第15章:「森の猫娘」
突然、茂みから再び音が響いた。どうやら、まだ終わっていないようだ……
茂みから現れたのは、先ほどの菌獣よりずっと大きく、頭に冠を戴いた一体だった。
「まずい!」ザラが警戒した声を上げる。「キノコイド・キングよ!」
「何だって?」まだ胞子の影響でふらつくマヤが振り向いた。「あれが……奴らのリーダーってわけ?」
「そういうこと」ザラは唇を噛んだ。「予想以上に厄介ね。記録によれば、攻撃するたびに分身を増やす性質がある。速めに倒さないと、手がつけられなくなる」
「最悪だ!」マヤが剣を握りしめた。「炎の剣も使えないし……」
俺も剣の柄に力を込める。
「三人同時に攻撃するのがベストだ」
二人が頷き、構えた。
その瞬間──
「ヒューッ!」
鋭い風切り音と共に、氷の矢がキノコイド・キングを直撃し、巨体を近くの木へ叩きつけた。菌獣は一瞬で凍り付く。
三人は呆然とした。
「レン、お前の仕業か?」マヤが疑いの目を向ける。
「いや……俺じゃない」
茂みの動きに視線が引き寄せられる。尖った耳と、好奇心そうに揺れるふさふさの尾がちらついた。
「あそこに何かいる!」ザラが指差す。
「また出てきたわよ!」マヤが舌打ちする。
その影は素早く動き、俺の眼前に立った。マヤとザラはその敏捷さに息を飲む。
「速い……!」マヤが剣を構える。
「レン、離れて!」ザラは雷を掌に集中させた。
現れたのは、猫のような耳と緑色の尾を持つ半獣人の少女だ。緑の耳と尾、体にフィットしたトップスにゆったりしたショーツ、背中には黒木の弓を背負っている。
少女はクンクンと俺の匂いを嗅ぎ始めた。
「おい、レンに何してるんだ!?」マヤが慌てて声を上げる。
「離れなさい!」ザラの雷が炸裂しそうな緊張感。
俺は半獣人少女と目が合い、声を詰まらせる。
「ど、どうした……?」
少女は嗅ぎ終えると、牙を覗かせて笑った。
「あなた……祝福を受けてる。私と同じね! でも、ちょっと違うニャ~!」
「は?!」マヤとザラが同時に叫ぶ。
少女はしっぽをぴょこぴょこと振りながら自己紹介した。
「あなたの匂い、好きだよ! あ、名前はノコだニャン!」
ザラとマヤが即座に詰め寄り、包囲する。マヤの剣が光り、ザラの手には雷が渦巻く。
「何の目的でここに?」マヤが唸る。「素性を明かせ!」
ノコは平和的なジェスチャーで両手を上げた。
「落ち着いて! 敵じゃないニャ~」
返答する間もなく、ノコは再び超高速で動いた。マヤの鎧に触れ、目を輝かせる。
「わあ! ピカピカの鎧! すごくかっこいいニャ!」
「え?」マヤは困惑して瞬く。
今度はザラの手に飛びつき、雷を観察する。
「雷魔法だ! すごいニャ~!」
ザラが驚いている隙に、ノコは俺の肩に猫のようにぶら下がった。
「それにあなた! 強いんだよね? 気に入ったニャ~!」
「はあ?!」
三人の声が森に響いた。