02 ◎ボートレースで当てる方法 編
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【あらまし】(ボートレース予想エピソード、コメディです。『第3章01~03』の3話でひとつの話です。読者様の舟券購入の参考になりましたら良いのですが……)
茂木数魔が丹沢純也と由利源吾に『ボートレースで当てる方法』をかけっこ(100m走)に例えて丁寧に説明する。それを聞いた丹沢純也は「なるほど」、由利源吾は「素晴らしい!」と絶賛する。
茂木数魔は続けて『ボートレースで当てる方法』は、具体的には『S』『S』『M』『C』の4つ、名付けて『ススムちゃん作戦』が大切なんだと力説するのだった……
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【主な登場人物】
丹沢純也 30歳男 美浦市役所住民課主事
由利源吾 30歳男 美浦市役所税務課主任
茂木数魔 30歳男 美浦市役所情報統計課主任
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 ボートレースで当てる方法
茂木「良かった。では、ここからが本題です! ボートレースで当てる方法ですが」
丹沢「ここだ! 来た来た! 私が一番知りたいのは、必ず当たる方法だよ」
由利「ギャンブラーなら、誰もが思うことだな」
丹沢「そうだ! ここだ、ここだ! 必ず当てたい! お金が欲しい!」
声のボリュームを上げて切実に叫んだ。
由利「大丈夫か! 気が狂ったか?」
茂木「毎回当てるのは無理ですが、いかに当たる確率を高めるか、です」
丹沢「いいよ、それでも。とにかく金が欲しい!」
丹沢がそれを全身で表現した。
由利「お前は金の亡者か!」
茂木「ははははは」
茂木「ボートレースで当てる方法は、」
丹沢「うん、それは?」
丹沢の顔つきが真剣になった。
茂木「『幅広い情報収集力』と『高度なデータ分析』です!」
丹沢「なんだ、それ? さっぱりわからん!」
丹沢の言葉を聞いて、茂木が膝から崩れ落ちた。
由利「やっぱりな。丹沢さんには無理だよ。うん、うん」
由利が軽く二度頷いた。
丹沢「もっと、やさしく説明してくれる?」
茂木「そうですね、丹沢さんが中学一年の時ですが、」
丹沢「うん、」
茂木「クラスに足の速い生徒っていましたか?」
丹沢「ああ、いたよ。瀬古君って子だな。とにかく速かった」
茂木「クラスは、何人のクラスでしたか?」
丹沢「40人」
茂木「もし、その40人で100メートルを走ったら誰が一番になると思います?」
丹沢「そりゃぁ、断トツで瀬古君だろう」
茂木「ですよね」
丹沢「うん」
茂木「それって、丹沢さんが、瀬古君が走るのを何度も見て知っているからです」
丹沢「そうだよ」
茂木「それって、すでに『情報収集』が出来ていて、何度やっても瀬古君が勝てると『データ分析』しているからです」
丹沢「なるほど」
由利「素晴らしい!」
茂木「もし今、その辺の中学校から知らない中学一年生40人を集めて走らせたら、誰が100メートル競走で一番になるでしょう?」
丹沢「当たるわけないよ。だって、みんな初対面だもん。当たるかどうかは、まったくの運任せだな」
茂木「それが、宝くじなんです。ですよね」
由利「うん、その通りだ。茂木さん、いいこと言うね」
丹沢「そうか。茂木さんが今、言ったことが分かったよ」
茂木「それは、良かったです」
丹沢「まず生徒40人で、誰が速いか知っておくことだ。それが『情報収集力』なんだ」
茂木「そうです。それが『情報収集力』です」
丹沢「わかったよ、茂木さん! つまりだね、ボートレーサー全員と友達になっちゃえばいいんだよね。そう言うことでしょ? それが、茂木さんは、言いたかったんでしょう?」
茂木「そうですね、それが出来たら最高ですね」
丹沢「『最高ですね』って、その『最高』をやりましょうよ」
茂木「丹沢さんは、ボートレーサーが何人いるかご存知ですよね?」
丹沢「知っているよ。以前、うちの課長に聞かれて、私が知らなくて怒鳴られたから」
茂木「では、何人ですか?」
丹沢「50人!」
由利「バカだねー、こいつは」
丹沢「えっ! 違うの?」
茂木「それは、ひと開催に来るレーサーの数です」
丹沢「えっ、実は私、ひとりだけ知っているボートレーサーが居るんだけど、」
由利「ああ、速水爽香ね」
丹沢「そう、彼女が、『ボートレース場が全国に24か所ある』って言っていたけれど、同じ50人が、旅芸人のように全国をぐるぐる回っているんじゃないの?」
由利「あ、バカだねー、こいつは」
茂木「なるほど、そう思っていたのですか?」
丹沢「この前、彼女の出場予定が『ボートレース常滑』になっていたから、また同じ50人がそのまま常滑に行くんだと思っていた」
由利「本当に、それじゃぁ、旅芸人とか、劇団の一座だよ」
茂木「ははははは」
丹沢「レース場が夢の舞台で、50人が見せ場を作る。一種の興行じゃないの?」
由利「ははははは。レーサーは梅沢劇団か! でも、いいこと言うね。ボートレーサーも喜ぶかも。いつもながら発想が面白いね」
茂木「丹沢さんの言う通り、ボートレーサーにとって、レース場は『夢の舞台』かも知れませんね」
丹沢「じゃぁ今、ボートレーサーって、いったい何人いるの?」
茂木「1,600人です」
丹沢「1,600人と友達になるのは無理だな。今、たったひとりの友達(爽香)でさえ手を焼いているのに」
そう言って丹沢は天井を向いて目をつぶった。
茂木「まぁ、他の方法がありますから」
丹沢「えっ、何か良い方法があるんだ?」
茂木「ここに居る我々3人は同期だし、これも何かの縁でしょうから、とりあえず3人でボートレースの予想プロ集団を作りませんか?」
【02】 予想プロ集団「〇〇〇〇会」結成!
丹沢「プロか」
由利「言い方を変えれば『舟券師』だ」
茂木「私の夢は将来、億の金をつかむ!」
由利「私の夢は、将来、ボートレースだけで食べていくこと!」
丹沢「私の夢は、腹いっぱい回転寿司を食べること」
茂木「丹沢さんの夢って小さいんですね」
丹沢「えっ! あっ、そぉう? じゃぁ、おいしいものを腹いっぱい食べて、その上、自分だけじゃなく、無職の人や食べられない子供たちにも食を提供できるような、そんな組織と施設を作りたいな」
由利「うん、それなら確かにお金は必要だ」
茂木「では『舟券師』の予想プロ集団を作るということでいいですか?」
丹沢「うん。決まり! 我々3人でボートレースのプロになろう!」
丹沢が、右手の拳を斜め上に力強く突き上げた。
丹沢「こういう夢のある話を聞くと、脳からドーパミンが出るんだよな」
由利「どんなふうに?」
丹沢「ドーパーっと」
由利「丹沢さんは、いいなぁー、軽くて」
茂木「その軽さがいいんですよ、何も悩みがなさそうで」
由利「そうか、脳みそが何もなさそうでか」
茂木「いやいやいや。『脳みそ』じゃなくて『悩み』がです」
由利「まぁ、似たようなもんだ」
丹沢「まるで、私がバカみたいじゃないか?」
由利「自覚がないのか?」
丹沢「ない」
由利「なるほど、重症だ」
丹沢「嘘、嘘、嘘。自覚もあるし、バカの証明もちゃんとあるから」
由利「そうか、良かった!」
茂木「どうですか? 定期的にこの部屋に集まって、徹底的にボートレースを研究しませんか?」
由利「もう、すでに『定期的』ではなく、ここが『たまり場』になっている気はするけどなぁー」
丹沢「そうだな。この部屋で、我々青春のすべてをボートレースにつぎ込もう」
茂木「私たちは、もう30歳ですよ。『青春』と言うには遅すぎませんか?」
丹沢「いや、そう思った時が、いつでも青春さ。そう思うな」
茂木「なるほど。『そう思った時が、いつでも青春』ですか。いい言葉ですね」
丹沢「そうだろう」
丹沢が胸を張って自慢した。
由利「自慢は要らないから」
丹沢「ははははは」
茂木「『何かに思いをつぎ込む』。それが『仕事』か、『恋愛』か、『ボートレース』か、の違いだけですよね」
丹沢「うん」
由利「ボートレーサーは、自分の持てる力すべてをレースにつぎ込むのだから、こっちだって舟券師を目指す以上は、持てる力すべてをレース予想につぎ込まないとなぁ。そうでないと選手たちに対して失礼なような気がする」
茂木「なるほど。素晴らしい考えですね!」
丹沢「うん! やる気が出てきたし、なんか当たりそうな気がしてきたぞ!」
由利「ところで、このボートレース予想集団に、何か名前を付けた方が便利なんじゃないかな?」
丹沢「そうだな、何か良い名前はないかな?」
茂木「そのまま『ボートレース研究会』では、まずいですか?」
由利「もし、その名前が職場にばれたら『お前たち! 何やってるんだ』と、言われそうだな」
茂木「仕事の時間外にやるのだし、業務に支障をきたさなければ公務員法にはひっかからないはずですが」
由利「確かに法律には触れないが、役所ってところは頭が固いからなぁ」
丹沢「まぁ、そうだな。あとあと、邪魔が入るとレース予想に集中できないから。もし、第三者がグループ名を聞いても、内容がわからないようなグループ名にしようよ」
由利「じゃぁ『着順研究所』を略して『ちゃけん』と呼んだらどうだろう」
丹沢「いいね。言いやすいな」
由利「第三者に聞かれてもわからないだろうし。もし、誰かに『ちゃけん、って何?』って聞かれたら『茶色の犬』と言ってごまかすんだ」
茂木「でも我々、誰も犬を飼っていませんからね」
由利「じゃぁ『お茶の研究で、ちゃけん』なんだと、お茶を濁したら?」
丹沢「永久に、お茶が濁ったままになりそうな気がする。なぜなら、うちの市役所には、茶道部があるから揉めそうだ」
由利「それもそうだな、確かに」
茂木「浮かびました!」
由利「何?」
茂木「『ボートレース』だと、そのまますぎて、バレてしまいますので『ボーレー』に、略しましょう」
丹沢「『亡霊』だと、お化けの研究会みたいに聞こえるから、これは悪くはないね」
由利「でも第三者が聞いて、普段の態度からしてこの3人がお化けの研究をするとは思えないだろうな?」
丹沢「ははははは。そりゃそうだ」
茂木「それならば『ボーレー』に似た言葉で『ボジョレー』にしたらどうでしょう?」
由利「なるほど、それはグッドアイデアだ。『ボジョレー』の研究会なら、たとえ誰かに聞かれても納得するだろう」
丹沢「よし、それにしよう」
由利「良かった、良かった」
丹沢「ところで、その『ボジョレー』ってなんだ?」
他の二人が大きくコケた。まるで吉本新喜劇のように派手にわざとらしく。
由利「ウソだろ、ワインの『ボジョレー』を知らないなんて」
丹沢「う、そ。言ってみたかっただけ。二人のリアクションが見たくて。なかなか良かったよ、二人のリアクション」
由利「褒めて貰えてうれしいよ」
丹沢「まぁまぁ、そう喜ぶなって」
由利「怒ってるんだよ」
丹沢「笑っている表情に見えたんだけれどなぁ」
由利「誰が笑っているんだ」
丹沢「まぁまぁ」
茂木「次に進んでいいでしょうか?」
丹沢「うん」
由利「うん」
茂木「『ボジョレー』という言葉は『ボートレース』の『ボ』と『レ』の字の間に、『ジョ』の字が入っています」
由利「そうだな」
茂木「ならば『ジョ』の字に合うように、『女子』を中心にレース予想をしてみてはどうでしょう?」
由利「それはまた、すごいアイデアだな! これは本当に良い結果が出るかも知れないな」
丹沢「ところで、なんでそんなにすごいアイデアなの?」
茂木「それはですね、ボートレーサーというのは、現在約1,600人います」
丹沢「それは、さっき聞いた」
由利「ちゃんと覚えているんだ」
丹沢「まぁな」
茂木「その内、約200人が女子レーサーです」
丹沢「ふむふむ」
茂木「ここまでは、よろしいでしょうか?」
丹沢「ダメだ!」
茂木「えっ! もうダメですか?」
丹沢「『女子が200人』ではなく『女性が200人』だろ」
茂木「いえ『女子が200人』です」
丹沢「と言うことは、女性のレーサーはみんな20歳前なのか? おばちゃんだって居るんだろう?」
由利「ははははは。確かに未成年も居るがおばちゃんもたくさん居るな」
丹沢「なら『女性』のレーサーだろ」
由利「そこにこだわるのか?」
丹沢「日本語は正しく使わないとな」
茂木「対象がおとなでも『女子』と言いますよね」
丹沢「例えば?」
茂木「『女子会』とか、『女子アナ』とか、『女子ゴルフ』とか」
丹沢「でも『女子高』、『女子大』、『女子学生』に、おばちゃんが居るか?」
茂木「そう言われれば……、そうですね、私の負けです」
由利「茂木さんの負けではない。『女子』という単語には意味がふたつあって『女性』という意味と『女の子』という意味のふたつがあるんだ」
丹沢「えっ! そうなんだ?」
茂木「由利さん、フォローありがとうございます」
丹沢「由利さんは、教養があるんだな。いつから教養が身についたんだい?」
由利「今日よう(教養)」
丹沢「ははははは。何度聞いても面白い!」
【03】 女子レーサーへのこだわり
茂木「ここに、こんな本があります」
と、言ってポケットから『女子レーサー名鑑』という小さい本を取り出し、その本のタイトルを指さしながら二人に見せた。
丹沢「見栄を張っているタイトルだな。『女性レーサー名鑑』でいいのに。さっき言った『おばちゃん』も載ってるんだろう?」
由利「これが『おばちゃんレーサー』や『おじちゃんレーサー』が、『いい味』と『いい配当』を出すんだよ。大切にしないと、貴重な存在なんだよ」
茂木「私の愛読書です。ここに女子レーサー全員の勝率や平均スタートタイミング、趣味や出身地まで書いてあるんです」
丹沢「相変わらず私と由利さんの会話に乗らず、冷静に話すなぁ~」
茂木「二人について行くのが難しくて」
丹沢「ははははは。それにしてもその本は、すごいな」
茂木「すごいでしょう」
丹沢「顔写真も載っているのか?」
茂木「はい、載ってます」
丹沢「生年月日も」
茂木「はい」
丹沢「選手の携帯電話番号も?」
茂木「それは、ありません」
丹沢「ないのかよ~、使えねぇな」
茂木「あるわけないです。携帯電話の番号は個人情報ですから」
丹沢「生年月日だって個人情報だろ」
茂木「そうですね。ははははは」
丹沢「まぁいいや。それで、なぜ『女子を中心にレース予想をする』のがすごいんだ?」
茂木「そうだ、その話でしたね。さっき、丹沢さんは『中学一年の時のクラスで、誰が1着になるのか、予想がつく』と言いましたね」
丹沢「うん、瀬古君だ」
茂木「それは、丹沢さんがクラスの仲間のことをよく知っているからだと思うんです」
丹沢「うん。仲間だからね」
茂木「ならば、それと同じように、女子レーサー200人のことを良く知ればいいんです。200人ぐらいなら、かなり深く掘り下げて知ることが出来ると思います。まして、このような本もありますので」
丹沢「ああ、いいね。男には興味がないが、女性の趣味とかならどんどん頭に入りそうだ」
茂木「選手のことを知れば知るほど当たる確率は高くなります。1,600人となると、全員の名前を覚えるだけでも一苦労ですが」
丹沢「無理無理。だいたい、やる気も起こらない」
由利「まぁ、そうだろうな。丹沢さんにとっては、女性はともかく男の名前なんか覚える気もないだろう」
丹沢「ははははは。その通りだよ由良さん」
由利「由利だ!!!」
茂木「ははははは」
丹沢「少しはウケた?」
茂木「200人対象のデータ管理と、1,600人対象のデータ管理では雲泥の差です。我々3人だけで1,600人、すべてのデータを管理するのは不可能でしょうね」
丹沢「スーパーコンピューター『富岳』を買えばいい」
茂木「いくらすると思います?」
丹沢「50万円ぐらい?」
由利「教養の無い奴だ! いつから教養が無いんだ?」
丹沢「産まれた時から」
由利「だろうな」
茂木「そういうパターンもあるんですか?」
丹沢「ははははは」
茂木「構築費用だけで1300億円します」
丹沢「えっ! 130万にまけられないか?」
由利「ははははは」
丹沢「今の話はなかったことにしよう」
由利「変わり身が早い奴だ!」
茂木「世の中、ターゲットを絞った方が成功の確率は高くなります。商品の販売にしてもサービスの提供にしても。だから競艇も的を絞りましょう!」
丹沢「よしわかった! 女子レーサー200人に絞って大儲けしよう!」
茂木「ええ」
由利「うん。『大儲け』と言う言葉を聞いただけで、私は脳からドーパミンが出るんだよな」
丹沢「それ、私のギャグだ。由利さんには『今日よう』があるじゃないか!」
由利「ははははは」
【04】 ボートレース、必勝の法則
茂木「早速ですが、どうしたらボートレースで儲けられるか? これを考えなければなりません」
由利「それが本筋だからな」
丹沢「ボートレース必勝法だね。そんなタイトルの本って、いくつか売っているような気がするが」
茂木「その手の本は、値段が高いだけでちっとも当たりません」
由利「そりゃそうだよな。本当に儲かるのなら、他人には教えないから」
丹沢「なるほど、自分で賭けるよね。この前、ボートレース場に行ったときに、予想屋さんっていう人を見たけれど、あの人たちの予想は当たるのかい?」
茂木「まぁ、損得がトントンぐらいじゃないですか?」
由利「さっきの指南本と同じで、本当に儲かるんだったら予想屋は廃業するだろう」
丹沢「なるほどな。でも、予想屋さんのトントンというのは、さすが、たいしたもんだな」
茂木「ええ。さて本題ですが、私が考えた必勝法なんですが、」
丹沢「相変わらず、マイペースで話を進めるね。いよいよ私にとって、最も興味深い話だな」
茂木「名付けて『ススムちゃん作戦』です!」
丹沢「『ススムちゃん作戦』? なんだ、そりゃ?」
茂木「出走表で重要視すべきは四つの要素です。
一つ、『S』。選手勝率。
二つ、『S』。スタートタイミング。
三つ、『M』。モーター性能。
四つ、『C』。進入コース。
この頭文字を並べて、覚えやすく語呂合わせにしたのが……」
丹沢「ススムちゃん、か!」
茂木「その通り。『ススムちゃん作戦』です!」
丹沢「ふむふむ」
由利「もっともだ」
丹沢「へぇー『もっとも』なんだ」
丹沢は、ボートレースについて、ほとんど知らなかった。逆に茂木はかなり詳しく、由利はボートレースのすべてを知り尽くしていた。
丹沢「ボートレースのボートは『エンジン』ではなく、実は『モーター』だったんだ?」
茂木「いえ『エンジン』です」
丹沢「じゃぁ、なぜ『エンジン』ではなく、『モーター』と言っているんだ?」
茂木「業界用語ですね。この業界では『エンジン』のことを『モーター』と言ってます」
丹沢「了解!」
茂木「繰り返しますが、
『選手勝率が高く』、
『スタートタイミングが早い』。
『モーターが良くて』、
『コースはインより』。
頭文字を並べると『S、S、M、C』。覚えやすくするために、日本語のゴロに直すと『ススムちゃん』です。なので、私が『ススムちゃん作戦』と名付けました」
由利「なるほど。ナイスなネーミングだ。さすが茂木さん!」
丹沢「ボートが進むちゃんか」
由利「でも、その4要素(勝率、スタート、モーター、コース)って、『ボートレース・オフィシャルウエブサイト』の『コンピューター予想』で、誰でも無料で見られるんじゃないか?」
茂木「その通りです。『ボートレース・オフィシャルウエブサイト』の『コンピューター予想』で見ることが出来ます」
由利「じゃぁ、茂木さんの組んだプログラムとどこが違うんだい?」
丹沢「うん?」
茂木「データそのものは同じなのですが、結論である『1―2』とか『2―3』とかという『買い目』を求める計算式が違います」
由利「具体的には?」
茂木「過去5万レースの結果を基に、そこから逆算して、これなら当たる確率が高くなるという式を3年に渡って私が研究しました。何度も何度も修正して、今日に至っております」
由利「すると、今の計算式が、一番当たる確率が高いんだ?」
茂木「はい、そうです。ただ、当たる確率が、高いことは高いのですが、」
由利「『が、』って、なんだい?」
茂木「実は『当たる確率』と『賭け金に対する回収率』という2種類がありまして」
由利「うん」
丹沢「『賭け金に対する回収率』って、何?」
茂木「その日、舟券を全部で1万円買って、その日のトータルの配当金が1万2千円なら、回収率は120%です」
丹沢「なるほど」
茂木「1万円買って、1万5千円戻れば150%です」
丹沢「なるほど」
茂木「ちなみに、客の平均回収率は、75%です」
丹沢「えっ! 意外とみんな当てているんだなぁ」
茂木「はい。例えて言えば、ひとレースに1,000円ずつ賭けて、10レース買ったとします。帰るまでに7,500円の配当金をもらっている計算です」
丹沢「じゃぁ、負けは2,500円だ」
茂木「はい」
由利「遊びとしては、安いもんだろう。あれだけ、迫力のあるレースを見て、ワクワクしながら一日過ごせるんだから」
丹沢「うん、確かに安い。居酒屋で飲むより安いかも」
由利「観客の賭け金の75%を配当に回しているから、こちらとしても儲けるチャンスが多いって訳さ」
丹沢「賭け金の残り25%は?」
茂木「運営費、選手への賞金、福祉施設や学校など公益事業に使われています」
丹沢「そうなんだ。ハズレても賭けた金額の一部は、施設や学校に寄付したと思えばいいんだ」
茂木「そうです。ボートレースは地域に貢献しているので、その分市民の税金が他のことに使えるというメリットがあります」
丹沢「じゃぁ、ギャンブルをやっているという罪悪感が無くなるどころか、舟券を買うことによって、地域に寄付している訳だ」
由利「舟券1,000円につき26円は公益事業に使われる」
丹沢「由利さんは、教養があるんだな。いつから教養が身についたんだい?」
由利「今日よう(教養)」
丹沢「ははははは。何度聞いても面白い!」
茂木「私は、少し飽きてきました」
丹沢「ガクッ!」
茂木「で、さっきの『当たる確率』と『賭け金に対する回収率』の話なんですが、
丹沢「そうだった」
茂木「ひとレースにつき舟券を1,000円買って、それを10回やりました」
丹沢「うん。合計で一日1万円使った訳だ」
茂木「払い戻し総額1,500円を5回当てました」
丹沢「7,500円が戻るから、その日は2500円の負けだな。平均だね」
茂木「ある人は、10レースやって、たった1回しか当たりませんでした。しかし、払い戻し総額が12,000円でした。となると、先程の5回当てるより儲かります」
丹沢「そりゃぁそうだ」
茂木「つまり、『当たる確率』ではなくて、『賭け金に対する回収率』が重要だということです」
丹沢「なるほどなぁ。うん、うん。茂木さんの話は勉強になるよ。由利さんの話もだけど、」
由利「そうかい、ありがとよ。世間の『舟券師』は、儲けてなんぼだからなぁ」
茂木「それで、私は今『当たる確率』を下げてでも、『賭け金に対する回収率』を上げようと、日々研究を重ねてきたのです」
「パチパチパチパチ」丹沢と由利が拍手した。
茂木「せっかくお二人が居るので、早速、明日のレースで、試したいのですが、」
丹沢「いいね! なにか茂木さんの話を聞いていたら、舟券を買いたくなってきたよ」
由利「高配当を狙うってことだな」
茂木「はい、そうです」
丹沢「なんか、すごい、ワクワクしてきた。ひょっとしたら、明日には大金持ちになっているかも。ははははは。笑いが止まらない」
茂木「じゃぁ、ドーパミンも出てますね」
丹沢「ははははは、先に言われた」
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【後書き】
本編をお読みいただき、誠にありがとうございます。
ボートレース(競艇)という公営競技をテーマに、性格も知識量もバラバラな3人の男たちが織りなす「的中への模索」を描かせていただきました。
物語の核心にあるのは、単なるギャンブルのハウツーではありません。理論派の茂木、経験豊かな由利、そして底抜けに明るく、時に核心を突く(あるいは壮大にボケる)丹沢。この3人のやり取りを通じて「未知の物事に挑むときの高揚感」を表現したいと考えました。
劇中で茂木が提唱する「ススムちゃん作戦(S:選手勝率、S:スタート、M:モーター、C:コース)」は、実際のボートレースにおいても非常に重要なファクターです。しかし、丹沢が「ボートレーサー全員と友達になればいい」と豪語したように、最後はハンドルを握る「人間」のドラマが勝敗を分けます。
1,600人という膨大なレーサーの中から、あえて「女子レーサー」にターゲットを絞るという戦略も、情報過多な現代において「いかに自分なりの視点を持つか」という普遍的な攻略法に通じるものがあります。
「30歳を過ぎてボートレースに熱中するのは青春か?」という問いに対し、丹沢が放っ**「そう思った時が、いつでも青春さ」**という言葉。これは私自身が執筆中に最も大切にしたフレーズです。
何かに情熱を傾け、仲間とバカげた議論を交わし、ドーパミンを溢れさせながら夢を見る。その瞬間、人は何歳であっても青春の真っ只中にいるのだと信じています。
3人が結成した予想プロ集団「ボジョレー会」。彼らが導き出す予想が、的中という「配当」だけでなく、読者の皆様の日常にクスッとした笑いという「配当」を届けられたならば、作者としてこれ以上の喜びはありません。
さあ、明日の第1レース、もうすぐ大時計が回ります。皆様の予想も、彼らの予想も、どうか「ススムちゃん」でありますように!
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【作者よりお願い】
ついに結成された「ボジョレー会(ボートレース・女子・研究会)」!
30歳からの青春をボートレースに捧げる3人を、ぜひ一緒に見守ってください。
「ススムちゃん作戦、応援してやるよ!」という方は、
下にある**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして応援いただけると、茂木のデータ分析の精度が上がり、丹沢のドーパミンがさらにドーパーっと出ます!
ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!
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