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秘密の退魔師  作者: 夕顔
第3章 旧友の魔法使い
6/15

第六話 異世界

 お待たせしました。

 前回、大幅に遅れてしまったので最速でお届けします。

 それでは、第六話 異世界、どうぞ!

 


 そこには何もなかった。  

 あるのは、はるか先の地平線まで続く荒涼とした大地だけ。

 そんな中で2人の人間が対峙していた。背が高い青年と背の小さい、子ども。

 長身の片一方は、表面に幾何学模様の様なものが織り込まれている漆黒のコートを羽織り、その手には杖が握られている。頭にかぶっているフードが邪魔で顔は見えない。だが、その風貌は異国の魔術師と呼ぶにふさわしい。

 もう一方はジーパンにTシャツ。まさしく現代っ子といった服装で、この世界にはどうやっても馴染まないだろう。

 だが、その手には一本の刀。この空の様な蒼穹を湛えるその刀は、どこまでも澄み切っていて、同時にどこまでも血に塗れている。子供には恐ろしく不釣り合いだ。

 対峙した2人―――紫音と幸は、紫音が投げたコインが落ちた瞬間、動いた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 あの後、2人は誰にも会うことも無く校舎を後にした。

「師匠。この後何をするんですか?」

 周囲に誰もいないのを確認して、幸が紫音に尋ねた。

「そうだな、まずは帰る前にスーパーによって買い物しなくちゃなんねえな。そのあとは昼飯食って、夕方には早苗さんとの約束があるから、それまでは自由だが……。あ、そうだ。昨日は剣技しか見てないからな、今日は魔術を見ることにしようか」

 そう、昨日の戦いでは、さすがに魔術まで使ったガチの戦いはできなかった。結界が張ってあったとはいえ、マンションの屋上なのだ。それにその結界も紫音が維持していたため不可能だったのである。

 そのため自身の身体強化の魔術しか使わずに、純粋な肉弾戦の実力を見たのだ。

「分かりました。でも、そんなことができる場所なんてあるんですか?」

 幸が聞く。

「あるんだなこれが。まあ、行ってからのお楽しみだ」

 そう言うと紫音は鞄から携帯を取り出し、何処かへかけた。

「もしもし、紫音だ。久しぶりだな。実は頼みがあるんだが…………そうだ、頼めるか? 弟子の実力を見なくちゃならないんでね。……ああ、昨日からなんだよ。……おう、それは勿論だぜ。たっぷり吸わせてやるよ。……そうだな……大体、2時半頃に来れるか? ……構わねえよ。じゃあ、後でな」

 紫音は電話を切り、鞄の中に仕舞う。そして、後ろを歩いている幸に向かって言った。

「さて、準備も済んだし、買い物して帰ろう」

 


 買い物をして家に帰ると、もう1時40分だった。

「師匠。お腹空きましたね」

「ああ。後20分ぐらいしたらできるから、それまでの辛抱だ」

 紫音は食材を必要な分だけ残し冷蔵庫に仕舞うと、早速調理を開始した。

 ―――20分後、2人の前にはおいしそうな焼きそばが置かれていた。

「「いただきます」」

 2人の声が重なる。

「お、おいしいです!」

 一口食べた幸が感嘆の声を漏らした。

「当たり前だ。俺を誰だと思っている」

 2人は黙々と食べ続け、20分ほどで完食してしまった。

 幸はやや、物足りなさそうにしているが、この後は戦闘が控えているのでほどほどにしておくべきだろう。

 食器を洗いながら、紫音は幸に向かって言う。

「準備しとけよ。あと30分もしたら迎えが来るからな」

「迎えですか?」

「ああ。あいつがいないとあそこまで行けないからな」

「あそこってなんですか? さっきから聞いてもはぐらかしてばっかりだし……」

「着いてからのお楽しみだよ」

 食器を洗い終えると、紫音は自分の部屋で準備を始めた。

 ―――30分後、幾何学模様の真っ黒なコートに身を包んだ紫音が現れた。しかもその手には見たことも無い奇妙な杖が握られている。

 素材は木の様だが、表面にはコートと同じような幾何学模様が刻まれていて、一番上の飾りが奇妙だった。 梟だろうか、木彫りというようなものではなく、全体がアメジストか何かの翡翠色の宝石でできているようだ。右目にルビー、左目にサファイアが埋め込まれており、左の羽を広げた恰好をしている。

「師匠、なんですかそれ?」

 幸が杖を指さし聞く。

「これはな、『智の守護杖(ウィズダムハーツ)』つーもんだ。俺が作ったんだぜ」

 幸が何か言おうとしたが「ピンポーン」という音が響き、遮られてしまった。

「お、丁度来たみたいだな」

 そう言うと紫音は玄関まで行き、ドアを開ける。入ってきたのは、ちっちゃい女の子だった。幼女と言ってもいいかもしれない。金髪碧眼で、年齢は6、7歳ぐらいに見える。傷一つない柔肌は雪のように白い。女性からは羨望の眼差しを集めそうだ。

「は……?」

 思わず幸の口から間抜けな声が出た。

 いつから師匠は犯罪者になったのだろう……。なんて呆けたことを幸は考えていた。

 どうやら、頭がフリーズしているようだ。開いた口が塞がらない幸を尻目に紫音は幼女を案内する。

 数十秒後幸は我に返り、紫音の後を追った。

「ちょっ、師匠! この子は誰ですか!?」

「うるさいのお。その口を閉じろ。妾の名はアリカ。おぬしが紫音の弟子か?」

 幼女が発した容姿からはかけ離れた言葉使いにあっけにとられる幸。

 代わりに紫音がアリカと名乗る幼女に返事をした。

「ああ。九湯川幸だ。これでも見込みはあるんだぜ」

「ふん……。まあ良い。それで、今回はどこに飛べばよいのじゃ?」

「そうだな……。なるべく遮蔽物無いようなとこにしてくれ」

 紫音のリクエストにアリカは了承したようだ。

 彼女は懐からシートの様なものを取り出し、敷いた。縦、横が2メートルの正方形のシートにびっしりと魔法陣らしきものが描かれている。あまりにも細かいソレは恐らく、ミリ単位で刻まれているのだろう。2人がその中に入る。

「おい、呆けてないでさっさとこっちこい。お前が来ないと始まらないだろ」

 紫音はそう言って幸をシートの中へ入れる。

「準備はいいかの? では行くぞ!」

 そう言うと彼女は厳かに呪文を唱え始めた。先ほどまでとはまるで別人の様な威圧感プレッシャーを放っている。

「wind wind wind. The reason for irrationality is untied,and it doesn`t recur to the at one`s neighbourhood of the got who knows everything. It is untied from fettered in the world,and know the world that..eternity..becomes it. I am those who transcend it. It does exceeding the omniscience Almighty God and the one. Therefore, it reduces to the one with meaningless fettered and reason. Now I go over! Let`s transcend the world!(風よ、風よ、風よ。不条理の理を解き放ち、すべてを知る神のひざもとへと回帰せん。世界の枷から解き放たれ、悠久なる世界を知れ。我は超越者。全知全能の神を超えし者なり。故に枷も、理も無意味なものへと成り下がる。さあ、我は渡ろう! 世界を超越しよう!)」

「すごい……!」

 幸は思わず呟く。呪文自体は理解できなかったものの、高度に洗練された呪文は魔力が込められていて、もうすでに周りの空間に影響を与えていることは幸にも分かった。

「---『The world path』(―――『世界行路』)」

 アリカが始動語キーワードを唱え終えると同時に、膨大な、軽く空間そのものを歪めてしまうぐらいの魔力が魔法陣へと注がれる。魔力を注がれた魔法陣は眩いほどの光を放ち始める。

 そして、今度こそ空間が「ぐにゃり」と歪んだ。唯一正常なのは魔法陣の中だけだ。

「うわっ」

「この中から出るなよ。世界の狭間に落ちたら、死ぬぞ」

 紫音が幸に忠告する。

 その間にも歪みはどんどん大きくなっていく。最初は辛うじて周りの風景は認識できたが、今はもうぐちゃぐちゃに色を混ぜた絵の具を塗りたくったような景色しか見えない。長い間見ていると酔って気持ち悪くなりそうだ。

 歪みが最大に達した時、突然パアッ明るくなったかと思うと、次の瞬間にはまるでサバンナの様な荒涼とした大地が広がっていた。サバンナと違うのは、草も木も何もないところだろう。

「えっ……。な、なんですかこれ!?」

 仰天する幸。数分前は部屋だった風景は跡形もない。

「ここは異世界じゃ。紫音から何も聞いてないのか?」

「ああ、教えてねえからな。着いてからのお楽しみってやつだ」

「悪趣味じゃの。全く……」

「い、異世界……?」

「そうじゃ。そなたらは妾の魔法(・・)により世界を渡ったのじゃ。貴重な体験じゃぞ」

「世界を、渡った……」

 幸が茫然と呟く。

「アリカは世界で3人しかいない魔法使い(・・・・)だよ」

 魔法。それは魔術の原型。その力は魔術よりもはるかに強力だ。なにせ魔術は“魔”の“術”であるのに対し、魔法は“魔”の“法”なのだから。魔術は魔法の劣化版。劣化版であるが故に、広く普及した魔術とは違い、魔法は難解であるが故にごく一部ものにしか継承されなかった。

 魔法使いとは、魔の律法に則り現象を引き起こす者たちのこと。魔術師とは比べ物にならない能力を持ち、神の域にまで達した者もいるという。

「さて、幸、お前の魔術を見せてもらおうか」

 紫音がいまだ茫然とする幸に呼び掛ける。

「は、はい!」

 その声で我に返った幸は勢いよく返事をする。

「ふむ。妾は遠くで観戦させてもらうとしようかの」

 そう言うとアリカは何処かへ飛んで行ってしまった。飛行魔術でも使っているらしい。

 紫音と幸はお互いに十メートルほど離れる。

「いいか、俺がコインを投げるからそれが地面に落ちたら試合開始だ。ただし、それまでは魔術の詠唱をしないこと。いいな?」

「はい」

 幸が刀を――『五月雨』を抜く。対して紫音はローブのフードをかぶり、杖を構えたまま。2人の間に張り詰めた空気が漂う。お互い微動だにしなかった。風が吹く。

「ピィィン」とコインをはじく音。紫音が投げたコインが地面に衝突する。

「チャリン」という音が響き渡った。

 魔術師の戦いが始まった。

「さて、幸とやらの実力はどの程度かの……」

 遠くで魔法使いが呟いたが、2人には聞こえなかった。

 いかがでしたでしょうか。

 ロリで最強はもはや定番ですね。作者もそれに乗っかってみました。

 英語の詠唱を書くのに2時間ぐらいかかりましたが……。

 次回は魔術がバンバン出てきます(多分……)、お楽しみに!

 誤字、脱字、感想お待ちしております。

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