第19章:「黒魂(クロタマ)」
屋敷の裏庭へと向かった。雨はすでに止んでいた。屋敷内の幽霊を一掃した後、残るはこのエリアだけ……奇妙なことに、そこはがらんどうで、先ほど見た青白いオーラだけが浮かび、我々を導いているようだった。
裏庭に足を踏み入れた瞬間、その広さに一同は息を飲んだ。同時に、不気味な悪寒が背筋を走る。
「レン!!」
プリンの声が頭の中で炸裂した。「これは……とんでもなく危険よ!今すぐ逃げなさい!」
「え……?」
「みてニャ!」ノコの毛が逆立った尾が指し示す先で、青白いオーラが急速に膨張し始めた。やがてそれは巨大な丸い幽霊へと変貌する。一見すると不気味よりむしろ愛嬌すらある風貌だが――明らかに何かがおかしい。
「これは……嫌な予感がする」ザラが一歩後ずさる。
「何だこいつは!?」マヤが剣を抜く。
「正確にはわからない」ザラの眉間に深い皺が寄った。「だが、見た目以上に……非常に危険なものだ」
「精霊様たちが騒いでるニャ……」ノコが俺の背後に隠れた。
「レン、逃げて!」プリンが絶叫する。「あれは『黒魂』よ!」
「クロタマ……?」思わず声に出してしまった。
ザラが鋭くこっちを振り向く。
「まさか……」
その瞬間、幽霊が襲いかかってきた。
「触れるな!」ザラが間一髪で回避しつつ叫ぶ。マヤも飛び退く。
「どういうことだ!?」
「もし本当にクロタマなら……」ザラは息を荒げ、牽制の雷を放つ。「触れた者は……幽霊にされる」
一同は凍りついた。屋敷で遭遇した無数の幽霊たちの正体が、ようやく理解できる。
マヤが顔を歪める。
「だからこんなに幽霊がいたのか。冒険者も、住民も……全てあいつにやられたんだな」
ザラが冷や汗を拭いながら頷く。
「そういうこと」
俺は仲間たちの顔を見た。プリンは逃げるよう訴えている。だが、ルミスの人々の笑顔――街路で遊ぶ子供たち、商人たちの姿が脳裏をよぎる。
「みんな」俺は静かに、しかし強く言った。「逃げるべきなのはわかってる。だが……これを倒すのを手伝ってくれるか?あいつをこのままにしておくわけにはいかない」
マヤが炎の剣を煌めかせて笑う。
「はっ!前にも言っただろ?私は戦いから逃げない!」
ザラがマヤの隣に立つ。
「レン……あなたが望むなら、私もついていく」掌に雷を蓄えながら。
ノコがぴょんと前に出て、しっぽをふんわり振った。
「やっぱりレンの匂いは当てになるニャ!私も協力する!」
仲間たちの決意に、俺は笑みを浮かべた。
「よし……!」剣を構える。「行くぞ!」
クロタマが襲いかかる。戦いの火蓋が切って落とされた――