第16章:「秘密と休戦」
「ここで何してるの?」ノコが俺の背中で揺れながら聞いた。
「この辺りに買った家に向かってる」俺は振り払おうとした(が失敗した)。
「ああ! 幽霊屋敷だニャ?」ノコは当然のように言った。
ザラが腕を組む。
「どうして知ってるの?」
「だって、この森の番人だからニャ!」ノコは胸を張り、誇らしげに続けた。「時々、気絶した冒険者を助けて、近くの街に連れて行ってるニャ。たしか……ルミスって言ったかな?」
マヤがこめかみを押さえた。
「冒険者が森の外で目覚める理由がわかったわ……」
「ねえ」ザラが突然質問した。「この森に謎の生物がいるって知ってる?」
ノコは首を傾げた。
「謎の生物? うーん……魔物はいっぱいいるけど、そんなのは――あ!」彼女の尾が逆立った。「前に冒険者に『怪物だ!』って叫ばれたことあるニャ! 私の可愛いしっぽを見て! ひどいニャー!」
ザラは苦笑いしながらため息をついた。
「なるほど……謎は解けたわ。私はザラ」
「マヤよ」
「俺はレン……」ノコの足腰に締め付けられながら答えた。「……いつまでくっついてるつもりだ?」
「ずっとニャ! この背中は私のものニャン」
ガシャン!
突然、頭上から木の枝が落ちてきた。
「レン、危ない!」マヤとザラが叫ぶ。
ノコは瞬時に反応し、爪で枝を真っ二つに切断した。
「変だニャ……」彼女は木の破片を眺めながら呟いた。「森があなたを襲おうとしてるみたいニャ」
マヤは鼻で笑った。
「ああ、レンにはよく空から物が落ちてくるのよ。不思議な奴だ」
「暗くなる前に進もう」俺は空を見上げず、プリンの怒りを感じながら言った。
ザラが頷く。
「そうね。助けてくれてありがとう、ノコ」
「じゃあな、猫娘!」マヤは手を振った。
しかし、ノコはその後もついてくる。
「ノコ……俺たちについてくる気か?」震える声で聞いた。
「もちろんニャ! どこまでもついていくニャ!」
マヤとザラは視線を交わし、囁き合った。
「『厄介なのが現れた』」マヤが唇を震わせる。
「『私たちのライバル関係で十分だ』」ザラも応じた。「マヤ、意見は違っても……今回は」
「『わかってる』」マヤが遮った。「『二人で手一杯よ。一時休戦にしましょう』」
「私に対する休戦? なんでニャ?」ノコが突然二人の間に割り込み、笑顔で聞いた。
「「は?! いつから?!」二人は跳び上がった。
「あ、わかったニャ!」ノコは手を叩いた。「あなたたちもレンが好きなんだ! 当然ニャ、強いもんね!」
「「黙れ!」二人は同時にノコの口を押さえた。
俺は混乱しながら近づいた。
「どうした?」
「「何でもない!」二人はノコを解放し、「さっさと行きましょう!」
押し合いへし合いの中、マヤとザラはノコを引き寄せ、最後の警告を囁いた。
「『いいわ』」ザラの声が冷たい。『誰も戦わない……だが、秘密は守れ』
「なんでニャ?」ノコは首をかしげた。「私はもう好きだって――」
「『私たちは気にするの! 声を上げるな!』」
「わかったニャ~」ノコは投降するように手を上げた。「変な人たちニャ……」
「「変だと?!」マヤの目から火花が散った。
ザラが仲裁に入る。
「落ち着いて! 余計な混乱はよして」
三人の奇妙なやり取りを見て、俺はますます混乱した。
「おい……何を話してた?」
「「何でもない!」マヤとザラは俺を屋敷の方へ押しやり、「早く行くのよ!」
歩きながら、ノコは再び俺の背中に飛び乗り、何事もなかったように笑っていた。