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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
28/149

拷問室での邂逅

 拷問というけど、とくに問いただしたいことはないのよ!

 そんな必要ないもの!

 ないのよ!

 ないの!

 痛めつけるためにいちおう聞いてるだけなんだから!


 うっ……なんだ、どこだここは……かっ、体が動かないっ? 立っている、いや磔台に拘束されているっ? 手足、鎖が巻きついている……!

 くそっ、そうだ、眠らされて捕まったんだ、ここはどこだっ? 眩しいほどに白い、部屋……。

「ようやく起きたわね!」

 く、黒いドレスの女……だ!

「じゃーん、あんたには特別に個室よ! 固執してるから個室よ!

いひひひひ! って感じなのよ!」

 くそっ、鎖は新品同様だ、とても外せそうにない……!

「魔術でなんかするのもいるからそれはもう厳重なのよ! といっても、あんたにそこまでのものはないっぽいみたいだけどね、実際どうなのよっ?」

 どうって……仮にそんなもんあっても正直にいうわけないだろうが……!

「……答えなさいよっ、どーん!」

 ぐああ……っ? なんだっ、ステッキで突かれただけなのに、この痛みはっ……?

 いや、覚えがある、これは電撃の痛みだっ? 魔術か、それとも……。

「答えないと、どんどんどーん! よっ!」

「ぐううううっ……!」

 じ、自分のとは……比べものに……ならない! しかも体にだ……!

 ぐっ……嫌な汗が……どっと出てくる……!

 こいつっ……! 笑っていやがる……!

「やーん、気持ちいいっー! 堪えていたってわかるのよ! 苦しいし、怖いのよねーっ?」

 楽しそうに跳ね回ってやがる、なんて奴だっ……!

 ううっ……だがステッキ、今度は眼前にっ……!

「服従するなら手加減してあげてもいいのよ! どうせ最後にはするんだし、早い方がお得よ大サービスなんだから!」

「するわけねーだろうがっ……! このくそったれっ……!」

 があああっ……! 電撃っ……幾度もぉおおっ……!

「汚い言葉はダメなのよ! 許さないんだから!」

 くううっ……こんな状況、では……!

 手も足も出ない……!

 だが、そうだ、彼女らは、どうなった……?

「エッ、エオたちはどうしたっ……?」

「ひとの心配してる場合じゃないでしょ? 今はこのユニグルさまに媚びる時間なのっ!」

「誰が……! このクソッタレめっ!」

「罵倒はダメっていったわよねーっ!」

 ぐぅううううっ……!

 こっ、このやろぉおおお……!

 だがっ、挑発は損か、やられるほどに体力が大きく消耗していく……!

「あららん我慢するじゃないー? そうされるとかえって盛り上がってきちゃう……といいたいところだけどあれよ、最初はこのくらいにしておくわよ。ショックで死なれても困るんだし」

 くそ……ちくしょう、め……。

 この女、満足そうだ、頬を紅潮させている……。

 拷問を、楽しんでいる……。

「外は進歩率1850くらいって話だし、発電機もそんなに普及してないわよね? 電撃の痛みなんてなかなか味わえないわよ」

 進歩……1850……?

「し、進歩……りつ……?」

「でもあんたってば、なんか電気であの銃撃ってるらしいわね? ちょっとは魔術使えるんでしょ?」

 なにっ……? なぜ、こいつが、そんなことをっ……?

「お揃いーってことでこのショックステッキなのよ。ところであんた、拷問は好きな方なの?」

 ……なんだと? そんなもん……。

「好きなわけ、ねぇだろう……!」

「するのとされるの、どっちが好きぃ?」

「両方、大嫌いに決まってんだろうがっ……!」

「最初はみんなそういうのよね。でもすぐにこっち側になるのよ!」

 なるかよアホ女め……!

「……といっても、もちろん簡単にはさせないのよ! 私にしていいのは運命の相手だけなんだから!」

 何をいっているんだこいつはっ……?

「あんたならそうなれる可能性も……っと、あらお兄さま」

 なんだ……? 足音が近づいてくるが……。

 誰だ、俺を眠らせた奴か……いや違う……って、なにっ? なんだとっ? そんな馬鹿なっ……?

 た、他人の空似? まあ、数回しか会ったことがないしな……。

「まさに邂逅ですね、レクテリオル・ローミューンくん。覚えていますか? 僕ですよ、ケリオス・ホーメイトです」

 ううっ……! や、やはりっ……?

 本当にそうなのかっ? あの宿の、受付のっ……?

「おっ、お前は……! 宿にいた……!」

「いやいや本当、すごいですね。豚どもの集会に参加したとか」

「あんた、どうして……!」

「もちろん仕事ですよ」

「し、仕事だと……?」

「まあまあ、楽しくいきましょう。貸してくれるかい?」

「いいけど……」

 こいつもそういうクチかよ……!

「なんだ、ずいぶんと加減しているじゃないか」

「……まあ、死んじゃってもつまらないし」

「ならば蘇生させればいいだけさ」

 ぐっ、くるっ……ううっ、これは……!

 ステッキの先、輝いているっ……?

 先ほどまでとはっ……?

「……っぐああァアアアアッ……!」

「ほらね、なんだかんだ大丈夫なものなんだよ」

 ……ああ、あ……!

 こっ……これはぁ……!

 ……いっ、今までのと、違うっ……!

 まっ、まったく次元の違う衝撃がっ……!

 ……ぐうう、痛みが……染み入ってくる……動悸が猛烈に……冷や汗が止まらない……か、体が緊張しているのか、脱力しているのか……わからない、自分のものではないみたいだ……。

 ま、まずい……こいつはヤバい……。

 こんなもの、幾度もくらっていては……。

「表情が変わりましたね、ふふふ……」

 ケリオス……愉快そうに……。

 こっ、こいつ……! あんなに……人の良さそうな奴だったのに……!

「お……おお、お前ぇええ……!」

「安心してください、殺しはしませんよ、今のところはね。どうやらあの方も気にかけているようですし」

「……まっ、待ってよ! 今じゃなくても殺しちゃダメ、こいつは私に任せて!」

「おや、気に入ったのかい?」

「ま、まあ……」

「……そうか。よし、わかった。あの方次第だけれど、生かしておく場合はユニのものにしていいよ」

「やったぁ! じゃあステッキちょうだい!」

 ステッキをいじっている……威力を弱めているのか……?

 こいつも大概だが……多少は、マシか……。

 意地の悪い猫みたいな顔つきだが……。

「さーあ、楽しみましょう! あんたってば何が好物なのよっ?」

 なにっ?

 何だその質問は……って、くるかっ……?

 いやっ、こない、突くふりをしているだけ……。

 こいつ、弄びやがって……!

「くそっ……!」

「やーん、突いてもいないのに反応いいじゃなーい? じゃあじゃあ、どの辺りにして欲しい? ちょっとだけなら選ばせてあげるんだから!」

 こいつ……反応を見て愉しみやがって……!

 だが……なかなか突いてこない、いやっ……!

「ぐうっ……!」

「いひひひひっ、どうっ? どうなのっ?」

 やっぱり、やってきやがったが……!

 しかし、やはりだ、威力は先ほどよりずっと弱い……。

「遊ぶのはいいけれど、口をきけるようにはしておいてくれよ。あの方のみならず、カーディナルまでもが彼を気にかけているんだからね」

 カーディ、ナル……? 女の手が止まる……。

「そう、らしいのよね……」

 ……なんだ? じっと凝視してきやがって……。

「あんたってば何をしたの? いくら私でも、あの方は止められないのよ。せいぜい命乞いをしておきなさいよね……!」

 こいつは本当に、俺を殺したくはなさそう、だな……。

 ケリオスの野郎が笑むが……。

「まあ、カーディナルとて殺しが目的ではないと聞く。あるいは君も作品にされるんじゃないかな」

 作品……だとぉ?

「彼の作品には惚れ惚れさせられる……というか正直、嫉妬しちゃうよね。なあ、君も見ただろう? あの人間植木鉢とかさ、本当、圧倒されてしまうよ……。僕も真似しようと頑張っているんだけど、けっきょく死んでしまうんだ」

「もー! お兄さまは殺してばっかりなんだから!」

「よい作品づくりには犠牲も必要なんだよ。しかしカーディナルも解せないな、あんなに素晴らしい作品を生み出せるというのに、なぜコインなんかを収集しているんだろう?」

 コインを収集だと……? ということは……。

「だからこそのあの異名なんじゃないの? でも同感だわ。コレクションするなら自身の作品で充分でしょうに」

 女はため息をつく……。

「ところでエオは? まだ捕まらないの?」

「まだのようだね」

「あーあ、せっかくカーディナルさまがやってくれたのに、あのお馬鹿たちが殺しちゃったのよね……。捕まえたらまたやってくれるかしら?」

「ユニはお気に入りだからきっとやってくれるよ」

 エオを……?

 ……植木鉢、そうだ、なにやらそうしていたとかいっていたような……。

「あいつらってなんで雑に殺すのかしら? 殺しちゃったら楽しめないじゃないのよ!」

「そうはいっても僕に粛清する権限まではないからね。ところで、カーディナルはまだ来ていないのかい?」

「ええ、これの仲間も掴まえるって、地上で頑張っていらっしゃるみたい」

 なに……? 奴が、みんなをも……?

「でも、あのワルド・ホプボーンがいるんだろう? 深追いはやめた方がいいと思うな」

「どうして? たしかに凄腕とは聞くけど」

「それもあるんだけど、ほら、あの魔女がさ」

「ああ、関係があるの?」

「そうだよ、どういう過去があるのか、彼女はホプボーンにご執心らしい。それに魔女はあの方とも旧知らしいし、いろんな意味で手を出すなってジュライールにもいわれていてね」

「ふーん」

 魔女……図書館の、あの司書、そしてワルドの仇……。

「それに……と、来たようだ!」

 なに……? 突然、二人が身を強ばらせた……?

 なんだ……? 足音が……近づいてくる……。

「ユニ、粗相をしちゃいけないよ……」

「わ、わかってる……!」

 あいつは……! そうだ、あいつこそが俺を眠らせた奴……!

「あ……先ほどは、助力を……」

「すまないが、席を外してもらえるかな」

「はっ……はい!」

 二人……そそくさと去っていく……。

 こいつは……何者だ? ジャケット、軍服のような? 身なりがいい、襟元に色彩豊かな文様……どこかで見たような……機械のように正確な足どり……。

 髪を後ろへ撫でつけ、整った顔立ち、若そうだがそうでもないような、奇妙な雰囲気の男だが……。

「初めまして、私はデヌメクネンネス」

 なにっ……デヌメク、ネンネス……?

 ……いや、だが若すぎる、同名なだけか……。

「ハイロードではありとあらゆるものが与えられる。生き延びるための糧、命が脅かされる恐怖、同朋との友情、未知なる文明の遺産……」

 ……ううっ、覚えのあるくだりだが……。

「……そ、そのすべては語る。ここが始まりであり、そして終わりだと……」

 うっ……なんか一瞬だけ、ニッと笑顔をつくったが……?

「さて、レクテリオル・ローミューン君、話せる気分かね?」

「お、俺に何の……」

「重要なのは縁だ、物事の狭間に漂う虚空の霞にはそれが確かに実在する。眼には見えないだけでね」

 な、何の話だ……?

「君とは縁を感じる。あるいは前世にて出会ったことがあるのかもしれないね」

 前世、だと……?

「君には相反する二つの可能性を感じる。ダンピュールのように脅威となるか、あるいは私の意志を継ぐ者となるか……」

 脅威に……後を継ぐ……だと? なんで俺が……。

 それに、ダンピュール……。

「そう、ここが運命の分かれ道だ。私はもちろんのこと、君にとってもね」

「俺なんかの、どこに……。俺はただ……」

「遺物を探しに来たのだろう。しかし、それは表層的な目的であって運命ではない。これらはよく乖離するものだ。人は重大な物事ほど選べず、ただ、流されてゆくしかないものなのだからね」

 う、運命……? だが、そんなことはどうでもいい……。

「あんた……蒐集者の仲間なんだろう……?」

「旧知ではあるね」

「そいつは、最低の……クズ野郎ってことかよ……?」

 この男、表情には何も浮かんでこない……。

 僅かに首をかしげるのみ……。

「敵意を表明できるほどには誇りを失っていないようだね」

「当たり前だっ……! 悪党なんかに屈するか……!」

「彼と君、どちらが正しいかは誰にもわからない。ゆえに、私にとってはどちらも必要な人材だよ、世界は色彩豊かでなくては」

 どちらも、だと……?

「だが、善良な人間は数が多い。いささか軽んじてしまう傾向は否めないな」

「それが当たり前だから多いんだよ……!」

「多数決の原則か、それもいい。しかし希少性に価値を見出すのも人間社会の側面だろう。彼もこの地では有名人だ、ひっそりと生きているだけでもね」

「なにがひっそりだ……!」

「殺人鬼はいつだって人気者だ、さて!」

 ひとつ、手を叩く……。

「本題に戻ろう。私は君を殺すか否かで迷っている。理由は先に述べた通りだ」

「俺が……あんたの脅威になり得るって話か……? なんでそんなことがわかるんだよ……!」

「そこがおぼろげだからこそ、この好機が重大なんだ。だが、やめにしよう。そちらの方がやや、心がときめくんだ」

 と、ときめくぅ……?

「よし、用は済んだ。また会おう」

 男は去っていく……が? なんだったんだ……って、立ち止まった……。

「ときに、なぜ、助けを乞わないんだい?」

 なぜ……?

「こ、乞うたら、助けてくれるってのか……?」

「私に拷問趣味はないし、今後が楽しみという点で益はすでにもらっているからね」

 そう、なのか? それなら……じゃあ、そうするだろうよな? 今の俺は文字通り手も足も出ない状態、自力で抜け出す算段はない……それにエオは信仰において傍観に徹するといっていたし、みんなの救助を期待するのも楽観的にすぎる……。あの女だって、口ぶりからして俺を解放するわけがない……。

 だったらもちろんだ、ここで助けを乞わない手はない……。

 まあ、蒐集者と知り合いっぽいし、気にくわないが……あのアホ兄妹に拷問をされ続けるよりよほどマシじゃあないか……。

「じ、じゃあ……あの……」

 こんなにすぐ脱出できるなんてラッキーだ……!

「あの……」

 まあ、嘘かもしれないけれどな……。

「その……」

 ううっ……? な、なにをためらっている、嘘かもしれないが、本当かもしれないじゃないか……。

「えっと……」

 嘘だったらすげぇ負けた気分になるだろうが……しかし、それだけだ、それだけ……!

「ええっと……」

 なんだ、なんでだ? なんか……言葉が、出てこない……!

「どうしたのかな、助けは不要なのかい?」

 そ、そんなわけはない……!

 だ、だが……。

 だが……!

「なるほど、それもいい!」

 デヌメクネンネス……また一瞬ニッと笑んで……去っていった……。

 ……いっちゃった……。

 ……って、ああ……!

 ばっ、馬鹿野郎かよ! 俺はなんてことを……!

 なんで……! なんで助けを乞わなかったっ?

 こんなところで、たったひとりで、どうして……!

 なんだ、蒐集者と旧知だからって……?

 イコール仲良しとは限らないじゃないか……!

 そこを確かめてからでも……!

 ああくそっ、馬鹿か、馬鹿なのか俺はっ……?

 自分でも、意味がわからない……!

 本当に、この馬鹿野郎……!

 ああ……!

 ……で、でも……いいことも、あるさ、なんというか、負けたような感じはないし……。

 ああっ……でも! やっぱりだ、後悔の念がどんどん膨らんできやがるっ……!

 えっと、ええっと……! そうだ、神さまだ、神さま助けて……!

 お願い……!

 本当、かなりヤバいんだって……!

 マジでマジで……!

 ……なんつっても、実際、くるわけないわなぁ……。

 ここで神さまがどーんと現れて、俺は祈るのをやめて、懇願して……。

 当たり前だよなぁ、そんなもの……。

 いや、だから祈りが不在の承認になるって話か……。

 いないから祈る……。

 いるから懇願する……。

 まあ、そもそも神さまの実在もさして信じちゃいないしな……。

 どうせなら、母さんに祈った方がよほどそれらしい……。

 ああ……というか、俺、本当に何をやっているんだろう……。

 将来は道具屋でも開いてのんびりやるって……心配するなって、今際の際にいったはずなのに……。こんなところでこんな目に遭って……。

「ごめんよ……。母さん……」

 でも、でも……仲間ができたんだ……。

 言葉も人種も違うけれど、なにかこう、しっくりくる仲間たちが……。

 だから、こうなっちまったことがまるで間違いってわけじゃあないんだ……。

 もし、ここで死んでも怒ったりしないよな……?

 後悔なんかしていないんだから……。

 ほんのちょっとしか……。

 まあ、少ししか……。

 うう……足音が聞こえてくる……。

 あいつらが戻ってくる……!

 ひとがしょんぼりしているときに、ドタバタやかましい奴らだぜ……!

「うるせぇんだよ、このアホ兄妹が……!」

「ア、アホぉ……? い、いえ、それより、あの方と何を話したのよ……?」

「……俺を殺しはしないとさ」

「……あらそう」

 女は嬉しそうだが、ケリオスは不服なようだな……。

 こいつは妙に敵意がある感じだが……。

「そう、じゃあこれからずっと一緒ってことね!」

「……待つんだ、彼の言い分が本当なら追い出した方がいいかもしれない。殺せないならここに置くことはリスクに繋がる」

「でも、ここへやったのはカーディナルさまなんでしょ?」

「そうだが……」

「あんたってば、べつに出ていくようにはいわれてないんでしょ?」

 いわれてはいないが……。

「……助けてくれそうではあったな」

「はあ? じゃあなんでそのまんまなのよ? 私たちは解放しろなんていわれてないわよ!」

 ……そ、それを聞かれると説明に困るが……。

「……正直になりなさいよ。本当は私と拷問し合いたいんでしょ?」

 ……こいつはマジで何をいっているんだ……?

「いや、それはない!」

「だったらなんで解放されてないのよ! してもらえばよかったじゃない!」

「そ、それはあれだ、奴の助力を蹴ったから……」

「なんで蹴るのよ!」

「それは……その、まあ、敵っぽいし、助けを乞うのが嫌だったから……?」

「それで助かる機会をフイにしたの?」

「まあ……」

「な、なんでそんなことしたのよ……? 純粋に疑問なんだけど……」

「だ、だからなんか負けた気になって嫌だから……?」

「あんた自分の立場わかってんのっ?」

「わかってるよこのアホ!」

「アホってなによアホじゃないわよ! シンプルに非合理的な選択してるあんたの方がアホじゃないの!」

 そ、それをいわれるとそうだがっ……?

「でもいいわよ、本当は私と一緒にいたいんでしょ? 素直になりなさいよね!」

 だからなんでそんな話になるんだよ……?

「いや、確認が必要だ」ケリオスは疑惑の目だな「発言に一貫性がないし、単にでまかせをいっているだけなのかもしれない」

「……いやお前ら、敵の情けを受けないことがそんなに不思議か?」

「それは……」女はうなる「不思議よね?」

「不思議だね」

「利益は利益だものね?」

「そうだね」

 こいつら……。

「ま、どうあれ、生かしておいていいなら願ったり叶ったりよ」

 女、顔を近づけてくる……!

「そしてあんたは私のモノ! 毎日可愛がってあげるんだから、楽しみにしてなさいよね! じゃあまた後でねー!」

 くそっ……! 今のところは去ってくれたが……。

 ……すぐに殺されはしないのかもしれないが、かなりヤバいことには変わりない、今後、待っているのは拷問の日々……そんなのごめんだ、どうにか脱出しなくては……!

 こうなったら魔術しかない……! が、俺にできることは指先で電撃を起こすことだけ……。他の魔術、しかも上手に鎖を切断する方法なんて……。

 いや、やるしかない、もはやできるできないの問題ではない、今ここでやるしかないんだ……!

 念じ続けよう……! それでどうにかなるのなら……!

 どうにか……!

 どうにかよう……!

 どうか……!

 ……ぐぐっ……だが進展はない! そりゃそうだ、小さな電撃ですらかなり時間がかかったんだから、突然、違うことをしようとしても、そうそう上手くいくわけもないか……!

 ……って足音、またあのアホ兄妹か? いや、荷台を押す見知らぬ男……だ。運んでいるのは、大きな、鍋……?

 ああもしや食事か……? そうさな、飢え死にされては拷問もくそもないだろうしな……。

 しかしなんか……臭いなぁ……! 生臭いし薬品臭くもある……! そんな変なもんを食えっていうのかよっ……?

 ううっ……レードルですくった、ドロドロの何かが迫ってくる……!

 こいつは食べなくてもわかる、ぜったいに不味いぜ……!

「いや、いらな……」

 ……って、無理やり口へと突っ込んできやがったっ……つーかクソ不味いっ……!

 こんなもん食えるか! 吐き出して……って! いってぇな、ぶん殴ってきやがった!

 いってぇ……ちくしょう……ううっ? また無理やり口にぃ……! この野郎っ……! 今度は吐きかけてやる……! がっ、ぐううっ! はっ、腹に、深い一撃がぁああ……!

 ああ、ああ……! ああぁあっ……!

 な、なんかよう……! ついによう……!

 ムカッ腹がァア……立ちまくってきたぜぇええ……!

 ちっくしょう、このっ、クソ野郎どもがぁ……!

 絶対に逃げ出して、全員ブチのめしてやるからなァアア……!

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