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•••タッタッタッタッ•••


•••タッタッタタっ


ガラガラッ


「おっ、、おおは、、はぁ、、大橋先生!い、、いらっしゃいますでしょうか?」


昼休み、勢い良く開けられた職員室の引き戸の前に立っていたのは、汗だくになり息を切らした二人の生徒だった。


「どうした騎士田(きしだ)進藤(しんどう)、フルマラソンでもしてきたか?」


少し白髪の混じった顎髭を触りながら、目当てのその人が職員室の入り口へ向かってくる。その顔は薄っすら笑みを浮かべてるようにも見える。


「そ、そんな感じです」


大橋先生は化学の教師であり、今は俺や真人のクラスの担任でもある。

俺は一年生の時もこの人が担任だったが、その時は大分お世話になった。


俺はすぐに息を整え、目的を伝えた。


「課題だったレポートの提出に来ました」


「俺もです」

真人が俺の後ろから続いて答える。


「あらそうですか、では受け取りましょう」

大橋先生は柔らかい口調でそう言ってくれた。


ふぅ

思わず安堵の息が漏れた。


「でも二人共、残り二分で昼休みは終わってましたね。昼休みを一秒でもすぎてたら、二年生になって早々に長い長ーい補習が楽しめたのに残念ですね」


ゴクリ、、


その言葉に俺達は思わず唾を飲む。


「次からはもっと早く提出するように」


「「はいっ」」

補習の言葉にヒビった俺達は、自然とシャキッとした返事をしていた。


「あの、、、あと先生?金子先生っていらっしゃいます?」


隠し持っていた数学のノートを恐る恐るそっと差し出した。


「はぁ、全く君達は、、、」


なんとも言えない俺達の表情に状況を察したのか、大橋先生は呆れた溜息を吐いた。


「金子先生はもう次の授業の準備で職員室には居ないよ、この数学の課題を渡しておけばいいのかな?」


「先生察しが良いねっ、グフッ」


調子をこいた後ろの真人の鳩尾に肘を入れておいた。


「せっ、先生ありがとうございます」


俺は思いっきりの作り笑顔でお礼を言った。


「早く君らも次の授業の準備をしなさい」


「わかりました、それでは失礼します」


俺は上半身を抱えていた真人を引っ張り、職員室を後にした。

そして俺達は小走りで教室へと向かった。


「いやー、でも間に合って良かった。本当に予想外だったな真人」


「そうだな、まさか今日までの課題がまだ他にも存在していたなんて思わなかったな」


「今回は茜に本当に感謝しなきゃだな」


ここまでの経緯はこうだ。

1時間目の授業中から4時間目の授業中で俺達はレポートを完成させた。


だが休み時間に入ってすぐ、職員室に提出に向かおうとしていたが、そこで今日までの提出期限の数学の課題の存在を知り俺ら二人は絶望していた。


そこで俺達の様子に気付いた茜が状況を聞いてくれて、ちょうど茜もこれから提出するところだったらしく、そこで俺が茜に泣きつきノートを写させてもらったってところだ。


「二人共おかえりー、その様子だと無事に提出は間に合ったみたいだね」


教室に戻ると茜が声を掛けてきた。


「今回は本当に助かったよありがと」

ここはキッチリ茜に対して感謝の意を示しておいた。


「いえいえ、困った時はお互い様だよ」


茜はそう言うとニッコリと笑った。


「じゃあ何奢ってもらおうかな」


やっぱりそうきた。

こう言った所はしっかり請求してくる人間なんだこいつは。


「わかったよ、ジュース一本な」


助かったのは確かだと思い、感謝の気持ちを提示した。


「えー、安い安い!」


交渉失敗。


「じゃ、じゃあお前の好きなハーゲンナッツのアイスクリーム一個だったら良いだろ」


「もう一声っ!」


くそっ、、、付け込みやがって、、、


次の交渉品をまだ頭の中で考えてる時だった。

「そしたら、駅前のメープルランドのスペシャルパフェでどう?」


それまで静かにしていた真人が意見を出した。


「え!?いいの?あそこのスペシャルパフェって結構するよ?」


「うん、俺も茜ちゃんのノート写させてもらって凄く助かったし構わないよ」


「やったー!パフェ♪パフェ♪」

両手をあげて喜びを表していた。


「えーと、、進藤 真人君だよね?ありがとね」



ん?その時、茜のよそよそしい態度に俺は違和感を覚えた。


「そうそう、気軽に真人って呼んでくれて良いから、斎藤 茜ちゃんでしょ?名前は知ってるけど、こうやってちゃんと話すのは初めてだね」



そうだった。

俺と茜は1年生の時一緒のクラスだったから付き合いがあるけど、1年の時に違うクラスだった真人と茜は面識がないんだ。

このクラスになってまだ1週間ちょっとしか経ってないし、無理もない事だった。


「純も真人君を見習ってもっと太っ腹になんなさいよね」


「はいはい、すみませんねー」


もっと遠慮しろと言ってやりたがったが、後がうるさそうなのでここは耐えた。


「善は急げ!って事で今日の放課後行きたかったけど、部活なんだよね。明日の放課後でオッケー?」


「バスケ部エースは大変だね、俺は大丈夫」


「純は?」


「えっ?俺も行くの?」

不意の質問に少し驚いてしまった。


「当たり前でしょ、二人に奢ってもらうんだから、じゃあそういう事でまた明日ね」


そう言うと茜は自分の席、廊下から二列目の後ろか三番目の席へ戻っていった。

いったいどれだけの量を食うつもりなんだ、、、、


「お前がパフェ案を出したせいで、俺まで高い出費を払う羽目になったじゃねーか」


少しの不満を真人にぶつけた。


「悪い悪い、ほら茜ちゃんとは全く面識なかったからさ、なんか関わりも欲しくてさ」


顔の前で手を合わせながら真人は言った。


「そういえば面識ないわりに、良くフルネーム覚えたり、茜がバスケ部のエースって事知ってたな」


少し引っかかりがあった疑問を投げかける。


「全く純は何も知らねーな、茜ちゃんと言えば、俺らの学年じゃそこそこ有名人なんだぞ」


「そうなのか?」


「この学年の彼女にしたい女子ランキングのTOP3には絶対食い込む人気な子だぞ」


正直知らなかった。

他クラスの美少女転校生の事や今回の事といい、俺は結構噂だったりの情報に疎いらしい。

恐らくそういった事に興味も薄いってのも関係しているとは思うが。


「そういう事だから、とりあえず明日の放課後は楽しみにしとくから」


そう言って真人は自分の席に着いた。

しかし直ぐこちらを振り返った。


「美少女転校生は今日の放課後見に行こうな」


キーンコーンカーンコーン


俺が返事を返す前に、鐘の音と共に真人は正面を向いた。


ガラガラッ


「それでは授業を始めまーす」


こうして慌ただしかった昼休みが終わりを告げた。



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