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魔女裁判


 目を開くと道路で大の字になって寝ていて、大勢の人に囲まれていた。


「生きているぞ!」


「あの高さから落ちて生きているなんて奇跡だ」


「僕はどうしたのですか」


「あそこから落ちたのさ」


 高い建物の上を男が指差した。


「ミカエル! 大丈夫か?」


 知らない人に抱き起こされた。


「大丈夫です」


 身体はどこにも怪我はなかった。


「よかった。酔っ払って屋上から落ちたんでどうなるかと思ったよ」


「そうだったんですか」


「覚えていないのか?」


「というより、あなたは誰ですか」


 僕を抱き起こした人はショックを受けたような顔をした。


「まさか、頭を打って記憶を失ったのか?」


「すみません。何も覚えていないんです」


 僕は病院に連れて行かれた。身体に異常はどこもなかった。だが僕の新しい身体の前の持ち主のことを何も知らなかったので、医師は僕が記憶喪失になったのだと診断した。


 僕は自宅に戻された。


 初めて見る部屋だった。家族は無く一人暮らしだったそうだ。


 新しい僕の名前はミカエルで、ブロンズランクの決闘士だった。決闘士にも冒険者と同じでランクがあり、ブロンズ、シルバー、ゴールドのランクがあるがその最下位だ。まだ何の実績も無い新人で、決闘士養成所での成績も最下位に近いものだったらしい。


 最初に僕を抱き起こしてくれたのは決闘士養成所での同期の友人だったようだ。


 僕は新しい体に慣れるとすぐに王都に戻ろうと思った。何よりもノエルがどうしているかが気がかりだった。そして、僕をはめた第一王子たちとアイゼンに復讐するつもりだった。


 僕は部屋を引き払い、王都に向けて発つことにした。


 転生した町は辺境に位置しており、王都までは一ヶ月以上かかる旅になる。前の体だと徒歩での長旅は苦痛だった。三日も歩くと足が痛くなり、先に進むのが苦痛だった。だが、今度の身体はまるで乗り物にでも乗っているように疲れ知らずでどこまでも歩いて行けた。


 王都への旅に出て4日目のことだ。昼過ぎに町に着いた。まだ日が高いので、昼食を取ったら出発して、その次の町まで行こうと思っていた。


 適当な食堂を探して歩いていると広場に人だかりができていた。


「何をやっているんですか」


「巡回裁判だよ」


 小さい町には裁判所が無い。そこで、判事が馬車で来て仮設法廷で裁判をする巡回裁判制度があった。


「何の裁判ですか」


「魔女裁判だ」


「魔女裁判だって!」


 魔女裁判はめったに行われない。そもそも魔女が存在するかも疑わしい。


 人間も魔法を使うことができる。


 違いは、魔女は魔力量が多く、無詠唱で強力な魔法が使えることだ。


 だが大魔道士も詠唱をコンパクトにして強大な魔力で魔法を使える。


 魔女との本質的な違いは無いはずだ。


 弁護士だった時の僕は、魔女裁判は違法だと思っていた。


 では、なぜ魔女裁判があるのかといえば、それはいじめの手段だ。気に食わない奴に魔女のレッテルを貼り、懲らしめ、合法的に抹殺するためだ。


 僕も冤罪(えんざい)で殺されたが、魔女裁判こそ冤罪の温床で合法的暗殺だ。


 魔女裁判と聞いて僕は不快を隠すことができなかった。


 傍聴人をかき分けて法廷の前に出た。


 ところどころ破れた赤紫のロングドレスを着た、長い黒髪の女性が首に魔力制御の首輪をつけられて広場に設けられた仮設法廷の中央にいた。


 あの魔力制御の首輪は自分では取れない。そして魔力が封じ込められてしまう代物だ。


「被告人は魔女だと当裁判所は判断する」


「私はどうなるのです」


火炙(ひあぶり)りの刑に処す」


「嫌です」


「ならば決闘裁判で嫌疑を晴らすか」


「そうします」


 民衆からどよめきが起きた。


「決闘裁判が見れるぞ!」


「なんてラッキーなんだ」


 先王の司法改革により証拠による裁判が廃止されて、決闘裁判が採用されてから、決闘裁判は庶民の娯楽となった。


「決闘士は誰だ」


「検察側はアレキサンダーをたてます」


「おおおお、もうすぐゴールドに昇進間近のシルバーランカーの期待の星か」


 横にいた男が満足気な声をあげた。


「魔女はどうするんだ?」


「ばか、魔女に味方する決闘士などいるわけない」


「そうすると魔法制御の首輪をつけたまま本人が戦うのか」


「当然そうなる」


「すげーなー。見ものだ」


「ああ、あの美しい顔がぐじゃぐじゃになり、目玉が飛び出し、脳漿(のうしょう)が飛び散るとこが見れるかもしれないぞ」


「たまんねぇな」


「被告人、決闘士をたてますか」


 裁判長が訊いた。


 女は首を振った。


 その時、僕は反射的に法廷の中央に躍り出ていた。


「君は何だ」


 裁判長が誰何した。


「決闘士です。被告人の代理人になることを申し出ます」


 僕は決闘士の証であるバッジをかかげた。


「被告人、どうしますか」


 被告人の女が僕を見た。


「本気なの?」


「ああ」


 女は笑った。


「好きにしたらいいわ」


「被告人、それはイエスか、それともノーか」


 裁判長が訊いた。


「イエスです」


「それでは、これより決闘裁判を行うが、準備があるので一度休廷する」


 裁判長の宣言で休廷となった。


 僕は被告人と控室のテントに行き2人きりになった。


「どうしてなの」


 二人きりになるなり、女が僕に訊いた。


「君を助けたくなった」


 魔女裁判にかけられて火刑となる彼女のことが、冤罪で殺された自分の過去と重なって見えたのだ。


 それに、もともと弁護士としては魔女裁判は違法だと思っていたこともある。


 だから、決闘士となった今、魔女裁判という悪しきものと戦いたいとも思ったのだ。それに、最強のスペックの決闘士に転生させたというのが本当かどうかを復讐を実行する前に確かめたいという気持ちもあった。


「あなたはブロンズランクの新人でしょう? シルバーランクのエースに勝てるの」


「決闘裁判はご神事(しんじ)だ。神が正しき者を勝たせる」


 女は声を上げて笑った。


「まさか、そんな迷信を信じているの」


「君は無実ではないのか?」


「さあ、どうだか」


「助かりたくないのか?」


「私のこと本当に助けてくれるつもりなの」


「そのつもりだ」


「御礼のお金は持っていないわよ」


「構わない」


「それってお金以外で報酬を払えってこと?」


「報酬はいらない」


「変な人ね。でも私の命はあなたに預けたのよ」


「分かっている」


「だから……必ず勝ってね」


 そう言うと女は僕の頭に両手を置くと僕を引き寄せ口づけした。


「な、何をする」


「着手金の代わりよ。お金が無いから」


 僕は女の思わぬ行動に真っ赤になった。


「時間だ。法廷に出ろ」


 廷吏(ていり)が呼びに来た。


 僕は女とテントの外に出た。


 大勢の傍聴人の好奇の視線と罵声に迎えられた。


「これより、決闘裁判を始める」


 裁判長の重々しい声が仮設法廷に響いた。




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