第二話 師匠と弟子1
こんな小説を読んでくださる方がいるのかはさておき、お待たせしました。
途中、説明がグダグダと続くと思いますが、作者が力量不足のためこんなに長くなってしまいました。本当はもっと短くて済む話だったんですが……。
読むのめんどいという方は軽くスルーしてくださって結構ですので。
それでは、第二話『師匠と弟子1』どうぞ!
「ただいまー」
誰もいない家に帰宅を知らせる声が響く。別に、一々言う必要はないのだが、13年間で染みついた習慣はなかなか治らない。
玄関で靴を脱ぎ、クーラーのスイッチを入れるとそのままリビングのソファーに倒れこむ。夏はやっぱり、クーラーだろう。これがなくてはやっていけない。
マンションの最上階、6LDKという、一人暮らしにはいささか豪華すぎる家だが、部屋の大半は物置と化している。
家賃も馬鹿みたいに高いのだが、退魔師という職業上収入はかなり高い。命をかけて戦っているのだ、これぐらいの収入がないとやっていけない。また、武器の整備代や紫音のように銃を使う場合は、弾代もばかにならない。
まあ、それを差し引いても、一般のサラリーマンの何倍もの金額が手元に残るのだが。
「ああ~。換金所に行かなきゃならねえのか……。めんどくせえ。明日でいいか……」
換金所とは、退治した妖怪や怨霊などを換金する所だ。倒した数や相手のレベルによって金額が決まる。場所は家から自転車で10分ほどの所。退魔師は、多機能のブレスレットを付けることを義務付けられており、それに何をどれだけ倒したかなどの情報が記録されるため、証拠品などを持ち帰る必要はない。
だが、寝る前に銃の整備もしなければならない。一発しか撃ってないとはいえ、整備を怠ると暴発したりといろいろ不具合が起きるのだ。
そうしているうちに、1時、2時になっていたりしてあまり寝られないことが多い。もちろん、その程度じゃびくともしないとは言え、やっぱり睡眠は欲しい。精神の疲労を取るには、睡眠が一番なのである。
「よしっ。さっさと整備して、換金所行って、寝るか」
そう言うと、着ていた学生服を脱ぎ、私服に着替える。
そして、整備を始めるのだが、これがまた面倒なのだ。紫音が持っているのはリボルバー式拳銃。だが、一般に普及しているものとは構造が少し違う。
通常、リボルバー式では弾の雷管(火薬が詰まった部分。火薬が湿気るのを防ぐために存在する)を撃鉄で直接叩き、弾を発射する。
しかし、この銃は元々魔力を固めて作った弾を発射するために作られているので、銃本体に、所有者の魔力を使い爆発を起こす機能が備わっている。その爆発で、弾を飛ばす仕組みになっているのだ。
ちなみに、反動は銃に彫られた魔術により、かなり抑えられていて、撃っても殆ど感じない。
だが、紫音が使っているのは多少手を加えてはいるが、雷管も普通についている弾だ。そのため、二回爆発を起こしかなり威力が跳ね上がっている。とはいえ、二回もの爆発が銃に起こるのだ、きちんと整備しておかないと暴発どころか、撃ったら銃がバラバラになりましたなんてことになりかねない。一応、かなり頑丈なのだが、用心にするに越したことはないだろう。
紫音は銃を手際よく分解していく。
シリンダーラッチという弾倉を取り外すための部品を親指で押すと、銃身の付け根が折れ、回転式弾倉から、ばねの力を利用して空の薬莢が排出される。空になった回転式弾倉の内部を掃除していく。
次に、銃身を小さいたわしのようなもので、煤を落とし、きれいにしていく。この部分は、きちんときれいにしておかないと、弾詰まりの原因にもなってしまう。
そして、銃把を取り外す。
自動拳銃の場合、ここは弾倉になっているため取り外すことができないが、リボルバー式の場合は回転式弾倉があるため取り外しが可能なのだ。ほかにも、握りやすいように交換することもできる。
外した所から内部を掃除すれば、一通りの整備は終了である。
分解した銃を再び組み立てて元に戻していく。
紫音は、銃を組み立て終えると、ホルスターに戻した。
「さて、銃の整備も終わったし、換金所に行くか」
今は夏なので半そでを着ているのだが、それではホルスターを隠せない。したがって普通は置いていくしかないのだが、このホルスターには隠蔽魔術が彫りこんであり、一般人の目をごまかすことができるのだ。ホルスターを右の腰に下げて準備完了。
「行ってきまーす」
やはりこれも習慣になっており、誰もいない家に出発を知らせる声が響いた。外に出ると、生温かい風が紫音の頬を撫でる。
玄関に鍵がかけて、階段へと向かう。
その間に、肉体強化の魔術を構築し、行使した。対象は足。この魔術は、読んで字のごとく対象者の肉体を強化するものだ。わずかに、自身の魔力が消費されるのを感じた。
そして、一気に階段を飛ぶように駆け下りていく。むしろ、飛び降りていくと言ったほうが近いだろう。この方がエレベーターより速いのだ。人に見られるとまずいが、今は深夜1時過ぎである。誰もいないはずだ。
1分ほどでエントランスに到着する。魔術を解除すると、エントランスの隣にある、自転車置き場から自分の自転車を出して、それに乗り、漕ぎだした。
マンションの前の大通りに沿って、進んでいく。
しばらく進んだ後、右に曲がり、人気のない路地に入る。そのまま4、5分ほど進むと雑居ビルが見えてきた。
もう深夜だが、3階に煌々と明かりが灯っている。
紫音は、自転車をビルの前に停めて、中に入って行った。
3階にある『換金所』と書かれた扉をあけて中に入ると、クーラーの効いたひやりとした空気が紫音を包んだ。
床には絨毯が敷いてあり、高級そうなソファーが置いてある。リビングの様な光景だが、部屋の中央に置かれた重厚な木製のカウンターがすべてをぶち壊していた。
「いらっしゃい。6日ぶりね」
「こんばんは。学校が忙しくてなかなか仕事ができなかったもので」
出迎えたのは大人の色香漂う女性だった。燃えるような赤い髪をしていて、人を引き付けずにはいられないような顔のつくりをしているが、彼女には両足がなく、車椅子に座っていた。
名前は姫川早苗。年齢不詳。元A+ランクの退魔師だったが2年前、両足を失い退魔師を引退した。
A+ランクというのは退魔師に付けられるランクで、A~Fまでの6ランクに+、無表記、-の3段階、つまり、18ランクに、Sランクという最高のランク、そして一般人を表すGランクの、合計20ランクがある。
A+ランクというのは最強とは言わないまでも、準最強ぐらいはある。まあ、簡単にいえば、馬鹿みたいに強いということだ。
ちなみに紫音はと言うと、B+である。
「じゃあ拝見させてもらうわよ」
「どうぞ」
ブレスレットを渡す。早苗はそれを解析機に掛けた。
「えーっと……あった、これね。うわあ、下級の霊が123体って……。よくこんなに浄化できたわね。でもなんで、こんなにいるの? 一ヶ所でこれだけの霊が集まるのはかなり珍しいのに」
「それは、東町の廃校舎での記録ですよ。『恐子さん』とかいう怨霊が発する瘴気に誘われて、かなりの量の霊がうろついていたので、大変でしたよ……。もう、あんなのは二度とごめんです」
紫音は、数時間前のことを思い出して、うんざりした表情で言った。
「『恐子さん』? 何それ?」
「ああ。知りませんでしたか。うちの学校で流行っていた怪談というか噂みたいなものです。あの廃校舎に木皆鏡子という女の子―――うちの生徒じゃないんですが―――が仲のいい同級生6人で肝試しに行ったそうです。ですがそこで鏡子さんはそこで行方不明になったそうです。一緒に回っていた女の子も気付いたらいなくなっていたとか。そこで、残りの五人も手分けして探そうとするのですが、結局見つからず、警察も動き出すのですが、やはり見つからなかったそうです。その後、こんな噂が流れました。仲が良かった、と思われていた5人は実は鏡子さんに恨みを持っていて、事故に見せかけて鏡子さんを殺したのだと。警察も馬鹿じゃありませんから、当然、その線は考えたはずです。根も葉もない噂なのですが、何故か再び廃校舎に向かった5人が、忽然と姿を消してしまったのです。警察が、調べるとそこには『助けて』と床に血で書かれた文字が見つかりました。ですが、肝心の生徒たちの姿はなく、別の教室であきらかに4、5人ぶんの致死量の血が発見されたそうです。DNA鑑定の結果、その5人のものと一致したとか。今度は、うちの生徒が、肝試しにいくと、白いワンピース姿の少女がその教室に居るのを見たそうです。それで真偽を確かめようと我らがオカルト研究会が向かったというわけです」
事の顛末を語り終えた紫音は、ふーっと息を吐いた。
「ふーん。で、実際に居たんでしょ?」
「ええ。まあ、それほど強くはありませんでしたが。それよりも、下級の霊の浄化のほうが大変でしたよ。なぜか、うちの部員全員が見鬼の才があるので、下級の霊でも見えちゃいますし。ばれないようにしなければならないので大変でした……」
そう。そうなのだ。
大体、5パーセントぐらいの確率で発現すると言われている見鬼の才。退魔師には必須のものだが、一般人で見鬼の才があると言うのは非常に珍しい。
そのはずなのに、何故か部員全員が見鬼の才を持っているのだ。一体どれほどの確率か、間違い無く天文学的数字だろう。
まるで、神様が自分だけに意地悪をしている様な――そんなことあるわけが無いのだが――気さえするのである。
「ふふふ。お疲れ様。えーと、報酬は1021万ね。あなたの口座に振り込んでおくわ」
そんな紫音の様子を見て、ふふふとおかしそうに笑う早苗。
「ええ。お願いします。それじゃあまた来ますね。さようなら」
「え、ち、ちょっと待ってよ。もう帰るの?」
早苗が慌てたに言うが、勤めて無視する。疲れているのだ。さっさと家に帰りたい。
「明日、学校なので。それに、ここ数日あまり寝れてないんですよ。だから、久しぶりの睡眠を邪魔しないでください」
「う……。分かったわ。その代わり、明日、ここに遊びに来てくれる?」
紫音の気だるげな口調に、流石に引きとめるのは悪いと感じたのか、あっさりと引き下がった。しかし、しっかりと次の日に約束を取り付けようとしてくる辺りに、転んでも唯では起きない早苗の性格がよく表れている。
「遊びに……ですか」
「そうよ。だって、この地区には退魔師が3人しかいないし、残りの二人も、良平は依頼でしばらくいないし、沙耶は昨日来たとこだから、後一週間は来ないし……。ね、お願い! わたしの話し相手をするだけでいいからさ」
このとーり、と拝むようにお願いしてくる早苗に、まあ、別に断る理由もないか、と紫音は了承することにした。
「かまいませんよ。ただ、さっき言ったように学校があるので、ここに来れるのは6時半頃になると思いますが……」
「いいのよ。昼は、本局から監査の役員が来るから。その人に、話し相手をしてもらうわ」
実にうれしそうに話す早苗。
可哀そうに。それでは監査も何もあったもんじゃないだろう。
紫音はひそかに心の中でその役員に合掌した。なーむー。
「そうですか。では、また明日」
しかし、そんなことはおくびにも出さず、そうですか、と頷くだけ。
「うん。楽しみに待ってるわ」
紫音は別れのあいさつを済ませると、ドアを開けて外に出た。
ガチャリ、とドアを開けると、今度はムッとした湿度の高い空気が、肌に纏わりつく。
ふと、何かの気配。
振り返ると、そこには少年がいた。いや、いたというのはおかしい。なぜなら、その少年は猛スピードで紫音に突っ込んできたのだから。
「うわあああああああ!!」
少年の叫び声がこだまする。
衝突を避けられないと悟った紫音は、慌てず目の前に魔術障壁を作り出した。相手の攻撃を受けとめるためにあるので、かなり頑丈な代物である。
それに猛スピードでぶつかるということはつまり……。
ゴンッ、と痛々しい音が、辺りにに響いた。
「おい。大丈夫か?」
魔術障壁を解いて、足もとでぴくぴく痙攣している、哀れな負傷者を足でつつきながら尋ねる。まあ、自業自得である。そんなスピードで突っ込んでくるほうが悪いのだ。この場合は正当防衛だろう。若干、過剰防衛の様な気がしないでもないが。
その音を聞きつけた早苗が外に出てきた。
「どうしたの? って、気絶してるじゃないのこの子。中に入れるから、手伝って頂戴」
「ええ。言われなくてもそのつもりでしたよ」
紫音は気絶した少年を抱き上げると、部屋の中のソファーに寝かせる。まだ、10、11歳ほどだろう。将来は美形になるだろうと思わせる顔だちをしていて、人目を引く、きれいな亜麻色の髪をしている。
「で、何があったの? 頭にたんこぶができてるけど」
少年の頭には遠目で見ても分かるほど、大きなたんこぶができていた。
「ドアを開けたら、いきなりこの少年が突っ込んできたんです。それで、魔術障壁を作り出して止めたんですが……」
「あなたね……。自分の体で受け止めるとかできたでしょうに」
早苗は呆れたように言った。チクチクと非難するような目線が紫音に突き刺さる。
「いや、痛いの嫌なんで」
「はあ……。もういいわ。あなた、治癒魔術は使えたわよね?」
「これぐらいなら、治せますね。 光よ、彼の者の傷を癒したまえ。『癒しの光』」
紫音が彼の頭に手をかざし、呪文を詠唱すると、手から淡い光が放たれ、瞬く間にたんこぶを治してしまった。
「へえ、光属性の治癒魔術か。珍しいわね」
「ええ。治癒魔術の大半は水属性ですからね。それに、光属性に適性のある魔術師はそんなにいませんから」
光属性、水属性というのは、魔術の属性のひとつで、火、水、風、土の四大元素と光、闇、無の上位元素の7つがある。
四大元素はそれぞれに作用しあっており、火は土に対して優位であり、土は風に対して優位であり、風は水に対して優位であり、水は火に対して優位である。このように、円を描くようになっているのだ。
そして、上位元素は、光は闇に対して優位であり、闇は無に対して優位であり、無は光に対して優位である。また、光、闇、無は四大元素に対して優位である。
また、四大元素同士を組み合わせることにより分素を発生させる。
風と水を組み合わせれば氷。火と風を組み合わせれば炎。風と風を組み合わせれば雷。土と火を組み合わせれば鉄。というふうになる。
「おーい、起きろ」
紫音が少年の頬をペちペち叩くと、
「う、ううん……。あれ、ここどこ?」
少年は目を覚ましたようだ。
「ここは、澪瀬市の換金所だ。おまえ、退魔師だよな? なんでこんなとこに居る?」
紫音は険しい顔で少年を問い詰める。
「ちょっと、この子一般人かもしれないじゃない」
慌てて早苗が遮るが、紫音は一般人じゃないことは確認していた。
「大丈夫です。こいつもブレスレットを持ってますから」
「あ、そうなの」
「名前は?」
厳しい顔で問い詰める紫音だが、
「え、えええ?え、えっと……」
相手の少年はただ混乱するばかりで、埒が明かない。
早苗はため息を一つつくと、紫音と交代することにした。
「ほら、混乱してるじゃない。私に任せて。……えーと、あなたの名前は?」
「九湯川幸です」
「九湯川くん、あなたは退魔師?」
「はい。C-です。えっと、お姉さんは……?」
早苗はお姉さんと呼ばれたことに気を良くしたのか、先ほどよりもやや、やわらかい声音で答えた。
「その年齢でC-はすごいわね。私は姫川早苗。早苗お姉さんでいいわ。こっちの、お兄さんが天音紫音」
「えっと、よ、よろしくお願いします。じ、じつは、これを天音紫音って言う人に渡せっておじいちゃんから……」
幸がおずおずと取り出した封筒を見て、紫音は眉を寄せた。
「俺に? それに、そのおじいちゃんって誰なんだ?」
「あ、哀川潤也ですけど……」
「……あのジジイ……」
紫音は何か恨みでもあるのか、憎々しげにつぶやく。そんな彼に向かって早苗が尋ねた。
「哀川潤也ってあのSクラスの?」
「ええ。そして俺の師匠でもあるんですよ。……しかし、孫がいるなんて聞いてないぞ。あのジジイなら俺に話しててもおかしくないんだが」
紫音は首を傾げる。
「僕はおじいちゃんに拾われたんです。僕の両親は、もう死んじゃってて」
「あ、ごめんなさいね。この子が無神経で」
早苗はすまなさそうにして、紫音の頭をつかんで強引に下げさせた。
「な、何するんですか早苗さん!」
「どうもこうもないでしょ。あなたは、他人のことに無頓着すぎるわよ。謝りなさい」
強引に謝らせる早苗に、幸が恐縮したように首を横に振る。
「い、いや、いいんですよ。どうせ師匠には御話ししなければなりませんでしたから。それにあんまり気にしてませんから」
「いや、すまない……って師匠!?」
紫音がいつも冷静な彼には珍しく、素っ頓狂な声を上げる。
「はい。これから一人前になるまで御世話になります。あ、それとこれがおじいちゃんから預かった手紙です」
紫音は渡されたそれをひったくるように受け取り、目を通した。
いかがでしたでしょうか。
最後の途切れ方がおかしいのは、これ以上書くとかなりの文字数になるため断念した結果です。……要は作者の力量不足というわけです。こんなことにならないよう精進しなくては……。
さて、銃の件についてですが、二回爆発すると言ったこと以外は、調べて書きましたので、大体はあってるかと思います。もし間違っている記述があれば、御手数ですが知らせていただければなと思います。
設定:紫音の銃について
銘:コンビクション(紫音が勝手につけた。特注のため元々銘がなかったため。意味は『断罪』)
タイプ:リボルバー式のシングルアクション
口径:38口径
装填数:7発
射程距離:1キロ(魔術が使われているため、かなり強力)
備考:紫音の愛銃。なんでも、駆け出しの時から使っているらしい。




