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「お姫様どうだった?」
少し赤みを帯び始めた街中を俺達は歩いていた。
「ま、、、、まあまあかな」
「何がまあまあだよ、お姫様を一目見た時のお前のポカンとした顔は傑作だったよ」
「う、、うるせー」
確かにあの時はボーッとし過ぎたという自覚があるので、強く反論は出来なかった。
「美少女ってのは認めるよ、にしてもあの気品はなんなんだ?どっかのお嬢様とかなのかやっぱり」
「あー、噂によると家は相当の金持ちらしいぞ。お姫様って呼ばれてんのもそのせいかもな」
あの上品な出で立ちはお姫様って呼ばれるのもしょうがないかもしれない。
ただそんな恥ずかしいあだ名で呼ばれてる事には少し気の毒に思っていた。
俺も昔に酷いあだ名をつけられた事があったからだ。
あー、、嫌だった、、、、
「この後ゲーセンでも少し寄ろうぜ」
「おう、そうだな」
特に帰ってやる事もない俺は、その誘いを迷う事なく承認した。
カチャ、、カチャカチャ
バシッ!バシ!ダン!
LOSE
俺の目の前にはその文字が浮かんだ。
「おっしゃー!7連勝!そろそろ諦めろよ純」
「いやまだだ!」
俺達は格闘ゲームをプレイしていた。
今日の仕返しかと言うばかりに、画面の中の俺は滅多打ちにあっていた、
今現在は俺の7連敗中だった。
LOSE
そしてこれで8連敗目。
次は絶対、、、、、と自分の財布を覗いてみると、何やら急激なダイエットに成功している事に気付く。
少し冷静になると同時に、明日は茜にパフェを奢らなきゃいけないという事を思い出した。
今月は金欠か、、、、、
チャリン
9回目の小銭を投入していた。
カチャカチャ、、、カチャ!
今度はいける、俺が優勢だ。
よしこのままっ、、、、、
その時だった、俺の横を何かが通る。
ふわっとした何か、いい匂いがした。
ん、、、、姫様?、、、、
LOSE
「ふーっ、今のは危なかったぞ純、ん?おーい?どうした?」
「いや、今お姫様が俺の横を通ったような」
「え?そんは訳ないだろ、あのお姫様がゲームセンターに来るような子に見えるか?」
確かにそうだ、勝手なイメージだけど、ゲームセンターに遊びにくるような子には見えない。
見間違い?だったのかかもしれない。
俺は自分をそう納得させた。
「あっ!」
「ど、どうした?」
急に大きな声を出した俺に真人は驚いている。
「財布の中身が空だ、、、、、」
ガチャ
「ただいまー」
「おかえり純」
エプロン姿の母親が出迎えてくれた。
「あら?どうしたの?なんだか元気ないわね?」
どうやら顔に出ているらしい。
無理もない、嫌な思い出を振り返り、課題提出に焦り、金欠になった一日を過ごしてきたんだ。
「大した事じゃないから気にしないでくれ」
変な心配はかけられたくないので、ハッキリとそう言っておいた。
「夕飯もうすぐ出来るから、ダイニングで待っててね。ちゃんと手を洗ってからね!」
そう言うと母親はキッチンの方へ戻っていった。
洗面所で手を洗い、リビングへ向かった。
「お兄ちゃんお帰りー」
明るく、弾けるような声が聞こえた先に目を向けた。
その体には大き過ぎるリビングのソファーに、ちょこんと少女は座り、眩しい笑顔をこちらに向けている。
「ただいま美沙」
美沙はぴょんっとソファーから飛び降りると
、こちらへ走ってきた。
「お兄ちゃーん♪」
そう言いながら、俺の腹筋辺りに顔を埋め、
両手いっぱいに広げた腕を腰周りに巻き付けてきた。
そして、俺の顔を上目遣いで見上げた。
現在小学2年生のこの少女は俺の妹だ、、、、、多分。
俺は疑っていた、本当に美沙は俺と血の繋がった実の妹なのかと、、、、
「お兄ちゃん遊ぼ♪」
こんな天使が、本当に俺の妹なのかと。
「「いただきます」」
家族3人で同じテーブルを囲んでいる。
テーブルの上には肉、野菜などの色々な食材が使用されている料理が綺麗に盛り付けもされている。
母は料理が得意だ。一週間に1回くらいは料理教室にも通っており、料理のレパートリーも日々増えているようだ。
「お母さん美味しー」
美沙は口の周りに食べ物を付けながら、とても可愛いらしい表情をしている。
美沙も母の料理は好きだし、俺も家での食事は嫌いじゃない。
今は三人でこの時間を過ごしているが、半年前までは、父親もこの場に居た。
父親は半年程前から単身赴任で北海道へ行っていた。
当時単身赴任を決めた時は、美沙は相当泣いていた。家族想いの父親で、休暇が取れた時はよく旅行にも連れていってくれた。
まだいつ頃こっちに戻れるかは決まっていないが、美沙の寂しがる顔はあまり見たくないので、出来るだけ早く戻ってきてくれる事を期待していた。
夕食を食べ終わり、その後に俺は風呂にゆっくり浸かった。
1日の疲れが癒されていく、暖かい湯の中に自分の中の不必要な部分が溶け出していくようだった。
風呂から上がり、髪を乾かした後に部屋に戻った。
とりあえず一息だけ着くつもりで、ベッドに倒れこんだ。
そして徐々に、徐々に意識は薄れていった。