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女子ボートレーサー と市役所職員  作者: 池井 けい
第3章 ボートレース予想プロ集団の結成
29/40

09 ◎ボジョレー会、3度目勝負!編

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【あらまし】(ボートレース予想エピソード、コメディです。読者様の舟券購入の参考になりましたら良いのですが……)


 天才プログラマー茂木が、ボートレース予想システム『SCSEX的中方程式』を改良した。予想プロ集団(メンバーは茂木、由利、丹沢)が、早速コンピュータ予想の通り『2-1』『2-6』の舟券を合計4万円購入する。


 そして、いよいよ『丸亀 男女W優勝戦 最終日 一般戦 第7レース』が始まった。結果はいかに……?

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【主な登場人物】

丹沢純也  30歳男 住民課職員、『純情』『清潔』な女性が好み

由利源吾  30歳男 税務課職員、『妖艶』『魔性』な女性が好み

茂木数魔  30歳男 情報統計課職員、『理知的』『頭脳明晰』な女性が好み

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【前書き】

●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております

●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました

●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです

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【01】 IF関数で、また当たり?


 6月の日曜日。茂木の部屋。

 茂木数魔(もぎ・かずま30歳)の部屋に、同期入所の丹沢と由利がやって来た。

 3人で立ち上げたボートレース予想集団『ボジョレー会』の集まりだ。


茂木「前回の『SCSEX的中方程式』を改良しました。前回は、まぐれで当たりましたが、こんどは、実力で当たるはずです」

由利「さすがだね。もう改良するなんて」

丹沢「『SCSEX的中方程式』って、どんなだっけ。もう一度復習の意味で教えてくれ」

茂木「はい、

『S』スタート

『C』コース

『S』さば

『E』エンジン

『X』やる気など不透明な部分

 この五要素を基に計算して当たり舟券を探す方法です」

丹沢「ふむふむ。そうだ、そうだ、思い出した。スペシャル、クライマックス、セックスだった。聞いただけで興奮するなぁ」

由利「違う、違う。スタート、コース、さばき、エンジン、やる気だ」

丹沢「前回は、1号艇が『やる気がない』と踏んだのに、ムチャクチャやる気があったんだよな」

茂木「ははははは。もう勘弁してくださいよ」

由利「『6―2』で偶然当たったのに、『やっぱり、当たった』とか言ってた奴が居た」

茂木「ふたりして、そんなにいじめないでくださいよ」

丹沢「ははははは」

由利「ははははは」


丹沢「でも、茂木さんのお陰でうまい焼肉が食えたよ。感謝してるよ」

由利「そうだった。あれはうまかった。感謝、感謝」

茂木「特上のトロタン、とても美味しかったです」

丹沢「また、食いたい!」

由利「うん。特上の霜降りカルビに、また会いたいな」

茂木「そう、そのためにも、また予想方法を改良しました」

丹沢「今度は、なんだい?」

茂木「前回の高い払戻が取れたのを参考に改良しました」

丹沢「具体的には?」

茂木「前回の『SCSEX方程式』に、『イフ(IF)関数、1号艇頭は見送り』という式を加えました」

丹沢「さっぱり、わからない」

由利「なるほど」

丹沢「えっ、由利さん、今のでわかるの?」

由利「もちろん」

丹沢「わかるように、教えて!」

由利「『イフ(IF)』だから『もし、1号艇が1着という結論が出たら、舟券購入を見送る』ということだな」

茂木「その通りです!」

丹沢「どうして?」

茂木「1号艇の頭(1着)では払戻が低いので()()()()()と言いますか、()()()()()()と言いますか」

丹沢「それはそうだ」

由利「私は、そのイフ関数に大賛成。いいと思うよ」

丹沢「二人が言うのなら間違いない」


茂木「ありがとうございます。では、承認を得たということで、今日の狙い目なのですが、ズバリ(ボートレース)丸亀の第7レースです」

丹沢「どれどれ?」

丹沢がパソコンで、ボートレース(BOATRACE)のホームページを開く。

丹沢「丸亀の『最終日』をクリック」

 茂木の部屋のパソコンは、HDMIエイチ・ディー・エム・アイケーブルでテレビにつながっている。

丹沢「『レース一覧』が出たぞ」

 パソコンの画面の『レース一覧』が、55インチ大型テレビに映し出された。

丹沢「7レースをクリック、と」

55インチ大型テレビに、女子レーサー6名の『顔写真』と『名前』、それに『選手』『モーター』『ボート』の勝率がいきなり映し出された。

 丹沢、由利、茂木の目に、女性レーサーの顔が飛び込んで来た。


丹沢「おっ! 私は、1番の子がいいな」

由利「私は3番の子」

茂木「私は2番の子」

丹沢「1番が、清純そうでいいな」

由利「3番が、色っぽいな」

茂木「2番が、賢そうですよ」

由利「これって、キャバクラの入店時か、ソープランドの待合室みたいだな」

茂木「3人とも、完全にオヤジになってますよね」

丹沢「女子レーサーたちは、こんな風に言われていること、知っているのかなぁ?」

茂木「知っているんじゃないですか? だって、写真の顔が相当意識している顔ですよ」

丹沢「ははははは」

由利「ははははは」

茂木「ははははは」

由利「ああ。逆に意識してない人数は、女子レーサー200人中、10人くらいじゃないかな?」

丹沢「それって、やけくそ?」

由利「いや、旦那さんに『色目を使うな』って言われているんだと思うよ」

丹沢「えっ!? 女子レーサーって、全員独身じゃないのか?」

由利「ばかだねぇーこいつは」

丹沢「嘘だろう?」

由利「こんな美人揃いなんだから、男子レーサーが放っておく訳がないだろう」

茂木「しかも男子1400人に対して、女子は200人。女子天国ですからね」

丹沢「ショックだ。詐欺だ。みんなこんなに綺麗に写っているのだからてっきり独身だと思った」

由利「キャバクラ、ガールズバー、ソープランドの先入観を、そのままボートレースに当てはめているからだよ」

丹沢「そうかも知れん」

由利「でも数人は、カメラを意識せず、素のまま写っているね」

茂木「写真うつりよりも、その人たちは、レースで勝負しているんですよ」

丹沢「えらいなぁ茂木さんは。写りの悪い女子レーサーの味方だね」

茂木「『写りの悪い』はダメですよ。『自然体で写っている』です」

 茂木が丹沢を正した。

丹沢「ごめん、ごめん、失言だ。取り消すよ。しかし、茂木さんは、すべての女子レーサーに思いやりがあり尊敬しちゃうね」

茂木「いえ、そんな」

丹沢「茂木さんのように弱い者の味方、みんなと公平に接するのが公務員の仕事だからな。茂木さんは『ミラー・オブ・公務員』だよ」

茂木「なんですか? それ」

由利「『公務員のかがみだよ』

茂木「なーるほど」

丹沢「もっとリアクションが欲しいな」

由利「あまり、相手にしなくていいよ」

茂木「そうですね」


丹沢「しかし、なんで、みんな、こう女性の趣味が違うのかな?」

由利「丹沢さんは、『純情』とか『清潔』が好みだからな」

茂木「由利さんは、『妖艶』とか『魔性』が好みなんですね」

丹沢「茂木さんは、やっぱり自分と同じ『理知的』『頭脳明晰』な女性が好きなんだ」

茂木「そうですね、天然ぽい女性は苦手です」

丹沢「そんな感じがするよ。わかるなぁ」

茂木「丹沢さんは、『純情』とか『清潔』な女性が、好きなんですか?」

由利「『純情』とか『清潔』と、言えば聞こえがいいが、要するに『天然』が好きなんだよ」

丹沢「うん、北海道の広大なトウモロコシ畑で育ったような『純朴じゅんぼく』な子がいいな」

由利「歌舞伎町や飛田新地の風俗街で育った女性だって『純朴』な子は居るよ」

茂木「確かに。『純情』とか『純朴』って、外見や見た目じゃわかりませんからね」

由利「それに『育ち』や『環境』で決めつけてはいけない」

茂木「珍しく良いことを言いますね」

由利「いつもだ!」

丹沢「うーん、そうか。女性を選ぶって難しいんだな」

 丹沢が考え込んだ。

茂木「でも、3人で趣味が違って良かったじゃないですか。取り合いにならないから」

丹沢「そうだな。ついでに速水爽香も譲ってくれないかな?」

由利「それはダメだ!」

茂木「なんですか、それ?」

丹沢「いや、これはうちらだけの問題だ」

由利「そうそう」

茂木「なら詮索はしません。3番のレーサーは、かなり年上ですよ。丹沢さんは、年上でもOKですか?」

由利「丹沢さんは、ストライクゾーンが広いんだよ。と言うより、ボールだまが、ひとつもないんだ」

茂木「それはスゴイ! 40代、50代でもOKですか?」

丹沢「いや」

茂木「ですよね」

丹沢「70代、80代でもOKだよ。『公務員は全体の奉仕者』だからな」

茂木「そこまでですか! 私には無理です」

丹沢「90代以上でもいいよ」

由利「『恋愛』と『公務員』は関係あるのか?」

丹沢「悪い、悪い。常に頭の片隅に仕事があるから」

由利「ウソつけ! 一番仕事を忘れる奴が」

丹沢「ははははは」

茂木「笑ってごまかそうとしてますね」

由利「ところで、なんでボートレースの予想から、女の子の指名みたいな話になっているんだ。まったく、君たちは、風俗が好きなんだから」

丹沢「由利さんが一番好きでしょ! 先週も行ったくせに」

由利「それを言うな!」

茂木「そうでした。ついレーサーたちが美人ぞろいだから、話がそれてしまいました」

由利「そうそう。いい女がいっぱい居る」

丹沢「また、そっちへ話を持って行く! それに『いい女』とか言うな。『美人レーサー』と言うべきだろ」

 今度は、丹沢が由利を正した。

由利「すまん、すまん。茂木さん、予想を頼むよ」

 由利が頭を掻いた。


【02】 『2―6』『2―1』の2点勝負!


茂木「はい。では始めます」

丹沢「うん」

茂木「最初に申し上げました通り、プログラム予想で1号艇が1着と割り出したレースは見送りとなります。今日は、12レース中11レースが『見送り』というプログラム結果でした

丹沢「そんなに多いんだ」

茂木「はい。今日のレースで、1号艇以外が1着になるレースは、たったひとレースでした」

由利「それが、最初に言ってた第7レースで、今、テレビ画面に映っているわけだね」


【テレビ画面】

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【出走表】 丸亀 最終日 第7レース 一般戦 男女W優勝戦 ナイター


1号艇 宮狭 幸奈 30歳 A2級 勝率5.58 モーター- 23334664

2号艇 北池 七々 22歳 B1級 勝率5.20 モーター- 41232446

3号艇 時川 衣舞 35歳 B1級 勝率4.57 モーター○ 465556 4

4号艇 八谷 桜子 39歳 A2級 勝率5.82 モーター× 5 666456

5号艇 南坂 松枝 36歳 B1級 勝率4.03 モーター△ 6346 465

6号艇 窪澤 小春 51歳 B1級 勝率4.26 モーター◎ 1 455533

   ※『モーター』のうしろの印はモーターの予想印。その後の数字は前走成績

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茂木「はい、今画面に映っている第7レースでは、2号艇が1着という予想がプログラムで出ました」

由利「2号艇ってのは、茂木さんが選んだ賢そうな子だな」

茂木「えへへへへ」

 茂木が思わず照れ笑いした。

由利「私が選んだあの『魔性のレーサー』は、見送りか。残念!」

茂木「2着には、ベテランでスタートの早い6号艇。それとイン残りで1号艇」

由利「つまり、『2―6』『2―1』の2点勝負ってことだ」

茂木「はい」


由利「なんでプログラム予想は、2号艇が1着だと弾き出したんだろう?」

茂木「2号艇の今節のスタートは、『11』『17』『00』『11』『13』『08』『11』と、とにかく早いスタートをしているんです」

 由利が部屋にあった電卓で、平均値を計算した。

由利「平均『10』だ。異常だな」

茂木「そして『プラスX』の『やる気など不透明な部分』として、この選手はメカに強いんです。ですからエンジン整備もばっちりです」

丹沢「なぜわかるの?」

茂木「女子レーサーとしては珍しい工業高校を出ています。そのとき、クラス(学科)には生徒が80人で女子は彼女ひとりでした」

由利「へえー、逆ハーレム状態だな。ヒヒヒヒヒ」

丹沢「こいつ、また、やらしいことを考えている」

茂木「蛇足かもしれませんが、得意は弓道、趣味はキックボクシング。ですから姿勢も良いし、体幹も素晴らしいです」

丹沢「そこまで調べてあるんだ!」

茂木「ええ、まぁ」

丹沢「他には?」

茂木「好きなことは、旅行に行くなら京都、食べ物はオムライス、それと爪にジェルネイルを塗ることが好きです。ライブにも時々行きます。将来の夢は、大型バイクのライセンスと、ダイビングのライセンスを取ることです」

茂木「開催前のインタビューでは、こう答えています。『トップで走っていても、最下位で走っていても、常に全力! それが私の信念です!』

丹沢「おお、いいこと言うねぇ」

茂木「他にも、」

由利「もういい、もういい。まるでスポーツ新聞の記者みたいに良く追いかけているな」

茂木「すべては、データの『プラスエックス』のためです」

丹沢「えらい!!!」

由利「素晴らしい!!!」

「パチパチパチ」

 丹沢と由利が、二人で拍手した。


丹沢「なにか、もう当たりそうな気がしてきた」

由利「私もだ」

茂木「高評価をありがとうございます。二人のお言葉で、毎日続けている選手調査の疲れが取れます」

丹沢「いやぁ、本当に素晴らしいよ!」

由利「やはり、情報統計課の職員だな!」

茂木「仕事も趣味も全力投球です」

丹沢「さすが『ミラー・オブ・公務員』だ!」

茂木「それ、さっきも聞きましたね」

由利「こいつのいつもの口癖なんだ。『公務員のかがみ』が」

茂木「さっと、流せば良かったですね」

由利「うん。……しかし、今の茂木さんの話を聞いていたら、ちょっと2号艇のレーサーも好きになってきたな」

茂木「ダメですよ。私の方が先に好きになったんですから」

丹沢「じゃぁ、速水爽香は、あきらめてくれ」

由利「それは別だ」

丹沢「この浮気者が!」

由利「ははははは」

茂木「大丈夫ですよ。相手のレーサーが相手にしませんから」

丹沢「ははははは」

茂木「では、第7レース『2―6』『2―1』の2点勝負で良いですか?」

丹沢「異議なし」

由利「異議なし」

茂木「では、一万円ずつ買いますよ」

 今日は丹沢がパソコンで、舟券を買う操作をし始めた。

由利「待って! オッズはいくらになっている?」

茂木「あっ、そうか」

 丹沢が、オッズをテレビに映し出した。

茂木「『2―6』で21倍、『2―1』で7倍ですね」

由利「買い方は、どうしようか?」

丹沢「今、ボジョレー会の残高は?」

茂木「焼肉代2万円を引いたので、64万2千円です」

丹沢「そんなにあるんだ」

由利「なら、どっちが来ても同じ金額の払戻金になるようにしたら?」

茂木「ということは、『2―6』に1万円、『2―1』が3万円ですね」

丹沢「いいね、いいね」

茂木「どっちが来ても21万円になります。当たれば、17万円の儲けですね」

丹沢「ははははは」

由利「ははははは。笑いが止まらない」

茂木「そう言うのを『捕らぬ狸の皮算用』と言うのでは?」

丹沢「大丈夫、我々二人は、茂木さんを信用しているから」

由利「その通り」

茂木「ありがとうございます」


丹沢「今晩は、寿司だな」

由利「大トロを腹いっぱい」

茂木「私は、ウニとイクラをお願いします。丹沢さんは?」

丹沢「私は、カッパ巻だな」

茂木「随分質素なんですね」

丹沢「カッパ巻が好きなんだよ。それと、この前の健康診断で、コレステロール値が高くて、魚卵と玉子は医者に止められているんだ」

茂木「ははははは」

由利「ははははは」

茂木「そうでしたか。なぁーんだ、ひとのことを言えないじゃないですか」

丹沢「うん」

茂木「血液の総コレステロール値は?」

丹沢「290」

 基準値は年齢や性別にもよるが、一般的には約150~220が適正となっている。

茂木「かなり、高目ですね」

丹沢「二年間、玉子類を食べてないんだが、数値が変わらないんだ」

茂木「原因は玉子じゃなくて、住民課長じゃないですか?」

丹沢「ははははは」

由利「その笑いは、図星ということだな」

丹沢「ははははは」

 もう一度笑い飛ばして、ごまかした。


丹沢「当たったら、この前の焼肉同様、それぞれが自由に食べ放題だ! 何を食べるかは任せるよ」

由利「うん、うん」

茂木「どこか、カウンターの寿司屋に行きますか?」

丹沢「私は回転寿司でいいよ」

由利「私も」

茂木「そうですね。いつもどおりがいいですね。高級寿司店は気を遣うかも知れませんね」

丹沢「みんな、お皿30枚ずつを目標に」

由利「いいね」

茂木「今夜、その夢が叶いますね」

丹沢「うん」

茂木「では、最初に銀行口座からボートレースの口座にお金を移しますね」

丹沢「どうやるんだ?」

茂木「まず、このオレンジ色の『投票』ボタンをポチッとクリックして、『入金する』を押して、金額は『4万円』と。これで、銀行からボートレース場の一時口座に入金が出来ました」

丹沢「ボートレース場まで行かなくていいから便利だな」

由利「雨の日とか、特に楽だな」

茂木「『2連単』を押して『2―6』に1万円、『2―1』が3万円と」

 茂木が、スムーズにパソコンを操作している。丹沢と由利が55インチ大型テレビ画面でそれを確認している。

茂木「できました。投票完了です!」

丹沢「さあ、あとは本番を待つだけだ」


 ボートレース丸亀、午後5時46分、男女W優勝戦第7レース本番。

『男女W優勝戦』とは、一日の開催の中で、男子だけのレースが6レース、女子だけのレースが6レースあり、最終日には男女それぞれ優勝戦を行う開催である。

 気温4度 晴れ 追い風2m 水温23度 波高2cm。レースが始まった。



【テレビ画面】

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【出走表】 丸亀 最終日 第7レース 一般戦 男女W優勝戦 ナイター

   気温4度 晴れ 追い風2m 水温23度 波高2cm

1号艇 宮狭 幸奈 30歳 A2級 勝率5.58 モーター- 23334664

2号艇 北池 七々 22歳 B1級 勝率5.20 モーター- 41232446

3号艇 時川 衣舞 35歳 B1級 勝率4.57 モーター○ 465556 4

4号艇 八谷 桜子 39歳 A2級 勝率5.82 モーター× 5 666456

5号艇 南坂 松枝 36歳 B1級 勝率4.03 モーター△ 6346 465

6号艇 窪澤 小春 51歳 B1級 勝率4.26 モーター◎ 1 455533

   ※『モーター』のうしろの印はモーターの予想印。その後の数字は前走成績

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♪ファンファーレとともに、6名の女子レーサーが水面に出てきた。


丹沢「さぁ、始まるぞ!」

由利「ワクワクするな」

茂木「ちょっと心配です」

丹沢「大丈夫だよ! 茂木さんが、あれだけ苦労して、細かいデータを入力したんだから」

由利「そうそう、その苦労が報われるときが来たのさ」

茂木「そう言ってもらえると、とても嬉しいです」

丹沢「万が一、または億が一、ハズレても3人の共同責任だから」

由利「そうそう」

茂木「ありがとうございます」

 茂木が頭を下げた。


実況「進入は、1番、2番、3番、4番、6番、5番」

由利「6号艇が5コースだぞ」

丹沢「いいね。やる気を出している」

茂木「読み通りです」


実況「スタート10秒前、5秒前、スタートしました!」

 部屋の大型画面に、1号艇、2号艇が先頭でスタート。3番手に6号艇。他の3艇は出遅れた。

丹沢「いいね」

由利「完璧だ!」

茂木「ありがとうございます」


 1周1マーク。

実況「1号艇、2号艇が好スタート! 6号艇は全速でまくりに行く! 1号艇が6号艇を少し張り気味にターン。インコースが空いた! そこを2号艇が見事な差し! 先頭は2号艇!」

丹沢「やった、やった!!!」

由利「やった、やった!!」

茂木「よしよし!」


 1周2マーク。

実況「先頭で2号艇。その後ろに、1号艇と6号艇が2着争い」

丹沢「いいぞいいぞ!」

由利「やったな茂木さん、完璧だ!」

茂木「予想通りです」



 2周1マーク。

実況「先頭2号艇。二番手1号艇。三番手6号艇」

丹沢「決まりだな」

由利「うん、2着はどっちが来ても21万円だ」

茂木「ほっ」


2周2マーク。

実況「上位態勢2号艇、1号艇、6号艇」

丹沢「『2―1』は、7倍の方だよね」

由利「うん、でも3万円買ったから」

茂木「均等の払戻になるよう買っておいて、正解でしたね」

由利「うん」


3周1マーク

実況「上位態勢に差が出てきました。先頭、二番手、三番手の間隔が、10艇身ずつ開きました」

丹沢「回転寿司食べ放題決定!」

由利「今回はすんなり決まって、つまらないくらいだ」

茂木「良かったです。こんなに安心して見てられるのは、めったにないですから」

 3人は、55インチ大型テレビで最終ターンを見ていた。


 3周2マーク

実況「最終ターン、先頭は2号艇。二番手1号艇とは、10艇身差」

丹沢「ははははは。すごい差だな」

実況「おーっと! アクシデント!」

丹沢「げっ!」

由利「ウソだろ!」

茂木「そんなぁ!」


実況「先頭2号艇が、ターンマークにぶつかった! 落水!」

丹沢「……」

由利「……」

茂木「……」

実況「なんということだ! どうしたんだ2号艇!」

丹沢「……」

由利「……」

茂木「……」

実況「信じられないことが起きました。何があった、2号艇!」

丹沢「……」

由利「……」

茂木「……」


実況「その横を、1号艇、6号艇が走って行く」

丹沢「……」

由利「……」

茂木「……」

実況「1番ゴールイン、6番ゴールイン、4番ゴールイン、3番ゴールイン、5番ゴールイン」

丹沢「寿司が、寿司が、水中に消えた……」

由利「4万円が、4万円が、ターンマークのそばにプカプカ浮いている……」


 レースも終わり……、

丹沢「北池選手のレース前インタビューだけれど、」

茂木「ええ、」

由利「なんて言ってたっけ?」

丹沢「『トップで走っていても、最下位で走っていても、常に全力!』とかって」

由利「よく覚えているな」

丹沢「トップで走ってる時は『全力』でなくて、『完走優先』でいいんじゃないのかなぁ?」

茂木「ははははは」

由利「ははははは 」

 間をおいて茂木が、

茂木「当たらなくて、すみませんでした!」

丹沢「当たったよ、ボートがターンマークに。こんなの気にすることはないさ」

由利「ターンマークも危険を察知してよけりゃぁいいのに」

丹沢「そうだそうだ、さすが由利さん!」

茂木「最後にターンマークにぶつかることを、パソコンは予測できませんでした」

丹沢「そうか、あんなに賢いパソコンでも予想できなかったか?」

由利「当たり前だろ!」

丹沢「ははははは」

由利「ははははは」

茂木「ははははは」

 3人は、ハズレても笑いが絶えなかった。そして笑うしかなかった、次を戦うためには。


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【後書き】

 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 本編は、ボートレースという勝負の世界を舞台にしながらも、その実態は「仕事に真面目な公務員3人が、週末に一喜一憂する日常」を描いたコメディです。


 執筆にあたって最も意識したのは、茂木、丹沢、由利という3人のキャラクターの対比です。

 主人公の茂木は、データを信奉し、選手一人ひとりの細かなプロフィール(それこそネイルや好きな食べ物まで!)を徹底的に調べ上げる「ミラー・オブ・公務員」。対する丹沢と由利は、女子レーサーをキャバクラの指名のように楽しむ、いわば「どこにでもいるオヤジ」たち。この3人が、高性能な55インチ大型テレビを前にして、ああでもないこうでもないと持論を展開する姿は、滑稽でありながらも、どこか愛らしく感じていただけたのではないでしょうか。


 物語の肝となる「IF関数」というタイトル。

 「もし1号艇が1着なら、買わない」という茂木の論理的な戦略は、一見すると非常に賢明な投資法に見えます。しかし、ギャンブルの神様は、時に論理では説明できない「アクシデント」という最大の不確定要素を投げ込んできます。


 トップ快走中の落水。

 読者の皆様も、手に汗握って「寿司三昧」を確信した瞬間、3人と共に肩を落とされたかもしれません。しかし、大金を失ってもなお、最後には「当たったよ、ボートがターンマークに」と笑い飛ばせる彼らの絆こそが、この物語の本当の「的中」だったと言えるでしょう。


 ボートレースを知っている方には「あるある」と頷けるエピソードを、知らない方には3人の掛け合いのテンポを楽しんでいただける作品を目指しました。

 

 果たして、茂木が開発する「SCSEX的中方程式」に、次はどのような「変数」が加わるのでしょうか。彼らが高級寿司の皿を積み上げられる日は来るのか……。


 3人の「ボジョレー会」の活動は、まだまだ続きます。

 また次のレースでお会いしましょう。

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【作者からのお願い】

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


 まさかのターンマーク激突……。皆さんも「的中確信からの悲劇」を経験したことはありませんか?


 寿司が水中に消えてしまった茂木、丹沢、由利の3人に、**「次こそは特上トロを!」という励ましの気持ちを込めて、下の【☆☆☆☆☆】**からポイント評価をいただけると嬉しいです!


「面白かった!」「自分も経験あるわ……」と思った方は、ぜひ応援よろしくお願いします!

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