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秘密の退魔師  作者: 夕顔
第4章 第一接点<ファーストコンタクト>
12/15

第十二話 死闘2

お待たせしました。

新しく書き始めた小説と、見切り発車的な企画(?)に執筆時間を奪われながらも、なんとか更新まで漕ぎ着けました。

良かった……。

さて、それでは第十二話 死闘2、どうぞ!


「ハアァッ!!」

 吠える二頭の内、沙耶から見て右側、双頭犬――オルトロスに向かって走り出す。

 先手必勝。

 走る勢いをそのままに、跳躍し、勢いを殺さないように蹴りを繰り出す。

 沙耶の足の裏に衝撃が走り、確かに命中したことを感じ取れた。

「何っ!」

 しかし、肝心の相手が居なかった。

 本来なら、今の飛び蹴りで吹っ飛ばされているはず。

 そう思い、前方を見るが何もいない。

 インパクトの瞬間までいたはず。今の感触は、確かに命中した時のものだった。

 着地すると、慌てて辺りを見回す。

 その瞬間、総毛立った。アドレナリンが脳内を駆け巡り、本能が今すぐ跳べと警鐘を鳴らす。

「くっ!」

 全力で左に跳ぶ。ここまでにかかった時間は1秒にも満たないもの。常人の目、いや、並の退魔師の目にも捉えきれないほどの速度だが、それでもギリギリだった。

 数瞬前まで沙耶がいた場所を、黒い何かが抉った。

 石畳が破壊されたことにより、下の砂地がむき出しになり、砂煙がもうもうと辺りを覆う。

 警戒を怠らず、沙耶はその場所を注意深く見る。

 だが、またしても全身の毛が逆立つ感触。生存本能が警鐘を鳴らし、沙耶の身体は、無意識の内にそれに従っていた。

 今度は真上へ跳ぶ。軽く15メートルは跳んだだろうか。

 沙耶の遥か下方を業火が焼きつくす。あれを受ければ、一瞬で消し炭になってしまうだろう。

 その影響か若干砂煙が晴れ、業火を生み出した者の正体が暴かれる。

 そこにいたのは、先ほどまで全くのノーマークだったケルベロスだった。

 3つある頭の内、一番上の頭が炎を吐いたようだ。その頭は、今現在、沙耶の方向を向いて、やや首を反らしている。

「ヤバッ!」

 あれは、ブレスのための予備動作。そう判断した沙耶だが、ここは空中。逃げ場はない――――ように思われた。しかし、常識を打ち破り、沙耶は空を踏みしめてさらに跳躍する。

 月島流歩法参の型・空踏そらぶみ

 足の裏に『庚』(かのえ)の霊力を纏わせ、そのうえで、そこから『丙』(ひのえ)の霊力を放出する。『丙』(ひのえ)の霊力とは、即ち膨張する火。それを一点に集中させ、放出すればどうなるか。急速に酸素と結び付いた火は、自身の膨張する性質も手伝い、一気に巨大な炎へと変化を遂げる。

 要するに、爆発するのだ。

 相克により、『庚』(かのえ)の霊力はやや削られるものの、『庚』(かのえ)の霊力が強すぎるため、身体に影響を及ぼさない。

「破ァッ!」

 足の裏で起こった爆発により、さらに上空へと跳び上がる。

 業火が先走り、先ほどまで沙耶のいた場所を焼きつくす。ケルベロスからその場所まで、20メートル近く離れているはずだが、悠々と届いている。相当射程距離が長いようだ。距離を取ってかわすよりも、方向をずらしてかわした方がいいだろう。

 空踏で一気にケルベロスに接近する。

 沙耶から見て、左側の頭に蹴りを見舞おうとしたが、その頭も、何やら首を反らし、ブレスを放とうとしている。

「ちぃっ!」

 沙耶は慌てて方向を転換。ケルベロスの正面に着地する。

 急激な方向転換と着地で足にダメージが蓄積するが、気にしている余裕など無い。

 左の頭がブレスを吐く。その口から放たれるのは、毒々しい紫色をした霧状のブレス。

 恐らく、見たとおり毒のブレスだろう。

 触れた地面が溶けているので、強力な毒だろうが、当たらなければ意味がない。ブレスを吐いている今がチャンス。決定的な隙を見逃すほど、沙耶は甘くない。

 沙耶は、ケルベロスの左半身に回り込むと左足を支柱に、右足を回転。

「ハアァァッ!!」 

 気合と共に、完成されたフォームから回し蹴りを放った。

 ドゴンッ!! 

 まるで、巨大な岩を、地面に高所から落としたような音。とても肉体と肉体がぶつかって出た音とは思えない。

「グガア……ア!!」

 ケルベロスのの身体が、まるでクレーターのように凹み、数瞬遅れて、吹っ飛びわきに生えている木にぶち当たる。だが、それでも止まることはなく、2本3本と立て続けにへし折って、漸く止まった。

「グロォォォォォ!!!!」

 怒り狂うケルベロス。

 立ち上がり、沙耶に憎しみの視線を投げかける。視線で人を殺せそうだというのはこのことを言うのか。

 だが、その様子は明らかにおかしい。まず、左前脚があらぬ方向へ折れ曲がっており、さらには、姿勢も、若干ながら左に傾いている。恐らく、肋骨の3、4本は逝っているのだろう。よく見れば、口の周りが血に染まっている。内臓も傷ついているようだ。

 もう動けまい。

 沙耶がそう思った矢先、ケルベロスは吠えた。

「クオォォォォン!!」

 今までの唸り声とは明らかに違う、遠吠え。

 その瞬間、ケルベロスを黒い闇が包み込んだ。

 その数秒後、黒い包みが解かれ、ケルベロスが姿を現す。

「う……そ……」

 そこには、全くの無傷のケルベロスの姿。

 いや、この場合は双頭犬(オルトロス)と呼ぶべきか。

 何故なら、3つあった頭の内、右の頭が無くなっていたのだから。

 ややバランスが悪くなっているものの、体の何処にも傷は見られない。

 茫然としている沙耶だが、三度、危機が襲いかかる。

「くっ……!」

 全力でバックステップ。

 頭上に黒い影が落ち、そして、漆黒の獣が落ちてきた。

 その地面に着地するまでの僅かな時間。

 闇夜を切り裂く白銀が、幾度も閃く。

 次の瞬間、ズドドドドドッ!! と周囲の石畳に無数の切れ目が入った。それどころか、参道のわきの木が切り倒されている。

 木の軋む音がして、周りの樹木にもたれかかる。だが、その木も深い切れ目が入っており、まるでドミノ倒し様に次々と倒れていく。

 そして、幾許いくばくか遅れて突風が吹き、その余波で沙耶の頬が薄く切れた。

 しかし、それだけではない。

 防刃の糸を使用していたはずのブラウスやパンツは、至る所を切り裂かれ、いささか扇情的な衣装へと様変わりしている。さらに、引き裂かれた部分には、血が滲み、数か所はやや深い傷となっていた。

 ただ、傷口がきれいなので一部の傷はくっついており、戦闘に支障をきたさないのが唯一の救いか。

 風に鮮血が舞う。

 一瞬にして満身創痍となった沙耶だが、その目に諦めの色はなかった。

 それどころか、闘志に満ちているように見える。

 そして、黒い影は音も無く着地した。

 これほどの威力を叩きだした武器は、双頭犬――オルトロスの長く伸びた爪だった。

 猫の様に出し入れできるのであろうその爪は、まるでつるぎの如く、大業物の刀の如く、鋭利な空気をその身にまとっていた。

 神速で振るわれた爪は、真空の刃を生み出し、すべてを切り裂く。

 他の追随を許さない速さと、岩をもバターのように切断する鋭さを併せ持って初めて実現する、神業。

 瞬間的に、縦横無尽に振るわれたであろうその爪は、至る所に、まさしく爪痕を残していた。

 本来なら、沙耶の身体は千切りにされていてもおかしくない。

 ならなぜ無事なのか。

 答えは単純だ。

 真空の刃とは、風。風とは即ち木行。そして、金剋木から分かるように、木行は金行に弱い。沙耶は、防御性に優れた『辛』(かのと)の霊力で出来た壁を自身の前方に作り出したのだ。

 これにより、破られて攻撃を受けたものの、致命傷を避けることができたのである。


 「――シッ!」

 オルトロスに接近し、その頭目掛けて上段回し蹴りを放つ。

 鋭い蹴りが頭部を襲うが、少し後退されるだけで避けられてしまった。

 しかし、沙耶は、そのまま独楽のように回転しながら、2撃3撃と回し蹴りを繰り出していく。

 少しずつ後退していくオルトロス。

 それを、まるで舞っているかのように追い詰めていく沙耶。

 そして、オルトロスは、痺れを切らしたように唸ると、次の瞬間には沙耶の真後ろに回っていた。

「――――ッ! しまっ…………ガッ――――!」

 回転が付いた沙耶は、容易には止まれない。

 成す術も無く、後ろからの一撃を受けた。

 苦し紛れに、『辛』(かのと)の霊力を背中に集中させる。が、衣類諸共あっさりと引き裂かれた。

 鮮血が吹き出し、沙耶の顔が苦痛に歪む。

「くぅぅ……!」

 沙耶は激痛に苛まれる身体をおして、跳躍。オルトロスから距離を取る。

 しかし、激痛で頭が回らないのか、丁度ケルベロスとオルトロスの真ん中、両者に挟まれるような形になってしまう。

「――まだ、戦える……! この程度の傷でへばってどうする……!」

 沙耶は、回復力を高める働きをする『壬』(みずのえ)の霊力を傷口に集中させる。沙耶は、水の陽である、『壬』(みずのえ)が得意なので、このまま数分じっとしていれば傷は完全に再生するだろう。

 しかし、オルトロスやケルベロスがそのまま黙って見ていてくれるわけがない。

 沙耶は、必要最低限の霊力を傷口に回し、そのほかの霊力を身体能力の向上に回す。

 特に、重点的に足に霊力を纏わせ、強化する。

「グララララァ!!」

「くっ」

 後方からケルベロスの吠え声が聞こえてくる。

 沙耶は、それを耳にした瞬間、弾かれた様に左へ身を投げ出した。傷口が地面にぶつかり、激痛が走るが我慢する。

 直後、沙耶の居た場所を業火が舐めつくした。

 石畳がドロドロに溶け、それをもってしてもあり余る熱は、容赦なく沙耶を襲った。

「ぐっ……!」

 傷に熱風がかかり、思わず顔を顰める。

 数秒後、炎の奔流は漸くその動きを止めた。

 視界の隅で、オルトロスが動くのが見えた。

 もはや黒い残像しか見えないものの、数瞬後には、沙耶をその爪が襲うだろう。

「はっ!」

 沙耶は、慌てず右へ、元の場所へ戻るようにして跳ぶ。

 予想通り、白銀の煌めきがその場所を切り裂き、地面を切断した。沙耶は、内心安堵のため息をつくが、危機はまだ去っていなかった。

 着地した刹那、視界の右端に、業火が迫っているのを認識する。

「しまった……!」

 ほんの一瞬の油断。本来なら、隙にもならないような一瞬を捉えたのは、素晴らしい連係プレーだった。

 凄まじい勢いで、火炎が迫る。

 絶体絶命。避ける体勢を整える時間が足りない。体勢が不安定になる一瞬。それをケルベロスたちは突いたのだ。

 二頭の赤眼が、勝利を確信したように細められる。

 しかし、沙耶は、まるでスローモーションのようにそれを捉えていた。

 周りがとても遅く感じる。今までは、黒い残像しか見えなかったオルトロスも、これならばはっきりと捉える事が出来るだろう。

 これは、“長考”と呼ばれ、死ぬ寸前にあると見ることがある走馬灯と同じ原理である。脳が活性化し、処理能力が段違いに上昇する。それにより、1秒を何十倍に引き延ばすことができるのだ。

 鍛え方によっては、任意で発動することも可能だが、脳を活性化させているため、糖分を補給するなりしなければ、低血糖になり非常に危険である。

 無論、この時点で沙耶が知るはずもなく、のちに聞かされて知ることになる。

 そんなことを知る由も無い沙耶の脳裏を、何故……? という疑問がよぎる。

 しかし、沙耶は、それを務めて無視した。

 これは千載一遇の好機。戸惑ってはいけない。自分にそう言い聞かせる。

 そして、足から空踏と同じ要領で霊力を解放した。ただし、規模を小さくして、であるが。

 爆発的な速度で、飛ぶ。もはやそれは“跳ぶ”ではなく“飛ぶ”の方が正しいだろう。

「しゃぁっ!!」

 知らず知らずのうちに、堅く閉じられた唇の隙間から、押し殺したような呼気が漏れる。

 月島流歩法拾の型・速踏はやぶみ

 空踏と同じ要領で霊力を爆発させ、強力な推進力を得る技である。それにより、直線的な運動だけであるが、かなりの速度を得ることが可能になる。しかし、空踏と違う点は、地上で行うのが速踏であり、空中で行うのが空踏であるという点だ。

 空踏から派生したものが、この速踏である。

 ただし、空中のように障害物が無い状況ではないため、少しでも加減を誤れば自身が怪我を負うという危険な技なのだ。

 そのままの速度で、オルトロスに迫る。チャンスは今しかない。あの神速に一撃を入れるチャンスは、後先を考えても今しかないだろう。

 オルトロスの巨体が眼前に迫る。

 その僅か一瞬の間に、『辛』(かのと)の霊力を有りっ丈、右足に注ぐ。

 恐らく、これでも使い物にならなくなるだろう。出来れば捨て身の攻撃はしたくなかった、と沙耶は限られた思考の中で嘆息した。

 そんな思いとは裏腹に、沙耶は、勢いを殺さず、左足を一歩踏み込み軸足とし、そのまま身体を左に傾け半身にする。

 そして、遠心力に身を任せ半回転。

 強烈な後ろ回し蹴りを、オルトロスの頸椎に叩きこんだ――――――――。




読んでいただきありがとうございます。

いかがでしたでしょうか。

これを読んで、かなり無理したなって思った方。

その通り。

本来なら、ケルベロス一頭だけのはずが、書き直したりしているうちに何時の間にやらオルトロスと兄弟出演。

なんとかなるだろう……と思っていたのですが、まあ二頭同時に動かすのが難しい事難しい事。

心が折れそうになりました。

それでも何とか、折れかけた心に添え木をして、なんとか、なんとか更新です。

注意深く読めば分かりますが、殆ど二頭同時に動いていない。

ターン制のバトルみたいになってしまいました。

ご勘弁ください。

何時かリベンジを果たしてやる~!

誤字脱字・矛盾・感想・指摘・アドバイス・評価待ってます!

(辛口も大歓迎。私が泣いて喜びます)

次回の更新は未定。

チマチマ書いてますので、10月中には……って当たり前か。

取り敢えず、放置は無い(多分)と思いますので、更新していたらぜひとも覗いてやってください。

それでは。

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