第一章 人工非機械人間
俺は笠井涼介。都市部の高校に通うために一人暮らしをしている、普通の高校生だ。
そんな休日のある日、いつものように街を歩いていると、突如前から歩いてきた男性に声をかけられた。
「ちょっとそこの君、お願いがあるんだ」
その男性は、スラリとしていてスーツを着こなす、優しそうな印象の人だった。
「先輩、そんな突然、しかもいきなりお願いなんかすると、ただのヤバイ人にしか見えませんよ」
後ろから小走りでやって来て、冷静に突っ込みをいれるもうひとりの男性は、眼鏡を書けていて、いかにも真面目そうな感じの人だ。
「ああ、すまない、自己紹介をしていなかった。私は星野、そして彼は有内君だ。私たちは今とある研究をしている。そのため、君に手伝ってほしいんだ」
「あ、俺は笠井です。高校一年生です。」
俺も軽く自己紹介をしたのち、とりあえず、ヤバイ人達ではなさそうだと判断した。また、少し慌てている様子だった。
「お願いできるかな?」
少し考えた後、その実験に少し興味がわいていた俺は、そのままのノリで手伝うことにした。
「本当かい? ありがとう。では君に、ひとりの少女をしばらくの間あずかってほしいんだ」
……内容を理解するのに数秒は必要だった。
「……え?」
彼らに連れられ、俺は街外れの古びたビルの前に立っていた。
「ささ、入って」
「は、はい……」
星野さんに言われ中に入ると、外見とは一変、室内は近未来的な機械が複雑に入り乱れ、まさに実験室となっていた。
「こちらです」
今度は有内さんに案内してもらい、奥の部屋に入る。
「え……」
俺は言葉を失った。目の前の機械に、自分と同じくらいの少女が入っていたからだ。
「こ、これは……」
本当にヤバイ所に来てしまったのではないかと思っている俺に、有内さんは丁寧に説明してくれた。
「彼女はマホ。私たちが創りだした子だ。世界初のAnmHbで、彼女の名前の由来にもなっている」
創った? アンムエイチ? 全くもって頭に入ってこない。
「……あの、アンムエイチって何ですか?」
「AnmHとは、[Artificial non-machine Human]の略で、日本語で言うところの[人工非機械人間]のことだ。最新の技術を使い、人間とそっくりな細胞をつくって産み出した。まだ実験段階だが、この技術が発展すれば、より安全な人型ロボットの作成や、怪我などで失った体を復元したりすることができるようになるかもしれない」
真っ先に思い浮かんだのは、「彼らは何者なのか」だった。そして次に浮かんだのは、「もし、これが成功すればきっと」……
「私たちからのお願いは、しばらく彼女と生活し、時折現状報告をしてほしいということだ」
いつの間にか隣にいた星野さんはそう言った。
「無理なら無理で良い。押し付けるつもりはない」
有内さんはそう言い放った。
俺の心は高鳴っていた。これを成功させ、いつかはきっと……、しかし、自分に本当に出来るのか、という不安も抱いていた。
「やってくれるかい?」
俺はもう一度、機械に入っている少女を見た後、握りしめていた自らの拳を見て言った。
「……やらせてください」
それを聞くなり、星野さんは少し驚いたような顔をした後、また笑顔に戻り静かに頷いた。
「では、君に任せよう。連絡先は後で教える」
それと、と星野さんは付け加えた。
「彼女は基本的な知識は人一倍知っている。だから安心してくれ」
そう言うと、星野さんと有内さんは機械を操作し、少女の入っているカプセルを開けた。
「マホちゃん、彼が君をあずかってくれることになった笠井君だよ」
そう言われると、少女は静かに目を開け、ゆっくりと体を起き上がらせると、こちらに体を向けた。
「マホです。よろしくお願いします」
「俺は笠井涼介、よろしく」
俺が握手をしようと手を前に出すと、彼女は握り返してくれた。彼女のぬくもりを感じた。
ここから、俺の少し不思議な日々が幕を開けたのだった。