03 ◎いよいよ舟券勝負だ!編
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【あらまし】(ボートレース予想エピソード、コメディです。『第3章01~03』の3話でひとつの話です。読者様の舟券購入の参考になりましたら良いのですが……)
市役所職員3人で立ち上げたボートレース予想集団が、いよいよ実践で舟券を買うこととなった。
この予想集団『ボジョレー会』が舟券最初の購入で『4―1』『4―5』の2点を1万円ずつ購入する。
さて、結果はいかに……
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【主な登場人物】
丹沢純也 30歳男 美浦市役所住民課主事
由利源吾 30歳男 美浦市役所税務課主任
茂木数魔 30歳男 美浦市役所情報統計課主任
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 必勝法の実践
夜、時間は9時になろうとしていた。茂木がパソコンで明日の出走表を見ていた。
茂木「『賭け金に対する回収率』を明日3日目の全レースに当てはめると、芦屋全12レースの中で、第4レースが一番の高配当になりそうなんです」
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【出走表】
芦屋 3日目 第4レース 予選 G3オールレディース モーニング
1号艇 兵藤綾子 B1級 勝率3.94 モーター- 17.18.23
2号艇 工藤享子 B2級 勝率3.38 モーター× 13.17.19
3号艇 与田綾女 B1級 勝率4.61 モーター△ 10.26.17
4号艇 水芦静華 B1級 勝率4.05 モーター◎ 04.06.03
5号艇 船藤玲夏 B1級 勝率4.34 モーター- 31.14.19
6号艇 藤多杏樹 B1級 勝率4.58 モーター〇 15.24.11
※モーターの後の数字はスタートタイミング
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丹沢「第4レースねぇ。私には、さっぱりわからないけれど」
茂木「この第4レースの着目すべき点は、何と言っても『スタート』です」
丹沢「『スタート』ねぇ。『スタート』って、そんなに大事なの?」
茂木「はい。『スタート』だけで1着が決まっちゃうレースも多いんです」
丹沢「へえー、そうなんだ」
茂木「明日の第4レース、4号艇は、選手勝率はイマイチですが、恐ろしくスタートが早いのです」
丹沢「『恐ろしく』か……」
由利「4号艇は、そんなにスタートが早いのか?」
茂木「もともと、勝つときは、スタート一気という選手で、このボートレース場では、スタートタイミングを掴んでいるみたいです」
丹沢「ふーん」
茂木「初日は1回乗りで『04』のスタート、2日目は2回乗りで『06』と『03』です」
『04』とは、大時計がスタート(真上)を指してから、100分の4秒後にボートがスタートラインを通過したことである。
由利「そいつはスゴイなぁ。まさに神技だな」
茂木「それに対して他の選手は、『15』から『25』の間でスタートしています」
由利「それが普通だ」
丹沢「二人が何を言っているかさっぱりわからないね。ドイツ語を聞いているようだ」
茂木「わかりやすく説明します」
丹沢「頼むよ」
茂木「丹沢さんは、この前ボートレース場に行ったと言ってましたよね」
丹沢「うん、ここに居る由利さんに無理矢理連れていかれた」
由利「『無理矢理』とはなんだ。そのお陰で、速水爽香を発見出来たんだろう」
丹沢「ははははは。そうだった。感謝している。ははははは」
由利「相変わらず、変わり身が早い奴だ」
丹沢「私の特技だから。『固執』『こだわり』『執着』は、時として失敗につながる。人間、変わり身は、大切なんだぞ」
由利「うん、一理あるな」
丹沢「それで?」
茂木「はい、ボートレース場で大きな時計を見ましたか?」
丹沢「うん、見た、見た。目覚まし時計の化け物を。あれが、もし鳴ったらうるさいだろうな」
茂木「大丈夫です。光ることはあっても鳴りませんから」
丹沢「安心した。これで安心して寝られる」
丹沢が、茂木の部屋で横になった。
由利「ここで寝るな!」
茂木「あの大時計の針が真上を差した時がスタートです。かけっこで言えば、『用意ドン』の『ドン』です」
丹沢「わかった!」
茂木「選手は、大時計の針が真上を指した後に、大時計の横を通過しなければなりません」
丹沢「それはそうだ。針が真上に行く前に通過したら、スターターが『用意』って言ってる時にスタートしちゃうんだから、フライングだな。もう一度、全員が戻ってやり直すんだろう。2度フライングしたら失格って言うんだろう」
茂木「フライングのところまでは、その通りなんですが、残念ながら、ボートレースに2度目はありません」
丹沢「えっ、そうなの?」
茂木「はい。フライングしたボートは自主的にコースアウトして、レースは、そのまま続けます」
丹沢「選手は、自分がフライングしたかどうかわからないでしょ?」
茂木「『4号艇フライング』みたいに、フライングの場内コールもありますし、フライングした艇の枠番『4』なら『4』が電光表示されます」
由利「うん、バックストレッチを走ると正面に数字が光っているのが見えるんだ」
丹沢「なるほど、よくわかった。で、さっきの『04』とか、『15』とか『25』って、なに?」
茂木「大時計の針が真上を差した時が『ドン』で、これが『00』。
それから100分の4秒後に大時計の横、言い換えればスタートラインを通過すれば、『04』。同様に、100分の25秒後に大時計の横を通過すれば『25』です」
丹沢「難しいな」
由利「そうか」
丹沢「なぜ、6艇が並んで『用意ドン』で走り出さないんだ? 水面のうしろの方で6艇が止まっていればいいのに」
茂木「いい質問ですね」
丹沢「お前は、池上彰さんか!
『池上彰』とは、あるテレビ番組で『いい質問ですね』が口癖のMCである。
茂木「理由はいろいろとあるのですが、」
丹沢「まぁ、適当に、みつくろって言ってみて」
茂木「まず、水の上に線が引けない」
丹沢「なるほど、それはそうだな」
茂木「二点目は、ボートにはブレーキが無いので、止まっていられない」
丹沢「なるほど。ふむふむ」
茂木「三点目は『(ボートレース)江戸川』のように流れている水面では、ボートが流されてしまう」
丹沢「なるほど」
茂木「四点目は、ボートを繋ぎ止めるピットをコース中央に持っていったら2周目が回れない」
丹沢「なるほど」
茂木「五点目は、静止からのスタートでは、圧倒的に1コースが強く、つまらない」
丹沢「なるほど。もういいや」
丹沢が、手のひらを茂木の方へ押しやった。
茂木「まだ、あったのに、」
丹沢「ところで、スタートで『10』違うとどれくらい差がつくんだい?」
茂木「1艇身まではいきませんが、かなり違うでしょうね」
丹沢「じゃぁ4号艇が先頭ってことだな」
由利「偶然にも4号艇は、モーター(エンジン)もエース級のモーターだ」
丹沢「スタートの『S』も、モーターの『M』も、6人の中で一番いいってことね」
茂木「はい、そうです。恐らくは一発、4コースからのまくりが予想されます」
丹沢「2着は?」
茂木「そっちの方が難しいところですが、まぁ順当にいけばイン(コース)残りで1号艇と、内側の艇をすべてつぶしたときの4号艇の外側5号艇、つまり『4―1』、『4―5』の2点買いで良いかと、」
由利「4号艇は、デビューしてまだ3年に満たないし、選手勝率もそれほど高くないから、結構良い配当になりそうだな」
丹沢「よし、では我々の『ボジョレー会』、最初の勝負はこれになるんだね?」
茂木「いいですか?」
由利「いいと思うよ」
丹沢「二人とも自信がありそうだね」
茂木「ええ、かなりあります」
由利「もちろん」
丹沢「そうだ! 『じしん(自信)』で思い出したけれど、
由利「なんだい急に?」
丹沢「言葉に詳しい由利さんが居るからちょうどいいや」
由利「うん?」
丹沢「この前、役所で震度3の地震があり、揺れがおさまってからトイレに行ったら、ちょうど国民年金課長(井手五郎)が個室から出て来てズボンのベルトを締めながら『いやぁ、びっくりしたな。大便の途中で死ぬかと思ったよ』って」
茂木「ははははは」
由利「ははははは。井手さんらしいな」
丹沢「年金課長が『逃げ出したいけれど、パンツおろしたままだし、尻もふいてないし、丹沢さんならどうする?』って聞かれたよ」
茂木「丹沢さん、どう答えたんですか?」
丹沢「『意外と便器の横で寝ているのが一番安全なのかも知れませんよ』って答えたよ」
茂木「さすがですね。天井が落ちて来ても便器が支えとなって空間が出来そうですよね」
丹沢「そうだろう。しかも、閉じ込められてもトイレは近いし、いいことづくめだ」
茂木「ははははは」
丹沢「年金課長がね、『うんこしてたら地震。うん? うんこじしん? なんかそれに似た言葉ってなかったっけ?』って、ぶつぶつ言いながら、思い出そうとして思い出せないままトイレから出て行ったんだ。由利さん、なにか思い当たる言葉ある?」
由利「『おんこちしん(温故知新)』だよ」
由利が冷静に答えた。
茂木「ははははは」
丹沢「スゲェ!!」
由利「くだらねぇ」
丹沢「で、どういう意味?」
茂木がガクッとコケた。
由利「『以前の知識、経験から新しい知識や見解を見つけること』だ」
丹沢「じゃぁ、まさに茂木さんがやってるレース予想じゃないか!」
由利「うん、そうだ、その通り!」
茂木「そうなんですか。私のやっている予想の研究は『うんこ地震』なんですね?」
丹沢「ははははは」
由利「ははははは」
丹沢「良かった! 由利さんの一言で、溜まっていたモヤモヤがすっきりしたよ」
茂木「ところで、賭け金はどうしますか?」
由利「この『ボジョレー会』への出資金として、ひとり10万円ずつ集めると言うのは?」
丹沢「意義なし」
茂木「はい、大丈夫です」
3人は、近くにあるコンビニ『セマーソン』に行った。お店のキャッチコピー『お店は広いのにセマーソン!』の文字が窓に貼られていた。
お店の中に入り、3人が順番にATMでお金をおろした。
由利「はい、じゃぁこれ」
丹沢「はい、これ」
二人が10万円ずつ茂木に手渡した。
由利「これで、軍資金は出来た」
丹沢「あとは、明日を待つだけだ」
【02】 2万円で初勝負!
翌日、日曜日朝。
3人は、部屋に集まりレースを見ていた。パソコンを55インチ大型テレビにつなぎ、大画面で見た。
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【出走表】
芦屋 3日目 第4レース 予選 G3オールレディース
進入固定 モーニング
1号艇 兵藤綾子 B1級 勝率3.94 モーター- 17.18.23
2号艇 工藤享子 B2級 勝率3.38 モーター× 13.17.19
3号艇 与田綾女 B1級 勝率4.61 モーター△ 10.26.17
4号艇 水芦静華 B1級 勝率4.05 モーター◎ 04.06.03
5号艇 船藤玲夏 B1級 勝率4.34 モーター- 31.14.19
6号艇 藤多杏樹 B1級 勝率4.58 モーター〇 15.24.11
※モーターの後の数字はスタートタイミング
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茂木「『ボジョレー会』最初の舟券購入ですので、『4―1』『4―5』の2点を1万円ずつにしますか?」
由利「いいと思うよ」
丹沢「異議なし」
由利「ところで、倍率は?」
茂木がテレビ画面をオッズに切り替えた。
茂木「『4―1』で17倍、『4―5』で48倍ですね」
丹沢「すごいな! 『4―5』が来たら48万円かぁ。ひひひひひ」
茂木「丹沢さん、喜ぶのは、まだ早いです」
丹沢「そう言われても、もう、なんかもう当たった気がして」
茂木「そんなうまくいったら、私はこんなに損はしていません」
丹沢「茂木さんは、そんなに損しているの?」
茂木「ええ」
丹沢「由利さんも損しているの?」
由利「ああ、たくさん損したよ」
丹沢「いくらぐらい?」
由利「そうだなぁ、ラーメンで言うと、毎日食べて5年分だな」
丹沢「それは、塩分を控えた方が良いと思うけどな。血圧は?」
由利「上は、もう『150』だよ」
丹沢「ははははは」
由利「笑われてしまった」
丹沢「この歳で、もう高血圧か。脳卒中や心筋梗塞に気を付けた方がいいんじゃない?」
由利「今日は、そう言う話じゃないだろ!」
声を強めた。
丹沢「怒ると危ないよ。血管がブチッと」
丹沢が頭の血管が切れて、横に倒れる仕草をした。
由利「脅かさないでくれ」
由利が怯えながら言った。
丹沢「茂木さんは、どのくらい負けているの?」
茂木「苺大福で言うなら、毎日食べて6年分ぐらいですね」
丹沢「そうか、じゃぁこれから苺大福を6年間我慢すれば、元は取れるね」
茂木「そう言う話じゃないですし。正直言って、苺大福を6年間我慢するのは無理です」
丹沢「血液検査で引っ掛からないの?」
茂木「『ヘモグロビンA1C』の値が、もう『6.5』です」
『A1C』とは、糖化ヘモグロビンが、どのくらいの割合で存在しているかをパーセントで表したものである。『6.5%以上』になると、糖尿病が強く疑われる。
丹沢「おっと、こっちは、糖尿病かぁ。もうすぐ、インスリン注射になっちゃうよ」
茂木「う~ん。でも、苺大福、大好きですからねぇー」
丹沢「そうか」
由利「私も、茂木さんも、好きな物は好きなんだから、しょうがないよ。一番悪いのは、そう言ううまい物を作る奴が悪いんだ」
茂木「そうですね。彼らは常に、よりうまい物を作ろうと研究していますからね」
由利「うん、うん」
丹沢「おーっと、人のせいにしているな」
由利「『人のせいにしている』のではない。彼らを褒めているんだ」
丹沢「わかった、わかった、わかりました。では、今日は二人とも、ラーメンと苺大福が食べられるよう舟券が的中するよう祈りましょう!」
由利「なんて、祈るんだよ?」
丹沢「ラーメン……」
胸の前で十字を切った。
由利「お前だけは、長生きするよ!」
丹沢「ははははは。そんなに褒めないでくれ」
由利「褒めてないよ」
丹沢「しかし、ラーメンや苺大福を食べ続けるってことは、ゆるやかな自殺行為だな」
茂木「すごい発想ですね」
丹沢「まぁ、オーバードーズにならないようにするんだな」
『オーバードーズ』とは、薬や麻薬を過剰摂取すること。過剰摂取によって病気になったり障害が残ったりすることである。
由利「薬や麻薬と一緒にするな!」
丹沢「まぁ、いいや。とにかく、由利さんも茂木さんも、今までボートレースで負けているわけだ」
茂木「ええ。でもこれからは、過去の分も含めトータルでプラスにしたいです」
由利「まったく同意見だ。そして、もしこのレースが当たったら、腹いっぱいラーメンが食べたい」
茂木「私も、苺大福を限りなく食べてみたいですね」
丹沢「よし! 儲かったら、みんなでラーメンに苺大福をたくさん入れて、たらふく食べよう!」
茂木「それは嫌です!」
由利「同じく! ラーメンが汚れる!」
茂木「いえ、苺大福様に失礼です!」
丹沢「いよいよ第4レースが始まるぞ!」
【03】 初勝負! レース結果は……?
すでに『4―1』『4―5』の舟券を1万円ずつ購入し、3人は55インチ大型テレビ画面に釘付けになっていた。
ボートレース芦屋、午前10時22分、ヴィーナスシリーズ第4レース本番。
『ヴィーナスシリーズ』とは、レーサーになって15年以下の女子だけで行う開催である。
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【出走表】芦屋 3日目 第4レース
G3オールレディース 予選 進入固定 モーニング
気温16度 曇り 向かい風3m 水温16度 波高3cm
1号艇 兵藤綾子 B1級 勝率3.94 モーター- 17.18.23
2号艇 工藤享子 B2級 勝率3.38 モーター× 13.17.19
3号艇 与田綾女 B1級 勝率4.61 モーター△ 10.26.17
4号艇 水芦静華 B1級 勝率4.05 モーター◎ 04.06.03
5号艇 船藤玲夏 B1級 勝率4.34 モーター- 31.14.19
6号艇 藤多杏樹 B1級 勝率4.58 モーター〇 15.24.11
※モーターの後の数字はスタートタイミング
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♪ファンファーレとともに、6名の女子レーサーが水面に出てきた。
実況「進入はインから1、2、3、4、5、6。進入固定戦です」
由利「あっ、そうか。しまった!」
茂木「見落としていました!」
二人が焦っていた。
丹沢「何があったの? まだ、レースは、これからなのに」
茂木「『進入固定戦』でした」
丹沢「なに? 『進入固定戦』って?」
『進入固定戦』とは、ボートが枠番と同じコースに入るようあらかじめ決められているレースである。
大時計が回り始めた。そして、時計の針が真上を指した。スタート!
由利「横一線のスタートだ!」
茂木「4号艇が飛び出してない」
由利「ダメだ!!!」
由利が頭を抱えた。
茂木「これじゃ1号艇のアタマです」
6艇が第1ターンマークに差し掛かった。すんなりインコースの1号艇が先に回った。続いて2号艇が1号艇の内側から周り、3号艇が1号艇の外側を回った。
丹沢「行け、4号艇!」
4、5、6号艇は後から旋回した。
茂木「すみません。ハズレました」
茂木が肩を落とした。
6艇のボートは、3周するレースの1周バックストレッチを走っていた。
丹沢「えっ! もうハズレなの?」
茂木「『1―2』か『1―3』で決まりですね」
丹沢「へえーっ、そんなもんなんだ。レースは3周するのに、半周でもう決まっちゃうの?」
茂木「ボートレースは、途中で、なかなか抜けませんからね」
丹沢「あきらめが早くない?」
由利「ムリだ」
それから1分半後。
茂木の言うとおり、『1―3』で決まり、配当は370円だった。
茂木「すみません。私のミスです」
由利「いや、私もすっかり見落としていたよ。自分のミスだ」
丹沢「えっ、なんで、なんで、そんな、二人とも?」
由利「すまん!」
茂木「すみません」
二人が丹沢に頭を下げた。
丹沢「やめてよ。なんだよ~、今度は二人とも自分のせいにして? そんな気にすることはないよ。次があるんだからさぁ」
茂木「昨日の予想の段階で、このレースが進入固定戦ということをすっかり忘れていました」
由利「同じく。恥ずかしい。『ススムちゃん作戦』の『S、S、M、C』、選手勝率(S)、スタートタイミング(S)、モーター(M)、コース(C)、の4つだけに気を取られていた」
丹沢「私は初心者だからよくわからないけれど、進入固定戦というのは各選手のコース取りが決まっている、ということ?」
茂木「その通りです。一日12レースの中で、ひとレースか、ふたレース、そう言うレースがあります。他のレースでは、選手がどのコースを取ろうと自由なんですが」
丹沢「普通のレースと進入固定戦との違いって?」
茂木「普通のレースは、選手みんながなるべく内側のコースを取ろうと、コースの取り合いになって、どんどん前に行き、出発地点がスタートラインに近くなってしまうのです。特に1、2、3号艇は進入が深くなり加速が付きにくくなります。ところが進入固定戦では、コースが決まっているから、全員が後方から加速を付けてスタートします」
丹沢「そうすると?」
茂木「全艇が加速できる状態なので、ひどい出遅れというのがありません。もうひとつは、横並びのスタートが多い。というのが特徴ですね」
由利「ボートレース場にもよるけれど、イン逃げ率が約15%上がるんだ」
丹沢「だから、4号艇が飛び出すようなスタートには、ならなかったたんだ」
由利「うん。全艇が全速でスタートラインに向かっているから、スタートの良い4号艇に他の艇が合わせていた感じだな」
茂木「スタートラインまで、加速の途中で、置いてけぼりを食らう選手が居なかったってことです」
丹沢「なるほど。よくわかった。勉強になるなぁ、今回は自分への投資と言うことで」
茂木「完全な私の見落としです」
由利「いや、私も忘れてたよ」
丹沢「全員の責任だな。次回頑張ればいいよ」
茂木「ありがとうございます、そう言っていただき」
由利「そうそう、次回は当てるから大丈夫!」
丹沢「とにかく今日は、高血圧にも糖尿病にもならなくて良かったよ。ははははは」
丹沢は豪快に笑った。
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【後書き】
本編をお読みいただき、ありがとうございます。
ボートレース(競艇)という公営競技は、時に「究極の算数」と呼ばれます。時速80kmを超えるスピードで水上を駆けるボートは、ブレーキがないという特殊な構造ゆえに、スタートの瞬間ですら静止することができません。本作で茂木が熱弁した「フライングスタート方式」は、世界でも類を見ない独特なルールであり、そのコンマ数秒の攻防にファンは熱狂します。
物語の舞台となった第4レース。データ上は「4号艇のスタート一撃」が濃厚に見えましたが、結末は無情なハズレとなりました。その理由は、ボートレース界の伏兵とも言える**「進入固定戦」**というルールの見落としです。
作中の茂木や由利のように、熟練のファンであっても、時に目の前のデータに目がくらみ、前提条件を失念してしまうことがあります。これはギャンブルに限らず、私たちが日常生活や仕事で直面する「思い込みの罠」のメタファーでもあります。
茂木の誤算: 個人の「スタート力」に固執し、レース形式による「加速の均等化」を無視した。
丹沢の余裕: 初心者ゆえの俯瞰した視点。負けてもなお「健康でいられた」と笑う彼の姿は、執着から解き放たれた理想のギャンブラー像かもしれません。
由利が提示した「温故知新」という言葉。過去の失敗(知識)をただの損害で終わらせるか、新しい勝利への糧とするか。彼ら「ボジョレー会」の面々が、ラーメンに苺大福を入れようとする奇想天外な丹沢に振り回されながらも、次なる一手にどう繋げていくのか。
最後になりますが、舟券の購入は計画的に。そして、苺大福の食べ過ぎにはくれぐれもご注意ください。
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【ポイントで「ボジョレー会」を応援!】
惜しくも(?)初戦を外してしまった三人ですが、彼らの「温故知新」はここからが本番です!
「三人に美味しいラーメンと苺大福を食べさせてやりたい」
「進入固定戦の罠、自分も経験あるわ……」
そんな風に思ってくださった皆様、ぜひ作品へのポイント評価(星)やブックマークで応援をお願いします!
皆様の応援ポイントが、三人の次なる的中への「軍資金」になります。
次回、かなり先になりますが、リベンジなるか!? お楽しみに!
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