第6章: 「氷蝕」
赤髪の少女は一瞬でドラゴンを仕留めた。冷たい風が彼女のマントを翻し、手にはまだ雷の残光が残っている。
「二人とも、大丈夫?」
「は、はい……助けてくれてありがとう」私はまだ呆然としていた。
「煉、この子おかしい。雷魔法なんて使えるはずがないのに」マヤが小声で囁いた。
「良かったら、ここから離れた方がいい。危険だ」
「何様のつもり?! 私たちはランクSよ! あなたが来る前にもう少しで倒すところだったんだから!」マヤが怒りを爆発させた。
不気味な軋む音が会話を遮った。
「今の何?」マヤは即座に構えた。
謎の少女の背後で、首のないドラゴンの体が動き始める。
「危ない!」
少女は振り向いたが、遅かった。
ドラゴンの首元から氷塊が噴き出し、新たな頭が形成されると、その爪が少女を押し潰そうとした。
考えずに、私は駆け寄り手を伸ばした。
バキン!
少女の雷より弱いながら、私の指先から放たれた稲妻が怪物に命中。
ドラゴンが怯んだ隙に、少女は間一髪で回避。
彼女の紅い瞳が私を捉え、信じられないという表情を浮かべた。
「……どうして? 雷を操れるのは私だけのはず」
マヤが炎の剣を構え、前に立った。
「このドラゴン、何なのよ?! それに煉、今のはいったい?!」
「わからない!」
赤髪の少女はマントを整え、冷静さを取り戻す。
「『氷蝕』よ。傷つければつけるほど、魔力が増大する。つまり私たちが攻撃すればするほど、こいつは強くなる。気付くのが遅れた……」
マヤの顔から血の気が引いた。
「『氷蝕』……? 神話の生き物じゃないの?」
「神話にも元ネタはある。さて、三対一ね」少女が戦闘態勢に入った。「逃げるなら今よ」
ドラゴンは完全に再生し、以前より強力な姿で咆哮した。
「逃げるわけないだろ! 私は戦いから逃げたことなんてない!」
「待って! でも……傷つけるほど強くなるなら、どうやって倒すの? 不死身じゃないか」
「方法は一つ」ドラゴンが突進してくる中、少女が言った。「魔力核を破壊すること」
「魔力核?! そうか、それでいける!」マヤが爪を躱しながら叫んだ。
「魔力核って?」
「体内のランダムな位置にできるエネルギー集中点。臓器ではなく、特定の『点』……普通は見つけられない」
その時、私はドラゴンの左腹に光る何かを感知した。
「あの光って部分、重要じゃない?」
二人が私を奇異な目で見た。
「魔力が見えるの?!」マヤが驚愕した。
「何かはわからないけど、そこにある気がする」
赤髪の少女が頷く。
「炎剣使い、囮になれ」
「命令するな!」しかしマヤは作戦を理解したようにドラゴンに斬りかかった。
「あなた」少女が私を見た。「光る点が露出した瞬間、正確な位置を教えろ」
「わかった」
マヤがドラゴンの注意を引き、私はタイミングを計る——
「今だ! そこ!」ドラゴンが傷ついた翼を上げた瞬間、叫んだ。
ザーーーン!
少女の雷槍が私の指し示した一点を貫く。
ドラゴンの体は氷結し……砕け散った。