これでようやく、味方として話せるね?
この作品にしては長くなってしまった。
中田原総理は語り出す。
「最初に入ってきたのは、国会議員や省庁職員の異能力についての情報だ。ここでは、簡易的な聞き取りがなされた。異能力テストの第一弾といったところだ」
「最初は聞き取りだったんですね」
「そうだ。彼らの名前と、持っている異能力だけが書かれた報告書。神藤君」
「はい、総理」
呼ばれた神藤議員は、恭しく、分厚い紙束を机の上に置いた。そこには、目が痛くなるほどに小さな文字で埋めつくされた表があった。
「当時は分類もなにもわからなかったから、本当に、ただ名前と能力を並べただけの表だ。さて、ここの、マーカーで線を引いた議員に着目してほしい」
爪の先よりも少し大きめの文字には、六原泰史と書いてある。
「六原君はうちの党の議員で、私の派閥に所属しているんだが、彼の能力を見てほしい」
「えーと? 水を操る能力、ですか」
なんだか、ファンタジーみたいな能力だ。中田原総理が深刻そうな顔をする理由にはならなさそうなのに。
だが、総理の眉間の皺は、どんどん深くなっていくばかり。
「本人も、ただ水を操るだけの能力だと笑っていたよ……だが、ほどなくして入ってきた情報に、私たちは固まった。とある独裁国家で、六原君と似たような異能力を持つ少年が、要人を殺して国の機能を停止させたんだ」
「……え?」
水を操る能力で? どういうことなのだろう。
「その異能力は、外部だけではなく、内部の水をも操ることができるとわかった。つまり、人間の中の水……血液を操ったんだよ。血の巡りを止めて、体中に酸素が行き渡らないようにした。そして殺した」
「……」
「六原君には思いつかないことだった。だが、彼はこう答えた。“やろうと思えばできる”と。六原君は、いやしくも国の政に携わる、真面目で実直な人間だ。だから人を殺すということは思いつかなかった。だが、能力的には、十分だった」
国会議員や、省庁職員という身近なケース。素直に聞き取りに応じる精神的に熟した人間たちだからこそ、皮肉にもその危険性に気付かなかった。
「実際は違う。人間は今や、核兵器にも同等な……いや。時間や金銭や資源的なコストを考えれば、それにも優る兵器になってしまったんだ」
能力を知るということは、兵器の性能を知ることと、同等になってしまったのである。
「異能力テスト。それを実施すること自体が……人々の自由と平等を脅かすことになりかねない。人を人としてではなく、兵器として見てしまうことになる。基本的人権は崩壊する」
重々しい口調には、苦悩が滲んでいた。
「だから、異能力テストはとりやめになったんだ。それなのに、文科省は異能力検査という名称に変更して実施したーーそれを強行したのは」
「前の世界での総理暗殺に関与した裏切り者たち。たぶん、記憶持ちも紛れてるんじゃないかな?」
“神待つ者たち”の本拠地にて。
どことなく、確かに、白永佳太が指摘した通り、そこは、白永家のリビングに酷似している。
突然総理が生きていることを暴露した二階堂鏡子は、心底楽しそうに笑って見せる。
「ふふ、燈やシャクノ君が帰ってきてくれて良かった。これでようやく、味方として話せるね?」
「よ、ようやく、ですか?」
その言い方に、燈は疑問を覚える。
ーーそれって、まるで。
「まるで、私たちが裏切るのを、期待していたような……」
燈の気持ちを代弁するような、シャクノの言葉に。
「せいかい」
教祖様は、嫣然と微笑んだ。
「貴方たちには、私を裏切ってでも、佳太君の味方になってほしかったから。私はそれでようやく、貴方たちを信用できるから」
「……逆算するに」
確かな自負をもって、彼は言い放つ。
「前の世界で異能力検査が成立するには、私の死が必要だ。今世でそうなったように。二階堂鏡子は、おそらく私の死を早めて、その状況を作ったーーそして私に、“探偵役”を務めさせた」
「探偵役?」
「ああ。まったくもって、彼女は食わせ物だよ。この中田原善晴を、良いように使ってくれたんだから。内政に向いていない? とんでもない」
「あの女は、紛れもない逸材だよ」
土下座する親友の前で、白永墨斗は、懐かしむように、噛み締めるように言ったのであった。
総理が16時間動けたのは、青桐アナが電波ジャックしていて、その対応に追われていたからです




