第十話 遭遇
お待たせしました。
なんとか完成したのでよかったです。
それでは、第十話 遭遇 どうぞ!
「待たせたな。準備に手間取っちまって」
エントランスで待つ2人に紫音の声が聞こえた。
あの後、紫音の装備である『コンビクション』を取りに帰るため、3人はマンションの前に来ていた。
紫音は家に取りに帰ってから15分後、ようやく姿を現したのだ。
しっかり服も着替えている。
上は普通のシャツ、下はジーパンという格好だ。シャツには不可視の魔法陣が織り込まれていて、ジーパンは速度強化の魔術が織り込まれている。勿論卍のロゴが入りである。元々は女性物しかなかったのだが、人気が出るにつれてメンズ系も充実しているのだ。
そして腰にはポーチと、一般人には見えないであろうホルスターが吊るされている。
「どこへ行く? 特にルートは決められてないんだろ?」
「清木神社の方は? あの辺りって空き家が多いし。潜伏してるかも」
「確かにそうだな。市内で一番怪しいのはこの地域だろう。それに、ここから歩いてい20分もかからないからな。ここにしよう」
この澪瀬市はいびつな円形をしている。そして市を囲むようにして、11の神社が存在する。その中の1つが清木神社だ。市内で一番北にあり、そこから時計回りに横地神社、薫泉神社、朱灯神社、迫鉄神社、静楽神社、黄塵神社、墨潮神社、赤煉神社、百塚神社があり、その中心に旅狼神社がある。
これだけでも相当奇妙なのだが、横地神社、朱灯神社、静楽神社、墨潮神社、百塚神社、旅狼神社の6つは完全に禁足地となっており、一般人の立ち入りが許可されていない。
この奇妙な神社は一時期話題になり、そこそこの観光客が訪れたそうだ。
3人は早速歩き始めた。
「幸君、旅人伝説って知ってる?」
神社へ向かう道中に、沙耶が幸にこんなことを聞いた。
「旅人伝説……ですか。知らないです。なんですかそれ?」
「この市に伝わる伝説みたいなもんだ。簡単に言えば、化け物がいきなり現れて、村人を襲って、そのことを知った勇者が化け物を倒すって言うストーリーだよ」
紫音が、かなりはしょった、いい加減な説明をする。
「ま、そうなんだけど、詳しい話、聞きたい?」
沙耶が幸に聞いてくる。
しかし、明らかにその目は“聞いてほしいです!”と主張しており、幸の意見はどこへやら。多分、断っても無理やり聞かせるだろう。
そんな、紫音の考えを知ってか知らずか、
「気になります」
と幸。
「昔ね、この辺りは――――」
紫音は2人を置いて先に歩いていった。
その話は、何度も沙耶に聞かされたので知っている。確かこんな話だったか。
――――昔、この辺り一帯は旅村と呼ばれる、大集落だった。旅と名がつく通り、旅人達が泊まる宿場町の様なところだった。
そんなある日、1人の旅人がこの村を訪れた。その男は2泊すると、出ていくといった。そして、最終日、男は礼がしたいと、村人にあるものを手渡した。それは玉だった。宝玉と呼ばれる美しい宝石。渡された玉は漆黒だった。旅人はそれを残して旅立った。
それから10年、20年が過ぎて、その玉は村の祠に大切にしまわれていた。いまだに、くすみ一つあらず、また、傷一つなかった。そして、その漆黒は深みを増していた。それからさらに100年後。いまだに、玉は健在だった。
そして、村の祭りがおこなわれた時、悲劇が起った。突如、玉が割れ、中から巨大な狼が姿を現したのだ。狼は無差別に人を襲った。村人たちは、旅人の助けを得てなんとか山に追い出すことに成功する。だが、そこまでが限界だった。村人たちは、生贄を奉げることでなんとか襲われるのを防いでいた。
そんな時、男2人と女4人の旅人が村の中に運び込まれた。なんでも、山で遭難したらしい。担ぎ込まれた時は瀕死の状態だったが、村人の献身的な看病によって無事完治した。
旅人たちは狼のことを知り、自分たちがなんとかすると言い出した。当然村人は止めたが、旅人の1人がこんなことを言いだした。「あの狼は、この村の負の感情を吸って生まれたもの。私たちは、そのような怪物を退治する退魔師なのです」と。そしてこう続けた。「私たちが、この身に怪物を封じます。そして、私たちを封印すれば、絶対に復活することはありません」。村人は反対した。折角助けたのに、命を粗末にするな、と。しかし、旅人は横に首を振ってこたえた。「これ以外に方法はありません。それに、早くしないとこの方法すら通じなくなります」。
結局、村人は旅人に頼ることにした。そして、明くる日。旅人たちは、狼に挑んでいった。三日三晩、戦いは続いた。そして、ついに狼は消えた。旅人と共に。
戦いの後には、6つの玉が残された。深い海の様な青い玉、煉獄の炎のように赤い玉、菊のように美しい黄色の玉、穢れ一つない白い玉、漆黒よりもさらに深い黒色の玉、そして、無色透明で傷一つない玉。
村人たちは、旅人たちに感謝を捧げるとともに、それらの玉を丁重に祭った。その祭られた神社が、横地、朱灯、静楽、百塚、旅狼神社である。
確か、こんな話だった。
噂によると、確かに、その神社にはそれぞれの色の玉が祭られているのだとか。だが、あくまで噂なので真偽は分からない。
「おーい、沙耶、幸。さっさと行くぞ」
紫音は2人を促して、歩みを進めた。
先ほど、沙耶が清木神社の辺りは空き家が多いと言ったが、正確には間違いだ。空き家ではなく、文化財に指定されているため、無人の屋敷や古い家などが多いのだ。
しかし、いくら文化財であっても、住む者が居なければただの空き家である。
「さて。着いたはいいが、これからどう回る?」
ここは清木神社の目の前。眼前にはうっそうと茂った森の中を貫いて、参道が横たわっている。
「そうだね……。一番空き家が多いのは……このあたりかな」
そう言って沙耶が、手に持った地図を指さす。
そこはここから西へ少し進んだところだった。
ここならそれほど時間を食わないな……。と紫音は思考する。
「分かった。そこへ行こう」
紫音がそこへ行こうかと足を踏み出した瞬間、幸が声をあげた。
「師匠! あれ!」
小声で怒鳴るという器用な真似をした幸は、神社の参道を指さしていた。
よく見ると、何か銀色の物体が見える。否、ものではない。人だ。銀髪の。
「――ッ! まさか、いきなりエンカウントするとは……。つーか、銀髪を隠しとけよ……」
紫音はふうーと息を吐くと、
「――沙耶、人払いの結界張れるか?」
と聞いた。その声には硬さはない。しかし、今までが嘘のように気迫に満ちていた。完全に戦闘態勢だと感じた沙耶は、慌てて懐から1枚の符を取り出す。
「うん。張れるよ。彼の者、彷徨いて、目的を見失わん」
沙耶はそう言うと、手短な木に符を張り付けた。
その瞬間、その木から半径200メートルの範囲に霧が満ちた。十分先が見通せるほど薄い霧だが、範囲内に居た人々は、何処か虚ろな目で去って行く。
この霧は、魔術師や退魔師などの力を持った者たち以外を、一定の範囲から追い出し、近づけないようにするものだ。
そして、肝心の銀髪の男は、まだそこに居た。
「ビンゴだな」
紫音が呟く。
男は慌てたように周囲を見渡し、紫音たちを見つけるとキッと睨みつけた。
「You who?(貴様ら、何者だ?)」
警戒心を露わに男が問う。
「It is Exorcist. You shall not be kirifa・kasede?( 退魔師だ。お前はキリファ・カセデだな?)」
紫音は気取られないように右手をホルスターに持っていく。
右手が届いた。男はまだ気づいていないようだ。
「Indeed,Has the slave of 'Church' come later though it doesn't know where information leaked ……?It is probably good. Because you only have to be silenced.
(なるほど。どこから情報が漏れたかは知らんが、『教会』の狗どもがもう追ってきたか……。まあいい。貴様らを口封じすればいい事だからな。)」
そう言い放つと、キリファは大きな本を取り出した。ハードカバーで大きさは縦30センチ、横40センチはあろうかという巨大な本。一体、今までどこにそんなの隠してたんだというぐらい、巨大である。
そして、何よりもその本は、無意識のうちに目を逸らしてしまうほど強烈な存在感を放っており、魔術師から見れば、とんでもない量の魔力――開放すれば、都市が一つ消し飛ぶクラス――を内包しているのが分かる。
「魔術書か……。それも禁書クラスの……。厄介なもの持ち歩いていやがる」
本来なら、キリファが何かをする前に、先手を打たなければいけないのだが、魔術書を下手に傷つけてしまうと大惨事になりかねない。そのため、動こうにも、動けない。
結果、立ち尽くすしかないのである。
キリファは、紫音達を嘲笑うように緩慢な動作で本を――魔術書を開いた。パラパラと何かを探すようにページを捲っていく。そして、目的の項を見つけたのか、ページを捲る手を止めた。
「The ruled one overeats.(司りしは暴食)」
キリファの声が朗々と響く。
「――It is a desire assumed to be a taboo by seven deadly sins. 'Beelzebub' that fell from seraphim into satan. Manifest the anger of the king of the devildom in compliance with my calling!(七つの大罪にて禁忌とされる欲望なり。熾天使より悪魔に堕ちた『蝿の王』よ。我が呼びかけに応え、魔界の王の怒りを顕現せよ!)」
キリファが何をしようとしているのか分かったのか、紫音がさっと顔色を変えた。沙耶と幸は英語がさっぱりなので、訳が分からないといった様子だ。
「まずい……。あいつは魔界の王を呼び出すつもりらしい……。くそっ! まず過ぎるぞ……! どうすればいい……!」
紫音が呟いている間にも、詠唱は続く。そして、ついに終わりを迎えた。
「――Summoned 'Beelzebub'!(召喚、『蝿の王』!)」
突如としてキリファの前方に大きな――直径10メートルはあろうかという――魔法陣が現れる。
そして、魔法陣が光り輝いたと思えば、いきなり黒く光った。現実にはあり得ない黒い光。
それは、自然の摂理すらも捻じ曲げる、まさに怪物の現れる前兆だった。
辺りは黒い霧に包まれ、妙な音が鳴り始める。
女性の悲鳴のようだが、金属と金属をすり合わせたような音で、聞いていて心地いいものではない。
「ちょ、ちょっと紫音君!? これは一体どういうことなの!?」
慌てて沙耶が紫音に尋ねる。
「あいつは、魔界の王を呼び出そ――――ッ!!」
紫音がいきなり科白を中断した。否、中断させられたのだ。魔法陣から漏れる邪悪な魔力によって。
「う゛っ」
吐き気を催したように、地面にうずくまる紫音。同じように、幸も地面にうずくまっている。
「し、師匠……も、もう駄目……」
それだけ言うと、幸は地面に倒れこんで気絶してしまった。
魔術師と言うのは、魔力を扱う。そのため、魔力を自分の手足と同じように扱えるほど精通していなければならない。これは、魔力を感じる上でも言えることで、効率よく魔力を扱うには、どんな小さな魔力にも反応出来るようにするのがベストだ。魔術師にとって、魔力と言うのは第6感と言えるだろう。
想像してほしい。あなたの目の前には、グロテスクというものを極めたような死体が幾つも転がっている。そんな中で、あなたは吐き気を抑えられるだろうか。
つまり、紫音達が体験したのはそういうことである。
魔力に適性が無い者や慣れている者は、けろっとしていられるが、魔術師にはかなり致命的なダメージを被ることとなる。
「だ、大丈夫だ……。すぐに慣れる……」
紫音は息も絶え絶えにそう言うと、立ち上がった。だが、バランスを崩してしまう。
「すー、はー。すー、はー」
大きく深呼吸すると、今度はしっかりと立ち上がった。
「もう、大丈夫だ。沙耶は何ともないな?」
紫音が沙耶に聞く。その声は先ほどまでとは違い、しっかりしていて震えてもいない。
「うん。あれはな……何なのあれ!?」
沙耶が叫ぶ。
見れば、魔法陣から何かが出て来ようとしているところだった。
妙にメタリックな黒い何か。そこから、3対6枚の翅が出ている。
「もう出てきやがったか……。くそっ! 打つ手がない……!」
沙耶は驚いていた。紫音は普段、冷静沈着で何事にも動じない。それなのにこの取り乱しようはなんだ?紫音らしくない。
「どうしたの!? 紫音君!? あれってそんなヤバいやつなの?」
「ああ。少なくとも神話級の悪魔を召喚しているから、俺たちじゃあ太刀打ちできない」
「神話級!? どうしてそんなのが……」
「恐らく、魔術書の恩恵だろう。召喚術ってのは、基本的に術者の魔力で顕現するから、かなりパワーダウンしているだろうが……」
2人が会話している最中にも、何かはその姿を現していく。
頭が現れ、ついに全身が完全に外に出る。
そこに居たのは、蝿だ。全長は5メートルは下らないだろう。背中にある3対6枚の翅が目に見えないほどの速さで動いて、キィーンと言う耳障りな音を立てている。先ほどの音はこれだったようだ。
「Well,I do not have the so much time. I will briefly end it. However, relieve. It doesn't kill. The memory of meeting me is only lost.(さて。私にはあまり時間が無い。手短に終わらせてもらうぞ。だが、安心しろ。殺しはしない。私と会った記憶を失くしてもらうだけだ。)」
キリファはそう言うと、くるりと紫音達に背を向けた。
「――Beelzebub. Untie the anger. However, do not kill. Eat only the memory.(『蝿の王』よ。その怒りを解き放て。ただし殺すな。記憶だけを喰らえ。)」
キリファはそのまま去って行く。
「お、おい! 待て!」
紫音が慌てて叫ぶ。
「Looking away is quite room at the time of fighting against Beelzebub.(『蝿の王』と戦っている最中によそ見とは、なかなか余裕だな)」
キリファがそう言った途端、蝿が動き出した。
その図体に似合わない、機敏な動きで紫音達に向かってくる。
蝿の口からギギギィと言う音が漏れる。
夕闇を舞台に、戦いの火蓋が切って落とされた。
いかがだったでしょうか。
次回はいよいよ戦闘シーン。
上手く書けるかな……。
まあ、ガンバリマス。
次回の更新は、未定です。
文化祭の準備&本番があるので、かなり更新が遅れる可能性があります。
ご了承ください。
誤字、脱字、矛盾、感想、評価、批判待ってます!