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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
15/149

食卓

 〓〓〓い空もい〓か〓〓りが〓て、〓〓先はず〓〓夜が〓〓ば〓〓だけ〓ど、〓た〓〓朝を〓して私たち〓〓をして〓〓。

 〓〓に生まれ、地〓〓〓を〓〓〓の中に〓〓〓て、〓〓先の〓を〓球そ〓〓〓に〓〓、円を〓くって〓〓一緒に食〓をする。

 私〓ちは〓〓〓〓し、こ〓〓らもそ〓だ。

 〓〓と、ず〓〓。



 明かり以外、何もない通路を進む……にしても、あまりに何もないな、ドアがまるで見当たらない。あるいは出入り口が並んでいるものの先ほどの部屋と同様、あの薄い膜のようなもので壁と一体化しているように見えているのかもしれないな。

「アッ、サキ、ナンカアル?」

「おいっ、あまり先行するなっ?」

 アリャを追った先で通路が切れた、けっこう大きな部屋へと出たな、しかしここもほぼがらんどうだ、円形のテーブル? のようなものが複数、点在しているのみ……。

「ナンニモ、ナカッタ……」

「こっちだ」

 姿はないが声はする、大部屋の右奥から聞こえたようだ? そこからまた通路が続いているようだが……。

「罠かもしれん……ゆめゆめ気をつけるのだぞ……」

 それはもちろん……だが、もし嵌めるつもりならわざわざ声などかけるだろうか? まあワルドもそういった点を考慮して折れたんだろうが……。

「うっ?」

 急に……通路が、綺麗になったな? 床や壁を埋め尽くしていた黄色い毛羽立ちがすっかりなくなっている! どういう素材なのか、光を照り返して爛々と輝く通路が露わとなっているぞ……!

「これは……」エリが呟く「金属? いいえ、わずかに弾力がある……」

「ナンカ、イイニオイ、スル!」

「なるほど反響が違うな。この材質にも覚えがある」

 だがそれより……ここだろう、観音開きか? 大きなドアに、くたびれたカーテンのようなものがかかっている、人々が食卓を囲んでいる様子を描いた刺繍が施され……これは獣人? どこか獣のような容姿の……人種が複数種類いるようだ……。

「……読めませんね」

 刺繍の周囲に文章が、ほとんど消えているが部分的になら読めそうな……?

 ……いや、今はいい、ドアの奥から強い気配を複数感じる……! あまり待たせてはよくないだろう、何者が待っているのか分からないが……ここからはとにかく穏便に動かねばならない。

「この先にいるようだ、みんな準備はいいか?」

 みな一斉に頷く……。

 よし、入るぞ……! と思ったがこのドア、どうやって開ければいいんだ……って、触れた瞬間、一瞬で横に開いたっ……?

「うっ……!」

 大きな円卓、その奥に六人、席に着いている……!

 中央には……壮年以上、老齢かもしれない、立派な髭だ、猪のような風貌の男……! 眼光があまりに……直視できない、図体もかなりでかいだろう、黒と金色の……あれはどこかで見たな、あるいは東洋の衣装か? 一目で分かった、あの男が中心人物だろう……!

 そ、それに女だ、女の異人種がいるっ? いや、いるのは当たり前なんだろうが……!

 いや、そうじゃない、狼狽している場合ではない、落ち着くんだ、ここは異文化圏内、とにかく彼らの価値観を把握しなければ、それが情報を得るために必要なこと、まずは何をすべきだ? もちろん名乗るべきだろう、挨拶は交流における基本中の基本、まずはそこからだ……。

「初めまして……。自分は……レクテリオル・ローミューンと、いいます……。今の生業は……ええっと、冒険者、です……」

 ……ああよかった、猪のような男が頷いた、やはりか、相手は明らかに蛮族ではない、みなも続いて名乗り上げていく……。

「うむ、着席するがよい」

 勧められては座る以外にないだろう、木製の椅子だ、座り心地は……いい。

「我が名はガジュ・オー。この会合の主催者である。食事の席のみとなるが、歓迎しよう」

 ガジュ、オー……。やはり言葉が流暢だな、先の人影もそうだったが……エリの、レジーマルカでよく使用されるレジーム型にそっくりだ、しかしいったいなぜ……? この地は大陸の南方に位置するはずだが……。

「遠慮はしなくていい」この声、先ほどの人影か「先ほど名乗ったな、オ・ヴーだ」

 ガジュ・オーの左隣にオ・ヴーがいる、金色の刺繍が入った緑色のローブ、長いもみあげがこれまた金色の装飾と一緒に編まれ……とにかく身なりがいい雰囲気だな、優雅で気品がある。口元の笑みに友好の色は薄いようだが……。

 ……彼らは異種族だが、改めて見てもその容姿には違和感がないな、基本的な造形が妙に……かわいいからだろうか? 目が大きく顔の輪郭は丸い、特徴的なのはやはり鼻、なにより耳の形状だ、鼻はいわゆる豚の鼻とは違う、そういう印象は若干あるものの鼻尖から鼻柱の角度が俺たちのような人種と同程度だ、鼻の穴が豚のように前方には向いていない。

 豚っぽいのはむしろ耳の形状だろうか、大きなそれがピンと立っていたり折れて垂れ下がっていたり……どうやら個人差があるようだが、この辺りはいかにも豚のようではある……。

 ……彼らに関してはやはり、あの図鑑はかなり間違っているといえるだろう。落ち着いて対面すればこそ分かる、きちんとした文明人だ……。

 ……それにしても、なぜ俺たちを招待したんだ? からかっているとかそういう雰囲気はないように窺えるが……。

 ……いや、あるいはあの図鑑にも正確なところがある? そうだ、奇妙なところがあったじゃないか、食事をしていると勝手に混ざってくるとか……。それにあの古びたカーテン……異種族が食事の席を共にしていた……。

 そういう文化なのかもしれない、赤の他人だろうが、あるいは敵対していようが……食事の席は共にして当然だというような……。

 ……だとしたらあまりに緊張している、警戒している、そのような態度はかえって無礼ではないか? こう、なんというか……気楽に接するべきなのでは……?

「……ええっと、それにしても……このような分かち合いの場にあり、ありがたいことですね、ははは……」

 ……なんて、愛想笑いするのもかえってアレかもしれないが……。

「うむ。稀有で有り難し」

 おっ、ガジュ・オーが頷いたっ? それにその一言で空気が軽くなった気がする? 勘違いでなければいいが……。

「ほう、珍しいタイプだな」ガジュ・オーの右隣に座っている男が笑む「私はア・シュー、初めまして」

 美麗な青いシャツを身にまとい、まるで貴族を彷彿とさせる雰囲気の男だな。金髪が優雅そうな形に固まっている。

「そうねぇ……なかなかいい男かもしれないわね。私はル・スゥー。あなたは少し、私たちを理解する用意があるみたい」

 オ・ヴーの右隣、きらびやかな雰囲気の女だ……。長い髪は肩より羽のように広がっている、ア・シューより明るい金髪、翡翠のような瞳はぞっとするほど美しく、唇にピンクの紅を引いている、大きな耳には高価そうな銀色の耳飾り、そして胸元がはだけた白と桃色のドレス、種族こそ違えども、かなりの美人だということは分かる……!

 しかしこの女……どこかあいつに似ているな……。あいつもああいう妖しい笑みを浮かべる女だった……。

「わたくしはレ・ホー……。これも何かの縁でしょうね……」

 ル・スゥーの右隣にはまたも女……。しかしこちらは対極的に漆黒の姿だ、ベールで顔もよく見えない、まるで占い師か葬式の参列者だな……。

「ときにあなたは……ホワイトシスですね……?」

 これはエリへの問いかけだな? しかしどうして分かったんだ、身なりから……?

「あなたも……!」エリも驚いたのか目を大きくしている「……いえ、その……私は破門されてしまった身ですので……」

「そうですか……。狭量なる世間は嘆きに満ちてゆくものです……」

 文化があれば信仰もあるだろう、彼らにも……?

「俺はお前らを知ってるぜ」

 オ・ヴーの左隣は空席だ、さらにその隣、黄色いゴーグルを頭にかけている男がいるが……。

「知っている……?」

「骨の広場の戦いでそこそこ活躍してたろ」

「なぜ、そのことを……?」

「俺は情報通なんだ。お前たち冒険者は大事な収入源でもあるからな、なるべく長生きして楽しませてくれよ」

 ……収入源、何だそれは?

 ……まさか、宿がらみ? いや、しかし……。

「俺の名はジ・グゥー。よろしくな、レク」

 ……妙に気安いじゃないか。知っていたという話は本当らしいが……まさかっ?

「あんたっ……もしや、あの戦いの場にいたのかっ……?」

「まさか! 誰があんなカス共と組むかよ」

 カスだって? では彼らは……やはりあの凶賊とは違う立場か……。

 そうか……そうか、それはよかった……。

「それにしてもお前の得物は面白いな、ちょっと見せてみろよ」

 シューターを……?

 凶賊とは違うと分かっていても警戒は必要だが……。

「ああ、いいよ……」

「よいのか、レク……!」

 ワルドが懸念の声を上げるが……これまでの雰囲気からして少なくとも食前に仕掛けてくることはない……と信じたい。

「ああ、もちろん……」

 というかこの六人とやり合うのは無理だ、未熟な俺でもそのくらいは確信できる。はっきりいってこんな武器など意味をなさないだろう……。

 順繰りに手渡しされ、シューターがジ・グゥーの元へと渡る……。

「……ふーん、電気……? の、魔術でねぇ……」

 こいつ? 構造を一目で見抜きやがった?

 いや、俺たちのことを知っているからか?

「無骨ねぇー。スタイリッシュさが足りないわ」

 でかい……胸の谷間より拳銃が……! 見たことのない型だな、銀色に輝いていて格好いい感じ……。

「へえ、いい銃を持っているね……」

 ル・スゥーはにんまりとし、

「そうでしょう? 骨董の再生品だけど私はこれが好きなの。威力なら断然こっちだけど」

 もう一丁、でかいピンクの銃が出てくる……! ライフル、なのか? かなり強力そうだ……!

「でもやっぱりこっちが渋いわよね。銃声、聞いてみる?」

 銃口、こちらへと向いたっ? 銃撃音っ……!

 撃った……のか……?

 ……何かの感触が頬に触れた? が、痛みはない……。血も、出ていない、弾丸が側を通っていっただけ、か……。

 だがっ、光の鳥が飛びっ、ワルドから怒気の噴出を感じるっ……! まずい! アリャもだ、動いていないものの臨戦態勢に入っているっ……!

「待てっ……!」

「……何を待つ?」

 くっ、ワルドは本気だ……!

「きっと冗談だよっ、冗談……!」

 うっ……! ガジュ・オーの眉間が険しくなっていく……! ヤバい、ヤバイぞっ……!

「くだらぬことを」

 ギロリと視線がっ……! ル・スゥーの方へ……?

 彼女は肩をすくめ、

「だってぇ、なんかイジワルしたくなっちゃったの、ごめんなさい!」

 ル・スゥーは自身の頭をコツンとやり、屈託もなく笑むが……。

「いけませんよ……よくない悪戯です……」レ・ホーだ「みなさま、大変な失礼を致しました……お許しください……」

「ごめんなさーい!」

「いっ、いえいえ、そんな! 気にしていませんよ、ははは……!」

 いやもう、マジでびびったけれどな……!

 だがなんでもいい、そういうつもりじゃないのなら……!

 ガジュ・オーはぶしゅうと鼻息を噴出し……!

「愚の骨頂である」

「はーい!」

 ル・スゥーは肩をすくめ……なんかシューターが戻ってきた……。

 ……よかった、価値観に大きな差異はないらしい……が、オ・ヴーが上手くやったなといわんばかりに口元を上げていやがるな……。

「ところで昼餐との話だが」おっとワルドだ?「まさか人間の肉が出てくるわけではあるまいな」

 いや……駄目だって、腹を立ててくれているんだろうが、当て擦っていい状況じゃない……。

「くだらんな」答えたのはオ・ヴーだ「なるほど食人で力と叡智が手に入ると信じているうつけはいるが、医学的に我々が貴様らを食うメリットなどありはせん」

 医学的に?

「……医学的にとは、いったい?」

「食人を続けると脳が侵され、やがて死に至るのさ。様々な方法で耐性を獲得することは可能だが、そこまでをして人を食う必要性はあるまい。なんせ我々は豊かだ」

 そうなのか? へえ……。

 その言い回しだと俺たちはやはり……。

「もっとも、禁忌たればこそ絶大な力を与えることはあるがな、魔術的な意味合いにおいては」

 ええ……? ワルドはうなり、

「……それは犠牲魔術の話か?」

 犠牲だと? その問いかけにオ・ヴーは沈黙と笑みで返す……。

 ……だが魔術のことはさておき、そうか、そうなのか……。

「つまりみな同じ人間というわけだ。そしてあなたたちはあの白い連中の仲間ではない。ではいったい何者で、ここで何を……?」

「素晴らしい質問だ!」

 うっ……! 彼らの視線が一気に集まる……!

「我々は何者なのか?」オ・ヴーはまだ笑んでいる「そして何をし、またすべきなのか?」

 何者で、何をすべきか……。

「レクテリオンこそ、その探求者に違いあるまい」

 なに? またそれか……。

「あんたはいったい何を……」

「デモ、ナンデ、ブタ?」

 ええっ……? いやいやアリャお前、そこはいいだろうと、見た目が多少、違えども同じ人間だろうと、そういう話になっていたんだからさぁ……!

「いやお前な、そこは単なる人種の違いでだな……」

「いいさ、ガキは正直だ」おっとジ・グゥーだ「見た目は重要だぜ、そりゃあな。差別も区別もある。あって当然だ」

 そりゃあ……まあ、そうかもしれないが……。

「だが……失礼には違いない、申し訳ない……」

 ジ・グゥーは頷き、

「そういう心意気が少しあればいいのさ」

 そう……いうものか?

「ムゥー? ワタシ、マチガイ? ワタシ、ギマスキ、カワイイ」

 おいおい、なんか指差し始めたしっ……?

「お前、そういうのは失礼だって……」

「カワイイ、カワイイ、カワイイ!」

 レ・ホー、ル・スゥー、ジ・グゥーに向かって指差しやがった……!

「ギマ、カワイイ! デモ、オソッテクル、ユルサナイ、ブチコロス!」

 いやいやおいっ、待てまてお前っ……!

「ああっ……いやっ、本当にっ、申し訳ないっ……!」

 ヤバい、マジでヤバいだろこれっ……!

 ……って……何だっ?

 一斉に、笑声が……!

 何だっ? みんな、笑っている……!

「ね、面白そうでしょこいつら!」ジ・グゥーだ「そうか、俺もかわいいかぁ、そういうキャラもいいかもな」

「……まあ、わたくしをかわいらしいと……」レ・ホーだ「ええ……嬉しくないといえば嘘になってしまいますね……」

「そうよぉ!」ル・スゥーだ「おばさまは美人なのよ、本当に……! たまーに自信がぐらつくもの、たまーにね」

 あ、ああ……。

 む、無邪気の勝利、か……?

 よかった……。

「それはそうと」ア・シューだ?「この珍客たちのことをキューは把握しているのか?」

「いるわよ。人数増えたから追加で調理してるのよ」ル・スゥーだ「ところでついさっき、ラ・コォーが死んだそうよ」

 うっ……? いきなり何だっ?

 さっき死んだ、それは、まさか……?

「そうか」ア・シューは頷く「誰にやられた?」

「知らなーい。冒険者みたいよ」

 やはりかっ、視線がこちらへと向く……!

「こいつらじゃないよ」おおっ……? ジ・グゥーだ「でかい剣を持った剣士って話だ。一対一の決闘でもあるらしい」

「そうか」ア・シューはまた頷く「ならば本望だろう」

 意外と……すんなり受け入れたようだが……?

「あの、それって……もしや斧槍を持った大男の話かい……?」

「そうだ」やはりか!「その場にいたのか?」

「ああ……木陰から見ていた」

「件の剣士は知り合いか?」

 ぐっ……しまった、つい深入りしてしまった、肯定してもいいことはない……が、あのジ・グゥーは異様に事情通なようだ、ここで嘘がバレたら印象が悪くなる……か。

「ああ、まあ、多少ね……」

「名は?」

 くっ……ああいう奴とはいえ告げ口はしたくないが……ここで心象を悪化させるのも……!

「ス、スクラト……だ」

「そうか、感謝する」

 ……いい気分はしないが、あのジ・グゥー、視線や表情を見るにやはり知っていたな? だがいったいどうやって……。

「オオー、イイニオイ!」

 ああ……そうだな、いい匂いがしてくる、大きな台車で料理が運ばれてきた、コックのような姿の男が現れる……。

 どの台車にも大変な量の料理がのっている、その内容は……分厚いステーキと、肉やら野菜やら色々入って、黄金色にとろっと光っているもの、そして白くてふわっとしている何かだ……。

「チョー、ウマソウ!」

 確かにな……コックの男が料理を皿に分け始めた。

「彼はデ・キューだ」ジ・グゥーが紹介する「料理の達人だよ、お前らは本当にラッキーだぜ」

「やあやあ、お客さん」デ・キューはにんまりとする「お口に合えばいいんだけどね、たくさん食べていってね!」

「あ、ええ、ありがとう……」

 なんだか人が良さそうな雰囲気だな? 彼はまったく無駄のない動きで配膳を始める、かなり速いぞ……!

「酒もありますけど、まだ駄目なんでしたっけ?」

「うむ、会合の途中であるからな」

 あっという間に配膳が終わってしまった……なんという手際!

「さあみなさん、堪能してください!」

 ガジュ・オーが簡単に食事前の挨拶をし、そして始まるがエリとレ・ホーは祈りの言葉を唱えている。

「ささっ、食べなよ! あんたたちの評価も聞きたい」

 手元には三種類の料理が並んでいる。よし、まずはこの金色のとろっとした料理を試してみるか……って、なんかアリャがじっと俺を見つめている……何だよ早く食えって? 大丈夫だろうよ、デ・キューがわざわざ大皿から取り分けたのは安全性を表明するためだ、つまり俺たちに配慮をしている、変に疑うような仕草はするべきじゃない、とにかく俺はすぐに食うぞ……!

 さてどれほどの……って、こっ、これはっ……!

 うまっ……い、うまい、美味いぞっ! 俺とて今じゃこんなんだが環境的に高級料理を口にする機会はあった、あったが、こいつはそれと比べても遥かにっ……!

 牛肉かこれは、溶けるように柔らかい、濃密なコク、野性味があるが香辛料との相性か個性に昇華されている……かと思えばコリコリとした歯ごたえもある……これは何かの根菜類だろうか? 爽やかな香りと瑞々しさが広がる、そして何よりこれらの架け橋となっているこの金色のスープ、タレはいったいっ……?

「どうかなっ?」

 コックは目を輝かせている、どうってもちろん……!

「うっ、美味すぎるっ……! 信じられん、これほどのっ……!」

「そうだろそうだろ!」

 デ・キュー、なんという料理人! アリャが猛烈な勢いで食べ始めている、現金な奴め……!

「スッゲェー! ウマーイッ!」

 白くてふわふわしたものは柔らかいパンといったところか、軽いが噛むとモチモチしていて優しい甘みとコクが広がる……。

「ウマイ! ヤバイ!」

 そしてステーキのような肉塊だが金色のやつと同じ肉か、しかしこちらはしっかりとした噛みごたえがある……ものの、肉汁が……! 噛むごとに溢れてくる……!

「チョォオオオウメー!」

 いや、マジで信じられん、なんでこんな森の奥で、外の金持ちですら食えないような料理を堪能できているんだ俺たちはっ……? アリャなんかさっさと平らげておかわりを催促しているし……お前、気持ちは分かるが奔放すぎじゃねぇ……?

「にぎやかな食事もよいのかもしれんが」オ・ヴーだ「貴様はいささか喧しいな」

 ほら怒られた。しかし当のアリャはおかわりに夢中でまったく聞いていないな、デ・キューはその様子を見てご満悦のようだが……。

「も、申し訳ない……。おいアリャ、もう少し静かに食べなさい」

「チョーウメー!」

「うるさいってのよ……!」

「チョー……ォオオ、ウメー……!」

 小声でもうるさい……! なんてことをしている内に食事は終盤だ、かなりの量だったのにあっという間に食い尽くしたな……!

「そろそろ終わりか」オ・ヴーだ?「さて、どうする?」

 どうする……。

 どうするって……あっ、これはあれだ、俺たちをどうするかって意味だっ……? ああヤバい、料理に夢中で危機感がまるですっぽ抜けていた……し、なんなら今もあるとはいえない、上等な料理で腹が満たされたばかりだし……!

「どうもしなくていいだろ」ジ・グゥーだ!「機密保持にしたって過敏すぎるぜ」

「そうね」ル・スゥーもだ「けっこういい男みたいだし」

 なんだか穏便に済みそうか? そもそもオ・ヴーからしてさして敵意などは感じないしな……。

「……お食事、ありがとうございました」おおっとエリだ?「失礼ですが、ひとつ……お尋ねしてもよろしいでしょうか……?」

 このタイミングで……? いや、エリも感じているのかもしれない、相手に敵意や戦意などはないと……。

「ええ……」レ・ホーだ「どうぞ……」

「リザレクションという魔術をご存じありませんか……?」

 うーん、このタイミングでとも思うが、そもそもエリはその質問をするために来ているんだからな……。

「その秘術は実在します……」

「ほ、本当ですか……?」エリは身を乗り出す「いったい、どこで習得できるのでしょうか……?」

「ひたすらに望み求めれば……いつかは。ですが、そこには大いなる虚無もつきまとうことでしょう……。望むならば覚悟をすることです……」

 レ・ホーの黒いベール、その奥で金色に輝く二つは瞳なのか……?

「ですが、どちらかは分かりません、どちらかは……」

「それは……?」

「命は失われるからこそ尊いのです……。ゆえに、どちらかは分かりません、どちらかは……」

 エリは黙し、俯いてしまった。

 ……そうだろうな、復活の魔術が実在するにしても、それを使っていいかはまた別の問題だ……。

 というか実在するのか、そんな世の理を乱すようなものが……。

「いずれにしても、この地の森を進んで生き延びられる者などごく僅かだ」オ・ヴーだ「秘術を求める前に強さを身につけるのだな」

 それはそうかもな……と、ジ・グゥーがこっちを見ている。

「まあ、なるべく長く持ち堪えてくれよ、最近の冒険者はさっさと死んじまうのが多くてな」

 そりゃあ……こちとらそのつもりだがな。

「もし面白い成果を残せれば報酬をやるよ」

「報酬、面白いって何だ……?」

「うーん、未発見の場所を見つけるとか、すごいオールドレリックを見つけるとか……」

 オールドレリック、遺物か……。

「そりゃあ、こっちとしても望むところではあるが……」

「私からもお願いがあるの」ル・スゥーだ「暗黒城を占拠してる連中を始末してほしいのね。どうにもこの私を差し置いて永遠の美女とか聖女なんて呼ばれているらしいから」

 なに? 暗黒城……って、超危険個体のページにあったやつじゃねーか……! なんでそれを初対面の俺たちに頼むんだよ、お門違いだろ……!

「件の剣士には興味がある」ア・シューだ「もしまた出会うことがあれば伝えておけ、次はこの私が相手をするとな」

「ああ……」

 スクラトか……まあ、あいつとて戦闘狂みたいだし、望むところなのかもしれないが……。

「それとだ、栄光の騎士は知っているか?」

 栄光のって……また超危険個体のあれか……?

「……話だけはね」

「あのクズの殺し方にも興味がある。その情報を得たら手当たり次第にばらまけ」

 クズってひどい言い種だが、そういやあの図鑑にも裏切り者とか書かれていたな……。

「了解……した」

「昼餐は以上である」おっとガジュ・オーだ「我々はこれより会合を開く予定だ、異存がなければお引き取り願おう」

 おお、それはこちらとしても望むところ……。

「……そうでしたね、分かりました、それではおいとまさせていただきます。お食事、大変に美味でした」

 ガジュ・オーは頷く。よし、撤収だ……!

「ではみんな、失礼させてもらおうか……」

 とにかく無事に終わった、さっさと立ち去ろう……っと、なにやらル・スゥーが立ち上がった……?

「出口まで案内してあげるわ」

 善意かあるいは……? なるべくなら遠慮したいが……。

「ええっと、あの壊れたところから出ようと……」

「たぶん塞がってるわよ。ワーカーが集まっていたでしょう? 彼らってすぐに修理しちゃうから」

 ワーカー、巨人たちのことか? だがなるほど……だとしたら困るな。

「それじゃまたな!」ジ・グゥーだ「旅の安全を祈るぜ!」

 などと親指を立てて歯を見せるが、なんであいつはそこまで俺たちを気にかけるんだ? 儲かるとはいったい? 賭け事の対象にでもしているとか? 妙に友好的な態度が逆に怪しいぜ……。

 まあいい、とにかく無事に出られるらしい、今度はル・スゥーに続いてオレンジに照らされた通路を行くが、鼻歌まじりの彼女は先ほど見せたでかい銃を背負っている……。

「……ところで、背中のそれって遺物なの?」

「違うわよぉ。普通のカスタムライフルだもの」

 違うということは……やはり、文明の発展度が俺たちより遥かに上をいっているということか……?

「ソノジュー、クレ!」

「だめー」

 アリャの要求は一秒で却下されるが……いや待て、文明力が俺たちより上だとして、彼らの住処はどこにある?

「……ええっと、君たちはどこに住んでいるんだい?」

「もちろん、ここよぉ」

「この地に……国がある?」

「そうよぉ」

「外より遥かに高度な文明が?」

「悪いけど、比べ物にならないわねー」

「森の中に?」

「そうよぉー」

 馬鹿な……いや、普通ではない獣がいて巨人の降臨があったんだ、ならば異種族の文明人がいまさらどうだというのか……と、ル・スゥーが足を止めた。

「このドアから出られるわよ」

「そういや、なぜドアがないんだ?」

「いえ、あるわよ。開けっ放しなだけ」

「いたるところに黄色い膜が張っていたが……」

「垢のようなものよ。しばらくメンテナンスしてないから」

「垢……壁が、再生を?」

「そうよぉ」

 ……ドアの先にはまたドアが、

「この先はすぐ外よ。じゃあ、またねぇー」

「ああ……次に会ったときはお手柔らかに頼むよ」

「ええ、それと暗黒城の件、頼むわね」

 だからなんで俺たちに頼むんだよ……っと、ドアが開いた、だが何か気配がすごく……って、うおおおおおおおっ? 周囲が真っ白! すっげぇーいっぱいあの白い凶賊たちがいるんだがぁああああっ……?

「がんばってねー」

 う、後ろにル・スゥーの影、そして恐らくでかい銃を構えている……! ワルドが呪文を唱え始めた……!

「ニェエエー! ダマシタッ?」

「にぇえー、別に騙してないわよ」

「はっ、嵌めたのかっ?」

「だから違うわよ、彼らの目的はこの施設、稼働させると様子を見に来ちゃうのね。数が多いのはキングブルの肉が目的かな? 回収するためにたくさん集まっちゃったみたい。あと私のファンもいると思うわ」

 やはり仲間とかではないのか、だが戻ったら撃たれかねない!

「なっ、なぜ、こんな仕打ちをっ……?」

「タイミングが悪かっただけよ。はいまたねー」

 お前この嘘つくなよっ! エリの鳥が大量に現れる! きっ、奇声を上げて白い奴らが突っ込んでくるぅうううっ……!

「ちくしょうっ! 突き抜けるしかないっ……!」

 しかし可能なのかっ? ざっと百人以上はいるぞっ……?

 背後よりル・スゥーの笑い声が聞こえる……!

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