睦・睦美の事件簿(読みきり)
街灯無く、ひとっこひとり見当たらない暗い夜道。
オレンジ色のロングへアで、とても体格の良い、可愛い美少女が自宅に向かって歩いていた。
美少女の名は、深山 睦美。彼氏いない歴=年齢で、都内の高校に通うごく普通の高校生である。
「はぁ」
睦美は溜め息を吐いた。
(私ったら、どうして彼氏出来無いんだろ?他の人達は皆彼氏いるのに・・・)
「はぁ」
と、再び溜め息を吐く。
そうして暫く歩いていると、睦美は人が倒れているのを見付けた。
その傍らには、黒い人影が一人、包丁を持って立っていた。
「キャアァーッ、人殺し!」
睦美はそう叫ぶと、慌てて逃げ出した。
すると、包丁を持った黒い人影が彼女に気付き、追い掛けて来た。
「待てっ、逃げるな!」
「ひっ、人殺しに待てと言われて待つバカが何処にいるんですかっ!?」
睦美は全速力で逃げる逃げる。
だが犯人も負けじとそれを追う。
「こっ、来ないでぇ!」
そう言った瞬間、睦美は躓いた。
「あっ!」
ドテッ!──睦美は転んでしまった。
「もう逃げられないぞ」
犯人はそう言うと、睦美の頭を殴って気絶させた。
午前7:15、学生服を来た深山 睦と言う少年が学校に向かって歩いていると、女性が倒れているのを見付けた。
その傍らに、オレンジ色の髪の長い美少女が血の付着した包丁を持って座っている。
睦は慌ててそこに駆け寄った。
「君が・・・やったのか?」
睦は女性の遺体を指差しながら、少女の顔を見つめた。
少女は首を横に振り、
「私やってない」
「・・・・・・」
睦は遺体を調べた。
(死後8時間は経ってるな。
死因は心臓を一突き。即死で決まりだな。
凶器は恐らく・・・)
と、少女の握っている包丁を見つめる睦。
ビクッ!──少女は焦った。
(こ、この人まさか、私を疑って?)
「君、服はそれ一枚だけ?」
「え、そうだけど?」
(うわあ、何この展開?)
「そう。じゃあちょっと見せて?」
と、少女の体を改める睦。
少女はカーッと赤くなり、
「なっ、何やってるんですかっ!?」
「何って、返り血が付いて無いか確認を」
「ま、まさか私を疑って?」
「否、別にそう言う訳じゃないけど・・・。
うん、返り血は無いみたいだね」
「はあ」
少女は素っけない返事をした。
「あ、俺、深山 睦。君は?」
「あら、面白い偶然ですね。私も深山 睦美って言うんです」
(うっ、聞かなきゃ良かった・・・)
「所で、これはどうすれば宜しいのでしょうか?」
そう言って包丁を示す睦美。
「これに入れて」
睦はそう言ってチャック付きのビニール袋を出した。
「こ、これってサスペンスドラマとかで出る証拠品を入れる袋?」
何でこんな物を?──睦美はそんな顔をした。
「警察に渡すからに決まってるだろ?」
「じゃあ私は?」
「当然、留置所だね。
ま、そうなる前に俺が無実証明してやるから気にするなって」
(なっ、何言ってんのこの人!?)
「俺さ、こう見えて探偵なんだ。だから、事件とかあると首突っ込みたくなるんだよね」
と、女性の鞄を調べる睦。
(おっ、携帯がある)
睦は鞄から携帯を取り出し、着信履歴を開いた。
ピッ!──睦はリストのトップの番号に掛けた。
すると、直ぐ近くで携帯の呼び出し音が鳴った。
「えっ、私!?」
と、睦美は携帯を出して画面を見た。
その画面には、見知らぬ番号が出ていた。
(ま、まさか私、知らない内にやっちゃったの?)
睦美がそう思うと、睦が彼女を見つめた。
「キャアッ、何ですかっ!?」
「あの、電話鳴ってますよ?出た方が・・・」
「え、だってこれ、その携帯の」
「って事は君が最後に掛けたの?」
「しっ、知らないよ私こんな番号!?」
「まあ良いや。取り敢えず警察に電話しよう」
睦は自分の携帯を出すと、110番通報をした。
それから暫くすると、パトカーのサイレンが聞こえて来た。
それと共に、数人の刑事、鑑識がやって来た。
「久しぶりだね、深山君」
と、チョビ髭を生やした禿げ頭の男が言った。
男の名は国枝 三蔵。警視庁捜査一課の警部である。
そして、その隣にいる美しい女性が、部下の亀田 香だ。
「国枝警部、凶器です」
と、睦は袋に入った血塗られた包丁を渡した。
「うむ。
所で、その子は?」
と、睦美を示す国枝。
「ああ、彼女は・・・」
と、睦は発見当時の事を話した。
「成る程。すると彼女が遺体の横にこの血液が付着した包丁を持って座っていたと言う事だな?」
「わっ、私やってません!」
睦美は立ち上がってそう言った。
「うーん・・・でもねぇ、現場でコレを持っていたのは君だ。疑わない訳には行かん。のう、深山君?」
しかし、睦は亀田と話していて聞いていなかった。
「亀田さん、被害者の交友関係洗ってくれます?
あ、これ被害者の名前」
と、遺留品の携帯電話のプロフィールを開いて見せた。
宮須美 綾香。被害者の名だ。
「解ったわ。調べて来る」
亀田は去って行った。
「ちょっと深山君、何で勝手に仕切ってるんだ?」
「あ、警部、どうかしました?」
「どうかしましたか?じゃないよ!何で勝手に現場を仕切ってるんだよっ!?」
と、その時、睦の携帯が鳴った。
睦は携帯を出し、通話ボタンを押して耳に当てた。
「こらぁっ、深山!今何時だと思ってるっ!?もう授業始まってるぞ!」
と、でかい声が聞こえた。
睦は吃驚して耳から離した。
「す、スミマセン前原先生。ちょっと殺人事件がありまして、その、何て言うか・・・」
「そんなのどうでも良い!お前は出席率低いんだからちゃんと登校しろ!」
「わっ、分かりました!登校します!」
と、睦は電源ボタンを押した。
「それじゃあ警部、後は宜しくお願いします」
睦はそう言って去って行った。
直後、睦美の携帯が鳴る。
「あの、刑事さん?出ても宜しいでしょうか?」
「どうぞ?」
ピッ!──睦美は携帯を出し、通話ボタンを押して耳に当てた。
「深山さん、またですか?毎度毎度いい加減にして下さい」
「小山先生、ご免なさい。私、殺人事件の容疑が掛かってしまったんです。それで・・・」
「嘘仰い!先生はね、嘘吐きが嫌いなの。兎に角早く来なさい」
「で、でも本当に」
「良いから来なさい!」
「は、はい」
ブツッ!──と、電話が切られる。
睦美は電源ボタンを押して携帯をしまった。
「刑事さん、私そろそろ学校に行かないと」
睦美はそう言って駆け出して行った。
「ちょっ、ちょっと君!?」
しかし、その言葉はもう届かない。
都立M高等学校2階の教室、2−C。
キーンコーンカーンコーン──午後の授業が終わり、睦は放課後を向かえた。
「深山、帰るつもりか?」
帰り支度をしていた睦に、眼鏡を掛けた20代半ばの男がそう聞いた。
彼の名は前原 勇治。睦の担任である。
睦はその前原に、帰ると言ったが、
「その前に生徒指導室に来い」
「え?」
「え?じゃない。ちゃんと来いよ?」
前原はそう言い残し、教室を出て行った。
睦は、鞄を持って1階の生徒指導室に向かった。
その頃、同高校の一階にある1−Aでは、睦美が帰り支度をしていた。
「深山さん、帰る前に生徒指導室に来てくれる?」
そう言ったのは、小山 優香と言う女担任だ。
「えっ、どうしてですか?」
その問いに小山は、
「問答無用!兎に角来なさい!」
と、顔に青筋立てて教室を出て行った。
「はぁ」
睦美は溜め息を吐き、鞄を置いて隣の生徒指導室に行った。
コンコンッ!──睦美は扉を叩き、それを開けて中に入った。
すると、既に先客がいた。
その先客が、睦だと言う事は、最早言うまでも無い。
「ん?」
睦は振り向いた。
(誰?)
睦は眼鏡を掛けたオレンジ色のポニーテール姿の睦美を見てそう思った。
逆に睦美は、
(あ、今朝の人)
と、その時、前原と小山の二人が入って来た。
「深山さん、其処に座って下さい」
と、小山は睦の隣の席を示した。
睦美は言われた通りに其処に座った。
「君達二人が呼ばれた理由は解るよね?」
前原席に着くとそう聞いた。
二人は首を下に落として頷いた。
「君達はさ、何でちゃんと登校しないの?」
今度は小山が聞いた。
「朝起きられなくて」
「それは夜寝るのが遅いからだろ?」
と、前原。
「君は?」
小山は睦に聞いた。
「俺は探偵だから、そっちの仕事のせいかな」
「探偵ってアンタ、そんなの何時だって出来るだろ・・・」
と、呟く前原。
「兎に角、今の君達は授業日数が足りてないの。このままでは二人とも落第よ?」
「それは困る・・・」
と、呟く睦美。
「お前は?」
前原は睦の方を向いた。
「俺は別に」
「そうか。ならお前は留年決定だな」
と、その時、睦の携帯が鳴った。
「失礼」
睦は携帯を出し、通話を押した。
「はい?」
「睦君、亀田だけど今良いかな?」
「良いですよ?」
「あのね、殺された宮須美 綾香さんの交友関係洗って見た所、前原 勇治って人がいたんだけど、この人あなたの学校にいるよね?」
「いますよ。今目の前にいるから代わりましょうか?」
「否、昨日の夜の事聞いてくれれば良いわ。時間は22時〜23時の間よ。何か解ったら連絡して?」
亀田はそう言うと、電話を切った。
睦は、電話をしまいながら訊ねる。
「前原先生、昨日の夜10時〜11時頃どちらにいました?」
「何だよ急に?今そんな話ししてないだろ」
「宮須美 綾香さん。先生の知り合いですね?」
「おっ、お前何で彼女の名前知ってんだっ!?」
「それは兎も角、昨日の夜中、何者かに綾香さんが殺害されました。その頃、先生はどちらにおられましたか?」
「えっ、綾香が殺されたっ!?それは本当かっ!?」
「本当です」
「そんな・・・・・・綾香が、殺された?」
「それで、先生はどちらに?」
「そりゃ勿論、宿直室にいたさ」
「部屋を抜け出した事は?」
「そう言えば一回、彼女から電話貰って、学校抜けたな。それで、近くの公園で待ち合わせしてたんだが、結局現れなかった」
「それでその後はどうしました?」
「戻ったよ、此処に」
「それを証明する人は?」
「証明って程じゃないけど、帰る途中に何か光る物を持った女の子が通り掛かったよ」
「それ具体的に!」
前原は、その時に出会った女の子の事を詳しく話した。
その話しは、睦美の特徴と酷似していた。
「あっ!」
と、何かを思い出した睦美。
「私、夜中見ました。男の人が女の人を刺した所」
「見たって、君は一体?」
その問いに、睦美は眼鏡を外し、ポニーテールを解いた。
「先輩、私です」
「ん?
・・・・・・ああっ、君は今朝の!どうして此処にっ!?」
「それは私がこの学校の一年生だからです」
「否、そうじゃなくて、何で警察に行かなかったのかな、と・・・。
それより男が女を刺す所を本当に見たの?」
「ハッキリ見たわ。丁度こんな感じの人です」
と、前原の眼鏡を外す睦美。
「私、こんな感じの人に襲われたんです。多分、口封じの為だとは思いますけど・・・。それで気が付いたら、今朝あった状況でした」
その言葉に、前原の体がピクッと反応した。
「お、俺刺して無いよ!」
そう言いつつ、冷や汗を垂らす前原。
睦はニッコリ笑顔で、
「何で先生が否定するのですか?」
「だっ、だってこの娘が俺に似た人を見たって言うから」
「じゃあそのボタンが外れた袖は?」
と、前原の左袖を示す睦。
「そのボタン、これじゃないですか?」
睦はそう言って、前原の袖に付いているボタンと同様の物を出して置いた。
「これは、今朝現場で見付けました。これ、先生のじゃないですか?」
すると前原は逆上。いきなり立ち上がって睦の首を絞めた。
「あの女が悪いんだ!俺を振って他の男と付き合い出しやがって!」
「み、認゛めるのでずね?」
「ああ、だがその前に真相を知っているお前を殺してやる!」
「まっ、前原先生!」
と、小山は前原を止めるが、
「五月蝿い!」
前原はそう言って小山を蹴飛ばした。
「ぐ、ぐるじい・・・」
「前原先生、先輩を放して下さい!」
睦美はそう言って、握り拳を作った。
ブンッ!──睦美は前原を殴り飛ばした。
前原は睦を手放し、吹っ飛んで壁にめり込んだ。
睦は呆気に取られ、
「あ、ありがとう。助かった、よ・・・」
(何なんだよこの娘は・・・)
「先輩、警察に連絡しなくて良いんですか?」
「あ、そうだった」
睦は携帯を取り出し、110番を通報した。
その後、サイレンと共に警察が駆け付け、前原は逮捕された。
国枝は睦に、
「お手柄だな、深山君」
「否、今回は向こうが勝手に吐いたんですよ」
「ま、殺人犯を逮捕出来た事には代わりない。これからもその調子で頑張りたまえ」
国枝はそう言って、その場を去って行った。
え、シリーズ化の予定?
そんなの無いです。