世界が変わった今日なら、メイネも普通に受け入れられるだろう。
「何の異能って」
朝起きたばかりだからわからない。そうやって言うと、西村は「お前はそういうところ疎いよなぁ」と言ってきた。
「まあそれがお前の良いところでもある」
そんなことを言いながら、俺の部屋の中をふわふわ漂う。
「俺の異能はこれ、空中浮遊。頑張ればタワマンの天辺までは飛べるぜ。だけど、気を抜くとすぐに浮いちまうんだ。ほっ」
掛け声と共に、床に着地。自分のスマホを取り出して、俺にネットニュースを見せてくれた。見出しには、『各地で超能力者が出現』『異能による事故・多発』など、現実では到底あり得ない文字が踊っていた。
「今日ってエイプリルフールだったっけ?」
「残念ながらエイプリルフールは過ぎましたよ、佳太さんや」
「それじゃあ今は夢の中」
「夢を見る異能だったら、エロい夢も見放題だよなぁ」
微妙にズレている会話。
「そういや、学校はどうすんだろ?」
「それがさぁ、登校できる生徒は登校しろだってさ。九条が言ってた」
西村は、がっくりうなだれた。
『おはようございます。国民の皆さん、選別は受けられましたか? 全国各地の天気は晴れ。まさに、新しい日本にぴったりのお天気ですね』
なにごともなかったかのように言う青桐アナ。スタジオのセットは変わらないが、コメンテーターは、誰一人として席に座っていなかった。青桐アナの説明によると、彼らは選別により、テレビ局に来れなくなってしまったのだとか。
『交通機関も大いに乱れているので、通学・通勤する皆さんは、もしもの事態に備えて、早めに家を出られると良いかもしれませんね。さて、それでは……』
ぴっ。
チャンネルを変える。『受信できません』。またチャンネルを変える。『受信できません』。
受信できません、受信できません、受信できません……。
「まいったな、テレビが壊れたかな」
特定のチャンネルしか受信できなくなっている。なんと、公共放送すら受信できなくなっていた。
すでに、父さんは出社している。俺は、兄貴と母さん、そしてメイネと朝ごはんを食べながら、必死にチャンネルを回していた。
「佳ちゃん、早く食べないと、学校に遅れちゃうよ」
「わかってるけどさ」
どうにも落ち着かない。一晩のうちに、世界が変わってしまったことを受け入れられない。
「異能は一人一個らしいわね。お母さん、電化製品の時間を短縮する異能を授かったみたいで大助かり!」
兄と同じく、のんびり屋な母が言う。俺が今食べてるトーストも、たった1秒で焼き上がったものらしい。しっかり焦げ目がついていて、焼きムラもない。異能様様である。
「これでお洗濯も捗るわぁ。だけど、ちょっと怖い気もするわね」
全くもって、母さんの言う通り。
「俺が手に入れた異能は、“触れたら感電させる能力”だ! 感電させられたくなけりゃ、金を寄越しな!」
「それなら本官は絶縁性の異能を持つので相性が良いですな。ささ、こちらにどうぞ」
「うわっ何するやめろ」
新手の強盗が新手の警官に引き摺られていくのを見ながら、「何件目だこれ……」と俺は呟いた。
家を一歩出れば、そこは世紀末と化していた。なるほど、コメンテーターがテレビ局に着かないわけだ。
「あっ佳太さん、足元に注意です。“落書きで転ばせる異能”です」
「何そのしょぼい異能」
ひょいっ、と俺は道路に書かれた落書きを避けた。どこかで舌打ちが聞こえた。おいこら。
「メイネがいてくれて助かった……」
「むう、天使と呼んでください」
俺の隣を歩くメイネは、頰を膨らませた。
「というか、当たり前に俺についてきてるけど、学校に行く気か? 怪しまれ、はしないか」
俺は、疑問を自己解決した。昨日ならともかく、世界が変わった今日なら、メイネも普通に受け入れられるだろう。空を飛べる人間がいるんだ。今更羽の生えた人間が増えたところで、どうってことないだろう。
そんなふうにお気楽に考えていた俺は、自分の考えが甘かったことを思い知った。
「え、お前、異能無いの?」
異能者が溢れる世界で、変な目を向けられるのは、寧ろ、俺の方だったのである。




