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7/10

 最初は、懐かしい匂いで目が覚めた。


「ばあや、いい匂いね」


 しかし、それは私の知っている人物ではなかった。


 優しげな老女が黄金色のアップルティーをサイドテーブルに置いていた。


「あ、あの」


「お好きだとお聞きして」


「……」


 確かにそれは自分の好きなものだった。


 一口すすると疲れが残っていた気分が少し軽くなった。


「もう、二日もお眠りですから、少し体でもお拭きしましょうか?」


 老女に何か懐かしいものを感じて、私はされるがままになっていた。


 用意されたのは明け方のローズ色の見事なドレスだった。


 私の瞳の色にも良く似合っていた。


 よく見れば金糸の刺繍もされていて、まるで私の瞳と髪の色に合わせたようで、これ以上もないほど似合っていた。少し胸元と腰回りが緩かったが手早く縫い縮めてくれた。


「すみません」


「いいえ、よくお似合いですよ。ご用意していたかいがありますよ」


「え?」


 老女は手早く片付けると部屋を出て行くと入れ替わるようにピーター様が部屋に入ってきた。


「よかった。丸二日も眠ってたから心配していた」


「そんなに?」


「仕方ないさ。強行軍だったし、領内を出たことのないお嬢様だからね。それで君は暫くここにいるのだろう?」


 その問いに私は頷いた。契約の事もある出ていく訳にはいかない。本当ならお父様の元へ向かいたい。何もできないとしても。


「じゃあ、私にはここはちょっと息苦しいから知り合いの所にでも行ってくる」


「あ……」


 私は呼び止めようとしたが言葉が出なかった。


「まだ、公爵閣下だってまだ帰ってこないだろうし、ちょっといろいろと調べて来る」


 そう言ってピーター様は出て行った。


 どこを見ても構わないと聞いたので、館の部屋を見て回った。


「いいのかしら?」


「旦那様がそうおっしゃいました」


 その中に一際豪華な部屋があった。どうやら公爵の部屋なのだろう。


 そこの机の引き出しを開けてみようとしたが流石に鍵がかかっていて開かなかった。




 翌日、再び帰って来たピーター様からは最近国王陛下が病床に着き、思わしくない状態だそう。そのため国務大臣が宮廷で権勢を誇っているようだった。


 世継ぎの王子は放蕩の限りを尽くして醜聞だらけとのことで実は大公閣下と呼ばれる彼が次期王位とまで噂されているということだった。


「でも大公閣下といっても、王族ではないのでしょう?」


 不思議に思う私にピーター様が私の耳元に口を寄せて囁いた。 


「……どうやら、陛下の庶子だそうだ」


「え?」


「噂だけどね。どうやら先代の大公の妻に国王が横恋慕をして密かに二人は情を交わしていたと。だが彼らは既に亡くなっているので、真実は墓の下だ」


「優秀な庶子の王子と放蕩な跡継ぎの王子。宮廷は今二分されているようだ。恐らくそのため君達親子がそれに巻き込まれた可能性が高いな。なんたって君の母君は……」


「大公閣下が陛下の……」


 冷たいグレイの瞳を思い出すと少し胸が痛んだ。その痛みが何故なのかまでは分からない。でも……。


「それに、どうやら大公に王家筋の婚約者もいるそうだ」


「……」


「セーラローズ。今からでも撤回してもらおう。愛人など伯爵の耳に入れば……」


 心配するピーター様に私はなんとか微笑んでみせた。


「大丈夫です。お父様が助け出されたら、……きっと私は帰りますから」


 ピーター様は心配そうにしつつも、まだ調べるとおっしゃって館を出て行った。

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