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「えーと、、、どういう事かしっかり説明してもらおうか」
「まあまあ純、落ち着けって」
「あはは、、、ごめんなさい、、」
学校はすでに放課後の時間を迎えてる。
俺と真人と茜の3人は、数学準備室という教室に集まっていた。
「私のせいです、ごめんなさい、、、、」
朝のホームルームの補習宣告の後、俺達は詳しい話を聞いた。
どうやら昨日提出した数学の課題について、この3人だけ異様に答えの間違いが多かったらしく、数学の教師が補習の開催を提案したらしい。
俺と真人が今回提出した数学の課題は、茜の答えを写したものだ。
つまり、茜の内容がメチャクチャだったという事だ。
「数学って、実はちょっと苦手なんだよね」
「そういう事は頼むからノートを見せる前に言ってくれ」
茜は少し下を向く、そこそこ申し訳なさは感じてるようだ。
「まあまあ、善意で写させてくれたんだからもういいじゃないか純」
真人が割って入ってくる。
俺もそこまで怒ってる訳じゃなく、元を辿れば自分達が課題を忘れていたのが原因なのは分かっている。
思いのほか落ち込んでいる茜を見てると、少し可哀想に見えてきた。
「茜、まあ純粋にノートを見せてくれたのは感謝してるし、そこまで俺も気にしてないし落ち込むなよ」
「うん、、、ありがと」
「パフェ奢りの件はなしだけどな」
バタンッ
その場で茜は膝から崩れ落ちた。
「おっ、おい純」
「じょっ冗談だよ冗談!パフェは食っていいから元気だせって」
「い、、いいの?」
ゆっくり立ち上がった茜の瞳に生力が戻っていた。
「にしてもいつまで俺達を待たせるつもりなんだろうな?」
ガラガラッ
その時だった。
閉まっていた数学準備室の扉が空いた。
「先生ちょっと遅いですよー」
扉が開いた音と同時に真人が声をあげる。
しかし扉に視線を移した3人の前には、想像とは大きく異なった人物が立っていた。
「数学準備室って、ここでいいんですよね?」
そこに立っていたのは、鞄を両手で体の前で持った少し小柄で、可憐な姿をした女生徒だった。
「お、、お姫様」
予想外過ぎる人物の登場に、俺達は唖然としていた。
ただ1人を除いて。
「四組の九条さんだよね、初めまして、私は一組の斉藤茜っていうの」
茜は特に普段通りの様子で、普通にお姫様に話をかけていた。
「あっ、初めまして•••九条です」
お姫様は深々とお辞儀をした。
「何故私の名前を知っているんですか?」
首を少し傾けながら、茜に対して質問を向けている。
「話題の転校生だからねあなたは」
その言葉を聞いてお姫様は少し下を向く、微かに見える頬は少し赤く染まってるように見える。
本人も自分が周りにどう注目されてるかは、多少は理解しているのだろう。
ふとお姫様がこちらに顔を向けた。
一瞬目が合い、思わずビクッとなってしまった。
「どうもお姫さっ、、じゃなくて九条さん、俺も同じく一組の進藤真人って言います」
お姫様は真人に対して頭を下げた。
一瞬恥ずかしいあだ名で呼ばれかけたのは気付いてないのか、特に気にしてる様子はなかった。
次にお姫様は俺を見る。まあこの流れなら俺が続いて自己紹介をするのは必然だろう。
「初めまして、1組の騎士田です」
とりあえず端的に挨拶をしておいた。
「九条さん気を付けないとね、この2人は1組ではホモって噂あるからね」
お姫様の耳元で茜が囁く。
「聞こえてるぞ茜」
俺は茜に対して威嚇を込めた眼差しを向けた。
「おい、、、その噂って、、、どっちが受け?攻めはどっちよ!?」
「お前そこはどうでもいいだろ!」
「ふふっ」
ふいにお姫様は笑顔を見せた。初めて見た彼女の笑顔は眩しくて、自然とこちらまで微笑んでしまうほどのものだった。
「全く、本当に二人は面白いんだから、、純のツッコミもピカイチでしょ」
そう言うと、茜は俺の肩を叩いた。
「きしだ、、、じゅん?」
お姫様は何やら呟き、すこし首を傾げている。なんだろう、何故か俺の顔をじっと見ている。
「そういえば九条さんはなんでこの教室にきたの?」
「あっ、えーと補習を受けにきました」
急な真人の質問に、止まっていた時間が動き出す。
「私は転校してきたばかりで、前の学校とは授業の範囲も違うので、先生方が配慮してくれたようなんです」
どうやら、俺達とは同じ補習でも意味は全く違うようだ。
ガラガラッ
教室の扉が開いた。
「よーし、数学の補習授業を始めるぞー」
ジャージを着て、一見体育教師のような風貌の男性が教室に入ってくる。
「はぁー」
自然とため息が出た。
この数学準備室は今はあまり使用されてないが、元々は俺達のクラスのように、通常教室として使用されていた。
机は当時のままのようで、横6列縦7列に並べられている。
とりあえず俺達は前から3番目の列に1列で4人並んで座らされた。
「今日の補習だけどなー、九条以外の3人は先日出した課題が全然出来なかったから呼ばれた訳だー!今回はその範囲を徹底的に俺が教えてやるからな!しっかり学ぶように!」
いちいち声が大きいので、聞いてるだけでも疲れてくる。
「九条はとりあえず、前回の期末テストをやっててくれ」
「はい、わかりました」
しっかりと返事をし、配られたテストをさっそく解き始めたようだった。
「よーし!では3人は復習から始めるぞ!」
ふと二人の様子を確認した。
ZZzzzzz....
「コラー!!斎藤!進藤!開始そうそう寝るんじゃない!」
なんで俺はこんなところに居るのだろうか?数学の問題よりも前に違う疑問が頭の中に浮かんでいた。