白永墨斗
「あれ、佳太は? いないのか」
「コンビニに行ってくるって言ってたけど、遅いわねぇ……」
「俺、ちょっと見てくるよ」
白永墨斗は上着を羽織り、弟の佳太を探しに行った。
時刻は午後7時。日は沈み切っており、街灯が道を心許なく照らしていた。
「まったく。佳ちゃんは、どこで道草を食ってるんだか……ん」
家とコンビニの中間地点で、墨斗は、見慣れたものを見つけた。それは、佳太がコンビニに行くときに持っていったエコバッグだ。中身を点検すると、思った通り、いくつかの商品と、佳太の母が頼んだコンビニスイーツが、ぐしゃぐしゃになって入っていた。
「何かに巻き込まれたのかな」
とりあえず、エコバッグを回収し、コンビニに向かう。途中、何やら喧嘩している二人組に出会った。
「なーにが重要人物ではありません、よ! 思いっきり重要人物じゃないの!!」
「ですが、私のブックには……」
「不良品なんじゃないの、それ!」
「あのう」
「はぁ? なによ?」
赤い髪の少女が、墨斗に向かって凄む。それには臆せず、墨斗は、少女が手に持っているスマートフォンを指さした。
「それ、どこで拾ったんですか?」
少女は、慌てた様子で、服の中にそれを隠した。
「どこだって良いじゃ無いの。ていうかなに? 言いがかり? これは私のだからーー」
「いいや、これは、弟のです。ケースでわかります。なんなら、ここで電話をしてみても良いですよ」
墨斗が自分のスマートフォンを取り出すと、少女が舌打ち。後、目を瞠る。
「弟、ってことはアンタ、アイツの家族?」
「はい。俺は、白永佳太の兄です。貴方達は、弟に何かしましたか?」
「……何もしてないわよ。このスマホを拾ったから、返してやろうと思っただけ」
「ネコババしようとしたのに?」
少女は舌打ちし、「おいで」と呟いた。墨斗の足元から、植物がめきめきと生えてくる。
「兄弟揃って、ムカつくわね! ちょうどいい、アンタを餌にして、白永佳太とやらを誘きだ、何すんのよっ」
「燈さん」
少女は、フード男に、猫の子のように後ろ首を掴まれていた。
「私のブックではーー」
「またアテにならないブックの話!? ていうか、名前で呼ぶな!」
「この人、いつ死んだかわかりません」
「……」
「誰ですか、この人。前の世界にいなかった人です。おかしいですよ、この人、本当におかしい」
「とりあえず」
墨斗は、足元の植物を靴で踏み潰した。
「佳ちゃんのスマホを返してもらってもいいかな?」
「あっ、ヤバい、スマホ置いてきちゃった」
天使と名乗る女の子に抱えられて、空を飛んでいる最中。無事にあの二人組から逃げ切れたところで、俺は、とんでもないことに気付いた。
「お、俺の無課金の成果がぁ! ログインボーナスがぁ〜!!」
「ふふん、佳太さん。ログインボーナスなんて、私の異能でちょちょいのちょいですよ! 天使の奇跡を使いましょうか?」
「いや、こういうのに奇跡は使いたくないかも」
「難儀なものですね」
うーん、と難しそうな顔で唸る天使。
「私は、貴方の喜ぶことはなんでもしたいのですが」
「それだよそれ。どうして、俺のことを知ってるんだ? 俺は、ごめんだけど、君のことを覚えてない」
「……それで良いんですよ」
ちょっとだけ寂しそうに、天使は笑った。
「貴方は、何も知らないままでいてください。そうしたら、今度こそ、幸せになれますから」
「幸せ?」
星が、月が近い。手を伸ばせば、それらに届きそうだ。もちろん、そんなことはないんだけど。
「……さぁ、お家に着きますよ」
「ちょっと待って」
「これ以上は話せません、思わせぶりなことを言っておいてなんですが」
「じゃなくて、ここ、俺の家じゃない」
「……え?」
天使の着地したところは、空き地だった。




