錬鉄騎士団
まったく、いらいらする……想定外に続く想定外、あれほど練った計画もまるで無意味じゃないか!
後続も一向にやって来ないし目的の扉も見つからない。
この者たちだってある程度の手練れらしいが、たび重なる魔物の襲来にどこまで耐えられるか分かったものじゃない。
そうだよ、このままでは私だって危険だ。あともう少しのはずなのに、ここにこそ私の居場所があるはずなのに……。
……ああ、そうこうしているうちにまた魔物が……いや? あれは人間、冒険者か……。
でも人なんて……人だからこそ信用ならない。
探りを入れてくるようならあるいは……。
……いや待て、あの男は? そうだ、見覚えが……。
……なるほど、鍋が臭っていないな。やはりあの植物の汁には洗浄効果があるらしい。よし、これと外したロープをバックパックに仕舞ったら準備完了だな。
「そろそろ動こうか。みんな休めたかい?」
「うむ」
「はい、充分に」
「ヨクネターア……ヨッ」
アリャが猫みたいな伸びをして……ひょいと枝から姿を消した。こんな高さから降りるのも一苦労だろうに……と思いきや、下方に小さくアリャの姿が見える?
「なにあいつ、降りるの速すぎじゃねぇ?」
「一気に、滑るように下っていきましたね……」
滑るようにって……そんな芸当ができるものか?
「準備は整いましたね。では降ろしましょう」
エリの鳥で降ろされるが……うーん、滑って降りるのに比べたらそこはかとなくかっこ悪い気がしないでもない……。
いや、俺は大人だし無茶はしないがね……。
……でもまあ、ある程度の高さならいけるかもしれない?
「……なあ、ちょっと幹の方へと寄せてもらえるかい?」
とはいえ鳥にいっても仕方がないか……いやっ? なんかいうことを聞いてくれたっ? 幹へと接近したぞ、偶然か……?
あれっ、近くにエリはいないよな? 聞こえているのか、それともこの鳥たちと意志疎通ができるとか……?
いやでも魔術で作り出した……いわばつくりものの鳥だぞ、あり得るのか、そんな……。
いや、エリもお願いしているとかいっていたような? ならば俺のそれをも聞いてくれる……?
よし、もう少し試してみようか……。
「じゃあ……そうだな、三メートル程度のところで離してくれ……!」
まさかだが、こういった指示をも受け入れてくれるか? 目測で地上まで五メートルほど、仮説が正しければもうすぐ……うっ?
「おおおっ……!」
急に落下、だがその可能性は考慮しているぜっ……! さあズサァッとなぁっ……ああああっ……!
いでぇっ……! あいたた、着地直前で態勢が崩れた! 地面がけっこう柔らかいとはいえバックパックの重量ぶん、体にくるな……!
「レクさんっ! 大丈夫ですかっ?」
エリが降りてきた、ちくしょー、かっこ悪いぜ……!
頭上からケタケタとアリャの笑い声が聞こえてくるし……!
「あ、ああ、大丈夫さ……!」
「い、いったい何がっ……? あなたたち、なぜ離したのっ?」
鳥たちは何も答えないようだ……が、
「ええ……? どうしてそんな……」
エリとは何か、会話している……? つーかめちゃくちゃ笑われてねぇ……? エリやワルドにまで……いやっ? 声音が違うなっ?
あれっ……なんか、例の人種が二人、そろって笑っているっ……? 敵とは限らんよな? 武装はしていない、ジャケット? 姿、背中にバックパックを背負っている、冒険者のような風体、あの七人でも凶賊たちでもない……。
「ニェエッ?」
アリャが気づいた拍子に弓を構えたっ!
「おい待てっ! 射るなっ!」
謎の二人組……! 慌てて逃げていった……か。
「アー、フツウ、ギマ」アリャは弓を降ろした「ビックリシタ、ヨッ」
ギマ? そういや節々で聞いたような……。
「アリャ、もしやあの人種はギマっていうのか?」
「ジンシュ?」
「あー、人間の種類……」
「ソー、ギマ」
ギマというのか……そういやあの凶賊たちもなんかそういう単語を叫んでいたような……。
グラトニーズとは呼ばない方がいいだろうし、あの七人に聞けばよかったな……。
「何事かね」ワルドも降りてきた「聞き馴れぬ足音が聞こえたが」
「いや……ただの冒険者みたいだ」
「して、なにゆえ寝転んでいるのかね?」
「……ああ、ちょっと訓練をね……」
「聞きましたよ」うっ、眉をひそめているエリの顔が頭上に「無茶はいけませんし、意味のないそれなど尚更です……!」
「れ、練習が必要かな? とね……」いや、それよりだ「その鳥、すごいね……俺の頼みも聞いてくれたよ」
「なぬっ?」
「ええ、特定の人物の指示に従ってくれればよりよいとは思っていましたが……」
「まさか、そこまで機能を追加できるなど……」
「でも幹に近づいてくれ、地上から三メートル付近で離してくれ、二つの指示を聞いてくれたから間違いないと思う」
「ぬう……」
にわかには信じられないのか、ワルドは黙ってしまったな……と、鳥たちに持ち上げられ……立たされる。
「この子たちには最優先の命令として皆さんを守るよういいつけてあるはずですが……離したのですか? 三メートル付近より……」
「ああ……」
エリはどこか信じられないといった表情をしているが……。
「いやまあ三メートルなんて大した高さじゃないしさ」
「いえ、悪くすれば死亡する高さです……」
うーん、困らせたというか……すげぇ余計な事をしたみたいだな……。
「ともかく治療しましょう」
「いや、ぜんぜん大丈夫だよ」
「駄目です!」
うーん、加えて余計な消耗をさせてしまったな……。
「あの子たちにも程度を教えてあげないと……」
どうやら制御に手を焼いている……いや、魔術の成長に認識が追いついていない……?
「ナオッタ?」アリャだ「ジャー、ハヤク、イク!」
そうだな、治癒もすぐに終わったし、動くとするか。
ここからハイロードまではすぐだ、とくに問題もなく戻れたな。
「罠の事を失念してはおらんであろうな?」ワルドだ「各々、観察を怠ってはならんぞ」
「ああ、分かっているよ」
とはいえ、危険になるのはもう少し先だろう。この周辺に奴がうろうろしていたらさすがに気づけるだろうしな。
「それにしても……ハイ・ロードにまつわる信仰か何かでハイロードに罠を仕掛けられるってのも冗談みたいな話だな」
「実際、関係があると囁かれてはおるな」
マジかよ……。
「いったいどういう関係が……?」
「かつてハイ・ロードが歩んだ道のりだという説がありますね」
へえぇ……?
「ときおり修練者がろくに準備も整えずこの道をゆくようであるな。まず誰も帰っては来んらしいが」
「そうか……」
宗教的カリスマの歩んだ道をなぞりたいというところか。しかし準備を整えないというのはどういう事だろう? 軽率だったにしても不自然さがあるような……。
「……というかハイ・ロードって本当に実在したの?」
これはわりとよくある疑問だろう。エリはうなり、
「……私にはどちらともいえません」
エリの解釈としては寓話の主人公らしいが、その実在を信じている人もいるだろうしな、あまりそれを吹聴はしたくないといったところか。
「時代の違う文献に」ワルドだ「同一の人物が初々しく現れるのは奇妙であるという指摘はあるな」
「ええ、ゆえに再臨的であるという解釈がよくなされますね」
再臨か……ようは復活するみたいな話なんだろうが、
「……だから裏教典派の連中もその行動を正当化しているのか」
「厄介な話であるな。しかし悪辣非道を続けて再臨を示すとなると世界が混沌に見舞われかねん。もし本当に要たる主がおわすのならば人の努力をこそ辛抱強く見守って頂きたいものだ」
「そう、かもな……」
けっきょく人が人の……っと、アリャの体当たりだ。
「ウーム、ハナシ、ワカラン」
「そうそう、分からんって話を……」
うっ、じろりと睨まれた……。
「セ、セルフィンには信仰とかないの?」
「シンコー?」
「神様とかそういうの」
「シゼン、イノチ、セイレイ、ミンナ、メグッテル」
「おお」
「タベル、クソシテ、ネル。コレダイジ」
えぇ……? いや確かに大事だろうけれどさ……。
「……なあアリャ、お前って誰に言葉を習ったんだよ?」
「コトバ? ジジー、ナラッタ」
「じじい……?」
「ボウケンシャ、ジジー、サト、クル。イロイロ、コウカンスル。ソノトキ、ナラッタ」
「へえ、冒険者の老人にね……」
ならその爺さんが元凶なんだろうが、よほど口の悪い人物に違いないな……。
……それはそうと今日は獣の襲来がないな。気候は穏やか、清涼な風が巻いている。このまま何も起こらずのんびり冒険をして遺物を見つけられたらいいな……なんて、思った矢先にこれかよ。
遠くに白いのがいるな、人間のようだが……またあの凶賊どもか……?
「……むう? 声からして人のようであるが」
「またあいつら……? いや」
どうやら……違うようだな、ツィンジィか?
「あれは……ツィンジィのような? 何をしている?」
「ホッテル」
「掘ってる? ああ、何か掘り返しているようだ……?」
「いずれにせよ関わらん方がよいな」
そうさな、いちゃもんをつけられても敵わんし、適当に挨拶でもしてさっさと通り過ぎた方がいいだろう……。
「ムゥー……シロイヤツラ」
「あまり構わん方針でいこう」
「ホーシン?」
さあて向こうも気づいたようだ……何やらじっと見てくるが、悶着なしで通してくれよ……。
「……やあこんちは、お互い頑張ろうな、じゃあ……」
よしさっさと行こう……!
「待て」
ちっ、呼び止められたか……。
「貴様、あのときの……?」
なに?
ああこいつ、図書館で会ったあのいけ好かない女か……。
「……ああ、奇遇だね? それじゃあ……」
「待てといっている」
何だよ……!
「貴様、よくここまで来られたな? ほぼ経験がないという話だったと思うが?」
だから何だよ……!
「ああ、俺はそうだよ、幸運にも仲間に恵まれたんでね」
「ほぉう……?」
何だ、絡んでくるなよ……!
しかしツィンジィ一行は全部で……たったの五人か?
偉そうな女は白いマントに美麗な胸当てを装備、腰の辺りに鎖のようなものを巻いている? フレイル等の武器かもしれないな。
なにやら斜面を掘り返している大男の側には背丈ほどもある馬鹿でかい盾が立てかけてある。
同様に掘り返している軽装の青年には……腰に大型の拳銃が二丁、ぶら下がっているな。
それにあいつは? 大きな鎌を持った……真っ黒なローブを着た背の高い男……。こんなところで草刈りでもあるまい、だがあんなもの、武器として使えるのか? ほうほうとした漆黒の髪は使い潰されたホウキのようだ、細い目はどこを見ているのやら……。
あとは鳥みたいな形の弓をもった金髪の女、はだけた胸元……には大型のナイフが挟まっている……。
「何用かな」ワルドだ「我々は急いでいるのだが」
「人員が足りん。後続部隊が一向にやって来んでな、予定が狂っている。そこでだ、ここはひとつ協力するとしないか?」
「断る。我々に得がない」
「なぜそう判断できる?」
「おぬしらが信用ならんからだ」
おいおい、もうちょっと言い方がさ……。ほらぁ、眼差しに敵意がそこはかとなく……。
「そうか……では情報を開示しよう」
「いらん。ゆくぞ」
ちょっと冷たいかもしれないがまあ明確に突っぱねた方がいい時もあるか。
「悪いね、じゃあ……」
「ここには強力な遺物がある」
なにっ……?
「……とされており、この秘宝の鍵で入り口が開くという。しかし……」
なにやら手首の……貴金属? のようなブレスレットを見せつけてくるが……。それが鍵だって……?
「内部には何があるか分からん。一人二人では心もとないが、全員で入るのは危険が大きすぎる。そこでだ……」
「我々に斥候でもさせたいというのかね?」
「……まあ、そうだ。その分の報酬はやろう」
「報酬って、金?」
「まあ、そうだな」
うーん、こんなところで金の口約束をしてもね……。
「いや、それだと……」
「先を急いでいればこそ手を貸した方がよいと思うがな!」
なんか捲し立ててきた……。
「……どうして?」
「この下には地下通路があるとされている。あるいは安全に進めるかもしれんぞ?」
そ、そいつは……どうなんだろう? 見込みあるのか?
遺物があるかもしれない上に安全かもしれないルートときたら、さすがに考慮しないとならないか……。
「……待て、相談する」
ちょっと離れてひそひそ話だ……。
「……どうする? 確かに信用していいか怪しいけれど、道中で何か見つかるかもしれないよ」
「ぬう……強力な遺物と聞いては放ってもおけぬやもしれん……。あやつらは軍人であるし、戦争に利用される可能性が極めて高いゆえにな」
「イブツ、ホシイ!」
「強力な兵器はともかく、冒険が楽になるような道具ならぜひとも欲しいところだな」
「しかし我々に与えるであろうか? 悶着になる可能性は高いぞ」
「ムゥー、ジャア、ブチコロス……?」
「いやいや、そういうのはなるべくなしだ」
「ハンブン、ブチコロス」
「恨みは買いたくない、争いはなるべく避けないと」
「ニェー……」
「しかし必要ならばあるいは……であるぞ。最悪の場合この大陸、ひいては世界の均衡が激変し、情勢にさらなる混沌が舞い降りるやもしれん。その危惧がある限り、私は何者を倒してでも遺物の乱用を阻止する」
う、うーん……!
「遺物にそこまでのものが本当にあるの……?」
「事実クルセリアは一国をまるごと焼き払ったからな」
なっ、なんだとっ……? 一国を……?
いやっ、一夜にして滅んだ国の話は聞いたことがある……俺が生まれる前の話だ、火球が落ちてきたとか、つまり隕石によって壊滅したと聞いたがっ……?
そう、その国は確か、ゴッディア……!
「ワルドは……!」
「レク、レク……!」
えっ、どうした? アリャが遠くを……。
「獣かっ?」
「またアイツ」
なに? ……ああ、本当だ、またスクラトの野郎だ、あの斧槍を持っている、もの凄い勢いで走って来やがるな。
「よおお! 奇遇だなぁ!」
スクラトはまたも砂煙を上げて止まった。
「何だなんだ、喧嘩かっ?」
「……いや、人手が足りないから手伝って欲しいとかでな……」
「人手か! そりゃ足りねぇわな、ほぼくたばっちまってんだし!」
「……なんだと?」おっと偉そうな女がやってきた「貴様っ、いま何といったっ……?」
いやいや、なぜに俺の方へと詰め寄ってくるんだよ? 不穏な事を口走ったのはスクラトだろ……。
「だからツィンジィの奴らは全滅したんだよ」スクラトだ「あの砦はブタどもの標的にされてんだ」
「まさか、砦が、全滅……? あり得ない!」
「まーそう信じるのは自由だがよ」
スクラトはぐはは! と笑う……が、
「しかし、あそこにいたのは灰色の連中じゃ……?」
「おおよ、そいつらが全滅して後続のツィンジィが居座ったがまた全滅しやがったのよ! マジで笑えたぜ!」
こいつっ……!
今となっては言葉の端々が癪に触ってくるぜ……!
「……貴様っ! 無礼に過ぎるぞっ……!」
女が鎖に手を伸ばした、斜面を掘っていた奴らもいつの間にか臨戦態勢になっている!
「離れろよ、下郎」
青年は拳銃を抜いている、スクラトに突きつけた……!
「おいおい、寄ってきたのはどっちだって話だよ、なぁ?」
銃を前にしても余裕ヅラか、だが彼らはやる気だ、じりじりと俺たちの周囲を囲み始めた……動かないのは黒服の男だけだ。
「よせよ、雑魚どもがさぁ……」
こいつに脅しは通じない、むしろ逆効果……とエリの鳥だ、辺りを飛び回り始めた……!
「そうして争って何になりますか……! 協調なくしては生き残れませんよ……!」
静かな叱咤だ、立ちこめていた殺気が消えていく……。
「……そうだな、非は先に抜いた我々にある」
おっ、意外にも偉そうな女が退いた……ので、他の三人も警戒を解いたか……。
「何だ、やんねぇーのか? まあいいか雑魚だし」スクラトは肩を竦める「……で、てめーらこんなとこで何やってんだ?」
「戦力を募っている」
偉そうな女がまた説明し始めるが……やはりというか、地下に関する説明が漠然としているなぁ……。
「ほー、地下ねぇ……。まあ面白そうではあるがよ、肝心の入り口はどこなんだ?」
「それは……調査中だ!」
あちこち掘り返しているみたいだが……。
「……ワルドなら探せるんじゃないか?」
「見つからんのならばその方がよい」
それはそうだが……。
「……といいたいところだが、近くに奇妙な反響があるな。もしそれが入り口なのだとしたら……」
「……掘るまでもなく発見できる、見つかるのは時間の問題かもしれないってわけか」
「やむを得んな、確かめにゆこう」
仕方ない、確認してみようか……。
「む、どこへゆく?」
「ちょっと確認をしに」
「待て、勝手に動くな……!」
うるせぇなぁ、俺たちはあんたの部下でもなんでもないし、いちいち指示を受け入れるいわれもないってのよ。
「待てっていってるだろ、入口は道沿いにあるって話なんだ、何も知らない貴様らが、あいたっ!」
足を取られて転んだか……。
仕方ない、手を貸してやるかよ。
「無理してついてこなくてもいいよ」
「ふん……! 先んじろうなんて考えるなよ! この鍵がないと入れないんだからな……!」
寄りかかりながらいう台詞かよ……。
「むっ、近いぞ、この先だ」
……おっとマジだ、樹々に隠れ気味だがワルドが杖で指し示した先にあるわ、なんか四角い人工物っぽいものが……。
「おい、あれじゃないか?」
「あっ……ああ……! そうかも……!」
「なんであちこち掘り返していたんだ?」
「う、うるさいな!」
偉そうな女は走り出したが……。
「おい、また転ぶって」
「うわぁ!」
……案の定、すっ転んだな。
「あいたた、なんなんだよ……!」
それはこっちの台詞だ……。
……しかし、幾何学的といっていいのか、灰色の小屋? が森の中にぽつねんと立っている様は少し異様だな。女はでかいドア? のような部分の前に立ち、
「おいっ、こっちに来い!」
なんで俺を呼ぶの……?
「なんだよ……」
「何か起こったら危ないだろ!」
その時は犠牲者が二人になるだけだろ……。
それにしてもでかいドア……いやここまでくると門か、取っ手も何もないが本当に開くのか?
「よ、よし、これで開くはずだが……どこに鍵穴が?」
「穴なんてどこにもないが……。そもそもブレスレットが穴にはまるのか?」
「うるさいなぁ!」あいった、小突いてきやがった!「あやだろ言葉のさぁ!」
なんか門を叩き始めた……。
「おい開けろっ! マインスカッフの者だぞ! 開けろっ、開けろってば……!」
うんともすんともいわないが……。
「ここじゃないんじゃないの?」
「はあっ? お前たちがここだっていったんだろっ!」
「いや、とりあえず確認しに来ただけだが……」
「じゃあ! ここじゃないならどこなんだよっ?」
「知らないが……」
「なんなんだよー!」いやお前が何なんだよ「ここまで来てこんなのってないだろー! ないよなっ?」
いや、知らないが……。
「こんなところもううんざりなんだよぉおおぁああああああ開いたぁあああっ?」
うっせーなこいつ……って、マジで開いたぁあああっ……?
「あいたー! ほら! 開いたじゃない!」
ああ……まあ、
「開きましたねぇ……」
「ほらほらほら開いただろー!」
肘でつついてくんなよ……。
しかし……あれだな、昨日の施設に雰囲気が似ているな。橙色の灯りが……点々と、こうこうと点いている、階段が延々と下に続いている……って、今度は何だよ! 肘でつつくなよ……!
「何だよ……!」
「なんだよじゃないよ、ちょっと見てきなよ」
……はあ、こうなった以上、報酬の話をすべきか。
「報酬は遺物な」
「はあっ?」
「当たり前だろ、こんなところで金の口約束をしてどうするんだよ、即物的に要求するのは当然だろうが」
「……はあっ?」
勢いで誤魔化そうとすんなよ!
「こっちだって命懸けなんだぞっ、当たり前だろっ?」
「むぐぐ……!」
女は考えているようだが……。
「……でも、遺物は貴重だし……」
……何をいっているんだこいつは?
「当たり前だ、そうじゃないと報酬にならんだろうがよっ」
「ななっ……なんだよおまえ、さっきから生意気だぞ!」
なにぃ……?
そりゃお前だろうがよ……!
「お前この、下手に出てりゃいい気になりやがって! 俺はお前の部下じゃないし確実に年上だぞ、生意気な要素どこにあんだよ!」
「……ええっ? ……ええー……」
あれっ、なんか急に狼狽し始めた?
……ならば畳み掛けさせてもらうぜ!
「お前いくつだよ! いってみろよ!」
「レレッ、レディに年齢を聞くな、無礼だろっ!」
「レディだって? 口調は荒いわ横暴だわケチだわのお前がっ?」
「ぬぐぐぐっ……!」
「おいっ、何をしている!」
拳銃の青年が割り入ってきやがった!
「ああっ? 邪魔すんな下っ端がよ、今こいつと交渉してんだよ!」
「……こっ、こいつとは無礼な! このお方は……」
「俺はこいつの部下じゃねーし年上だぞ! 無礼な要素どこにあんだよ! なんならお前も年下だろうがっ、舐めてんのはどっちだ答えてみろよおいっ?」
「わわっ、わかったよ面倒な奴め!」今度は女の方が割り入ってきた!「いいよっ、ものによるが何かはやるよっ! もう満足だろ、行けったら!」
何だよ、背中を押すなよ……!
「横暴だなぁ! 生意気だなぁ! 俺の方が年上なのになぁ!」
「うっ、うるさい! 馬の骨のくせに!」
「その馬の骨に助けを求めた騎士団があるってなぁ!」
「ぐぎぎっ……! いいから行けってば!」
「お前この、死んだら化けて出てやるからなっ!」
「そんな余力があるならもう一度いけよっ!」
鬼か! なんてひどい奴だ!
「話はまとまったかね」おおっとワルドだ「確かに聞いたぞ、報酬として遺物はもらおうか」
「ふん……」
おいこいつ……なんでワルドにはなんにもいわねぇーんだよ? 俺にはあんだけ突っかかってきたくせにさぁ……!
はあ……なんかどっと疲れてきた……。
「よし……じゃあ、行ってみるか」
皆で階段を下り始めると……スクラトもついてきやがったな。こいつが後ろにいるのはちょっと嫌なんだが……。
「にしても」ワルドだ「まさか本当に地下への道が開くとはな。あの娘……いったい何者なのであろうか」
「さてな……。立場はともかく中身はただのお嬢さんだろうぜ……」
「錬鉄は烏合だからあんなもんだ」スクラトだ「それはそうと、地下はめんどくせーぞ」
なに?
「……なぜだ? 知っているのか?」
「まぁー、多少な」
「なんで先にいわねーんだよっ」
「お前らの慌てようを見たくってな!」
慌てようを見たい、だとぉ……?
「……だから、あの時も本気を出さなかったのか? 人が死んでいくのを黙って見ていたんだろ?」
スクラトがくっくと笑う……。
「助けてやれって? 馬鹿いうな、ピクニックじゃねーんだぞ、どいつもこいつも我欲と野望の塊だろうが、ならばそれに見合った末路があるだけだろ」
野望があったにせよ、それが凄惨な死に値する罪だとでも?
「お前の目的は何だ? ひたすら強者と戦いたいだけか?」
スクラトの足が……止まった。
……どうした?
「俺はな……」
スクラトの気配が……重く、なっていく……! エリの鳥が飛んだ! だが、すぐに気配がしぼんでいく……。
「……ま、そういう事かな! さあもうすぐ着くぞ、楽しんでいこうぜ!」
何だいったい……と、いう通り階段が終わるな、地下通路へと出るのか……って!
「こっ、これは……!」
広いっ! 思った以上に広いぞ! 左右に、はるか遠くまで通路が続いている、その幅広さもゆうに数十メートルはある! しかもこの地面、かなり綺麗に舗装されている、あるいはアスファルトとかいうやつか?
ここも同様に橙色の照明が灯されている、全体的に明るいという印象ではないが、見通しは悪くない……!
そして、なにより……!
「……これは! とんでもない数の気配だ!」
「ああ、ここは虫どもの王国になっちまってるからな。それに警備マシンが見回りしてもいる。だがまあ遺物とかは期待していいんじゃねーか?」
虫の王国に警備マシン? だと……? しかもさっそくか、何か音が聞こえるな、徐々に大きくなってくる、何かが接近してくるっ?
「ナンカ、クル!」
何だあれはっ? でかいのが滑るようにやって来る、かなり速いぞ、エリの鳥が舞った……!
「……ヤバそうだなっ?」
「ぬう! 一旦、後退するのだ!」
「いきなり攻撃してくるこたねぇよ」
……こいつの意見は信用できないな、とにかく撤退だ!
「おいおいマジで戻るのかよーっ?」
一気に階段を上って地上へと……!
「早くっ、早く戻ってこいったらーっ!」
何だっ? あの女の声! 地上へと出る……って、女が突っ込んできた!
「あいた! どうしたんだよっ?」
「まっ、魔物だ!」
頭上からケッケと奇妙な鳴き声……! ランサーバードか、多いな、十羽以上は飛んでいる……!
「ふんっ! 鳥ふぜいがよぉっ! お守り致しますぞぉ!」
大男だ、でかい盾を構える……みな臨戦態勢だがスクラトは鼻くそをほじっていやがる……!
「左からも何か来てるぞぉ」
なに? 確かに気配、速い!
「オジロッ!」青年が拳銃を取り出した「他にもいるぞっ!」
おっ、でかい犬っ? 野犬か! 茂みから出てきたぞっ、大男に飛びかかった! だがまだいるだろうな、少なくとも三匹視認、エリの鳥が舞う、ワルドの光線がはしった……からか野犬たち、ぴたりと立ち止まった……ところにアリャの矢だ、突き刺さる! 野犬はふらふらと倒れた! つーかこの女、腕を掴むな戦えねぇーじゃねーか!
「お前、手を離せよ!」
「ちゃんと守れってば!」
そうしていると守れもしないんだが、聞いちゃいねぇ……!
「おうりやっ!」
大男だ、盾で野犬を押し返し、蹴り跳ばしたところに大鎌の男、野犬の胴体を両断したっ! しかしまだいるはずだ……と、ランサーバードの襲来っ? こっちへとやってくる、だがエリの鳥が体当たり、アリャが矢で撃ち落としている!
「かっ、加勢を!」
おおっと青年の方だ、二匹の野犬に迫られている、四匹目がいたか! だがエリの鳥がその猛襲を防いでいる、そこにワルドの光線、野犬たちはもんどり打って転げ回る、キャンキャンと逃げていった……。
「よし、無事に終わっ……」
……っていない! なんかでかい蛇が茂みから出てきたっ……が、ワルドとアリャの攻撃であっさり倒れた……。あの大蛇はほんと突然、出てくるな!
「おお、今度こそ……」
終わっていないっ……? あれは何だ? 黒くぶよぶよとした何か、青年の後ろで口を開けているっ? しかもみんな気づいていない! エリの鳥もかっ? ヤバいな!
「どけろっ!」
体当たりのついでに撃つっ……が、あまり手応えがないっ? こいつはいったいっ?
……いや、だがっ、黒い何かはぐにゃぐにゃしながら……逃げていった……。
「いっつぅー!」
「悪いな、緊急事態だった」
「あ、ああ……助かっ……」青年は青ざめる「……って、ないな……」
うおおっ? 野犬たちがさらなる集団で戻ってきやがったぁっ? すごいっていうかヤバいぞ、十匹以上いる! し、しかも! 地下への入り口だっ! 何か出てきたぞ! 鎧っている、いや生物には見えない、機械、兵器かっ? 人型っぽいが下半身が四本足、頭部が半球形、角ばった体の各所、発光している……!
「ううわあぁあっー?」
女が突っ込んでくる、だから俺に掴まるなって!
「コ、イジョウ……コウイヲ、キ、キキン……」
なにっ? 何かいっているっ?
「コレ、ジョウ……ノ、セントウ……ヲ、キンシ……」
何だ、あるいは……スクラトの話、警備マシン? 従うべきかっ? スクラトが……ごろ寝している……!
「みっ、みんな、戦うのを止めろっ!」
「はあっ?」女だ「なにいってるんだよ!」
「断言はできんが! 多分そうした方がいいぜ! エリッ! すまないが鳥で守ってくれっ……!」
「はっ、はい! 分かりました!」
何か知っているらしいスクラトに倣いうつ伏せになろう! みなも俺にならう、間違っていてもエリの鳥があるし、ワルドが光の壁を張ってくれた……って、こっちは俺たち四人の分だけか!
「攻撃はセイントバードでなんとか抑えられるはずです! あなた方も姿勢を低くしてください!」
「もおお!」
女が姿勢を低くするとツィンジィ一行もみなそれに倣う!
「ほっ、本当に大丈夫なのっ……? 魔物に囲まれてるのにっ……というかその光の壁、ずるいぞっ!」
うるせーなぁ……!
「死んだら化けて出てくれよ!」
野犬たちが一斉に跳んだっ、瞬間! 細い光線っ? が辺りを巡ったっ……?
「うおおっ……?」
野犬たちがっ……一斉に、バラバラになっただとっ……?
何だあの攻撃はっ? まるでとてつもなく鋭利な刃、いや糸のような……! スクラトが笑う!
「やるじゃねーか!」
こ、今度こそ終わった、か……? さらなる追撃はないらしい、というか半球頭、何か……いいながら地下へと戻っていった……。
「うう……」女だ「あれが地下の番人……? どうして攻撃されなかったの……?」
おそらく……。
「戦闘行為を禁ずる……みたいなことをいっていた……と思う」
「そ、そう……」
よし、みんな無事だな、ワルドはローブについた埃を払い、
「さてどうするかね? このまま留まっておると血の匂いで魔物どもがさらに集まって来よう」
そうだ、すぐに決めねばならない。
「そろって地下に下りる、それとも諦めて撤退する、どちらにするのか即座に決めてもらいたい」
「ううっ……!」
女は逡巡しているようだが……。
「……諦めて撤退した方がいいと思うぞ」
「はあっ? こんなところまで来たのにっ?」
お前、なんで俺に対してはそんなに反応が早いんだよ……。
「悪い事はいわない……命が大事なら帰れよ」
「おまえはどうするんだよっ?」
俺たちは……そりゃあ、
「普通に冒険を続けるが……」
「先に進むのかっ?」
「進むが……」
「宿には戻らないのかっ?」
「予定はないが……」
「じゃあ地下に行く!」
はああっ? なんでそうなるんだよっ……?
「お前、馬鹿じゃねーのっ?」
「ばばっ、馬鹿とは何だこのっ」
あいって、小突くなよ!
「真面目な話……!」急に小声になるなよ「あいつらは信用できないんだよ……! 入口が開いた今となっては私は用済みかもしれないんだ……!」
ええ……?
「でも、お前ってなんか偉い立場なんじゃないの……?」
「立場はね……! でもあいつらの素性は知れたものじゃないんだ……! このままだと危険なんだよ……!」
……でもさっき大男は盾でお前を守ろうとしていたぞ、用済みならそんな事しないと思うけれどなぁ……。
女はまた考え込んで……いや、急に背筋を伸ばしたな? おっほんと一つ咳をし、
「私はツィンジィ錬鉄騎士団副団長! 白銀の星! アージェル・マインスカッフであーる!」
立場はよい方だと思ったが副団長か。というか何だその遠くを指差すようなポーズは……。
「我輩は大地の盾、オジロ・ゴーン!」
盾の大男だな。いかつい風貌、筋骨隆々だが、本当に盾しか持っていないらしい? というか何だその大地を殴るようなポーズは……。
「オレは疾風の密偵! エリック・チュール!」
両拳銃の青年だ。優男風で軽装、だがけっきょくその拳銃は撃たなかったな? というか何なんだその拳法? みたいなポーズは……。
「私はレキナ・ワインド」
二の名はないのか? ポーズもしない。戦う様はよく見ていなかったな。
「闇夜の執行人……ギュザー……シュバルツ……」
黒いローブを着た背の高い男だが……戦闘力はかなり高そうだな、なにやら両手を広げるポーズで陰気に微笑んでいる……。
しかし、信用できないとかいっているわりに仲がよさそうだがな、そろってポーズを決めたりしているし……。
「我々、錬鉄騎士団は貴殿らと共同戦線を敷くことにする! よろしく頼むぞ、ええっと……」
……しょうがない、あまり名前を覚えられたくもないが、こちらも名乗るか……。
「ほー! レクテリオンかー!」
この女……アージェルだったか、急に目を輝かせていやがるなぁ……。
「……して」ワルドだ「改めて問うが、本当に地下へと向かうのかね?」
「ああ、任務は果たさねばならんからな!」
「遺物のありかに目星はついておるのかね?」
「大方な。ここに地図の写しがある」
アージェルの懐から巻き物が出てきたが……いやっ? この気配は!
「……まずいな、さっそくだ、獣が集まってきたぞ……!」
「ぬう、ゆくしかあるまいか」
仕方ない……って、アージェルがまた転んだ。
「あいたっ」いちいち躓くなよ「……分かってるな、地下にだってきっと開かない扉がたくさんあるんだ、私が死んだら開かなくなるんだからな、ちゃんと守れよっ……!」
そのブレスレットだけあればいい気もするが……まあ口にはしまい。
しっかし、いきなり十人の大所帯かよ、しかも未知の地下通路でさ、どうなることやら……。