第9章: 「ザラの目的」
窓から差し込む朝日で目が覚めた。ベッドで伸びをして満足げに息をつく。
この報酬で、ようやく家を買って小さな店も開ける。ドラゴンも危険な依頼ももういらない…
宿の食堂で朝食を済ませ、報酬金の使い道を考えながら街へ出た。途中、ある菓子屋の前で異常な混雑に気づく。列が街まで続き、客たちがじれったそうに囁き合っていた。近寄って事情を聞いた。
「ここは何の行列ですか?」列の男性に声をかける。
「今年の特別プリンだよ!」彼は興奮気味に説明した。「一年に一度だけの販売で、今日がその日。特別な材料で作られるんだ。早く来ないと買えなくなる」
「プリンか…」
列をじっと見る。
まあ、午前中は予定もないし、試してみるか
一時間近く並び、ようやく順番が来た。疲れているが愛想の良い店員が、赤いリボンで丁寧に包まれた小さな金色の箱を手渡してくれた。
「お待たせしました! こちら、最後の一つです」
「ありがとう」満足げに笑う。
店を出た直後、店員の声が響いた。
「特別プリン、完売です!」
がっかりしたため息が列から漏れる。振り返ると、解散する人混みの中に見覚えのある姿が――肩を落とし、がっくりとした表情のザラだった。
「ザラ?」近づいて声をかける。「プリンを買いに来たのか?」
彼女は驚いて顔を上げた。
「煉…? 別に」そう呟いたが、声に力がない。
まさか…
「今日の用事って、これだったのか?」
ザラは俯く。
「ええ…遠くから来たのに。寝坊したせいで」
手にした箱を見つめ、ザラと視線を合わせる。迷わず差し出す。
「受け取ってくれ」
彼女は瞬きする。
「どうして? あなたも並んだのに」
「君の方が欲しそうだったからさ」そう答え、「俺は別のでもいい」と付け加えた。
ザラは真剣な眼差しで私を見つめた。
「…ありがとう」
その瞬間――ガシャン! 近くで花瓶が割れる。
「落ちてくる物に縁が悪いね」
「あ、ああ…たまに変なことが起きて」冷や汗をかきながら嘘をつく。
ザラがプリンを味わいながら、二人でルミスを歩く。
「…覚えてた味と一緒」赤い瞳に懐かしさが浮かぶ。
「前に食べたことあるのか?」
「子供の頃、一度。母が旅行先で買ってくれた」
彼女の口調に何かを感じた。
「お母さんとは、あまり会わないのか?」
ザラは少し間を空ける。
「ええ…故郷には滅多に帰らない」
「理由は?」
歩きながら、ザラは語り始めた。
「私はクリムゾンファイアの一族よ。火魔法の一族で、赤い髪と瞳はその証」
「なるほど。確かに、君のような外見の人は見たことがない。なぜ帰らない?」
「このせいよ」手のひらを開くと、小さな炎が現れ、やがて稲妻に変化した。
「雷か? マヤが『存在しない魔法』って言ってたな」驚きながら言う。
「本来は存在しない。でも私は火を極め、それが…雷へと進化した。『火魔法の上位形態』だと主張したが、一族は理解してくれなかった。対立したわ」
前世の知識を思い出す。
「火も雷もエネルギー形態だ。光と熱を生む。君の理論は理にかなってる」
ザラは足を止め、驚いた様子でこっちを見る。
「変なこと言ったか?」
「いいえ…ただ、あなたがそう言うとは思わなくて」かすかに微笑みながら呟いた。
少しの沈黙の後――
「煉」ザラは突然決意に満ちた声で言った。「決めた」
「何を?」
「あなたと組む。パーティを結成しましょう」