではある……。

「実は、疲労と筋肉痛で動けないんだ……。墜とすといった手前、かっこ悪いけれど……」

「わたくしが治癒いたしましょう……」

 おお、やはりというか、使えるんだな。……ああ気持ちいい、ホーさんの手から温かい感じが広がっていく……。

「これは……エグゾースト……いいえ、フレンジィバトラーの後遺症に近いようですね……」

「どうにか逃げようともがいていたら、なんだかすごく活性化したようで……」

「なるほど……」

「あと、なんといいますか、怒りが抑えられなくなったというか、暴力的な衝動が強くなったのですが……」

「まさしくフレンジィバトラー……。怒りなどの強い感情を引き金に……心身が暴走状態に陥ることはそう珍しいことではありません……」

「暴走……ですか」

「ええ……感情はいつだって諸刃の剣なのです……」

 そうか……。たまたま上手くいったからいいものの、ちょっと気をつけないとな……。

「おばさま、治癒には時間かかるの?」

「筋肉痛にはそれにふさわしいやり方があるのです……。筋肉が発達する機会を損なわない方法が……」

「ふーん、そんなものなのねー」

 ……ホーさんって、ミステリアスだが、なんだか優しい感じもあるよなぁ……。けっこうエリに似ているかもしれない。

 とはいえ、どうにもここと関係がありそうなんだよな。その辺り、聞いてみようかな……?

「ときに……ホーさん、あなたはここと何か関係でも……?」

「ええ……かつて、私はここの主でした……」

「えっ……!」

 マジかよ、スゥーはにんまりとしている……。

「黒い聖女とはその当時の異名……。ここは代々、業の深きものたちが継承してきました……。そして先代は永遠の美女とうたわれし、かのルクセブラ……。まあ、その話はいまはよいでしょうか……」

「じゃあ、あの……暗黒城の姫と呼ばれている女がいたんですが、あれは何者なんですか……?」

「クルセリアが去ったのちに……自称している者たちが居着いたとは聞いていましたが……」

 正式に継承しているわけではない……?

「……ええっと、まさか、あなたも拷問などを……?」

「おばさまがそんなことするわけないじゃない」

「あ、いや、そうだよね……!」

「……わたくしの業とは……悪の研究です……」

「悪の……? なぜ、そのような……?」

 しかし、待っても継がれる言葉はない……。

 ……でもそうだな、あの図鑑によればだ、暗黒城の聖女は悪の研究をしているとか、紛争を引き起こしたとか、書いてあったような……?

「とどのつまり、あの女はただの偽物ってことで、ぶっとばしちゃえばいいのよ!」

 まあ、それはそうなのかもしれないが……。

「はい……よろしいですよ……」

 おっ、治癒が終わったようだ! たしかに、あれだけあった体の痛みが消えている、疲労感もない……!

「こりゃすごい! ホーさん、ありがとうございます!」

「ええ、これもまた、業ですから……」

 なに? なにが……?

 しかしこのひと、なんかいつも悲しそうだな……。

「と、ところで、どうやったらここを堕とせるんですか?」

「あの黒い霧はすべてを再生してしまいます……。ですが、中枢を適切な方法で破壊すればなんとか……。それと念のため、各区画を切り離す必要もあるかもしれません……」

「なるほど……。ですがあの、堕とすといっても、ここには罪なき者もたくさんいるはず、墜落させたりはしませんよね……?」

「着陸をさせたのちに……分断することにしましょうか……。行き場のない者たちのため、居住区画を残しつつ……」

「ああ……それならいいですね」

「とにかく、ここの主人面している連中を懲らしめましょうよ。そうすれば後はどうにでもなるし」

「そうだな。エオと仮面の……そういや彼女の名前は?」

「プモルシィさんです」

「そうか、じゃあ、エオとプモルシィ、準備はいいかい?」

 二人の首肯は大きい、やる気は充分のようだな。

 よし、それじゃあいくか、向かうは中枢だ……って、どうしたんだろう、ホーさんが辺りを見回しているが?

「どうかしましたか?」

「ええ……やはりというか、防衛システムが機能していないようですね……」

「……防衛システム?」

「ええ……。本来、こちらの居場所は筒抜けのはずですが……一向に動きがありませんので……。制御系を完全には掌握していないようですね……」

「というと?」

「現在の主に与えられた権限はせいぜいが三等クラスということ……それはつまり、依然としてここはクルセリアないし、彼女が継承させたものにあるということです……」

「あの、それってクルセリア・ヴィゴットのことですよね?」

「ええ……」

「な、なんでまた?」

「そういった約束でしたので……」

「約束……とは?」

 ……沈黙か。

 うーん、まあ、どうしても知りたいってわけでもないしな……。

「……あの、クルセリアとはいったいどういう人物なんです?」

 ホーさんが、見すえてくる……。

「どうして、知りたいのですか……?」

「まあ、仲間の敵なようですし……」

「彼女は……そうですね、純粋にすぎる、とでもいいましょうか……」

 純粋? いや、よく知らないが、そういうイメージはまるでなかったな。

 それにしてもワルドの宿敵、あの司書がこんなところの主人だったとは……っと、そうだ、他に聞くべきことがあったじゃないか。

「ところで、ここはリザレクションと関係が……? あのエオとか、死んだと思ったら……」

 うん……? ホーさん、エオを気にしている……彼女はプモルシィと話をしている……って、すすっと近づいてきたっ?

「……その件は内密に、あくまで再生であって、復活ではありません、記録された情報より再現された複製、つまり、彼女は元の人間、当人ではなく、よく似た別個体でしかありません……」

「な、なんですって……?」

「そして正確には、人ですらないのかもしれません、彼女にその自覚が……?」

「……さ、さあ……?」

「では、念のため、ここだけの話にしましょう……。誰にとっても、知らなくてよいことはあるものです……」

「わ、わかりました……」

 いやっ、しかし、マジかよっ?

 だとしたらあのエオは、エオたちは……実際に死んでいたっていうのかっ……?

 そもそも人間ではない? だが、それってどういうことなんだ? どこから見ても人にしか見えないが?

 しかし、おかしいといえばそうだ……。どろどろに溶けて消えた人間が生きているとも思えない……。

 うーん……。

 なんだか、えもいえぬ気分になってきたな……。でも、まだ聞きたいことはある……。

「さ、再生の正体が……よく似た別人の誕生だとするなら、リザレクションこそが真に蘇らせる秘術というわけなのですか……?」

「それは中央にて知ることです……」

「なぜ、そこまで秘密にするのです……?」

「……神の実在、その有無を語ったとてさして意味などなく……。それと似たような理由、とだけ申しておきましょう……」

 ……なんだそれは? 曖昧が一番みたいな……?

「中央のことは私もよく知らないのよねー」スゥーだ「おばさま教えてくれないの」

「行ってみようとは?」

「どうかしらね!」なんか軽快にステップを踏んだ「サバイバルには興味ないかも」

「そうか。それはそうと、君はどうしてここへ?」

「まあ、暗黒城をちょっと見に来ただけよ」

「そんな理由で? でも、ここはとんでもないありさまだよ。残酷な奴らが闊歩し、おぞましいことになっている」

「もともとは清廉なところだったそうだけどね、クルセリアのあとから、なんか変なのが居着いたみたい」

 なるほど、やはりというか、ホーさんのときから続く慣習ではない、ということか。

「さあ……ゆきましょう……。終わりは近い……」

 ああ、ここをぶっ潰すんだったな、クソみてぇな場所こそ、終わりは待ちきれないもんだぜ……!

 ホーさんの足どりは一直線だ、目的地がわかっているんだろうしな、ついていこう……と、行く先にあるのは広い橋、しかし中央付近には異形の奴らがたむろしている……って、あれ?

「黒い霧が、晴れている……?」

 思えば、すっかり見晴らしがよくなっているな、黒い円柱を束ねたような巨体が露わとなっている。

「わたくしどもの参戦を受け、視界の不利を解消しようとしたのでしょうか……。ですが、戦術的であることは、本施設の本懐を損ねますね……」

 ホーさんの顔は黒いヴェールでよく見えないが……ご機嫌では、まったくないだろうな。

「そうだ、あの黒い霧はいったい何なんです?」

「再生、保護など複数の効能があり……医薬品としても使用されたりしていますね……」

「えっと、吸ってしまっても問題はないと……?」

「ええ……害はいっさいないはずです……。むしろ……」

「こっちに気づいたみたいよ!」

 おっと、異形の野郎どもがやってくるぞ!

「さあ、はりきっていくわよ! ピンクパンサーッ!」

 あのでかいピンク色の火器か! まばゆい光線で周囲を薙ぎ払っていく……! しかし、異形の奴ら、けっこう無事なようだ? 怯んではいるが……。

「無益な殺生はしない主義だけど、攻めてくるなら容赦はしないわよ! さあ選びなさい、死か逃走か!」

 あれっ、あいつら、そそくさと逃げていく……な。

「あらら、意外と根性なしばかりね……」

 まったくだぜ! 見た目はいかつくても中身はそんなもんなんだよなぁ、あいつら!

「ま、いいや。さっさと進みましょう」

 それにしても、あれだけ恐ろしい場所がこの二人の加入だけでこれほど変わるものとは……。しかし、それでも奴だけは危険だ、デヌメク……と思ってる側から現れやがった!

 ちっ、前からこういうこと多いよなぁ……! 悪い予感ほどよく当たるってやつだ!

 デヌメクの奴め、橋の中央を乱れぬ歩調で進んでくる……っと、なんかニッと笑んだ……。

「久しぶりだね、黒き聖女よ。返り咲きかい?」

「まさか……」

「冗談のつもりではあるが、いざその返答を聞くと残念な気分になるね。とはいえ面白い組み合わせだ、縁となったのはやはり君か」

 なんだ、俺ぇ? たまたまだろ……っと、スゥーが銃を構える、ものの、ホーさんが制止する……。

「ここは虚ろな器になって久しい。砕け散ることすら望むほどに」

 なんだ? デヌメクの奴め、橋の端に立ち……?

「これからが楽しみだ」

 ……って、倒れるように落ちていったっ……?

 ……いや、まさか自殺でもあるまい、単に帰っただけか……って、いや! そう思った側からまた姿を現しやがった、魔術なのか、中空を、階段を上るように歩いてきやがる……!

「うむ、妙に後ろ髪を引かれる思いだ。懐かしい顔に新しい顔、そして滅びの時を迎えたこの場所、どれもが私に感傷を与えてくれる」

 あれはなんだっ……? 頭上より、銀色の……船のようなものが降下してくるっ……?

「勇む君たちには戦意こそが礼儀かな。木偶で悪いが貢献させてもらおう」

 船から何かが降ってくる……全身が銀色、細身だが甲冑を着込んだような姿、手には銃らしき得物、二十体以上はいる……!

「お心遣いは結構です……」

 ホーさんが何か唱えている、銀色の兵士の一体を指差した?

「うっ……?」

 何が起こっている? 兵士たちが一箇所に集まり、いや引き寄せられている、どんどんくっつき始めている……!

 あっという間にでかい球体状にっ……! しかも、不気味な音を立ててひしゃげていく……どんどん小さくなって……!

「うわぁ、えっぐぅー!」

 スゥーは身を捩らせる、同感だ……あんな魔術、ありなのかよ? どうにもあれらは人間でも異形でもなく、人形、いや機械のようだが……それにしたって無残な姿だ、もう、ただの金属の塊に成り果ててしまった……!

「腕は鈍っていないね」

 うおっ? いつの間にかデヌメクが側に立っている、ホーさんと対峙している……!

 ホーさんとデヌメク……! 互いに何をしているってわけじゃあなさそうだが……ものすごい重圧を感じる、動けない……!

「やはり君は素晴らしい。黄金の瞳と若く美しい姿、完全に発現しているね」

「美とは森羅万象への畏怖があってこそ感じられるもの……。あなたにはそれがありません……」

「私は君を救いたいのだ」

「傲慢ですこと……!」

 うっ! 船からさらに! でかい機械兵士が降り立った……! しかも、武装? の充実さが先のとは段違いだぞ……!

「私たちは感傷に忙しい。君たちはしばしあれと遊んでやってくれ」

 馬鹿な、あんなのと戦えるかよ! 機械兵士の眼が光る、背中から大口径の大砲が現れたっ……!

「させないわよんっ!」

 スゥーだ、大砲を攻撃! いやっ、左手の輝く盾で防がれる、だが角度的に大砲と干渉している、代わりに右手の銃がこちらを狙ってきた……!

「やばいっ!」

 とっさのシューター……! だが、案の定かまるで通じない! さすがに金属を切り裂く威力はないか……!

「モッキンバードッ!」

 ぐっ……! 機械兵士が銃を連射……するが? 明後日の方向に撃っているなっ? 何を狙って……鳥のようなものがふらふら飛んでいる、あれも機械っぽいな、エリのものとは違うようだ。

「あいつは今、幻影を見ているから大丈夫よ!」

 幻影だって……? よくわからないが、とにかく隙だらけってことか! スゥーのピンク銃が発光する、乱れ撃ちだっ!

 たしかに隙だらけのようだ、光弾が機械兵士に命中していく、やったかっ? 爆発して、沈んだ……!

 おお、よかった……あんなものまともに相手できないぜ……って、まだ安堵には早いか、まただ、先ほどよりずっと小型だが複数の飛行物体! ちくしょう、新手かよ!

「またかよ、ヤバいぜ……って、うおおっ?」

 ななっ、何だっ? いつの間にか足元が真っ黒! いや、ぞわぞわうごめいている! これって……虫ぃいいーっ?

「きゃああっ! ムシィー!」

 スゥーが飛び跳ねる! エオはじっと我慢の子、プモルシィはなんか平気そうだが……。

 というかこれはどこから……って、ホーさんの手からだっ?

「ほう、一度にこれだけ出せるとは、鈍るどころか成長しているじゃないか」

「こ、これは一体……?」

「悪身業、ヴァーマナス・ヘルだ。この魔術は目標物を食らい、その場を占領し、機能を再現する。そうなれば生かすも殺すも術者の思いのままというわけだ」

 な、何だそれはっ……! さっきのもそうだが、ホーさんの魔術はいささか……エグくないかっ?

「ブブッ、ブルちゃーん! 早く来てきてっ!」

 スゥーが叫ぶ、と? うわわ、なんか流線型の真っ赤なものが飛んできたっ……ものの、側で停止した、スゥー、ひらりと飛び乗る!

「さあ、みんな乗ってちょうだい!」

 よくわからんが、そりゃあもう乗るしかないわな! 俺はスゥーの隣、エオとプモルシィは後部に乗り込む……と? 屋根が展開、スゥーの前に丸い取っ手がにょきっと出てきた!

「いくわよんっ!」

 うおおっ……きっ、急加速っ! つーか空へ飛び立っている! 敵船らしきものの間を突き抜けぇええっ……急旋回っ!

「さぁーて、どうしてやろうかしらっ!」

 ブルちゃん? から何か出たっ? すごい速さで敵船を追いかける、爆発! 追跡する爆弾のようなっ? どんどん撃ち落としていくっ……っと、今度は前の方から輝く角が伸びた! なるほど、牛っぽい感じ!

「邪魔じゃまよっ!」

 残った敵船を角でえぐっていく、蹴散らしていく、すごいぞスゥー、そしてブルちゃん! でもなんかビービー鳴り始めた!

「どうしたのっ?」

「敵のミサイルよ!」

 ミサ……って、うおおおおっ? 猛烈な加速、上昇っ! 雲を突き抜けぇ……? うわぁ、周りは青一色、下は真っ白、いやっ、なんか飛んできてるぅうっ? さっきブルちゃんが出してたのとよく似ているがっ?

「ミサッなんとかっ?」

「ミサイルよ!」

 ミサイル、高速追跡爆弾とでもいうべき兵器! すごい数だ、ぱっと見、十数はある!

「撃ち落とすわよんっ!」

 モヴッ! と変な音っ? すっげ、雲にパッカリでかい穴が空いたっ! ミサイルがふらついて爆発していく、どうやら助かっ……たって、また加速ぅうう、今度は急降下ぁああっ……! 眼下に暗黒城が、敵船はあと二隻、互いに別方向へ旋回している、挟み撃ちにでもするつもりかっ?

「安易よねー!」

 右ぃいい……と思ったら左ぃいいい! 暗黒城がものすごい速さで動いている……んじゃなくて、こっちが高速で踊っているんだ、敵船の尻が見える!

「ドッグファイトは空中戦の醍醐味よねぇ!」

 ブルちゃんの銃撃、敵船は火をふいて失速、暗黒城の方へ落ちていく、残るは一隻だ……!

「あら終わり? 空中戦は久しぶりだったのにー」

「あっ、人が出てきたぞっ?」

 落ちていく敵船上部が開いて、人が飛び出した! 自殺行為……いや、パラシュートが展開! つーかあいつ、アホの妹じゃないか? 小さくてよくわからないが……。

「見逃してあげようと思ったけど……あいつじゃだめー!」

 あっ、パラシュートを撃っちゃった……。ああ、真っ逆さまだ……!

「今度こそ終わりね!」

「うーん、えげつない……!」

「最初に仕掛けてきたのはあいつよ! 空からバリバリバリッて撃ってきたんだもん!」

 残った敵船、アホの妹の元へ飛んでいく! おっと空中で拾ったらしい?

「まったく、どこまでもしぶといわねー!」

 敵船はさっきまでいた橋近くに着陸したか、しかもあれはケリオス! お前とは決着をつけないとな……!

「奴の近くへやってくれっ! あいつは俺がやる!」

「わーお、かっこいい!」

 追って着陸だ、よしいくぞっ!

「ケリオスッ! 決着をつけるぞっ!」

「レッ、レクテリオルッ……!」

 なんだ、及び腰かっ?

「ぼうっとしてんじゃねぇっ!」

 駆け寄っても動かない、このままぶん殴ってやるっ!

「おおおっ!」

 手応えあり! ケリオスやつ、あっさり倒れたな!

「どうした、得意なのは拷問だけかっ?」

「き、君は……まるで災害だな……! あんな者たちまで連れてきて……!」

「どの口がぬかすんだ! さあ立てよ、ボコボコにしてやる!」

 ……って、なんだよこいつ、座ったまま立ち上がらない……。

 敵意もないようだ? まさかもう降参かよ……?

「……お前たちは何者なんだ? なぜここで拷問なんかしている? つーか宿にもいたよな?」

 ケリオス、自嘲するように笑う……。

「ここまでされてはお咎めなしとはいかないだろうし……ついでだ、教えてあげるよ。僕たちはブラッドワーカー、そしてインペリアル・サーヴァントでもある……」

「ブラッド……インペリアル……? どこに皇帝など……」

「皇帝一族は滅びていない……。いまだしぶとく、息を潜めているのさ……!」

「なに? だとして、なにを目論む……?」

「無論、帝国の復興さ……!」

 帝国を……?

「……そんなお前が、なぜあの宿で職員なんかしていたんだ? まさか、お前たちの支配下にあるとか……?」

「あの宿の歴史は帝国の誕生より古く、常に権力者たちの手で運営されてきた。……まったく、ラウンジに年表の書かれた説明板があるというのに、君たちはぜんぜん読もうとしないんだから……」

 そ、そんなもの、あったか?

「それで、なぜここで拷問などを……?」

「それは信仰の問題だね。だがそれとは別に、任務も請け負っていてね、占領と維持を任されていた。といっても、できることはほとんどなかったが……」

「占領と維持……皇帝のために? それともブラッドワーカーとやらの任務か?」

 ケリオス、意味あり気に笑む……が、すぐに眉をひそめた……って、うおっ! いつの間にかデヌメクが後ろにいるっ?

 ホーさんの姿はない……。

「ホーさんはっ?」

「中枢へと向かったよ」

 ああ、やられたわけじゃあないのか……。

「あ、あなたはいったい……?」ケリオスだ「カーディナルのお知り合いだそうですが……我々の側なのでは……」

「私はただの隣人だよ」

「そう……ですか……」

 ただの隣人がわけのわからん機械兵士をけしかけてくるかよ!

「しかしケリオス……。なぜ、戦おうとしない?」

「無駄だからさ。増援の可能性は聞いていたが、まさかスペシャルセブンとはね……」

 スペシャル? グラトニーじゃないのか。

 というか、ケリオスの船の陰にアホの妹がいるな、あのときかなり電撃をくらったはずだが元気そうだ、無駄にタフだな……。

 ……いや、思えばケリオスの方も妙に顔がキレイじゃないか? 歯がいくつも折れるくらいの威力でブン殴ったのに……腫れていないし、歯も揃っている……。

「なによ、もういいでしょ、さっさと帰りなさいよ!」

 なんかスゥーたちを威嚇しているが……。

「でもあんただけは残りなさいよ! まだ拷問の途中なんだから!」

 あいつはなんでそんなに強気なんだよ……。

「……あいつもお前も、妙に回復が早いな?」

「僕たちは竜の血……の調整品だが、それに適合しているからね……。限度はあるが、高い治癒能力がある……」

「あらお兄さま、それって極秘事項じゃなかった?」

「もういいのさ……僕たちは知りすぎた……。遅かれ早かれ、消されるに違いない……」

 知りすぎた、何を……?

「観念したか、よい心がけだな」

 うっ! なんだ、頭上に誰かいる、宙に浮いている! それになんだ、光の輪が……ケリオスとアホの妹へ向かっていく……!

「なんだ、そっちがきたのか……」

 三人組だな、みな赤っぽい服や鎧姿、図体のでかい男と小柄な少年、そして若い女……。

「やはり裏切り者は貴様らだった」

「いい機会ね、この場で処刑してしまいましょう」

「皇帝さまを侮辱してさ!」

「えっ、なにがよ!」アホの妹だ「なんなのよこれっ?」

「いずれにせよ、諦めるしかない……」

 ケリオス、また自嘲気味に笑う……。

 それにしても、あの二人を囲っている光の輪、拘束の魔術だろうか?

「やってきたことに比べれば、思ったよりまともな死に方だよ。存外、主は血を好むのかもしれないね」

「よくわからないが、抵抗しないのかよ?」

「……なんだかほっとしてもいるんだ。君の拳が効いたのかな? でもユニは……かわいそうだ。どうにか助けてやってくれないか……?」

 なんだそりゃあ? なにを突然、悟ったかのような……。

「そうだ、思えば僕は……殴り合いとか、ぜんぜんしたことがなかったな。ああ、しまった……やはり最期に君とやり合っておくべき……」

 輪が締まりっ……? ケリオス、首が飛んだっ……!

「さらばだ、エンバー・ラスト」

 こっ、拘束するためのものじゃなかったのか!

「おっ……お兄さまっ……! お兄さまぁあああああっ……!」

 ぐううっ、どうするっ?

 あいつ、ひどい性悪だが、助ける、いや敵だぞっ?

 そもそもどうやって? 俺にはきっと無理だろう……!

 こうなったらデヌメクに頼むしか……。

「案ずるな、すぐ同じ場所へ送ってやろう」

「お……お前ぇええええええっ……!」

「おいあんた! あいつを……」

 うっ……遅かったか! あいつの首も、飛んだ……。

「さらばだ、トリアドール。さて……貴様らはどうするか」

 頭上の奴ら、降りてくる……!

 男は槍を、少年は小型の銃を、女は剣を携えている……。

 女は鼻で笑い、

「冒険者と……豚の組み合わせとはな。愚民も落ちるところまで落ちたものよ」

「なんだとこの野郎……!」

「ときに」デヌメクだ?「いま、助けを求めたのかい? あの子は君を痛めつけていたはずだが」

「いやっ、まあ、あいつはただ……」

 船の陰になっているが、あいつの死体がある……。

「ただのアホだったんじゃないかって……」

「なるほど」

 ……ってなんだっ? 地面が、傾いたっ……!

 ホーさんか!

「なっ、これはいったい! 貴様ら、何をしたっ……?」

 デヌメクはニッと笑み、

「ここも滅びの時がきただけのことさ」

 奴らの表情が変わる、どころか顔が仮面で覆われた……!

 戦闘は免れ得ないな!

「……我らはインペリアル・サーヴァント。陛下の城に手を出すとは万死に値する愚行よ……!」

 だがやれるか? 今まともに戦えそうなのは……って、肩に手が、デヌメクだが……。

「いさかか気怠いな。終焉は美しくあってもらいたいものだよ」

 悠長だな、あんたも奴らに狙われているんだぞっ?

「ゆくぞ、下賎なる者どもよっ!」

「さて、君はどう戦うんだい?」

 さっきの機械兵士よりはマシそうだが、相応に強そうな相手だ。

 だがまあ、やってみるか。

 ……あのアホ兄妹の仇打ち? まさか。

 そんな気はないが、まあ、ちょっとだけムカついているかもな。

 ああ、やってやるよ!

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