04 ◎運命の最終レース
【05】 『六さん』か『光太郎』か?
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
【出走表】 戸田 4日目 一般戦 第12レース 一般競争
1号艇 高柳悌三 39歳 A1級 勝率7.17 モーター△ 23112
2号艇 中坪守孝 25歳 B1級 勝率5.25 モーター- 55666
3号艇 梶浦幸洋 47歳 A2級 勝率6.12 モーター○ 41232
4号艇 佐藤俊一 55歳 A1級 勝率6.65 モーター× 23334
5号艇 多川芳昭 33歳 B1級 勝率5.70 モーター- 14425
6号艇 石森達之 51歳 B2級 勝率2.93 モーター◎ 46554
※『モーター』のうしろの印はモーターの予想印。その後の数字は前走成績
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
後ろで事務を執っていた吉川美南主事と烏丸千歳係長が興味津々に、
美南「いよいよ最終レースね」
千歳「勝つには、もう、一発勝負で大穴を狙うしかないわね」
六郎「最終レースで俺は穴を狙った。高配当の『4ー6』をメインに、押さえで『4ー1』『4ー5』を予想したんだ。相手は11レースまでは、もっとも1着を取りやすい1枠を中心に『1ー2』『1ー3』『1ー4』それと2枠が1枠を差した場合の『2ー1』を中心に予想してきていたが、最終レースでは、俺の予想を予想してきたんだ」
金塚「あなたの予想を予想してきたってどういうことですか?」
六郎「それはつまり、俺の予想と相手の予想が3点とも同じだったらその時点で相手の勝利が決定するだろ」
金塚「なるほど、そう言うことか」
六郎「俺が本命の1枠から買って当たっても逆転はできないし、俺がスタートの早いカドまくりの得意な4枠から予想することは、相手にとって容易に予想することが出来た。その結果相手が予想してきたのは『4ー1』『4ー2』『4ー5』だったんだ」
金塚「『4ー1』『4ー5』は、二人の予想がかぶってますね」
六郎「そうなんだ。そのとき相手の予想屋は、俺の予想を3つ全部当てられなくて、悔しがっていたよ」
金塚「相手もその子と結婚したくて必死だったんでしょうね」
金塚「だろうな」
金塚「するとかぶってないのは『4ー6』の1点だけ」
六郎「ああ。それが来なければ俺の負けだ」
金塚「ちなみにボートレースの連勝単式って何通りあるのですか?」
六郎「30通りだ」
金塚「ってことは、逆転で勝てる確率は30分の1。たった、3.3%の確率ですね」
六郎「さすが事務屋さんだ。計算が速いね」
金塚「いいえ、普通ですよ」
六郎「6枠は一番外のコースを走るから最も不利なんだ。だから『4―6』で決まる確率はもっと低かった」
後ろで、
美南「でも、ああいう風に話すということは『4ー6』が来たんじゃない?」
千歳「そうだよね、私もそう思うわ」
美南と千歳は、ワクワクして来た。
六郎「時間が経つにつれて、相手は3通りの予想のうち、俺の予想を2通り当てたのでかなりほっとしたようだった。唯一予想できなかったのは大外の6枠だし、6号艇は引退寸前、勝率2点台の選手だったので、かなり安心したんだろうなぁ」
後ろで、
美南「やっぱり4ー6で決まったのよ!」
千歳「うん! 絶対そうよ!」
金塚「それでレースはどうなったのですか?」
六郎「たまたまだろうけれど、俺の予想した展開通り、カドを取った4コース4枠の選手が『0.8』のトップスタートを切って第1ターンマークを全速でマクって行ったね、」
金塚「やりましたね! それで2着は?」
六郎「2着は、イン(コース)で残した1号艇と、4号艇に乗っかって二段まくりした6号艇と、並走になったんだ」
後ろで、
美南「並走!?」
千歳「ドキドキするわ!」
金塚「向こう正面から次のターンまでどうなったのですか?」
六郎「バックストレッチから第2ターンマークまでは、6号艇が伸びて行ったよ」
金塚「『伸びて行った』ってことは、先に行ったってことですか?」
六郎「そう。エンジンやプロペラの仕上げ方が、インコースは出足、つまり加速は良いけれど直線のスピードは少し落ちる場合が多いんだ。逆に大外を走る選手は、スタートのときに思いっ切り後方から加速をつけてスタートをするので、出足より直線が速くなるようにエンジンやプロペラを仕上げる、」
金塚「『プロペラ』ってスクリューのことですか?」
六郎「まぁ、そうだな。スクリューの羽の部分だ」
金塚「エンジンやプロペラで、出足や直線のスピードを変えることが出来るのですか?」
六郎「うん。予想屋も選手と同様、ボートの部品について一生懸命勉強したからな」
後ろで、
美南「金塚さんも、そんなことはどうでもいいから早く結果を聞いてよ!」
千歳「ふふふふふ」
美南「ほんとイライラするわね。私、トイレに行きたいの我慢しているんだから」
千歳「金塚さんは、結果を聞くのが怖いので、ひと呼吸おいているんじゃないのかしら?」
美南「まったく小心者なんだから!」
千歳「それがあの人のいいところなのよ」
美南「それはわかるけれど……、」
千歳「ここはいいところなんだから、ゆっくり聞いてあげないと」
美南「もれちゃう!」
千歳「急いでトイレに行ってきなさい」
その瞬間美南は猛ダッシュでトイレに向かって走り出した。
千歳「すごい!!! 『0.8』のトップスタートだわ!」
金塚「1周目、第2ターンマークでは、6号艇が先にターンしたのですね」
六郎「うん。第2ターンマーク、年配の6号艇が全速でターンをしたね。大外の岸側を走行していたんで、その方が回りやすかったんだろうな。いつもやっていることだから」
金塚「1号艇は、ターンマークの近くを小回りしたのですね」
六郎「その通り」
金塚「1号艇が小回りをして6号艇に追いつくということはないのですか?」
六郎「ないということはないが、そのときは6号艇が先に回りその引き波に1号艇が乗ってしまい、その差は縮まるどころか開いてしまったよ」
金塚「1号艇は、6号艇の走った波にぶつかって失速したということですね」
六郎「そうだ」
後ろで、
千歳「やったー!」
右手で拳を作り肘から折り曲げ小さく気づかれないようにガッツポーズを作った。
六郎「レースは、そのまま4号艇6号艇1号艇の順で、2周目に入った。第1ターンマークを4号艇が回り、次に6号艇が全速ターンでスロットルレバーを放すことなく回った」
金塚「うんうん」
金塚は『スロットルレバー』がわからなかったが、話の腰を折らないように頷いた。
六郎「2周目の第2ターンマーク、6号艇は一番自信のあるターンである全速ターンで抜かれないように最良策をとった」
金塚「ボートレースは、何周するんですか?」
六郎「3周。コースの右と左にターンマークがあって、そこをグルグル3周すればゴールだ」
金塚「じゃあ、あと1周だ」
六郎「うん」
金塚「『スロットルレバー』って?」
六郎「アクセル」
金塚「それで?」
六郎「その時、2番手の6号艇と3番手の1号艇との差は約5m」
金塚「5mかぁ」
六郎「3周目の第1ターンマークを周り、向こう正面、2番手6号艇のボートは、水面を滑るように大外の岸にある消波装置の側を全速で直線を走っていた。後方内側からは力量のあるベテランの1号艇がそのまま5mの差で直線を全速で走っていた」
金塚「うんうん」
六郎「その時だった。突然6号艇は、左手のスロットルレバー(アクセル)を離して、前傾姿勢から体を垂直に起こした」
金塚「なんで、なんで?」
六郎「当然、舟は失速して、あっという間に内側3番手を走る1号艇に抜かれてしまった」
後ろで、
美南「えーっ!」
美南がトイレから戻ると同時に叫び声を上げた。
美南「何があったの? 脳梗塞?」
千歳「えっ! もう戻って来たの?」
美南「はい」
千歳「なんて速いの」
美南「スロットルレバー、握りっぱなしですから」
千歳「ちゃんと流して来た?」
美南「あっ! 忘れたかも?」
六郎「ボートレース場のスタンドにいる観客全員がざわめいた。『オーッ!』と。この瞬間、当たり舟券は『4ー6』から『4ー1』に変わった」
金塚「……」
六郎「4ー1を買っていた客は喜びに湧き『4ー6』を買っていた客は声を失っていたよ」
金塚「……」
六郎がそのときのシーンを思い出していた。
隣の予想屋「光太郎」が青ざめた表情から一転して「やった、やった~!」と何度も雄叫びを上げた。それは六郎の予想屋「六さん」に対して、情も容赦もない雄叫びだった。その雄叫びを聞いたその女の子は「光太郎」の配慮のない雄叫び、相手に対する気遣いのない態度に少しがっかりした様子だった。
金塚「でも、まだゴールまで距離があるんでしょう?」
六郎「レースは、そのまま3周目第2ターンマーク、最後の旋回に入った」
金塚「まだまだ、あきらめないですよ!」
六郎「4号艇がトップで周り、続いてベテランの1号艇が小回りした」
金塚「6号艇は?」
六郎「他の艇にも抜かれた」
金塚「そんな!!!」
六郎「結局、6号艇は5着だった」
金塚「5着!?」
六郎「俺は、キツネにつままれたようだった。何がどうなったのか全く訳が分からなかった」
金塚「負けたんですか?」
六郎「うん。結婚を賭けた大勝負に負けた」
金塚「がっかりですね」
六郎「でも、舟券はハズレたけれど、俺の徹夜でした予想は完璧に当たっていた」
金塚「ええ、そうですね」
六郎「ボートレース場に来ていた観客の一部が『八百長だ!』と騒ぎ出した。しかし、結果が変わる事はなかった」




