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女子ボートレーサー と市役所職員  作者: 池井 けい
第2章 国民健康保険課、坂口大輔
19/20

09 これって不倫になるのかな?編

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【あらまし】

 市役所職員の坂口大輔は、記憶をなくした松島海斗君のことが心配で、松島奈美の部屋に訪れる。はたして記憶は戻るのだろうか?


 そして大輔は奈美の部屋に泊まることにした。

 3人は横になり海斗君が寝たところで、大輔は奈美に夫が失踪した原因を聞き始めた。寝ながら話をしていると突然電話が鳴ったのだった……


 奈美は夫が失踪したため『児童扶養手当』をもらっているが、奈美の家庭に坂口大輔が出入りしていることが発覚してしまう。受給している『児童扶養手当』は取消、返還になってしまうのか?

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【主な登場人物】

●登場人物

松島海斗 子 社会科見学で、市役所で倒される

松島奈美 母 松島海斗の母、海斗のことが心配

松島博之 父 松島海斗の父、失踪中

坂口大輔 28歳男 美浦市役所国民健康保険課主事

太井健一 34歳男 美浦市役所こども家庭課職員

並木美佐 45歳女 太井健一と同じ係の主任職員

石丸智子 55歳女 美浦市役所子ども家庭課長

美浦市東町の民生委員

土江順子 以前、奈美と一緒にソウルを旅行した友達

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【前書き】

●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております

●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました

●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです

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【01】 海斗の記憶は?


 坂口大輔は仕事帰りに松島奈美の部屋を訪れた。

奈美「上がって」

大輔「はい」

 奈美の息子海斗はテレビゲームに夢中だった。

奈美「海斗、市役所のお兄さんが来たわよ!」

 海斗は大輔をチラッと見ると、テレビゲームを一旦中止し冷蔵庫から棒の付いたアイスを1本取り出した。そして、またテレビの前に座り、今度はアイスを頭の上でグルグル回し始めた。

大輔「ふむ?」

奈美「なにか?」

大輔「海斗君、頭の上でアイスを回しているけれど、何かのおまじない?」

 奈美が海斗を見た。

奈美「うんもう、あの子ったら」

大輔「どうしたんですか?」

奈美「なぁに、ね。この前、市役所のお兄さん、あなたが来たので『海斗はテレビゲームばっかりやっているから、もっと()()()()をふりまかないと、お兄さんに嫌われるちゃうわよ』って言ったのよ」

大輔「うん?」

奈美「そうしたら、あの子おバカだから、『()()()()をふりまかないで、()()()を振り回している』のよ」

大輔「ははははは」

奈美「私に似ておバカでしょう?」

大輔「お母さんが、おバカかどうかは分かりませんが、お母さんの話を聞く良い子じゃありませんか」

奈美「あなたって、本当にいい人ね」


 この日、奈美は夫、松島博之について坂口大輔に話し始めた。

奈美「夫と出会ったのは、韓国のテーマパークだったわ」

大輔「ロッテワールドですか?」

奈美「ええ、そう。今思うと、夫の博之は最初から、私から逃げようとしていたのではないかと思うの? その後も何度か私と別れたいような会話や素振りがあったし……」

 大輔は黙って聞いていた。

奈美「11年前、私が友達の(土江)順子と二人で韓国ソウルを旅行していた時のことだったわ……」

 奈美は大輔に、夫との出会いから夫が失踪するまでの話をした。


大輔「そうでしたか。ところで、海斗君の記憶は戻ったのですか?」

奈美「それがどうもよくわからないの。でも多分まだ戻ってないと思うわ」

大輔「そうか、まだですか」

 そのとき、奈美の息子の海斗が大輔に手を振った。

海斗「おじちゃーん」

 大輔は『おじちゃん』はないだろう、と思いながらも、

大輔「やぁー、ゲームは終わったの?」

海斗「うん」

大輔「どれどれ」

 そう言いながら、大輔は、海斗の方へと歩いて行った。

大輔「なんのゲームをしていたの?」

海斗「マリオだよ」

大輔「マリオが好きなんだ」

海斗「好きだよ。でも、もう今日は疲れたからおしまい」

大輔「いっぱいやったんだ?」

海斗「うん」

大輔「これから何をやるんだい?」

海斗「何をしようかな?」

 ダイニングルームから母の奈美が

奈美「宿題があるでしょう?」

海斗「うん」

奈美「宿題やってよ」

海斗「うん。でもその前に、何かないかな?」

 大輔が周りを見渡した。本棚に『エルマーのぼうけん』という絵本があった。

大輔「へぇー、こんな絵本を読んでいたんだ」

奈美「ほのぼのとしたお話で、私も海斗も大好きなの」

大輔「そんなにいい絵本なんだ」

奈美「海斗が小さかった頃は私が読んであげていたんだけれど、去年はひとりで読んでいたのよ」

大輔「どんなお話か、覚えている?」

海斗「うううん?」

大輔「そうか、忘れちゃったか?」

海斗「うん」

大輔「そうだよな、去年のことじゃ忘れちゃうよね。どれどれ、」

 大輔がページをめくり始めた。大輔は『エルマーのぼうけん』を読んだことが無かった。

大輔「どんな話なんだ? ちょっと読んでみるね」

 大輔が読み始めた。

大輔「エルマーの冒険。僕のお父さんのエルマーが小さかったときのこと。

 ある冷たい雨の日に、家の近所の街角で年とった野良猫に会いました。

 猫がびしょ濡れでとても気持ちが悪そうだったので、僕のお父さんは言いました。

『僕のうちに来てみませんか?』

 これを聞いて猫は驚きました。

 こんな年とった野良猫に優しくしてくれた人なんか、今までいなかったからです」

 

 黙って聞いていた海斗が、

海斗「それ知っているよ、思い出した!」

大輔「この話、どうなるの?」

海斗「エルマーは、一匹目のワニにキャンデーをあげるんだよ」

大輔「それから?」

海斗「そのあと、それぞれのワニのしっぽにキャンデーをしばり付けるんだ」

 ダイニングで食事の支度をしていた奈美が突然手を止め、海斗を見て目を丸くした。

大輔「それから?」

海斗「ワニの橋をつくり、川を渡るんでしょう」

 それを聞いた奈美がダイニングから全力で海斗に駈け寄り、両手で海斗を思いっきり抱きしめた。

奈美「記憶が戻ったのね!」

 奈美の頬に涙がつたわり落ちて来た。

 海斗はされるがままに、なんのことかわからず黙っていた。

 しばらくして奈美は、今度は、大輔に抱きついた。

 そして、大輔から離れると、

奈美「良かった。海斗すべて覚えているのね」

大輔「それだけ母親が愛情を込めて、何度も読み聞かせたからじゃないですか?」

奈美「そうかしら?」

大輔「子供は覚えていますよ。……きっと死ぬまでず~っと」

奈美「大輔さん、ありがとう」

 奈美が大輔に軽くキスした。

大輔「私の努力じゃないですよ。お母さんが一生懸命育てた証ですよ」

海斗「お母さん、その人、好きなの?」

奈美「うん、とっても」

海斗「ふーん」


 その日、坂口大輔は奈美の部屋に泊まった。

 奈美が真ん中に寝て、左隣では海斗が寝息を立てていた。

奈美「海斗が寝ると静かだわ」

大輔「良く寝ているね」

奈美「うん。なにか落ち着くわ」

 奈美が大輔の手を握った。

奈美「夫は突然前ぶれもなくなく、私の前から姿を消したのよ」

 夫の博之は、妻の奈美に喫茶店を調査していることを話していなかった。

大輔「ご主人さんが消えた原因に、なにか心当たりはないんですか?」

奈美「この前、病院の帰りに話した通りよ。忘れたの?」

大輔「忘れました」

奈美「じゃぁ、もういっぺん言うわ」

大輔「はい」

奈美「1、私がいやになって家を出て行った。

2、以前から女が居て、その女と日本のどこかで暮らすことになった。

3、これからの子育てに不安を感じ旅に出た。

4、仕事がいやになってホームレスになった。

5、仕事の関係で恨みを買い殺された。

6、何が理由かわからないけれど、とにかく自死した」

大輔「わかりました。でも、夫婦仲は良かったんですよね」

奈美「ええ」

大輔「浮気とか、不倫ということもなさそうですね?」

奈美「とにかく、真面目な人でした」

大輔「子供が嫌いとか?」

奈美「いいえ、海斗とはとても仲が良かったし、よく遊んでくれました」

大輔「仕事が好きではなかったとか?」

奈美「それは、あるかもしれません」

大輔「納税者から恨まれていたとか?」

奈美「それは、常にあったと思うわ」

大輔「ということは。やはり仕事の関係で、蒸発した可能性が一番高そうですね」

奈美「やっぱり、そう思う?」

大輔「僕も同じ公務員だからそう思うんですけれど『今の仕事が本当に好きか?』と聞かれたら、即『好きです』と言える自信はないです」

奈美「そうなんだ」

大輔「『差し押さえ』が好きとか、『マルサ』つまり『税務調査』が好きなんて人は、いないんじゃないかな?」

奈美「そうよね」

大輔「僕の職場では、こんなこともあります。収税課で4年間差し押さえをやったと思ったら、次は生活保護で4年間市民を助けるなんてことが」

奈美「市民から取り上げていたのが、次は市民を救うのね」

大輔「はい、180度違う仕事になります」

奈美「差し押さえされた市民が、次に生活保護を受けるなんてこともあるんじゃない?」

大輔「素晴らしい発想ですね。あり得ると思います」

奈美「そおう?」

大輔「ええ。だから『今の仕事、市役所が好きですか?』と聞かれても、異動の多い市役所では、自分が次なにをやっているかまったくわからないんです」

奈美「そうか。八百屋さんなら、ずうっと八百屋さん。大工さんなら、ずうっと大工さん。ずうっと同じ職業でいられるのにね」

大輔「そう。だから、ご主人さんは、奥さんや家庭が嫌で蒸発したのではなく、仕事が嫌で蒸発したんだと思いますよ」

奈美「坂口さんにそう言われて、すごい気が楽になったわ!」

大輔「奥さんが理由な訳ないじゃないですか!」

 奈美が大輔の手をぎゅっと握った。

奈美「でも、それなら蒸発なんかしないで、仕事を辞めればいいのに」

大輔「そう、普通ならそう思いますよね」

奈美「はい」

大輔「ところが職場の中に居ると、転職とか考えられず、周りが何も見えなくなってしまうんです」

奈美「それって、どういうこと?」

大輔「公務員って、なるのも難しいし、そこそこ給料も良いし。だから、今の仕事を辞めようなんて、これっぽっちも考えられなくなるんです」

奈美「ふーん」

大輔「それと追い打ちをかけるように、公務員は何も手に職を持っていないから、つぶしがきかないんです。公務員を辞めても就職出来ないか、就職したところで給料が半分になってしまうか、それがいいところじゃないですか?」

奈美「じゃぁ、主人もそう考えて税務署を辞められなかったってこと?」

大輔「多分。仕事に行き詰まって、もう仕事に行きたくない。辞めたら妻と子を養っていけない。じゃぁどうしたらいいんだろう? 自分が消えるしかない。と、思ったのかも知れませんね」

奈美「聞いていたら、なんだか、私もそんな気がしてきたわ」

大輔「ご主人さんも苦しかったんじゃないですか?」

奈美「そうね」

 そう言って、奈美は右側にゴロンと転がり、自分の体を大輔の胸板に預けた。大輔が奈美の胸とぬくもりを感じた。

奈美「主人と別れた方がいいのかな?」

 奈美が大輔の胸から言葉をかけた。

大輔「ご主人さんの負担を軽くするってことですね」

奈美「うん」

大輔「どうなんでしょう?」

奈美「こうやって、あなたと寝ていること自体、変よね」

大輔「確かに」

奈美「私、これって、二股かけていることになるのかしら?」

大輔「それは、考え過ぎじゃないですか?」

奈美「私、なんだかあなたを好きになりそう」

大輔「それは、僕も同じですが、」

奈美「『ですが』なに?」

大輔「まだ、奈美さんは、妻という立場ですし、これって不倫になるのかな? と」

奈美「それこそ、考え過ぎじゃない?」

 奈美が大輔の上に這い上がり、大輔にキスをした。大輔はされるがままにした。

大輔「ご主人さんが居なくなって何年でしたっけ?」

奈美「海斗が6歳の時だから3年」

大輔「その間、一度も手紙も電話も無いの?」

奈美「一度もないわ」

 奈美が大輔の耳元で、

奈美「ねぇー、」と、ささやいた。

 そのときだった。家の電話が鳴った。

『ルルルルル、ルルルルル』

 奈美と大輔がドキッとした。息をひそめた。

『ルルルルル、ルルルルル、ルルルルル』

 奈美が起きて、電話の方へ歩いて行った。

『ルルルルル、ルルルルル』

 奈美が電話に出た。

『ガチャッ』

奈美「切れたわ」

 奈美が出るのと切れるのと同時だった。奈美はその足で窓際に座り、カーテンの端から外を見渡した。

奈美(誰か居るのかしら?)

 だが、誰も見当たらなかった。

 奈美は再び電話の前に30秒ほど立っていた。しかし、もうかかって来なかった。奈美は元の布団へと戻って行った。

 奈美が戻ると、大輔が奈美の耳元で、

大輔「盗聴されている?」

奈美「まさか?」

 小声で言った。奈美が横を向いて大輔に抱きついた。大輔もその奈美の背中を強く抱きしめた。二人は、不安のまま、眠りについた。


【02】 盗聴器探し


 それから4日後。

 大輔は通販サイトで購入した『盗聴器発見機』を持って、奈美の家へと向かった。

 大輔は奈美の家に入ると、『盗聴器発見機』を持って各部屋の隅から隅まで『盗聴器発見機』がないか調べ始めた。奈美も一緒になって部屋の中を動いた。

 すべての部屋のコンセントや電気機器を調べたが『盗聴器発見機』は見つからなかった。

大輔「盗聴器は、ありませんね」

奈美「じゃぁ、あの夜中の電話は偶然だったのね」

大輔「ですね」

奈美「なら、良いんだけれど」

大輔「僕もこれで安心しました。良かった」

奈美「本当の間違い電話だったのね」

大輔「多分」

奈美「私も、そろそろ夫のことについて気持ちの整理しようかと思っているの」

大輔「『整理』と言うと?」

奈美「離婚も含めて、踏ん切りをつけようかと、」

大輔「そうですね」

奈美「このことについて、誰に相談したら良いのかしら?」

大輔「それなら、市役所で行っている弁護士による『法律相談』を利用するのが良いですね」

奈美「そんなのがあるの?」

大輔「はい。自分で弁護士に相談したら、結構な支払いが必要ですが、これなら無料です」

奈美「それは助かるわ」

大輔「毎週、火曜だったか、金曜だったか、やってるはずですよ」

奈美「時間は?」

大輔「午後だったと思います。必ず予約が必要なので、明日にでも市役所に電話をして聞いてみたらいい」

奈美「そうね。電話して、仕事が休めそうな日に相談してみるわ」

大輔「はい、そうしてみてください」

奈美「夕食、食べていく?」

大輔「はい!」

 この日は、夕食だけ食べて大輔は家に帰った。

 その帰る様子を近隣の住人が目にしていた。


【03】 母子家庭への調査


 翌日。美浦市役所こども家庭課。

 電話が鳴った。

太井「はい、子ども家庭課、太井です」

 太井健一(ふとい・けんいち・34歳)が、電話に出た。

住人「美浦市に住んでいる者ですけれど」

太井「はい」

住人「本町に住んでいる松島奈美さんだけれど、男性が出入りしているんじゃないの? 男が出入りしているところを見かけたよ」

太井「わかりました。調査してみます。ありがとうございました」

 太井がそう言うと、電話は切れた。

美佐「たれこみ?」

 隣に居た主任の並木美佐(なみき・みさ・45歳)が聞いた。

太井「ええ、松島奈美さんの所に、男性が出入りしているそうです」

美佐「そうなんだ。あそこは、旦那さんが失踪したということで、ジフ(児童扶養手当)が出ているわよね」

太井「はい、ジフが出ています」

美佐「旦那さんが戻って来て、それを隠しているのかな?」

太井「そうかも知れませんね」

美佐「じゃぁ、悪いけれど、調査してくれる」

太井「はい、すぐに調査します」

 子ども家庭課では、母子家庭に対して児童扶養手当など子育ての支援金を支給している。美浦市役所では『児童扶養手当』を略して『ジフ』と言っていた。


 先月も、電話が鳴り、

太井「はい、子ども家庭課、太井です」

民生委員「東町の民生委員だけれども」

太井「いつもお世話になっております」

民生委員「7丁目の篠原冷子さんのところ、毎日男性が来ているけれど」

太井「そうですか、」

民生委員「なんなんでしょうね?」

太井「と、言いますと?」

民生委員「偽装離婚かしら?」

太井「なるほど、私どもで調べてみます。ありがとうございました」

 その後、子ども家庭課で調査体制を組み調べたところ、篠原冷子の所に出入りしていたのは、元夫であることが判明した。『児童扶養手当』を受給し、『国民年金保険料』を免除してもらうなど、さまざまな手当や減免を受けるための偽装離婚であることが明らかになったのだった。

 児童扶養手当法第23条により支払った手当を返還させる手続きをし、 児童扶養手当法第35条に基づき、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられこともあり警察に告発した。


【04】 張り込み


 数日後の金曜日、夜6時、太井健一は、松島奈美の家の前で張り込みをしていた。男性が現れるとしたら、金曜日の夕食どきが、確率が高いからだった。太井は車の中で、リクライニングシートを倒し、寝ながら松島奈美の部屋のドアを見張っていた。

 そこに現れたのが、美浦市役所国民健康保険課の坂口大輔だった。

太井(あれっ! 健康保険課の坂口さん?)

 目を疑った。そして注視した。

太井(やっぱり坂口さんだ!)

 部屋のドアが開いて、何も話もなく、スッと中に坂口が入った。

太井(えっ! すんなり入った!)

 太井がびっくりした。

太井(何も声をかけずに部屋に入って行くぞ。そう言う仲なんだ)

太井(まさか、男が市役所職員だったとは!)

太井(松島さんの方が、坂口さんよりいくつか年上だろう? しかもお子さんも居るわけだし、)

太井(いったい、どういう関係で、どこで知り合ったんだ?)

太井(内縁の夫か? でも松島さんは、失踪した夫の籍にまだ入っているはずだぞ)

太井(これはちょっと問題だな。色々調べる必要があるぞ)

 それから2時間ほど張り込みを続け、坂口大輔が出て来ないのを確認し、太井はその場を去って行った。


【05】 出入りしている男の正体?


 週明けの月曜日、松島奈美の家に出入りしていた男が、市役所の坂口大輔だと、子ども家庭課の課長に報告された。子ども家庭課の課長は女性、石丸智子(いしまる・ともこ・55歳)であった。

石丸「そう、そうでしたか、」

 そう言って考え込んでしまった。

石丸「とにかく、お疲れ様でした。席に戻って結構よ」

太井「はい」

 太井は席に戻った。


 翌日。

 太井は坂口を誘って、二人だけで居酒屋「輪多輪多」に居た。二人は、職場ですれ違うことはあっても、話すことは無かった。

太井「忙しいのに、突然すみません」

坂口「いいえ、とんでもない。突然どうしたのですか?」

太井「ちょっとどうしてもお聞きしたいことがありまして、」

坂口「職場ではなく、ここで?」

太井「ええ、周りに職員が居ない方が」

坂口「そうですか」

太井「実は、松島奈美さんのことで、」

坂口「えっ?」

太井「そんなびっくりしました?」

坂口「はい、意外でしたので」

太井「あの家の事情ってご存知ですか?」

坂口「事情って?」

太井「ご主人さんのことは?」

坂口「ああ、そのことなら奥さんから聞きました。失踪している、ってことですよね」

太井「そうです。そう、もうお聞きになっていましたか?」

坂口「はい」

太井「松島奈美さんが、まだ離婚されてないことは知っていますか?」

坂口「はい、そう聞いています」

太井「そうですか。そのうえでなんですが、」

坂口「はい」

太井「坂口さんは、松島さんの家に出入りしてますよね?」

坂口「はぁ、まぁ。もう、市役所で噂になっていますか?」

太井「いえ、誰も知らないと思いますが、」

坂口「よくわかりましたね。国民健康保険課の誰かから聞いたのですか?」

太井「いえ、それは違います」

坂口「そうですか」

太井「私が独自に調べたのです」

坂口「独自に?」

太井「ええ、職務上必要だったので、児童扶養手当法第29条の調査権を基に、張り込み調査をさせていただきました」

坂口「張り込みですか?」

太井「ええ。『児童扶養手当』を支給している関係でです」

坂口「あっ、そうか。松島さん『児童扶養手当』を受給しているんですか?」

太井「ええ」

坂口「それは、知らなかったな」

太井「坂口さんは、松島さんに金品とか援助しています?」

坂口「いや、なにも。ご主人さんは失踪していますが、籍を抜いてなくても『児童扶養手当』って、もらえるんですか?」

太井「はい、籍を抜かなくても、『父親に一年以上遺棄されている児童』。つまり、父親が一年以上まったく消息不明で連絡も無いということは、お子様は見捨てられている状態ですので『児童扶養手当』に該当するということです」

坂口「そうか、なるほどね。1年どころか、失踪して3年になる訳だから『児童扶養手当』をもらっていて当然ですよね。で、なければ、やっていけないですよね」

太井「生活の安定と自立の促進を目的としていますので『児童扶養手当』が役立てば幸いですが」

坂口「松島さんの家に電話をするとかってあるんですか?」

太井「いえ、ないです。それが、なにか?」

坂口「いや、定期的に電話連絡とかするのかな? と思って」

 坂口は、質問の意図をごまかした。

坂口「わかりました。太井さんをはじめ、子ども家庭課の職員さんに、私事でご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 坂口が頭を下げた。

太井「いえ、とんでもない。そんな頭を下げるようなことではありません」

坂口「僕がちょっと、あの家に踏み込み過ぎたようです。まだ離婚したわけでもないし『児童扶養手当』のこともありますし、これからは自重して、しばらくは、そう、離婚について解決するまで彼女とは会わないようにします。ですから『児童扶養手当』の方は、継続して支給していただけないでしょうか?」

太井「むろん、支給打ち切りと決まったわけではないし、坂口さんと松島さんが交際したとしても、それを私たちが止めることはできません。ただ、」

坂口「ただ?」

太井「相手の離婚が成立しておりませんし、市役所の職員という立場もありますし、世間の見る目というのがありますから、個人的には諸問題を解決して、それからお付き合いをされた方がよろしいのかな? と思っています」

坂口「まったくすべて先輩のおっしゃる通りです。お恥ずかしい」

太井「でも『自重する』と言われたので、少し時間を置くのは有効な手段じゃないですか?」

坂口「そうですね」

 それからしばらくして、二人は笑顔で別れた。

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【ブックマーク】

 2025年12月、2026年1月、連載開始から2か月間で、ブックマーク登録をしていただいた方がなんと2名も!

 まだまだ未熟な作者で、初めての投稿であるにも関わらず、本作品を読み続けていただき感謝しかありません。本当に本当に嬉しいです!!!


 歌手や漫才師などの方々が、地方の営業などでお客様が2名、3名だったという話をよく耳にしますが、私からすればたとえひとりの読者様でも、読んでいただけるのならば、この作品、書き続けていきたいという意欲があります。


 さすがに半年も1年も読者が「ゼロ」ならめげるかもしれませんが。とにかくひとりでもブックマークをしていただけるのであれば、親が自分の子に絵本を読み聞かせるように、愛情を持って書き続ける所存です。


 今この文章を読んでいただいている貴方様に心より御礼申し上げます。m(__)m

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【後書き】

 たくさんの作品の中から本編をお読みいただきありがとうございました。m(__)m

 まだまだ未熟ではありますが、皆様に愛される作品となりますよう努力を重ねていく所存です。m(__)m

 読んでいただいた方々には「感謝、感謝」です。「本当にありがとうございました」m(__)m

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