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女子ボートレーサー と市役所職員  作者: 池井 けい
第2章 国民健康保険課、坂口大輔
14/18

04 人口10万人達成!編

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【あらまし】

 市長の思いつきで、人口10万人目となった市民に、テーマパークのチケットをプレゼントすることになった。

 市長の都合で、10万人になる日にちも、どんな人物が10万人目になるかも決まっていた。

 市長は『仲の良い家族連れ』を10万人目に決めていたが、そういう客は一向に現れない。さて、美浦市民の10万人目は誰になるのだろうか……

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【主な登場人物】

黒杉十郎 70歳男 美浦市長

鬼塚厳司 55歳男 美浦市役所住民課長

丹沢純也 30歳男 美浦市役所住民課主事

戸部考一 40歳男 美浦市役所住民課主任

君本早苗 40歳女 美浦市役所住民課主任

天満稔江 37歳女 美浦市役所住民課主任

明石春菜 34歳女 美浦市役所住民課主任

千葉洋市 56歳男 美浦市役所秘書課長

来客の夫婦  美浦市10万人目の転入者

マスコミの人々

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【前書き】

●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております

●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました

●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです

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【01】 人口10万人目の客とその裏側


 市長が登庁して来た。市長はロビーにある人口表示板に目をやった。

市長「おっ」小さく声を出した。

 人口表示板の数字が「99,631人」と表示されていたからである。

市長「おーっ、あと400人か」

 そう、つぶやきながらエレベーターに乗った。

 エレベーターの中で、市長は考え事をしていた。

市長「そうか、そうすればいいのか」

 市長はそうつぶやくと、エレベーターのドアが開き、市長は降りた。

 市長室に着くと早速電話で住民課長を呼び出した。

市長「鬼塚課長、市長室まで来てくれる?」

課長「はい、すぐに伺います」


 市長室。

市長「ロビーの人口表示板を見たよ」

課長「はい」

市長「順調に人口が増えているね」

課長「はい、指示どおりに」

市長「うん、結構結構。いよいよ、10万人になるね」

 市長はご機嫌だった。

課長「はい、もうすぐです」

市長「そこでなんだが、」

課長「はい、」

市長「10万人目の市民になる人に、何かプレゼントしてくれないか?」

課長「それは、良いですね!」

市長「大大的にやろう、大大的に! お祝い事なんだから!」

課長「そうですね」

市長「マスコミも呼んで」

課長「はい、わかりました」

市長「10万人目は、仲の良さそうな家族連れがいいな」

課長「家族連れですね、かしこまりました」

市長「そして、親御さんには花束を。お子さんにテーマパークのチケットをプレゼントしよう」

課長「良いですね」

市長「じゃぁ頼むよ」

課長「日にちは、いつが良いですか?」

 市長が手帳を見ながら、

市長「10万人の日にちは、7月18日水曜日だな。それしか空いてないよ」

課長「承知しました」


 住民課に鬼塚課長が戻ってきた。

課長「天満(てんま)、ちょっと」

 天満稔江が課長席の前に立った。

稔江「はい」

課長「7月18日の朝に、一万円の花束と、その前日までに、テーマパークのチケット2枚を用意してもらいたいんだが」

稔江「予算がないです」

課長「予算がないのか?」

稔江「急におっしゃられましても。そんな予算取っていませんので」

課長「なんとかならないのか?」

稔江「無理です。私たちだって、消しゴムから電卓に至るまで、自分のお金で買っているんですから」

課長「……」

 露骨に不機嫌な顔をした。


稔江「予算要求しても、削られてしまいますし」

課長「困ったな」

稔江「花束とテーマパークのチケットは、何に使うんですか?」

課長「人口10万人目の方へのプレゼントだよ」

稔江「プレゼントですか?」

課長「7月18日に使いたいんだよ」

稔江「人口10万人になる日が決まっているんですか?」

課長「そうだよ。あたりまえだろう」

稔江「じゃぁ、人も決まっているんですか?」

課長「仲の良さそうな家族連れだな」

稔江「それも決まっているんですね」

課長「そうだ! 君本きみもと

 今度は、君本早苗に声をかけた。

早苗「はい」

課長「秘書課と連携して、18日にマスコミを呼んでおいてくれ。美浦市もいよいよ10万人になるって」

早苗「当市も10万人になるんですか?」

課長「そうだよ、今のペースで人口が増えれば、行くに決まっているだろう」

早苗「わかりました」

課長「それにしても、花代とチケット代には弱ったなぁ」

稔江「秘書課で出してもらったらどうですか? あそこならお花もしょっちゅう買ってますし、つい最近では、市長車も随分高級になったぐらいですから、予算がたっぷりあるんじゃないですかか?」

 皮肉を込めて言った。

課長「うーん……。ちょっと秘書課に行ってくる」


 秘書課。

住民課長「住民課では、予算がないので、こちらで一万円の花束を買ってもらえないかな?」

秘書課長「いいですよ、ただし、5千円の花束になりますが」

住民課長「わかりました。それと、テーマパークのパスポート二枚を買って欲しいんだけれど?」

秘書課長「それは無理ですね。予算がないです」

住民課長「そうですか。今、市長に会えますか?」

秘書課長「今なら、5分ぐらい大丈夫です。どうぞ行ってください」

 住民課長が市長室のドアをノックした。

市長「はい、どうぞ」

住民課長「失礼します。市長、さっきのお話なのですが、テーマパークのパスポート代が無くて、住民課も秘書課も予算がないらしいのです」

市長「そうか。じゃぁ住民課長のポケットマネーでひとつ頼むよ」

住民課長「えっ、私がですか?」

市長「この前の、君の懲戒処分で『減給10分の3、1か月』を私がにぎりつぶしてやったんだよ。それに比べたら安いもんだろう」

住民課長「あっ、は、はい」

市長「そんな、みみっちいことを言ってるんじゃないよ。これから次長、部長になる者が」

住民課長「たいへん失礼しました。こちらで用意させていただきます」

市長「じゃぁ、あと、マスコミ等の準備を頼むよ。一大イベントだからな」

住民課長「かしこまりました」


 住民課長が秘書課に行っている間に、受付担当の明石春菜が天満稔江の『島(事務机の塊)』にやってきて話し始めた。

春菜「私の住んでいる所の町会長がね、」

稔江「うん」

春菜「市長の後援会に入っているのよ」

稔江「うん」

春菜「で、市長が後援会の人を集めては『人口10万人の美浦市をいかに良くするか、それが私の使命であります』と言ってたらしいのよ」

稔江「えっ! 美浦市はもう10万人になっていたんだ?」

春菜「そうなのよ。だから市長、早く人口を10万人にしたくて焦っていたんじゃない?」

早苗「そう言う事だったのね」

 早苗が口を挟んだ。

春菜「やっと人口10万人になるから市長もほっとしてるんじゃない?」

稔江「でも、人口10万人になる日が『今月18日』って、決まっているんですか?」

戸部「決めておかないとマスコミを呼べないからな」

 戸部が稔江の質問に答えた。

稔江「それって、インチキじゃないですか?」

戸部「すごい言葉をしっているねぇ。そう、インチキだよ」

稔江「10万人目の人も決まっているんですか?」

戸部「そうだよ」

稔江「それも、インチキじゃないですか?」

戸部「そうだよ、インチキさ。10万人目が、反社会的勢力の人や、痴呆老人だったらまずいだろう。どこの世界でも、絵(画像)になる人を選んで花束を渡すのさ」

稔江「私、知らなかったわ」

戸部「だいたい10万人目が転入者と決めつけるのもおかしいだろう、10万人目は出生した赤ちゃんかも知れないし。よく、お祭りや花火大会で50万人の人出とか、百万人の人出とか言うけれど、あれだって誰が数えているんだい? 自治体や警察が適当に決めて発表しているんだよ」

稔江「そうなんだ。じゃぁ初詣の人数も同じね」

戸部「そうだろうな。300万人なんて、誰も数えることは不可能だよ。まぁ、いずれも一種の必要悪なんじゃないかな」

早苗「やっぱり人数水増しの件は、課長が関わっていたわね」

戸部「うん」

早苗「市長も」

戸部「うん」

丹沢「マスコミまで呼んで、市長の売名行為だな」

戸部「と、いうことだな」

早苗「何もないのに4千人増やす訳ないか」

戸部「うん」

丹沢「でも、数字が改ざんされたと知りつつ、私たちは黙って見ているしかないんですよね」

戸部「ああ、迂闊なことを言えばどこかへ飛ばされるだろうな」

早苗「そうなんだ。もし、証拠をあげても?」

戸部「『過去の数字が間違っていたんだ』とか、なにかしら理由を付けて、絶対に譲らないだろうな」

早苗「なるほどね」

丹沢「結局、捻じ曲げられちゃうんだよ」

戸部「嫌な世界さ。まぁ、出来る事なら関わらないのが一番だな」

丹沢「いつか、きっと、天罰が下るさ」

早苗「私、それを願っているわ」


【02】 10万人達成と花束


 7月18日、住民課。

午前11時、市長が住民課にやって来た。

市長「じゃぁ、家族連れが来たら、行くぞ」

課長「かしこまりました」

 近くで天満稔江が花束を持って待機している。君本早苗もテーマパークのチケットを持って待機していた。しかし、家族連れは来なかった。それから、5分、10分、15分、時間だけが経過した。

市長「来ないな」

課長「はい」


 事務所で。

戸部「おっ! 来た!」

 早苗と稔江が市役所入口を見た。

戸部「家族連れだ!」

 犬の入った携帯用ペットケージを抱えた老夫婦が入って来た。

稔江「ふふふふふ。犬を入れて3人家族ね」

早苗「ケージの中は子犬みたいね。確かに家族連れね」

戸部「あれで決まりだな」

早苗「10万人目が犬なんて笑っちゃうわね」

稔江「犬がテーマパークに行くかしら?」

早苗「テーマパークには、盲導犬の類しか入れないはずよ」

戸部「それなら、テーマパークに入る時に『盲導犬だ』と言えばいい」

早苗「なんで、盲導犬が老夫婦に抱えられてるのよ!?」

戸部「ははははは」

 早苗のナイスなツッコミだった。


 ロビーで。

市長「もう、いいや」

 その時、

市長「あの夫婦は引っ越してきたのかな?」

 住民課のカウンターに、いつの間にか来ていた客を市長が指さした。課長がすぐにカウンター窓口に行き、転入の客かどうかを確かめた。

課長「お二人は、ご夫婦?」

夫婦「はい」

課長「転入の手続き?」

夫婦「はい」


 課長は市長の所に走って行き、息を切らせながら、

課長「転入です。大丈夫です!」

市長「そうか!」

 市長が花束を持って、窓口にいた夫婦のところに歩み寄って行った。

市長「おめでとうございます!」

 ロビー全体に聞こえるような大きな声で言った。

夫婦「えっ!」

 夫婦が目を丸くした。

市長「この市の10万人目の市民となりました、おめでとうございます!」

妻「そうなんですか?」

 妻がビックリしたような、迷惑なような表情を浮かべた。

 近くでフラッシュがいくつか焚かれた。

市長「こちらが、記念の花束です」

妻「ありがとうございます」

 市長が夫婦の間に割り込んで真ん中に立った。そして、市長が奥様に花束を手渡すところで動作を止めた。マスコミと市の関係者が一斉にフラッシュを焚いた。


 事務所内。

早苗「やっぱり市長が真ん中なんだ。夫婦の間に割って入っちゃうなんて、変なのぉー」

戸部「夫婦の間に入るとはねぇー」

稔江「常に自分が中心なんでしょ」


 ロビーで

市長「チケットくれるー」

早苗「はい」

 君本早苗が市長にテーマパークのチケット2枚を手渡した。

市長「こちら、記念品です。お受取りください」

 市長が2枚のチケットを夫の方に手渡した。

夫「ありがとうございます。でも、使う機会があるかなぁ?」

市長「ぜひ、使ってください」

夫「はい……」

 夫の声が弱々しかった。

市長「その2枚のチケットを広げて持ってもらって良いですか? こんなふうに」

 夫が2枚のチケットを少しずらして持ち、市長と夫婦が正面を向いた。再び、フラッシュが焚かれた。


 無事、写真を撮り終えると、ロビーで市長が住民課長を呼んだ。

 市長と住民課長がロビーの片隅に寄ると、

市長「ちゃんと、家族連れを用意しとかなくちゃだめだろう! 気が利かねぇなぁ!」

課長「すみません」

 軽く頭を下げた。

市長「まったく!!!」

 そう言い捨てて、さっさと市長室へと戻って行った。


 事務所内で。

稔江「課長が市長に怒られているみたい」

早苗「なんて怒られているのかしら?」

戸部「『なんで家族連れじゃないんだよ!』ってとこかな」

早苗「7月18日の平日なんて、まだ小中学校が終わってないもん。家族連れは無理よ」

稔江「課長なんて、実務を何もわかってないもん」

戸部「管理職なんて、みんなそんなもんだろう」

稔江「だいたい家族連れを選んで入園チケットを渡すんなら、チケット2枚じゃなく、4枚は用意するんじゃない?」

戸部「確かに」

早苗「だいたい市長はせこいのよ。市民や職員にお金は使わず、自分の為だけに使うのよ」

稔江「市長の車も新しくなったものね」

早苗「そうよ。前の乗用車が500万円だったけれど、今度900万円のワンボックスカーに買い替えたでしょう」

若石「えっ! 900万円ですか?」

早苗「そうよ、そう聞いたわ」

若石「それにしても高すぎますね」

早苗「なんでも、非常事態の時、車の中で寝泊まりするからって色々と改造したんですって」

若石「なるほど」

戸部「市内しか移動しないんだから、市役所に戻ってくればいいんだよ」

早苗「それが、市長室にもシャワールームを付けたのよ。その工事費が1000万円よ」

若石「げっ! それも税金!」

戸部「非常事態の時なら、濡れたタオルかウエットティッシュで体を拭けば十分だよ」

早苗「私なら1週間ぐらい、そのままで平気よ」

戸部「素晴らしい!」

 戸部が音のしないように拍手した。


 翌日。

 いくつかの新聞に『美浦市人口10万人』の記事が載った。

 朝、始業前に戸部が自宅から新聞を持ち込んで、早苗らに記事を読み始めた。

戸部「『美浦市人口10万人目は、隣のよもぎ市から美浦市の老人ホームに入る中村勝さん(90)。この日、手続きに市役所を訪れたお孫さん夫婦から花束とテーマパークのチケットが渡されることとなった」

稔江「えっ! 写真を撮った夫婦は代理人だったんだ」

早苗「ははははは」

稔江「バカみたい。90歳でテーマパークに行けるのかしら?」

戸部「無理だろう、市役所にも来られないくらいなんだから」

早苗「だったら、まだ犬の方が良かったんじゃない?」

戸部「ははははは」

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【後書き】

たくさんの作品の中から本編をお読みいただきありがとうございました。m(__)m

まだまだ未熟ではありますが、皆様に愛される作品となりますよう努力を重ねていく所存です。m(__)m

重ね重ね御礼申し上げます。本当にありがとうございました。m(__)m

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