第14章:「森の菌獣」
―東の森、屋敷への道―
森は歩を進めるごとに深くなり、木々の枝が陽光を遮っていた。俺が先頭で、不動産屋でもらった地図を時々確認しながら進む。
「まだか?」マヤが苛立たしげに聞いた。
「あと少しだ。地図によれば、もうすぐのはず」
ザラは無言で並んで歩いていたが、突然眉をひそめる。
「……何かが近づいている」
藪から「ガサッ」と音がして、三人はぴたりと足を止めた。
「今の聞こえたか?」
「ええ」ザラが低い声で答える。「普通の動物じゃないわ」
マヤが剣を抜く。
すると、藪の中から奇妙な生き物が現れた――キノコのような体に小さな足が生えている。予想外の見た目に、俺は「可愛い」と思ったが、ザラは顔を強張らせた。
「菌獣よ!」ザラが一歩下がる。「危険だ、気をつけて!」
「マジか? けっこう可愛いけど……」
マヤが高笑いする。
「こんなのでビビって――」
突然、マヤがよろめき、額に手を当てた。
「マヤ!? どうした?」
「……気分が、悪い」
ザラが叫ぶ。
「見て!」
目の前で、菌獣が分裂を始めた。金色の粉が彼らの体から噴き出し、空中に拡散する。
「胞子だ!」ザラが小さな雷を放ち、幾匹かを麻痺させた。「鼻と口を塞げ! 吸い込んだら終わりよ!」
「なぜ一撃で倒さない!?」マヤはふらつきながら抗議する。
「強い雷を使えば、森が燃え上がるわ!」ザラが鋭い視線を向ける。「あなたも炎の剣は控えなさい!」
「はァ!?」マヤは木に寄りかかり、「バカげてる……」
俺も頭がふらつき始めた。まずい状況だ。
三人で戦闘態勢に。ザラは麻痺用の弱い雷を続け、マヤと俺は剣で菌獣を倒す。しかし一匹倒すごとに、二匹が現れる。
「無限に湧いてくる!」
マヤの剣の軌道は乱れ、ついに息を切らして止まった。「煉……無理だ……」
支えに駆け寄ろうとした瞬間、胞子の影響が一気に回り、視界がかすんだ。
ザラの表情が変わる。
「……作戦がある。もう少し耐えて」
マヤと俺は頷き、眩暈と戦いながら菌獣を斬り続ける。しかし状況は絶望的だった。
「ザラ!」マヤがかすれた声で叫ぶ。「やれるなら今だ!」
ザラは目を閉じ、電気のオーラが手にまとわる。
「離れて!」
俺たちが退がると同時に、ザラが放ったのは――針のように細い雷の槍。最初の一撃で菌獣は爆散し、胞子は炭化した。しかし驚いたのはその次だ。
雷は跳ねた。
生き物のように、ザラの雷は菌獣から菌獣へと渡り、連鎖的に貫いていく。一匹ごとに内側から焼き尽くし、灰に変えた。
最後の一体が倒れた時、森は静寂に包まれた。
マヤと俺は口を開けたまま。
「な……何だったあれ?」
ザラは満足げに微笑む。
――その時、また藪から音がした。どうやら、まだ終わっていないようだ……