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愛したいのに・・・  作者: 安 和
4/7

主任

 バイトは、タオル専門クリーニング工場。

色々な店、特に風俗店から深夜にタオルを回収して洗濯、昨日内に仕上げたタオルは朝に配達する。

 僕の仕事は毎朝届くタオルの束(1メートル位の高さで俵型の袋)を工場の一番奥にある洗濯機まで持っていく。

そこで俵型の袋から使用済みのタオルを大きな釜上の中に放り込む。

その時に気をつけなければいけないのが、たまに混じるティッシュの端切れとかコンドームを取り除くこと。これが辛い。

 最初の頃は、袋を開けたときの臭い(におい)が駄目で効率よく作業が出来なかったが、

 『何事も慣れ』

とはよく言ったもので 最近では大抵の臭いやゴミでは怯むことなく時間内にこなしている。

 袋は結構な重さだが、ある程度までコンテナトラックがバックで工場内に入ってくるので

人間が運ぶ距離はたいしたこと無いのが幸いだ。

さすがにデブでも力持ちではないから袋を抱え、何回も持ち運んでいると腰を痛めてしまう。

 洗われたタオルは脱水までされると自動的に乾燥機に移され、その後乾燥されたタオルは、ベルトコンベアに運ばれ、流れ作業のように人間の手で畳まれる。

あまり柔軟剤を使わない為 僕の好きなフワフワタオルじゃないから手触りが心地悪い。

 長方形のタオルが機械により1枚、1枚流れてくると最初の人が二つに折る。二人目も二つに。

長方形が正方形に、そして小さい長方形になって最後は30枚単位で束ねる。

 僕は洗濯機に全てのタオルを入れ終わると、急いで束ねる作業にかかる。

何人かのパートのオバサンと主任がベルトコンベアに一列に並び 黙々と作業をしている最終地点に僕と里中君が待機する。

 主任は見た目こそパートのオバサンと変わらない年齢だけど、小柄な女性でシャキシャキしている。

強めの話し方とハッキリした言動は「さすが仕事人。」と誰かが言っていた。

だから、僕はたまに「この人の私生活はどんなだろ?」と想像するが、全く謎。

 誰かと遊びに行ったとか、あの映画を観たとか、一切 自分のことは言わない。

結婚しているかも謎だ。

一つ知っていることは、お昼御飯には手作り弁当持参ということ。

前に一度、弁当の中身をチラ見したことがあったが シンプルな中身。昨日の夕飯の残り物を入れてきているのか煮物が大半をしめていた。

服装もシンプル。地味ではないけど無地の生地だから暗いイメージだ。

髪も一本にくくっている。黒髪ながらロングのストレート。見たからに硬そうな髪質。

自分にかけるお金ぐらい貯めていそうなのに質素な感じがする。

 毎日、全体の様子を見ながら作業をし、注意すべき人物には本人のところまで行き指南している。

そのほとんどが里中君だけど、主任は諦めずに里中君に注意を促している。

「かっこいい。」と僕は思う。

ただ優しい言葉などかけられたことが無いから 今朝の出来事には少しばかりの驚きと嬉しさが残った。僕の今までの印象を払拭できるぐらいの気遣いだ。


 主任の意外な面を見た僕は、少しばかり興味が湧いてきたけれど 自分から話しかける事なんて出来るわけもなく、遠くから見ているしかない。・・・が、今日はいつもと勝手が違う。

 思い切って朝の「お礼をいわなきゃ」と作業の終了と共に主任に近寄った。

 「今朝は、有難う御座いました。」

ちょっと小さかったかな?と思いながらお辞儀したら

「いいよ。あんたも気をつけなさい。」と一言。

・・・さすがだ。ビシッと僕の胸に響いた。

 小さくもごもごと呟く僕の言葉は、周りには不愉快らしいのに主任だけは聞いてくれた。


 『僕の声を聞いてくれた・・・』

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