彼にとって、愛は普遍的なものだったのよ
「青桐も、私のことを信奉してくれているけどね。彼は、いざとなったら私を取るから」
肩をすくめて、二階堂鏡子は言い放つ。
「そんな人間を私は信用しない。私のことを信奉する人間は、信じるに値しない」
自虐的な価値観だった。冷徹な瞳をしていた鏡子は、燈達を見て微笑った。
「私が信じるのは佳太君だけ。その佳太君を信じたんだから、貴方達は信じるに値する」
ごくり、と燈は唾を飲み込んだ。壊れている。この教祖様は、自分よりも、他人である白永佳太を信頼している。自分の価値観を、彼だけに委ねている。
燈は、自分の膝の上で拳を握った。
「あの」
「なに?」
「どうして、鏡子様は……そんなに、白永佳太のことを、気にかけているんですか?」
「だって、佳太は私のものだから」
こともなげに、鏡子は言い放つ。燈は固まった。鏡子の瞳は、ドス黒い何かで塗り固められていた。
「前世も今世も私のものなんだから、気にかけるのは当然でしょ?」
「でも、白永佳太って東堂光希とこいびーーげふっ」
余計なことを言おうとしたシャクノの横っ腹に肘鉄を喰らわす。燈は両手を揉んだ。
「え、えへへ、そうですよね、白永佳太は、鏡子様のものですよね。これは一般常識ーー」
「そう。彼は誰のものにもなった。だから、誰のものでもなかったの」
「どういう、意味ですか……」
「彼にとって、愛は普遍的なものだったのよ」
ドス黒い何かは、鏡子の目の中で少しずつほぐれていって、最後には、頼りない光だけが残った。
「私がいくら大好きだって言っても、愛してるって言っても、月が綺麗って言っても、僕もそうだよって返してくれるだけだった。彼にとって、私は、守るべきものでしかなかった」
だからこそあの最期が生まれた。
ぽつりと、鏡子は呟いた。
「“神待つ者たち”の教祖である白永墨斗もそう。あの男を殺さなかったから、佳太は、東堂光希を守るしかなかった」
「……やっぱり、この教団の教祖は、あの男だったんですね」
東堂光希が、囚われていた時に言っていたことを思い出す。
「ええそうよ。あの男は、二週目のこの世界でも、女神の力を使って世界を破滅に追いやろうとしている。だから、あの男の力を削ぐために、私が先に教団を立ち上げたってワケ」
その結果が、総理大臣殺害というわけだ。
腹のダメージから復活したシャクノが、顎に手をあてる。
「なるほど、白永墨斗が教祖で、その教祖の弟であるのが、白永佳太というわけですね。だから、特別扱いしていると」
元教祖の弟。燈には理解しかねる話だが、血縁関係があるからこそ、贔屓にしているとか、そんな話なのだろうか。
ーーそれっぽそうね、アイツ、ブラコンだったし。
実の弟のことを「ちゃん」付けで呼んだり、スマホをわざわざ取り返しにきたり。常軌を逸している偏愛ぶりだ。思い出すだに吐き気がする。
でも、そんなものなのかもしれないとも思ってしまう。
燈は、正しい肉身との関係を持ち合わせていないから。
と。
「ああ、アレは、兄弟ごっこしてるだけだよ」
鏡子も心底嫌そうに眉根を寄せながら、そう答えた。兄弟ごっこ?
「だって、白永墨斗と佳太は、元の世界では同級生だったんだから」
「……は?」




