第13章: 「東の森」
マヤはザラと私に、トレーニング後の身支度が終わるまで休憩所で待つよう言った。数分後、彼女は戻ってきた――さっぱりとした様子で普段着のまま(鎧はなし)。
「まあ、寝る時もあの鉄の塊を着てるのかと思ったわ」ザラが言った。
「何ですって? あのわら人形と同じ末路がお望み?」マヤは歯ぎしりしながら返した。
「おいおい! 喧嘩はよせ。用事があるんだ」私が割って入った。「マヤ、手伝ってほしいことが。家を買ったんだけど… 問題があって…」
「家? どんな問題?」
「というか、邸宅だ。激安だった… ただ、長年空き家だったから幽霊が巣食ってるらしくて」
「幽霊屋敷を買っただと?! はははは!」
今まで聞いたことないような大笑いをマヤがした。ザラは笑いをこらえつつ顔を手で覆っていた。
「笑うなよ! すごく価値ある家なんだ! 幽霊なんて二人が手伝ってくれれば問題ないと思って」
「いいわ」マヤは笑い涙を拭いながら言った。「手伝う。退屈してた所だし、楽しそうだし」
「ありがとう」
「ところで、その邸宅の場所は?」
「ルミス郊外の、東の森の中」
マヤの表情が突然険しくなった。
「そこだと… 確かなの?」
「は、はい。そう聞いた。魔物がいるって話も… マズいのか?」
マヤはため息をついた。
「東の森は最近魔物が急増してる。一般人は近寄らなくなったし、探索した冒険者は皆、記憶を失い城門前に意識不明で現れる」
「そんな話も聞いたな…」
「ふむ。幽霊と激安の理由がわかるわ」ザラが呟いた。
私は落胆してうつむいた。
「我々には問題ないわ!」マヤが元気づける。「Sランクパーティよ。森の魔物や幽霊なんて怖くないでしょ?」
「ああ、その通りだ。大丈夫だろう」
ザラは皆の明るい様子に微笑んだ。
「よし。除霊するなら、日が落ちる前に行きましょう。夜は霊が強くなる」
「了解。二人ともありがとう」
準備を整え、ルミス東門へ向かった――二人の騎士に守られた巨大な門だ。
「ごきげんよう、冒険者様… おや! 新登録のSランクパーティですね。東の森の探索でしょうか?」
我々の噂は早いな。
「ああ、そんなところだ」私が答えた。
「どうぞお進みください。Sランクに言うまでもないですが、ご注意を」
「分かってる。ありがとう」
「何が待ってようと、我々には敵わないわ!」マヤが宣言した。
「噂の生物について、情報は?」ザラが騎士に尋ねた。
「ザラ、良い質問だ!」
「ええ、ですが… 生存者の記憶が曖昧で。『素早く静かな生物』『緑色の何か(毛皮か皮膚か)』としか。これが全てです」
「そうか…」ザラは考え込んだ。
「強力ですが、死者は出ていません。意識不明の冒険者は必ず城門前に戻されます。謎が解ければルミス全体の利益に」
「機会があれば調べます」私が約束した。
「では、ご武運を!」
三人は頷き、森へと足を踏み入れた。
レンたちが進むと、茂みの中から何かが動いた。緑の毛並みを持つしなやかな影が一瞬彼らを見つめ、消え去る。