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、、、、、静かに瞼を開いた。
目の前に少しずつ広がる光景に違和感を覚えた。
、、、、壁、、か?
すぐ目の前には視界を塞ぐように壁があった。しかし、頭の中がまだふわふわとしている俺は、そんな状況からもすぐに身体を動かそうとは思わなかった。
それから数秒が経過しただろうか、少し頭の中がスッキリしてきた時、ふと身体を起こした。そして見慣れた景色に俺は安堵の息を漏らした。
六畳ばかりの部屋、床の一部には雑誌や飲みかけのペットボトルが散らばっている。
クローゼットは半開き、デスクの上にはパソコン、椅子には乱雑に上着がかけられている。紛れもなくここは俺の部屋だ。
そして今、俺のすぐ横にはシングルサイズのベッドがある。
どうやら寝てる間にベッドから落ち、ベッドの側面を向いている状況のまま目を覚ましたらしい。
「はぁぁー」
大きな欠伸と共に、ふと棚の上の置き時計に目を向けると6時40分を指していた。
「よいしょっ」
少し反動をつけ、立ち上がった。
若干痛む右肩と腰を少し気にしつつ、立ち上がった勢いのまま部屋の扉を開け、廊下へと出た。
そして一階の廊下へ続く階段を降りた。
「ちよっと、階段はもっと静かに降りてきてっていつも言ってるでしょ」
リビングへ入ると毎朝聞き慣れたフレーズが飛んできた。
「まだ美沙は寝てる時間なの、いつも静かにって言ってるでしょ」
「おはよー母さん」
特に母のセリフに対して返答はせず、無意識な朝の挨拶をしておいた。
リビングには、隣接するキッチンからの香ばしい匂いが拡がっており、急に食欲のスイッチが入った。
「純、来週からテストなんでしょ?勉強はしてるの?」
母は焼き立てのウィンナーが入ったフライパンを持ってキッチンから出てきた。
「んー、まぁまぁ」
正直俺の頭はまだ音を立てているウィンナーの事でいっぱいになっていたので、適当な言葉で答えた。
「二年生になっての最初のテストは大切なんだからね!も〜」
そんな事を言いながら、フライパンから俺の目の前に置かれた皿に、油を帯びたそいつらを移した。
「いただきまーす!」
配膳されたと同時に俺は食らいついた。
口の中で油が飛び散りかなり熱かったが、
気にせずレタス、パンを続いて口の中に押し込んだ。
あー美味い、幸せだ。
俺は思っている。
高校二年生なんて生き物は、腹が減って飯食って、エロい事でも考えてれば、なんかもう最高に幸せなものなんだと。
周りの奴らを見てればそう感じる。
まあ、もちろん自分も例外ではないけど。
俺はおもむろにテレビのリモコンを手に取り、電源を入れた。
「4月21日の東京の天気は晴れです」
ちょうどニュースの天気予報だった。
晴れか、、まぁ雨じゃなきゃ良いか。
「続いて占いコーナーです。、、今週の絶好調は、、蠍座です!」
俺は11月2生まれ、テレビからの情報によれば今週は絶好調らしい。
占いなんて本気で信じてる訳じゃないけど、なんかこう悪い気分ではない。
今日はなんだか凄くいい日になる気がする!
と妙な自信が出てきた所だった。
そのほんの少しの良い気分は、次の瞬間、母の発した言葉によってそう長続きはしなかった。
「あっ、そういえば姫奈ちゃんがご近所に引越してくるわよ、あんた昔仲良かったわよね?」
ん、、、、、、ひめな?
特にすぐピンとくる名前ではなかった。
ひめな、、、ひめなって?、、、、あっ!!
「ひっ!ひめな!?」
思わず俺は声をあげていた。