今日こそは、平和でありますように。
『もうええわ! ありがとうございましたー』
不思議なことを言ったアナウンサーの画面は掻き消え、元のお笑い番組に戻った。そう思っていたんだけれども。
『ということでね、僕らが夢を追う時間もあと四時間です。視聴者の皆さん、今までありがとうございました』
『お前何言うてんの?』
『お前ともコンビ解散かぁ。せいせいするわ。前田、今まであんがとな』
『お、おう』
ぎくしゃくし始めるお笑いコンビ。何事もなかったかのように、次の漫才が始まった。そういえばこれ、生放送なんだっけ?
「さっき映ったのって、青桐さんよね」
母さんが呟いた。そう、さっき、選別とか言っていたアナウンサーは、毎年好感度ランキングを取り続けている強者。さわやかな笑顔と、何事にも動じないプロの力量を併せ持つ、テレビ局の名物アナウンサーだ。
お笑いコンビは、最近脂が乗ってきたコンビで、解散とか、間違っても口にすることじゃない。
「一体何なんだろうな」
「何なんでしょうね〜」
相変わらず、唐揚げをぱくぱく食べる天使。彼女と、珍しく難しそうな顔をする兄貴だけが異質だった。
「佳太さん、何見てるんですか?」
「さっきのテレビ。ネットニュースになってないかなと思って」
スマホをスクロール。特にそんなことは書いてないが、俺と同じ、番組を見ていた視聴者のつぶやきは見つけた。
『推しを見てたら変なニュース挟まれたんだけど』
添付された動画は、アイドルがクイズに答えようとしたところ、例のニュースに切り替わる場面だった。あれ、おかしいな。俺の時はお笑い番組だったのに。
『青桐アナって 違う局のアナ・・・』
『俺もこれ見た。ただし違う番組で』
『はじまったか…(訳知り顔)』
どうやら、キー局全てであのニュースが放送されたらしい。中にはさっきのお笑い番組を見てた人もいて、#前田今まであんがとなをトレンド入りさせようとしていた。
「電波ジャックとかかな?」
「またこの人達ですか……はぁ……」
俺の肩越しに画面を覗き込むメイネは、うんざりしたように溜め息を吐いた。
「この人達?」
「はい。失礼します」
そう言って、メイネはスマホをとんとんっとタッチして、とあるワードを検索した。某国の、何やら難しそうな機関の名前。
『……実験中に事故ったらしい。日本への影響もあるとか』
『人体実験などやらなければよかったのに』
『被検体逃すとかさぁ』
「これ、私です」
被検体の部分を指差して、メイネは言った。
「私、逃げてきたんです」
鳥が鳴いていた。
とりあえず、俺はよく寝た。
「昨日は本当にいろいろあった……」
東堂さんの彼氏になったり、メイネが居候になったり、植物に殺されかけたり。まだまだ考えることはあるけれど。
「今日こそは、平和でありますように」
祈りながら、部屋のカーテンを開ける。俺の部屋は2階だから、朝の光を浴びるのにはもってこいだ。
「……」
俺は、無言でカーテンを閉めた。カーテンの向こうでは、聞き慣れた声が何やら喚いている。
再び、カーテンを開けた。窓の向こうにいるのは間違いない、西村だ。隣の席の西村君だ。
空中に浮いてるけど。
「いやあ、びっくりしたぜ。朝起きたら、こんなんなってるんだもんな〜」
ケラケラと笑う西村は、「お邪魔します」と言って、俺の部屋に入ってきた。しっかり靴を脱いでいる。
あぐらをかいた西村は、「で」と目を輝かせながら言ってきた。
「お前、何の異能が宿ったんだ?」




