この人を表舞台から途中退場させたの、失敗だったんじゃないですか?
「異能力検査は、初期案では異能力テストと呼ばれていた」
中田原総理はまず、名称の変遷から説明してくれた。
「というのも、君たちも受けたことのある、2つのテストに因んでだ。学力テスト、新体力テストに並ぶ、国民の能力を測る3つ目のテストとして、異能力テストは位置付けられていた」
「ちょっと待ってください。えーっと、総理が銃殺されるまでの16時間で、そこまで考えられていたんですか?」
俺は総理の話に、思わず待ったをかけてしまった。総理は鷹揚に頷いた。
「なにより、私が殺されることは、二階堂鏡子からの手紙でわかっていたからね。多少不自然に思われようが、全省庁と大雑把な方針を決めてから、私は退場しなければならなかった」
「……」
呆気にとられるしかなかった。俺は、たったの16時間で、文科省の人たちと話をつけたと思っていたのだが、それどころか、全省庁の人間と話をつけていたなんて。
二階堂が、この人を生かした理由が、わかる気がした。総理が机の上で指を組む。少しだけ目を伏せながら。
「本音を言えば、あの夜以前に動きたかったのだが……何も起こっていないうちに動いても、国民どころか、議員の賛同も得られないからね。そこは私の力量不足だ」
どころか、反省の弁までしてのける。
「この人を表舞台から途中退場させたの、失敗だったんじゃないですか?」
メイネが難しい顔をして、ふよふよと漂いながら言う。
「頭だけっていったって、人間は首から上を失えば生きていけないですし。どうせなら、完全体のまんま、傀儡政権にすれば良かったのに。扱えるかどうかはともかくとして」
俺もメイネの意見に賛成だ。うんうん、と頷いていると、俺以上に頷いている人がいた。神藤議員である。
「そっ、そうですよね……! 中田原総理が表舞台にいれば、少なくとも国の混乱は五割、いや八割は抑えられたはずです!」
ぐっ、と拳を固めて力説する神藤議員の頬は紅潮していて、瞳は光り輝いていた。
「総理が各省庁と建てた計画は、完璧なものでした。だからこそ、今の暫定政権、とりわけ文科省が総理の意向に逆らっているのは、おかしいんです!」
「神藤君」
「はい総理!」
「褒めてくれるのは嬉しいんだが、その言い方はちょっと……」
「す、すみません」
神藤議員は、あからさまにしゅんとしたようだった。苦笑いしていた総理は、「話を戻そう」と、こちらの方を見た。
「最初は、文科省と、全国の学生を対象にして、“異能力テスト”を実施することを検討していたんだ。だが、その話は瞬く間に立ち消えになった。どうしてかわかるかな?」
茶目っ気たっぷりに疑問を投げかけた総理は、次の瞬間には笑みを消していた。
「それはね、異能力が、原爆や水爆と同等のものであると理解したからだよ」




