第五話 転校生
えー、遅くなり申し訳ございませんでした。
言い訳をさせてもらいますと、旅行に行ったり、その準備で忙しかったり、帰ってきた後も思うように時間が取れなかったり、といったことがあったので大分遅れてしまいました。
本当にスイマセン。
今度からはこんなことが無いようにしなければ。(とか言っても多分同じようなことが起こる可能性が高いです。生温かく見守ってください)
では、第五話 転校生をどうぞ!
天音家の朝は早い。
基本的に独り暮らしなので、学校がある日は弁当を作ることになる。
学校までは電車で20分、そこから徒歩で10分。学校の門限は8時30分なので、必然的に8時前には出る必要がある。
そこから弁当を作る時間と朝食をとる時間を考えると、最低でも7時前には起きる必要がある。
6時45分。紫音はジリリリリと鳴る目覚ましの音で目を覚ます。
「ふあああ……」
昨日のうちに、魔術で疲れをとっていたので身体はすこぶる良好だ。それに、紫音は朝は低血圧ではないため、寝起きは良い。
紫音はベッドから出ると、朝食を作るためキッチンに向かった。
「うわあ……しまった……。食材がほとんどねえ……。これだと朝食分しかねえな……」
冷蔵庫を開けて悩む紫音の耳に、ジリリリリという音が聞こえてきた。
「あれ……止めたはず……あ、そうか幸がいたな……。となると、朝食すら足りねえかもしれねえな……」
再び悩む紫音に、いつの間にか起きてきた幸が声をかける。
「師匠おはようございます!」
幸も寝起きがいいほうなのか、清々しい声であいさつしてきた。
「ああ、おはよう。……悪いが今日は朝食はなしだ。食材がねえ。ついでに言うと弁当も……って言うかお前学校はどうするんだ?」
紫音のあまりにも今更な問いに幸は笑って答えた―――
「僕も師匠と同じ、霧原高校に行きますよ。同じ学年になると思います」
爆弾発言とともに。
「は……? いやいやいやいやいや。二つほど突っ込むところがあるんだが……。お前いま何歳だ?」
頭がフリーズする紫音。
「12歳ですけど……。大丈夫ですよ、おじいちゃんに勉強を仕込まれましたから。十分着いていけます」
「12歳ってことは、飛び級か?」
「はい」
平然と答える幸に紫音はため息をついた。紫音自身、学年でいつも10番以内の成績をとっているが、ここまでではない。
幸が学校に来たら大騒ぎになるだろう。その光景を想像してげんなりした。
「分かった。お前は転校生の扱いのはずだから、学校に着いたら職員室に行けよ。……って言うかこの時期に転校生ってどうよ」
「分かりました師匠。それに関しては大丈夫ですよ。なんでも両親が死んで、急きょ転校してきたことになってるみたいですから」
「……まあ、突っ込まないでおこう。それと師匠って言うのは学校ではやめろ。じゃないとややこしい事になる」
なんとか師匠と呼ばれることは避けたい。同棲しているのはいずればれるから仕方がないにしても(いや、仕方なくないのだが)、変な関係と勘繰られたらたまったもんじゃない。
何せあのゴシップ魔のことだ、どんなことを噂にされるか分かったもんじゃない。
「えー、嫌です。師匠は師匠ですから」
「頼む。じゃないと同級生から何を言われるか……」
嫌がる幸を何とか説得する紫音。
「嫌です。言わせておけばいいじゃないですか。別に困ることも無いんですし」
いや、困るんだよ! と心の中で叫びつつ、紫音は粘る。そして、とうとう奥の手を使うことにした。
「いいか幸。これは師匠命令だ。逆らうことは許されないぞ」
あまりにも大人げない事をする紫音に幸からの軽蔑の目線が刺さる。
だが、負けてはならない。負ければ俺の平和な学園生活が亡くなるのだ!
「分かりました。じゃあ、何て呼べばいいんですか?」
紫音は視線に耐えきった。
「紫音って呼んだら怪しまれる。だから天音さんって呼べ」
「分かりました。ところでもう7時30分ですよ?」
話し込んで、時間が過ぎるのに気がつかなかったようだ。
「あー。弁当ないから、今日は食堂か売店で食うぞ。悪いな」
「師匠、今日は短縮授業では?」
「あ……そうだっけか。忘れてたな。まあ、ちょうどいいか」
そう、今日は7月9日。水曜日。期末も終わり、夏休みまですべて短縮授業なのだ。紫音はそのことを失念していた。
2人とも顔を洗い、身支度を整える。
家を出るときには7時45分になっていた。
「行ってきまーす」
紫音はドアを閉める。
エレベーターに乗り、エントランスを抜ける。2人はマンションから出て行った。
さて、ただ今の時刻は7時50分。
紫音たちは今電車の車内に居た。
「なんでこんなにすいてるんですか?」
不思議そうに幸が紫音に尋ねる。本来ならば、通勤ラッシュという地獄にもまれていてもおかしくないのだ。
「ああ。この車両は学生車両って言ってな。学生しか乗れないんだよ」
「へえ、面白いですね。珍しいんじゃないですか?」
「全国でも実施しているのはこのあたりだけらしいぞ」
と、電車が駅に停まり、この車両にも何人かの学生が乗ってきた。
紫音はその中に見知った顔を見つけ声をかける。
「よお、勇樹、優未。おはよう」
紫音が声をかけたのは、勇樹と優未だった。
向こうも気付き声を掛けてくる。
「おう、おはよう」
「おはようございます、天音先輩。あれ?この子、天音先輩の知り合いですか?」
勇樹が幸に気付き紫音に問いかける。
「いや、俺と優未の同級生だとよ。名前は九湯川幸。今日、転校してくるらしい。さっき偶然会ったんだ。なあ、幸?」
「ハイ。初めまして、九湯川幸と言います。よろしくお願いします」
「え、ちょっと待てよ。同級生って、どう見ても小学生ぐらいだろう。18歳には見えねえぜ」
優未が不思議そうに言う。
「ああ、飛び級だとよ。12歳だそうだ」
「そ、そうなんですか……。僕より年下なのに……」
落ち込む勇樹に紫音が言う。
「まあ、割り切ることだな。天才ってのはいるもんだ」
「うう、分かりました。でも、何て呼べばいいんですか? 幸君? 幸? 幸さん?」
「幸と呼び捨てで構いません。皆さんより年下ですし」
礼儀正しい幸に感心したように優未がつぶやく。
「このぐらいの年の子は、やんちゃなのに……。従弟と大違いだな」
「従弟?」
聞き返す紫音に勇樹が答えた。
「えーと、僕らの従弟で俊秋君って幸君と同じ年の子がいるんですけど、やんちゃで、やんちゃで……。会うたびに大変なんですよ」
そう言ってため息を吐く勇樹。よほど迷惑を被っているようだ。
「そう言えば幸。お前、オカルト研究会に入らねえか?」
紫音が幸に言う。
「オカルト研究会ですか? 名前から大体想像付きますけど……。UFOとかには興味がないですね」
「いや、オカルトって言っても、殆ど心霊研究会みたいなもんだから」
優未が慌てて付け加える。
そう、我らがオカルト研究会はここ数年、心霊研究しかやっていないのだ。そのうち、心霊研究会と名を変えるかもしれない。
「心霊研究ですか……。うーん……」
渋る幸に紫音はそっと耳打ちをした。
「実はな、部員全員が見鬼の才を持ってるんだよ。しかも、行くところ全部がいわくつきの場所ばかり……。そろそろ、俺でも手が回らなくなってきたんだ、修行だと思って入ってくれないか?」
「全員ですか……。分かりました。入ります」
「お、入部してくれるか。歓迎するぞ幸。顧問の先生にはあたしから話を通しとくから。放課後に紫音と一緒に部室に来てくれよ」
「部員は何人なんですか?」
「幸を入れると6人だな。それで、こいつが部長だよ」
紫音が優未を指して説明する。
「顧問の先生は?」
幸の質問に今度は勇樹が答える。
「枠山先生。確か、天音先輩の担任でしたよね?」
「ああ。やる気のない社会科の教師だよ」
本名枠山 賀。担当は社会科の歴史。年齢37歳。身長185センチ。体重52キロ。髪の毛はぼさぼさで、ひょろひょろの木の様な印象を受ける。御世辞にもかっこいいとは言えない。ちなみにヘビースモーカーなので運動は大の苦手。恋人、家庭なし。先生方からはあまり人気がないが、生徒からはとても人気がある。が、良識のある人間とは言い難く、むしろ、変人の部類に首まで突っ込んでいる感じだ。このあたりが先生方にあまり人気がない所以だろう。
それからしばらく話していると、目的地―――君島駅に着いた。
「おい、幸、下りるぞ」
紫音が幸に声をかける。
時刻は8時7分。この駅から徒歩で10分ほどの距離にあるので、着くころには丁度いい時間になっているだろう。4人は学校へと歩き出した。
ただ今の時刻、8時35分。
朝のHRの真っ最中である。丁度今から、転校生の紹介に移ろうとしていた。
「おーい、今日は何と転校生が来るぞ」
気だるげな賀の声に教室が一瞬シーンとなる。そして数秒後、ガヤガヤと普段よりも騒がしくなった。
「先生! 転校生は男子ですか? 女子ですか? って言うか女子であってほしいねんけど!」
紫音の左隣に座っている、貴志一が質問した。彼はいわばクラスのお調子者だ。気さくで、誰とでも仲良くなれる。紫音の親友の一人でもある。
「残念ながら転校生は男だ。一、残念だったな」
賀の声に一が撃沈した。一方で女子のほうはさらに盛り上がる。だが、彼女たちは知らないのだ。転校生はわずか12歳のちっちゃい男の子だということを。ショタコンなら別だが、まあ、ときめくこともあるまい、せいぜいマスコット扱いが落ちだろう。
「入ってきな」
賀の声に幸が入って来る。
その瞬間、教室の空気が凍った。さっきの比ではない。まあ、誰だって茫然とするだろう。自分たちよりもはるかに年下の男の子が入ってきたのだから。
「えーと、九湯川幸です。よろしくお願いします」
幸は茫然とするクラスメイトを尻目に、黒板に自分の名前を書いていく。
丁度書き終わったころ、ようやく凍っていた空気が溶けだした。
「せ、先生? この子はなんなんや!? まさか、先生の隠し子じゃ……ブゴッ」
一が茶化すように言った瞬間、賀が投げたチョークに当たり再び撃沈した。衝撃で、チョークの粉が辺りに舞う。
紫音は迷惑そうに自分の下敷きでチョークの粉を飛ばした。
「先生、投げるなら粉が飛び散らないようにしてくれませんか? 迷惑です」
紫音の心配するそぶりもない対応に、一が三度復活した。
「し、紫音!? もうちょっと心配してくれてもええんちゃうか!?」
「いや、お前殺しても死なないだろ。前に、100キロのダンベルが頭に当たった時も、一週間で学校に戻ってきたし」
「違う! あれは運が良かっただけや! 俺かて死ぬか思たわ!」
2人の漫才にしか聞こえないやり取りに、クラス中が笑う。
「はいはい、静かに。そこの漫才コンビ、漫才の練習もいいがもうちょっと静かにしろ」
賀の声に、やっとクラスが静かになった。
「……転校生の九湯川君は12歳で、飛び級だそうだ。はっきり言ってお前らよりも頭いいから、敬うことだな」
「い、いや、九湯川って呼び捨てで呼んでください。敬わなくていいですから」
幸が慌てたように言う。だが、頭がいいの件は否定しないらしい。まあ、行き過ぎた謙遜は嫌みになるから、逆にいいのかもしれないが。
「九湯川の席は天音の右隣だ。知り合いみたいだからいろいろと教えてもらうといい」
幸は紫音の右隣に座った。
「はい、これで朝のHRは終わりだ。言っても無駄だと思うが、質問はほどほどにな」
そう言うと賀は教室から出て行った。
そして、紫音の想像した通りにクラスメイトからの質問攻めが始まった。
「ねえ、誕生日はいつ?」
「血液型は?」
「どの辺に住んでるの?」
「好きな食べ物は?」
「何座なの?」
「どうしてこんな時期に転校してきたの?」
「好きな女優は?」
「え、ええっと……」
幸はあまりの質問攻めにかなり面食らっているようだ。
見かねた紫音が間に割って入る。
「おい、その辺にしとけ。もうすぐ1時間目が始まるぞ」
時計の針は8時38分を指していた。
それに気づくと皆授業の用意を始めた。
キーンコーンカーンコーン
授業開始を告げるチャイムが鳴り響く。
確か1時間目は数学だっけ。宿題出てたよな……。
授業が始まった。
ただ今の時刻12時35分。
放課後。
あれからあの質問攻めを何とか切り抜け、今、部室に向かっていた。
オカルト研究部の部室は2階にある。
部室に着き、ドアをノックして中に入る。
そこには賀と勇未がいた。
「あ、先生こんにちは」
紫音があいさつすると賀が振り向きこう言った。
「九湯川。お前ここに入るのか?」
「は、はい。そうですけど……」
「悪い事は言わないが、やめとけ。こんな変人ばかりのクラブ。ほかにも沢山クラブがあるじゃないか」
「変人筆頭の先生が何を言ってるんですか。別に個人の自由なんだからどこに入ろうと関係ないでしょう」
賀に紫音が反論する。
「俺が変人筆頭? ないない、ありえないね。俺は普通の人だ」
どうやら自覚が無いらしい。
「とにかく、幸は入部しますから」
そんな言い争いをしていると、他のメンバーがやってきた。
「こんにちはーって、だれ?」
蓮の様だ。
「あ、もしかして、噂の転校生君ですか?」
どうやら、1年にも話が広がってるらしかった。
そのあと、勇樹、舞が入って来る。
「よし、これで全員そろったな。さて、この子は噂の転校生九湯川幸君だ。なんと、この部に入部することになった。そこで自己紹介というか顔合わせ的な意味で皆に集まってもらった」
ここまでずっと黙っていた優未がしゃべりだす。
「―――まずは蓮お前から」
優未は蓮を指名する。
「え、僕ですか。ま、まあいいですけど。初めまして文弥蓮です。気軽に蓮って呼んでください」
蓮が自己紹介を終えると、次は舞だ。
「初めまして。霧原舞です。できれば名前ではなく名字で呼んでください」
そっけなく終えると次は賀だ。紫音は勿論、勇樹と優未は電車の中で済ませているので自己紹介は必要なかった。
「初めまして……というか朝に教室で会ってるよな。ここの顧問をやってる枠山賀だ。賀先生でいい」
そして幸が自己紹介をする。
「初めまして。九湯川幸です。飛び級なので皆さんより年下です。だから幸って呼び捨てで呼んでください」
全員が自己紹介を終えると優未が口を開いた。
「昨日行った廃校舎は何もなかったからな。今度は今週の金曜日に歓迎の意味も込めてここに行こうと思っている」
そう言うと優未は地図を取り出した。
優未の指先にはこの高校の近くにある、廃病院を指していた。
「―――ここは去年、屋上から飛び降り自殺をした患者がいた病院だ。幸は知らないかもしれないが、お前らは知ってるだろ?」
覚えている。その患者の名前は確か……軸火千夏だったか。珍しい名字だったので良く覚えている。
「賀先生も来ますよね?」
と蓮。
「ああ。今回は行けそうだな」
前回……というか廃校舎の時は、親戚が死んで葬式に出なくちゃならないとかで同伴はなしだったのだ。普通に考えたらありえないんだけど、このあたりは割とルーズなのだ。責任問題になったらどうするつもりなんだろうか。
まあいい。今回はもうすでに退魔師が浄化したところなので、俺の出る幕はないはずだ。
そんなことを紫音が考えていると、幸が誰にも聞こえないようにそっと聞いてきた。
「この場所は大丈夫なんですか?」
「ああ。今回は運よくもう浄化済みの所だ。出る幕はなさそうだな」
紫音たちが小声で話し合っていると優未が言った。
「詳しい事は後で連絡するから、今日はもう解散だな」
その言葉を聞いた紫音は「お疲れー」と言うとさっさと出て行ってしまった。
幸も「お疲れ様でした」と言い残し、慌てて後を追った。
いかがでしたでしょうか。
賀の名前はある小説のキャラをどうにかアレンジして出せないかと作者が四苦八苦した結果でございます。基本は名前を反転させているだけですが……。
多分、元のキャラが分かる人はほとんどいないだろうな……。
誤字、脱字、感想待ってます!




