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女子ボートレーサー と市役所職員  作者: 池井 けい
第4章 予想屋、穴吹六郎
32/40

02 ◎あの時がまさに俺の青春!

【03】 どっちの予想屋と結婚する?


六郎「遠い昔の話で恥ずかしい話なんだが。ボートレースが大好きなお嬢さんがいてな、」

 『お嬢さん』と言っても30半ば過ぎ、だが、六郎は『お嬢さん』とか『その子』と表現していた。

金塚「この美浦市に住んでいた方ですか?」

六郎「ああ、そうだ。その子のことが好きになったけれども、隣でやっていた予想屋さんもその子が好きになり、その子に『結婚するならどっちの予想屋と結婚する?』って聞いたんだ」

金塚「ひゃーっ、聞いてる私が興奮しちゃいますね」

六郎「そしたらね『私は2人とも同じくらい好きなの』って言うんだよ」

金塚「ええーっ! それはないでしょ」

六郎「うん、俺も聞いた瞬間、まいったよ」

金塚「そりゃそうですよ」

六郎「『自分では決められないから、明日の全12レースのうち多くのレースを当てた方と結婚する』と、その子が言うんだ」

金塚「えっ! なんてことを言うんだその娘さん!」

六郎「『明日の全12レースのうち多くのレースを当てた方と結婚する』と言われたとき、俺の心臓がドキドキし、全身が熱くなり、体中の血が体内をすごいスピードでグルグル回るのを感じたんだ。血管がコースで、血がボートみたいなもんだ。ははははは」

金塚「ははははは。良くわかりませんが?」

 それを聞いた六郎が軽くコケた。


六郎「体中が熱くなったよ。あの時がまさに俺の青春だった」

金塚「いいですね、『青春』」

六郎「もちろんその日の晩は眠ることができなかった。そして、一晩中夜が明けるまで、翌日のボートレース新聞を見続け、予想に没頭した。そしていよいよ俺の人生の勝負の日はやってきた」

金塚「そりゃぁ、私がその立場になったとしても同じだったと思います」

六郎「結婚となれば一生のことだし、まして好きな子だったし、どうしてもその日相手の予想屋より1レースでも多く当てたかった」

金塚「それは当然のことです」

六郎「俺の予想はいつも穴狙いが中心で、本来本命の予想などほとんどしたことがなかったんだ。しかしこのときに限って、1レース目『1ー2』、『1ー3』と、ボートレースとしては1、2着の確率が最も高いインコース買いの予想をしたんだ。ボートレースは左回りの競争だから、一番左端からスタートする1枠が、絶対に有利なことは間違いのない事実なんだよ」


金塚「私は恥ずかしながら、近くにボートレース場がありながらボートレースの事を全然知らなくて、今、穴吹様から聞いていることが全て新鮮で、まるで今自分がボートレース場に居るかのような感覚です」

六郎「そうかぁ、良かった。ひとりでも多くの人にボートレースのことを知ってもらうのは、俺の喜びでもあり、ボートレース選手、ボートレース関係者すべての者にとって、うれしいことだからね。テレビでもいろいろな方が知恵を絞り工夫して最高の映像を創り出して放映しているが、なかなかボートレース場に足を伸ばしていただける方の数は増えないんだ」

金塚「あのテレビのCM映像、素敵ですよね」

六郎「ありがとう。ボートレース振興会に代わって礼を言うよ」

金塚「ボートの動きがすごい迫力がありながらも、その反面綺麗な歌と穏やかな水面も映し出されていて、その静と動を見事に映像化し、見ている私は胸を打たれました」


六郎「そうかい、そりゃぁ良かった。話は元に戻るけれど、結婚を賭けたレース予想、あの日ほど俺の心臓の鼓動が、胸を打っていたことはなかったなぁ」

金塚「心臓に悪いですね。レースに『お金』じゃなくて、『一生』を賭ける訳ですから」

六郎「ああ、その通りだった。なんとしても勝ちたかった。そして1レース目、4コースのカド(ダッシュスタートをするボートの中で最も内側のボート)を取った4号艇がスタートから一気にまくって1着となった。俺の予想も隣の予想屋の予想もハズレた」

金塚「結構、払戻もついたんでしょうね」

六郎「ああ、高い払戻だった」

金塚「いつものあなたなら、当てていたのではないですか?」

六郎「そうなんだよ。だから、悔しくて悔しくてたまらなかった。いつもの自分なら、絶対に4号艇を買い目にしたはずなのに。でも、それだけその子に対して結婚したい気持ちがあったんだろうな」

金塚「本当に好きだったんですね」

六郎「うん。でも、俺はダメな奴さ。女のために、自分の予想を変えちまうんだから。情けないよな。最低だよ。予想屋が、私利私欲のため、予想を変えちまうんだから」

 六郎が、首をうなだれガックリと肩を落とした。


六郎「だから2レース目からは変えたんだ、本来の自分の予想をしようって」

金塚「でも難しいですよね。やはりインコースの1枠から毎回買ってた方が当たる確率は絶対高い訳ですからね」

六郎「うん、その通りなんだ。そのときだった、その子が俺たち予想屋二人に、『今からルールを変えます』って言ったんだ」

金塚「えっ! ルールを変えるって?」

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