第5章: 「レンの力・後編」
拳がまだ熱かった。
ドラゴンはよろめき、信じられないように首を振る。私も同じ気持ちだ。
「……レン?」マヤが傷ついた脇腹を押さえながら立ち上がる。目は驚きに見開かれていた。「何、あれは……?」
「分からない」自分の手を見つめながら答えた。
「戦えないだって、どういうことよ!? 最初からこうしてくれればいいのに!」
「本当にさっきまでできなかったんだ!」
ドラゴンの咆哮が会話を遮った。獣は急速に回復し、今や瞳には興味などなく――殺意だけが燃えている。
マヤが剣を構える。
「後で問い詰めるからな。今は集中しろ。いいか?」
「は、はい……」(質問が増えなきゃいいけど)。
腰に帯びた剣に視線をやる。ルミスから持ってきた時は使い方も分からなかった。だが今、抜いたその刃は、単なる金属の塊ではない。腕の延長のように感じた。
獣の再襲撃。
今度は体が勝手に動き――軽々と回避。
マヤが炎の剣で攻撃する間、私はなぜか弱点と分かる部位を斬りつける。
「左!」マヤの声。
ドラゴンが回転し、私の剣がその爪にぶつかり、金属音が響く。
「いいぞ!」マヤが笑った――戦闘中に見せる表情とは思えなかった。「けっこうやるじゃない!」
「防いだだけだ。その傷、大丈夫か?」
「大したことない! 死なないようにしろ!」
◇ ◇ ◇
一方、ルミスギルドでは……
受付嬢が日報をめくっていると、伝令が近づいた。
「ギルド委員会からの書簡です!」
「委員会から? ありがとう」
封を切った受付嬢の顔が、一瞬で青ざめる。
"ギルド委員会より、『氷結の淵』におけるドラゴン討伐任務の即時撤回を通達する。新たな記録により、対象は『氷蝕竜』と判明。極度の危険種に分類されるため、再評価まで掲示禁止とする。"
「『氷蝕竜』……?」紙を握りしめ、呟く。
近くで酒を飲んでいたドワーフが振り向く。「おっ? 傷つけるほど強くなるあの化け物か?」
受付嬢は答えず、窓の外――遠くの氷結の淵に向かう山々を見つめた。
「レン……マヤ……」無事でいて。
◇ ◇ ◇
マヤと私は息の合った連携を見せた。
彼女の炎がドラゴンの翼膜を焼き、私は自分でも説明できない精度で脚の腱を斬りつける。
苛立ったドラゴンは傷だらけの翼を広げ、切り裂くような吹雪を起こした。
私たちは風に耐え、飛ばされまいと踏ん張る。
「レン、待て! 何か企んでる!」
マヤの言う通りだった。全身が警告を発する――何かが来る。
ドラゴンの喉元に青白い光が集まる。間違いない、必殺のブレスだ。
その頭が傾いた瞬間――
「構えろ! かすっただけでも終わりだ!」マヤが叫ぶ。
「わ、わかった!」
その時、雷鳴が轟いた。
『プリン! 今の雷、お前か!?』
『違うわ! 私じゃない!』彼女も混乱している。
そして――
ザァーッ!
稲妻が閃光を放ち、目を閉じる間もなく。
再び視界が開けると、ドラゴンの首が地面を転がっていた――一撃で断たれ、体は崩れ落ちる。
マヤと私は呆然とする。
「……何? レン、お前だったのか?」
「……違う。いったい何が?」
冷たく澄んだ声が背後から響く。
「ああ……ここにいたのね」
赤い髪と瞳、風に翻える茶色のマントの少女。村で噂の、あの赤髪の娘か?
「二人とも、無事?」