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僕の岩はガラス玉のように転がり落ちた

作者: 黒楓

お馴染みの“月曜真っ黒シリーズ”ですが


今回、私は涙が止まりません。

 きっかけは当時、僕が気になっていた女の子のひと言だった。


「『宵闇に誓うforever love』の靴下!SRなのよね~!今日出たガチャ券でもダメで……ダイヤまた200貯めなきゃ!!」


 『非課金』については“プロ”のゲーマーだった僕は、彼女が欲しがっているのは着せ替えゲーム『ポケシル』のアイテムだとすぐに分かった。

僕は広範囲かつ複数のゲームをやり込む事によって各々のゲームのアイテムを貯め込み、SNSを通じ、アイテムの交換や売買(あくまでも現金や仮想通貨では無く“ガチャ石”だったが)を行い自分のやり込みたいゲームに回すプレイスタイルだ。


なので、つい、言ってしまったのだ。


「『シルクイエローの靴下』なら4つ持っているからひとつあげるよ」


女の子はまるで“犬のウンチ”を踏んだみたいな顔で一瞬、僕を睨み、すぐに隣の子とゲームの話を続けた。


僕へのいじめが始まったのは、それからすぐの事だ。


最初は授業中の“スマホゲームの内職”を密告された事だったが……


すぐにいじめは……僕に付けられた『オタッキー』(苗字の大滝のもじり)と言うあだ名と共に系統化され……僕はありとあらゆる種類のいじめを受ける事となった。


その内容は特にここには記さない。


後述する“送付書類”に各証拠写真と共に克明に記録されているから、もし目を通す機会があるならご一読いただきたい。

この書類は当初、“訴訟案件”になった時に備え、証拠を収集し作成した物で……僕はその“サジェスチョン”を母親が隠し持っていた“離婚に向けての準備”と言う本から得た。


ただ、今の僕は……『いじめの申し立て』は民事でも家裁止まり、公判の維持はまず無理だろうと考えている。

しかしながら万一、貴兄が掛かる目的をお持ちならば、その成功を心から祈るばかりだ。


 さて、僕はある意味“岩”の様な意志(シャレでは無い)を持っていると自負しているので、毎日振りかかって来るいじめの波状攻撃にも屈せず、せっせと証拠集めを行っていた。


それが、この一連のいじめの“胴元”たるクラスの一軍男子『高岡』と『山路』には気に食わなかった様で、僕の前席である三軍女子の『安藤』を僕に差し向けて来た。


ある日の授業中、安藤は突然立ち上がって大声で喚き出した。


「今、痴漢された!! 大滝君にお尻触られた!!」


泣き喚く安藤を左右から支える女子『金子』と『関口』も口を揃えた。

「私達も見ました!!」

僕の後ろの席の『宮部』も

「大滝君、なんだか気持ち悪い動きしてました!」

と畳みかけてクラスが騒然となる中


「この変態!! クソ虫!!」と安藤が泣きながら吐き出すセリフもどんどんエスカーレートし、僕は隔離され、担任から問い詰められた。


僕は事実そのままを証言し無実を主張したが、この『クズ担任』は事もあろうに『多数決』なる文言を口にした。

つまり、“理不尽”は僕だけで、他はクラスの総意という事だ。


 僕は1週間の「出席停止による自宅学習」と言う名の“停学”を言い渡されたが、「両親は仕事」と言うと、そのまま帰宅するように言われた。


もちろん素直に帰宅するわけはなく、“一軍”がたまり場にしている空き教室の用具入れ(中の掃除道具を隣の教室へ放り込んで)の中に潜んで、機会を待った。


小ズルい一軍の奴らは“下”への指示はもっぱら個チャで、なかなか尻尾を掴ませないが、この時はよほど愉快だったのだろう、事前に安藤を“解剖”した事まで口端に上げてゲラゲラと笑い転げていた。


なるほど、事情は分かった。


本来なら安藤は同情できる立場だ。


しかし、僕を冤罪に陥れる時に、自分がやられた暴力の“憂さ”まで僕を使って晴らそうとしたのは見過ごせない!

よって、この日の録音データに『彼女も同罪』との私見を付した。


予想通り、僕の停学は、僕の無実申し立てには聞く耳を持たない両親の諍いの肥やしになった。


母親からはヒステリックに泣かれ、父親からは「恥知らず!!」と殴られた。


()()()の両親こそ恥知らずだとうんざりしながら、担任から渡された反省文用の原稿用紙は『異議申し立て書』となった。


しかし、その事で担任から呼び出されはしなかった。


では一体どうなったのか?


僕が登校してみると、クラスは席替えしており、僕の机は窓際の最後尾に置かれていた。


配られるプリントは僕の前の席で尽きて、僕の分は全てごみ箱へ捨てられていた。


誰も僕には手出ししない。


その代わり、休み時間のじゃれ合いで、“軍手のボール”が僕の背中に当たったとしても、それは教室の壁や柱に当たったのと同じ事になった。


出席確認で担任が僕の名前を呼ぶ事も無くなった。


勿論、出席簿にはちゃんと〇が付けられているので悪意に他ならない。


 割と最近まで“YJ”で似たような話のマンガが掲載されていたがこちらはその“本家”とは違い、悪意に満ち満ちている。


つまり、僕をダシにする事によって、クラスは平穏で……僕以外にとっては極めて“いいクラス”となったわけだ。


同じ事が僕の両親にも言える。


僕を言い訳にして、本来はとうに破綻している筈の今の生活を二人共、維持しようとしている。


“子はかずがい”と物の例えに言われるが……


かすがいは単なるモノでしかなく、モノの考えや感情は当事者から無視される。


そして……かすがいとしての用が済んだら、忌むべきモノとなるのは、火を見るより明らかと言えよう。


僕は現在14歳。

物心がついてから10年余り……

しかしながら昔は15歳で元服したわけだから

物事の道理の分からぬ歳でも無い。

今の時代、10年余りが長いのか短いのか……

それは単に社会情勢だけでは無く、個体差もあるのだろうが……

とにかく僕は、うんざりと疲れた。


自分に世界を変える力など持てやしない事を悟り、

さりとて日々の生活を彩るべき夢も希望も持ち合わせてはいない。

この手では何も成し得ず何も持てない事を

虚しく寂しく悲しく思う事はあっても

涙を流す事は無い。

それこそ“思い上がり”で

無意味だから。


はっきりと自己に示そう!!


「お前は負け犬。落伍者。この社会という水槽の“おしくらまんじゅう”の中で、もう横向きにしか泳げない瀕死の魚と」


でも病気の魚ならば、その屍で水を汚して……周りを“感染”させることは可能ではないか?


『犬死にするものか!!』なんてカッコいい事では無い。

大した効果がある訳ではない。

それどころか全くの徒労に終わる可能性の方がずっと高い。


それでも……“人”をドブに落とせば、泥の一滴くらいは自分に引っ掛かる事を示せば、ドブに落とす手前で、少しは躊躇うかもしれない。


この観点に立って僕は“自死”の行程を組み立てる事にした。



方法は学校の屋上からの飛び降り。

これを地面に激突するまで実況する。

なかなかキャッチーだ!!


まずは学校の屋上への鉄扉を開けなければ!


これには、ありとあらゆる雑用を押し付けられるという“能動的いじめ”を受けた経験が役立ち、屋上の鉄扉の鍵は容易に複製できた。


 先に述べた“送付書類”……わが身に振りかかったいじめの一点一点について日時に始まり、証拠品や危害状況(物品の損壊やケガ)を表す写真や記録。スマホは常に録音状態にしてあったので音声データーはクラウドの案内とメモリ添付の2種用意した。


 送付先として決めておいた文科省の生涯学習政策局政策課、県と市の教育委員会、大手と言われるマスコミ各社と、各私立高校(奴らが受験するであろうすべての学校)には紙媒体で用意した。


 特に、私立高校宛ての書簡には「万一、この上申書に記した人物が貴校を志願、受験した場合は、私の死をもって証とするこの事実にも耳を傾けて下さる事を切に願います。因みに貴校に上申書を送付致しました事は大手マスコミ各社へ送付いたしました同上申書にも付記させていただいております。」と私見欄に追記した。



 これらが整い、ポストに投函後、「昔ながらの血判でも捺せば良かった」と後悔はしたが、もう猶予はなかった。


すぐさま“@クソ虫オタッキー”の「メンション」でありとあらゆるところへ同上申書のデーター版を配信した。僅かでも、奴らの身にデジタルタトゥーが残る様にと。


こうした準備をすべて終えた実行日前日の夕方、僕はネットカフェを出て街を彷徨った。


できれば明日、運び込まれるであろう病院の下見をしたかった。


“その時”はもう見れない……グシャグシャになり血と尿と()()に塗れた体で目も潰れているだろうから……病院の廊下の天井を、床に寝っ転がって見てみよう思ったからだ。


しかしさすがに病院の特定はできず、まだ街を彷徨っていると……

どぎつい色の看板達が目に入る。


そう言えば……“生身の”女性には触れずじまいだったな……


貯金は全て下ろしていた。いじめの証拠集めの為に買い揃えた機器の他は、死出の旅にはさほど金もかからない。

遺言には『僕にお金を掛けるのはムダ。戒名など付けたら呪い殺す』と書いておいたから葬儀はこじんまりとやってくれるだろう。

せっかくだから、このポケットのお金でフーゾクでも行こうか!

考えると体の“一部”が熱くなったが、補導されたら()()()()だし、セイコーしても女に変な目で見られたら不愉快だ。

結局、独りで何とかして、ごくごく自然に眠りについた。



目が覚めて、まだ生きている今日。

決行日!!


今日は日曜で雨も無く、邪魔は入らないだろう。


昨日、自分の()()()()()に自死予告を出したら、三つしかコメントが無かった。


そのうち二つは『死ぬ前にアイテム頂戴!』

後の一つは『早く死ね!』


僕はそれを読んで上機嫌で学校の金網柵をよじ登り、トイレに潜入した。


スマホを立ち上げての第一声は


「いよいよ実況を始めます!」


画用紙に描いた『クソ虫オタッキーの死のダイブ!!』を映す。


「まず、スマホをベルトで頭に巻きます。トイレの鏡の前です。 映ってますか?!」


そうしてトイレを出ながら


「ここから先は一気に屋上まで上がりますが手鏡で時々顔が映るよう努力します!!」


と、階段をトントン上がり、終点の鉄扉に辿り着く。


「では作った合鍵で開けます!」


ガチャガチャと鍵を開け、ガコン!とドアを押して表に出るとびゅう!と風が向かって来る。


「風がありますね!風に吹かれて軌道が逸れると迷惑を掛けしまうので、風が止んだ刹那に一気に飛びます。皆様! 目を離さないでね!」


僕はスタンディングスタートのポーズで風を止むのを待った。


「位置について! 用意!…………………………スタート!!」


僕は日に照らされて光るガラス玉!!


さほど青くない空を目掛けて思いっ切りこの身を投げて

勢いあまってクルリと回り


ベシャッ!!と落ちた。




やってきた人達は

形ばかりの手を合わせ

心にため息を隠し持って

粛々と“処理に”当たった。




                 終わり


詳細は活動報告に書きますが


色々申し訳ございません<m(__)m>




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